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その男、ダンジョンにつき

作者: A*

 冒険者たちが剣を振るい魔法を唱え、悍ましい怪物や深淵の迷宮を打破していく混沌の時代。ある噂が冒険者たちの間で流布されていた。


──蠢く迷宮。


 その迷宮は移動する。ある場所で入口を開いていたかと思えば、出口から見えるのは遥か遠い場所であったりする。何の脅威もない平凡な村が、一夜にして魔物が跋扈する迷宮の入り口と成り果てる。


 その正体は誰も知らない。古代の魔法使いが作り出した巨大なゴーレムとも、迷宮に擬態して生き物を貪り食らう未知の魔物とも言われている。あるいは誰かの創作だと、根も葉もない噂だと断ずる者もいる。


 しかし、遭遇した冒険者たちは確かに存在する。皆口を閉ざし、詳細を語ろうとはしない。死に瀕する怪我を負い冒険者を廃業した者もいれば、全くの傷が無いが心折れた者もいた。


 共通しているのは、誰もその迷宮を攻略できなかったという事実。そして、その奥底にはこの世に二つとない宝が眠っているという新たな事実が経験者より語られる。だが、何故そのようなことを知っているのか?


 ある者は言う──『迷宮がそう告げるのだ』と。


 なかなか情緒に溢れた表現だ。噂に聞いていただけならば、挑戦して敗れ去った者たちの負け惜しみにも聞こえただろう。


 しかし、それが事実であることを皆知っている。迷宮に挑戦したものは例外なく同じことを語る。信じられない者、信じようとしない者。そんな彼らもまた同じことを言う語り部と化していくのだ。


 そして、そんな情報を集め、疑い、笑い飛ばしながら、蠢く迷宮に挑まんとする者たちがいた。




 ◆   ◆   ◆




 鬱蒼とした森林。行く手を阻む木の枝や草を切り払いながら獣道を行く、冒険者たちがいた。


 道を作るレンジャー装備の男、重装備を着込んだドワーフ、魔法使いの衣装を着た老人、弓を背負い周囲を油断なく警戒するエルフ。その歴戦の気配、行動の淀みのなさ等から、誰が見ても熟練の冒険者と推測できよう。事実彼らは熟練の冒険者であり、その伝から蠢く迷宮の情報を入手して挑まんとしていた。


「……本当にこの道で合ってるのかい、マンダルフの旦那?」


 先頭のレンジャーが後方に問いかけた。その発言に魔法使いの老人がうむ、と相槌を打って返答する。


「情報通りであればその筈じゃ。発見された日から間もない。移動されてもぬけの殻ということもあるまいて」


 その声からは自信が伺える。何の不安も迷いもない、老いていながら熱意が込められた返答である。その返しにレンジャーはそうかよ、と呟いて仕事に戻る。元々対した疑問ではなかったのだろう。


「どうしたよモロミア。自分が道を間違えたか不安になったか?」


 からかうようにドワーフの男が声をかける。言われたモロミアは怒った様子もなくうるせー、とだけ返した。


「チムリ、不安ならば貴方が前に出れば良いでしょう」


 そこへ最後尾にいるエルフが口を出す。


「ドワーフの俺にゃあちと難しい仕事だな。エゴラスならどうだ? エルフのお前さんなら適職だろうぜ」


「私には殿を務める大事な役割がありますから。モロミアの消耗を抑えられますし、罠があればチムリが囮になりますし、一石二鳥でしょう」


 きっぱりとした口調は、仲間を囮にすることに何の迷いもない様子だった。冗談ではなく本気で言っているのがこの男の怖いところだ、と仲間たちは知っている。


「相変わらずお前さんは言葉を濁すことすらしねえなあ……そうホイホイと死ぬのは御免だぜ」


「ふぉっふぉっふぉ、その時はわしが優しく蘇らせてやるから安心せい」


 魔法使い、特に最上級の使い手ならば死人を蘇らせるのは容易いことである。そしてマンダルフはその最上級の使い手だった。それ故にチムリを始めとして何人かは何度か蘇生の世話になっており、死はさほど恐れることではない。


「い、いやあんたの手を煩わせることはしねえよ。結構な消耗になるだろうしよ」


 しかし、まるで死そのものではなく、蘇生行為に怯えるような様子のチムリ。ねっとりとした視線を向けるマンダルフと対照的であった。


 緊張感のない会話だが、数刻もこの状況が続いているために無理もないことでもあった。とはいえ、油断はしていない。草陰から魔物が現れればすぐさま殲滅出来るほどの緊張感は保たれているのだ。


