転生トラ男、徒然なるままに~in英国貴族~
俺には前世の記憶がある。突然何を言っているんだと思うかもしれないがこれは事実だ。
前世、俺はトラの姿をした人間だった。
いや、正確には亜人種と呼ばれる存在であった。
そこでは獣の姿をした亜人種と、そうでない人間とが争っていた。
そして前世の俺は一人の人間と出会う。それは美しく、気高く、高潔な少女であった。
その少女との出会いがすべてを変えた。
――――レティ、お前は俺の運命そのものだった。
◇◇◇
俺はベッドに沈んだ体をゆっくりと起こした。
「はぁ」
そして深く深呼吸する。
また、昔(前世)の夢か。何度も見てもはや網膜に焼き付いてしまったぞ。……レティ。レティツィアか。彼女との出会いのシーンを何度も何度も繰り返し夢に見る。昔の記憶など、もはやなんの意味もなさないのだがな。
今の俺はセガール・K=ティーグレイ。イギリスの伯爵の爵位を持つ貴族の嫡子だ。現在パブリックスクールの最上級生として寮に入っている。
幼い頃から何度も不思議な夢をみて困惑していたが、今はそれが前世のものであると理解できている。そして前世は前世、今は今と区別もついている。
幼少期は夢に出てくる絶世の美少女に逢いたいと幻想を抱いたりしていたが今はそんなことを考えることはない。
昨日は遅くまでレポートの仕上げをしていたから夕食を食べ損ねてしまった。さっさと食堂で朝食を食べよう。さすがに2食抜いたら倒れそうだ。
食堂に行くと何やら一か所に人が集まっていた。
中心にいるのは確か日本からの留学生で、レイジ・キサラギだったかな。
「おい、食堂で何を騒いでいる」
他の生徒の迷惑も考え、人集りに注意した。するといつもレイジ・キサラギと一緒にいる男子生徒が慌ててこちらに寄ってきた。その手には携帯が握られている。
「あ、セガール先輩! すいません。でも、レイジの妹の写真みて下さいよ! スッゲー可愛いんですよ!」
「あ、こら! 人の携帯勝手に見せないでよ! 先輩すいません。今こいつら蹴散らしますから」
レイジは言葉の通り周囲の生徒を蹴りで散らしにかかった。
彼は繊細な見た目に反して中身は豪傑だ。そんな彼を横目に、俺は渡された携帯を見た。
そこに映っていた一人の少女にくぎ付けとなった。
「レティ……?」
俺は何を言っているんだ? 自分から発した言葉が信じられなかった。この娘のどこがレティなんだと自ら反論の言葉を投げかける。
小さな携帯端末に映し出された少女。淡い栗色の髪の毛。こちらに向かって微笑む整った顔立ち。凛々しくも、清楚で暖かい。そんな印象を受ける。
レティとは似ても似つかないではないか。レティは見るものの魂をも魅了してしまうほどの美しい美貌をもっていた。写真の娘も整っているがレティの美貌には遠く及ばない。
だが、何故だ。この子を見ているとうるさいくらいに心臓の鼓動を感じる。
俺の魂が告げる。この子は俺が求めてやまない最愛なのだと。
「この子は、レティは何処にいるんだ!」
俺はなりふり構わず叫んでレイジに詰め寄った。
「せ、先輩? この子は俺の妹のレナですけど……どなたかと人違いされてるのでは?」
レナ、今はレナと言うのか!
俺はいてもたってもいられず急いで寮を飛び出し、家の力をフルに使いレナ・キサラギについて調べあげその日のうちに日本に渡った。
そして出会う。
俺の運命。
俺の最愛。
俺のすべてに。
「レティ!」
叫んだその先にいた彼女は驚いたように振り返ってこちらを見た。
そしてその顔をみて、俺は確信した。
「レティ、レティツィア・マリアージュ=カルバント!!」
「……どうしてその名前を知ってるの? あなた誰?」
困惑する彼女に告げる。
「俺はセガール! お前のツガイとなる男だ!」
もしかしたら続編あるかも(○´ω`○)