たまのお茶会
カチカチカチ
時計の針が進む音が嫌に大きく聞こえる。
そのことに気付いて大きくため息を吐く女性。
──そのため息の音すらも聞こえなかった風を装う少女。
同じ部屋に居るのにまるで別々の部屋に居るような。
まるで今日あったばかりの他人のような。
何とも言えない気まずさを生み出しているのは、少女の手元の作業である。
「ねぇ那都琉、いい加減休憩したらどう?」
「んー」
もはや何度目かもわからない生返事が飛ぶ。
それに対してもまた、ため息を吐く。
那都琉と呼ばれた少女がやっていたのは高校の課題である。
いや、課題であった。
いまはもはや彼女の知的好奇心によって完全に昇華された紙の束。
よく言うレポートである。
もともとの課題は単なる調べ物だったのだが、彼女はなぜかその先に進めた。
「なんか面白いもの作れそうだから」と笑顔で言っていた彼女はもういない。
いまはただ難しい顔をして難しい資料を読んでいる。
そうしておよそ3時間は経っただろうか。
ずっと机に張り付いている。
トイレに一度立った以外に移動は勿論、休憩している様子もない。
あんまりにも熱心になりすぎている。
これではいくら頭がよくても作業の効率は落ちてしまうだろう。
実際に今は目をこすったり、こめかみを揉んだり、と集中力が切れているのが見える。
大きく伸びをして、大きなため息をしたのを見て思う。
もう少し、もう少しとこのまま最後までやろうとしているんだろうと。
そして相当疲れているのだろう、と。
彼女に気付かれないようにこっそりと席を立つ。
そんなことをしなくても彼女は気にも留めないのだろうけれど、一応。
そうして彼女の好きなコーヒーを入れ始めてみる。
コーヒーよりも紅茶の方が好きな女性は、コーヒーを入れるのが得意ではない。
(紅茶ならば大の得意だが)
以前、那都琉がいれているのを見たぐらいの知識しかない。
そのとき「モカっていいよね」とぼそっと呟いたのを覚えて居たくらいしか。
ほとんどなにも知らない。
コーヒーは未だにブラックでは飲めない。
フィルター等々の道具を用意してコーヒーを入れていく。
この香りが好きだと言って笑っていたのを思いだす。
おそらく今漂う香りに癒されているだろう、と推測した。
コーヒーを入れている間に自分用の紅茶の方も準備しておく。
一緒に遅めのティータイムにしよう。
ついつい買ってしまう期間限定のお菓子を器に移す。
春の訪れを示すような桜色のスナックは白いお皿に良く映えた。
「ねぇ那都琉」
「んー?」
わざともう一度声を掛ける。
先ほどまでの生返事ではなく、那都瑠ははっきりとこちらを見た。
「お暇かしら?お茶でもいかが?」
お菓子もあるわよ?
そう付け加えると彼女は嬉しそうに笑って言った。
「いただきます」