 そして森が開け、洞窟の入り口が顔を見せる。


 当然洞窟そのものは蠢く迷宮の入り口ではない。彼らが掴んでいる情報では、この洞窟まで辿り着ければ迷宮に挑戦できるということである。詳細は語られていない。行けばわかる、とだけ伝えられている。一見曖昧で信憑性の薄そうな話だが、迷宮に辿り着くことのできた者たちは皆口を揃えて『そうとしか言いようがない』と語るのだ。逆に言えばそのような情報であることが、情報の信頼度をあげていると言えよう。


 目的地に辿り着いた彼らは、油断なく洞窟の暗い内部を見据える。優れた戦闘者でもある彼らは、洞窟の中から歩いてくる者の存在を察知しているのだ。そもそも、足跡を隠そうとしていない。何が起ころうとも対応できるように皆構える。


 そして、一人の男が姿を現した。


 特筆することのない、平凡な顔である。服装もそこらの村民と遜色ない。立ち振る舞いも隙だらけである。こんなところに居ることを除けば、ただの一般人にしか見えない。


 ある者は、この男こそが迷宮への案内人なのだろうと考えた。ある者は、この男が迷宮へワープするための鍵なのだろうと考えた。ある者は、腹が減ったと考えた。ある者は、この男結構わしの好みじゃなと考えた。


 しかし予想を裏切り、男は堂々と仁王立ちすると声を張り上げて名乗りを上げる。


「俺は人型迷宮『ダンジョン・マン』! さあ冒険者たちよ! この俺を攻略してみろ!」




 ◆   ◆   ◆




 幾多もの閃光が走る。


 エゴラスの放った魔法の矢が、ダンジョン・マンに次々と命中する。ばしゅばしゅと炸裂する音を響かせ、轟音とともに土煙がその姿を隠した。


「うおおおおおおい!? 何してんの!?」


 モロミアとチムリが叫ぶ。先程のダンジョン・マンの発言が終わった瞬間にこの仕打ちである。エルフが放つ魔法の矢は並の怪物が木っ端微塵になる威力だ。先程の発言の意図はともかく、いきなり放つ威力の攻撃ではない。威嚇ですらない。


「ふん、ふざけたことを抜かすからです」


 全く悪びれずに鼻を鳴らし答えるエゴラス。まだ油断なく弓を構え、次に怪しいそぶりがあれば追い打ちをかける勢いである。


 しかしエゴラスは見ていた。命中したはずの矢はダンジョン・マンを一切揺るがさずに弾け飛んだことを。服すらもなびかずに終わったことを。先程の轟音と土煙は地面に逸れたために発生したものだ。


 エゴラスの予想通り、モロミアとチムリの予想外に、ダンジョン・マンは一切傷つかずにそこに立っていた。


「馬鹿め! ダンジョンの壁は特殊な道具がないと破壊できないぞ!」


 馬鹿と呼ばれエゴラスに青筋立つ。だが次の瞬間、その場を飛び退く。


 突如発生した業火が、エゴラスが居た場を焼き払った。近くにいたチムリは巻き込まれ、髭がチリチリになってしまった。


「あっちー!?」


「馬鹿な、何の予兆もなかった……?」


 熱さに悶えるチムリと、前触れなく発生した火炎に疑問を抱くエゴラス。その答えはいつの間にか一番後ろで俯瞰していたマンダルフが教えてくれた。


「奴の周りを飛んでいるものを見るんじゃ!」


 ダンジョン・マンの周囲に、小さな虫が飛んでいる。皆ただのハエかと思って気にも留めていなかったが、エルフの優れた視力で見たエゴラスはその正体に気が付いた。


 ドラゴンフライだ。龍蠅とも呼ばれる魔物で、ドラゴンとハエのキメラである。当然ドラゴンの如く火炎のブレスを吐き、冒険者を焼き払うのだ。通常牛程の大きさだというのに、目の前を飛ぶその魔物は本当にハエくらいのサイズしかなかった。


「住処を破壊しようとしたせいで、怒ったモンスターが溢れ出てきちまったぜ?」


 がば、と開けられたダンジョン・マンの口内から、豆粒のような様々な魔物が這い出してくる。冒険者たちにとってお馴染みの魔物たちである。先程の火炎の威力を見れば、本来のサイズと同等の戦闘力を有しているのは明白だ。


