表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

只今反省中です

 

 私は今、アークさんのご自宅にいます。お邪魔するのは二度目ですね。アークさんも仰っていた通り彼の他には誰も居ないので、広いお屋敷は閑散としています。


(恩知らずな事を言ってしまいました……)


 行く所のない初対面の相手をご自宅に置いて下さると言うのに、私はその親切に対して疑うような事を言ってしまいました。後悔はしています。けれどあれば私の正直な気持ちでした。今朝のように追い出されるのが当たり前で、アークさんには私の面倒を見る義理など無いのですから。

 けれどそんな私にアークさんはこう言いました。


『私はまだ君の話を聞いていない』

『話?』

『後で話を聞くと言っただろう』


 確かに、今朝医務室を出る前にアークさんはそう仰っていました。でも話なら今ここで終わらせたっていい筈です。それなのにわざわざお屋敷に滞在させてくださるのですから、それは親切以外の何ものでもありません。それが分かった私はアークさんにお礼を言って頭を下げ、こうしてお屋敷の中に居ます。アークさんはまだお仕事があるようで、再びお城へ戻ってしまいました。


 私が今居るのは案内していただいた空部屋。長い間使われていなかったようで少し埃っぽいですが、勿論文句は言いません。掃除道具をお借りして、早速掃除を始めます。冬の夜に窓を開けるのは寒いですがここは我慢です。


(あ……)


 一通り部屋の埃を落とし、床を掃いた所で窓から雪がふわりふわりと入ってきました。どうやら今夜も雪が降るようです。もう窓は閉めて暖炉に火を入れましょう。

 掃除道具を片付け、火が大きくなった暖炉の前にクッションを置いて座ります。体が温まってくると、ようやくお腹が空いてきました。小型の暖炉は上部の左端だけが鉄板になっていて、そこでお湯を沸かせるようになっています。早速キッチンからお借りしたケトルを使ってお茶を淹れ、アークさんから渡されたランチボックスを開きます。そこには魚のフライを中心にしたお惣菜とペンネに似たパスタが入っていました。これが今夜のお夕飯ですね。ありがたくいただきましょう。


「いただきます」


 返事はありませんが気にしません。ずっと一人暮らしをしていた私にはむしろ当たり前の事です。


(結局、仕事はサボってしまいましたねぇ)


 もぐもぐとご飯を咀嚼しながら考えます。このまま何の連絡も取れずに時間が経てば、当然解雇でしょう。私は私立小学校の養護教諭です。子供達相手に働くのは中々楽しかったのですが、仕方がありません。公立ならともかく私立では簡単に首を切られてしまうでしょうし。

 それより私が考えるべきなのはこれからをどうするか。けれどそもそも私に選べる選択肢は少ないのです。このまま蒼の国で生計を立てて働くか、それとも東京に戻る方法を探すか。


(帰る? 帰ったところで……)


 こういう状況になって初めて気づくのです。私には東京にどうしても戻らなければならないような大切なものなんて、何も持ってはいないだと。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