 この男が本当に蠢く迷宮の正体なのかどうかは分からないが、このまま座していれば危険なのも事実。迎撃の必要があった。


「というわけで一番手は任せましたよチムリ」


「なんで俺!? モロミアとマンダルフの爺さんは!?」


「うっ、持病の腰痛が……! すまぬのうチムリ」


「膝に矢を受けてしまってな……すまないチムリ」


「畜生どうせ俺はこういう役回りだよ!」


 リーダーはマンダルフなのだが、エゴラスに逆らえるものはいない。屈強なドワーフながらその性根はヘタレなチムリに、しわ寄せが行くのはいつものことであった。


「ウオオオいくぞオオオ!!」


 雄叫びを上げながらヤケクソになって突っ込むチムリ。しかし俊敏かつ恐ろしい速度で払われるバトルアックスは、尋常の存在ならば一瞬で真っ二つにされる脅威の攻撃である。


 ダンジョン・マンの口内からきらりと光が瞬いた。


 チムリはその場で倒れ伏し、その首がごろりと転がった。


「なんてこった! チムリが殺されちゃった!」


「この人でなしー!」


「まあ俺は人じゃなくてダンジョンだけど」


 チムリ死す。


 しかしその訃報にも全く慌てることなくチムリの死体は回収され、マンダルフが蘇生魔法を唱え始める。その流れるような作業は、似たような事態が過去に何度もあったことを表している。強く生きろチムリ。いや蘇れチムリ。


「ささやき──いのり──えいしょう──ねんじろ!」


 一言告げるごとに無駄に洗練された無駄のない無駄な動きを交えるマンダルフ。


「はいになりました」


 目頭を押さえ堪えるように告げるモロミア。


「おいやめろ馬鹿」


 しっかり蘇ったチムリ。空気の読めない男である。


 その間にエゴラスはチムリを殺した魔物の解析を済ませていた。


 恐らくはヴォーパルバニーだ。首狩り兎とも呼ばれるその魔物は、その可愛らしい姿に油断した愚かな冒険者の隙をついて、鋭い刃で首を切り落とすのだ。今回はそもそも小さすぎて姿が見えなかったので、ノミサイズのウサギがいつの間にか首を切り落とすという鬼畜仕様になっていた。


 そしてその間にマンダルフは蘇生に不備がないかチムリの体をまさぐっていた。大丈夫だと断ろうとするチムリを遮り、先っちょだけだから先っちょだけだからとその手を止めないマンダルフ。モロミアはいつものことだと見ない振りをしていたが、チムリは涙目であった。


「よし、次はモロミアですよ」


「げっ、やっぱ俺か? なんでいつの間にか戦力の逐一投入になっちまってるのかは知らんが、あんまり気が進まねえなあ……」


 ぼりぼりと頭を掻いて進み出るモロミア。それを見て、ダンジョン・マンはおもむろに口を差す。


「おいおい、いつになったらダンジョンに足を踏み入れるんだ? ダンジョンの奥底にはこの世に二つとない宝が眠っているんだ。ボヤボヤしているととっとと次に行っちまうぜ?」


「そんなことはどうでもいい」


 冒頭の伏線が回収されたというのにそれを遮り、きりりと顔を引き締めるモロミア。


「俺の専門は女体探索でね。男の体をまさぐる気にはなれん」


 とんだハレンチレンジャーがいたものである。


「この私の命令が聞けないというのですか?」


「向き不向きがあるということさ。そういうのはマンダルフの旦那の役割だぜ」


 そしてとんだ魔法使いがいたものである。


 怒鳴りつけようとするエゴラスだったが、マンダルフがずいと進み出るのを見て口を閉ざす。いつもは強く出れるが、本気になったマンダルフを抑えられるのは誰もいないのだ。


「ふっ……わしに任せよ」


 きらりと微笑むが、ギラついた視線といやらしくにやけた口元で台無しである。チムリは尻を守った。


「おっと爺さんの登場かい? 並の体力じゃあこの俺を踏破することはできないぜ?」


「ふぉっふぉっふぉ……仲間たちを騙せても、このわしは騙されんぞ」


 老練された知性が、ダンジョン・マンの罠を見破る。エゴラスを始めとする仲間たちは慄いた。やはりこのジジイ、ただのゲイではない……!


「お主、口が入り口とは言っておらん。つまりは他に入口があるということ。例えばそう……尻の穴とかのう……!?」


 あ、こいつただのゲイだわ。力なく首を振る仲間たち。


「ふっ、よくぞ見破ったな爺さんよ。その知性に敬意を評してこちらからの入門を認める……!」


 人間とは常識が違うのか、一切ツッコミを入れずにかちゃかちゃとベルトを緩め、ズボンを下ろそうとするダンジョン・マン。


 それを油断なく見つめながら、懐から一枚の写真を取り出すマンダルフ。


「おお、わしはこの戦いで死ぬかもしれん……なんて恐ろしい。どうか勇気を与えておくれクロド……わしのいとしいしと」


 そしてちゅばっ、と口付けを落とした。


 写真に写っているのはホビットの男である。着替え途中なのか半裸で、何かの隅から写したのか映像の端には黒い影が写り込んでいる。というか明らかに盗撮だった。だがもう誰も突っ込まない。最初に突っ込みをいれたチムリが尻に突っ込まれたためである。


 そしていそいそと写真を懐にしまい、再び構える。


 ズボンを下ろすそうとするダンジョン・マン。


 潤んだ瞳でそれを見つめるマンダルフ。


 帰り支度を始める他の仲間たち。


 一触即発の状況。しかし、そこに新たな人物が登場する!


「そこまでよ!」


 女性の声だった。馬鹿やっていた男たちがその方向を振り返ると、その場にいたのは平凡な女性であった。顔も、服装も、立ち振る舞いも全て普通の女性である。


 冒険者たちは既視感を感じた。ダンジョン・マンは驚愕の表情である。それを見て、女性はおもむろに口を開く。


「私は人型迷宮『ダンジョン・ウーマン』! ダンジョン・マン、あなたに『ダンジョン・アタック』を申し入れるわ!」




 ◆   ◆   ◆




「ぬうっ! あれが伝説の……」


「知っているのかモロミア!?」


 ダンジョン・アタック。二体以上の人型迷宮が揃った時、各々の矜恃と尊厳を賭けて行われる決闘である。決闘は人目につかない場所で行われるため、実際にどのようにして決闘が行われているのか誰も知る由はない。しかし偶然一部始終を目撃した者によると、己の中に巣食う魔物を直接相手の中に送り込むことで攻め入り、奥底に眠るダンジョン・コアを征服することで勝利者が決まると言われている。その際の攻防は激しい苦痛を伴うものらしく、雄叫びや叫喚が聞こえてくるという。決闘を終え勝利者が決まると、敗者は身も心も勝利者の物となり共に暮らすと言われ、高難易度の迷宮の傍らには多くの人型迷宮が密集している場合もある。


 ところで全くの蛇足だが、決闘から一年弱経過すると新たな小型の迷宮が発生する場合が多い。近年の研究者の中には、これは決闘という形をとった何らかの儀式で、新たな迷宮を建設するための秘密が隠されていると推測するものも多い。今後の更なる研究が期待される。


──ミン=メイ・ブックス刊『人型迷宮のひみつ!』より。


「と、いう訳なんだ」


「それって……いや、野暮な事は言わないでおこう」


 決闘を受けたダンジョン・マンとダンジョン・ウーマンが洞窟の中に消え、モロミアが嬉々として決闘について語ってくれた。チムリは何かに気が付いたようだが、顔を振って触れないことにしたようだった。


「さあ、帰りますよ皆さん。今回は時間の無駄でした」


「あーあ、あやつノンケじゃったか……」


 呆れたように引き上げようとするエゴラスに、がっくりと残念そうに項垂れるマンダルフ。それを慌てて引き止めてモロミアは説得を試みる。


「おいおいおい、伝説に謳われる人型迷宮の決闘だぞ? ここは一眼に見ておくべきだろうが! それに挑戦ならそれが終わった後でもいいんだ。この世に一つとないお宝に興味はないのか? もしかしたら残りの人生遊んで暮らせるかもしれんぜ?」


「ヤツのケツに手を突っ込んでお宝掴み取りなんて考えたくもないぜ」


「じゃあせめて覗いて行こう! ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」


 しつこいモロミアに、マンダルフがぎらりと睨みつけ釘を刺す。


「いい加減にせんとおぬしのケツに手を突っ込むぞ」


「帰りましょう」


 きりり、ととてもいい笑顔を返すモロミアに呆れながら、一同は帰路に着く。


 遠ざかって行く洞窟からは、何かが激しくぶつかり合う音と叫び声が聞こえる。モロミアは未練たらしく何度か振り返っていたが、普通に置いていかれそうになって慌てて仲間たちを追いかけた。


『ああ……お前は最高のグレーターデーモンだよ……!』


『私……もう……ダメ……モンスター配備センターしちゃう……!』


 本作は健全な作品であり、猥褻な表現は一切行われていない。よって彼らの発言も単なる決闘上の駆け引きであり、何らかの意味を含む内容ではない。いいね?




 ◆   ◆   ◆




 数年後、冒険者たちは再び蠢く迷宮に挑戦しようとしていた。真実を見てしまった者たちが再び挑戦することは珍しいが、彼らは冒険者の中でも変わり者揃いである。各々が何らかのメリットを見出して再挑戦に赴くのも頷ける。


 情報を元に辿り着いたのは見晴らしのいい丘であった。赤い屋根に白い壁。近くには湖があり絶景である。一見すれば平和な光景。ある種の理想の住居がそこにあった。


 しかしここは既に冥府への入り口。その安寧とした雰囲気に油断すれば、見えざる脅威によって命をもぎ取られるであろう。何が起ころうと攻撃に移れるよう構える冒険者たち。


 そこへ以前と同じく隙だらけでドアを開き、ダンジョン・マンが現れる。敗北し勝利者のものになったのかダンジョン・ウーマンも後に続いた。何故か心底幸せそうな表情である。恐らくは勝利者に完全に支配されているのだろう。油断ならない相手である。


「よく来たな、お前たち。だがこれまでに完全攻略者が現れなかったことに、我々も考えさせてもらった。まずお前たちは我々に挑戦するに値しない!」


 仁王立ちをして高々と宣言する。その言葉に遥々旅をして辿り着いた冒険者たちの額にシワがよる。それを見て落ち着けと言わんばかりに腕を上げ掌を見せる。


「人型迷宮という形に慣れてもらうために、チュートリアルを用意した。先ずはこちらを踏破した後に我々に挑戦してもらおう」


「あん? チュートリアル……?」


 訝しむ冒険者を他所に、ダンジョン・マンとダンジョン・ウーマンは扉を開き、一つの小さな人影を招き入れた。


「なんですって!?」


「なんじゃと!?」


「なにい……!?」


「ほほう……」


 冒険者たちは驚愕する。そこに現れたのは一人の平凡な女児であった。顔も服装も立ち振る舞いもごく一般的な少女のものだ。モロミアはそれに脅威を覚えたのかギラリと視線を強めた。


「あたちはヒトがためいきゅー『ダンジョン・ガール』! さあぼうけんちゃたちよ! あたちをこうりゃくちてみなさい!」


 そう、高々と名乗りを上げた。




 世界の何処かで移動し続ける、蠢く迷宮。その奥底にはこの世に二つとない宝が眠っているという。最近になってその迷宮に初心者用のチュートリアルダンジョンが現れた。初心者用とはいえ死の危険があることには変わりはない。君たちはこの恐るべき迷宮に挑戦する気概があるか!?


 お前はどうなのかって?


 いいえ。わたしは遠慮しておきます。




「よ、よーしおじちゃんは挑戦しちゃおうかなあ……ハァハァ」


「おいやめろ馬鹿」


「他意はない! 他意はないから! 先っちょだけだから!」


「本意が一番危ないんですよ! 死になさい!」


「ひでぶ!」

◆登場人物の紹介

・マンダルフ……ゲイ。年老いた人間の魔法使い。本気を出すとすごい。

・モロミア……変態。壮年の人間のレンジャー。ロリコンの気がある。

・チムリ……ヘタレ。ドワーフの戦士。最近マンダルフの目が怖い。

・エゴラス……エゴイスト。エルフの射手。マンダルフの次に強い。他のメンバーは下僕。

・クロド……一般人。ホビットの青年。マンダルフにいろんな魔法でストーキングされていた。

・ダンジョン・マン……人型迷宮。難易度は狂王の試練場クラス。ウーマンに勝利する。

・ダンジョン・ウーマン……人型迷宮。難易度は迷いの森クラス。マンに敗北する。

・ダンジョン・ガール……人型迷宮。突如現れ冒険者たちを戦かせる。ボーイにする予定だったがゲイネタ一色になりそうだったので変更。当然ながら挑戦すらできない冒険者続出である。

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