お役に立てて何よりです
「いやぁ、君が居てくれて本当に助かったよ」
「いえ。先生こそお疲れ様でした」
骨折の患者さんは無事街の病院へ移送され、自分で歩ける他の方達も皆先生にお礼を言って帰っていきました。
また先生と二人きりの時間。治療道具の洗浄や片付け、ベッドシーツの交換など、全てが終わったのはもう陽が沈んだ後。一段落して椅子に腰を落ち着けると、どっと疲れが出てきます。先生が淹れてくれたお茶をありがたく頂いて、私はほっと息を付きました。
「いつも先生はお一人で対応していらっしゃるんですか?」
「あぁ。そうだね。忙しい時には城の侍従を借りる事もあるが、彼らは専門的な知識を持っていないから。大抵は一人でこなしているよ。しかし、老体には中々厳しくなってきたなぁ」
そう言って先生はハハハッと笑う。確かにお一人では大変そうですね。一国の騎士団ともなれば、大勢いらっしゃるのでしょうし。
その時、医務室のドアをノックする音が。顔を見せたのはアークさんでした。ちょっと離れていただけなのに、なんだか久しぶりな気がします。忙しかったからですかね?
「失礼します」
「やぁ、アーク。お疲れさん」
「お疲れ様です。先生、今日はありがとうございました。広場の方も無事収集がつきました」
「そうか。大事にならなくて良かったよ」
「それと……」
ちらりとアークさんが私に視線を移します。それに気づいたシェルベ先生が手を横に振りました。
「彼女に関して言えば、礼は不要だよ」
「はい?」
「むしろ礼を言わなきゃならんのはこちらの方だ。彼女が居なければこの騒ぎは乗り切れなかっただろうな」
「はぁ……」
説明を求めるようにアークさんがこちらに再びお顔を向けます。養護教諭と言っても通じないようなので、ここは簡単にお話しておきましょう。
「多少の応急処置なら経験があるんです」
「多少どころじゃないさ。手際もいいし、正しい医療の知識もある。若いのに大したもんだ」
この歳になると中々褒められる事って無いので嬉しいものですね。シェルベ先生にお礼を言って、私は席を立ちました。せっかくお知り合いになれたのですが、アークさんがお迎えに来てくださった以上お暇しなくてはいけません。
「一日お世話になりました」
「いや、こちらこそ。それでアーク。この子はこれからどうするんだい?」
するとアークさんの表情がちょっと強張ります。どうやら困っているようです。
「それが……、捜索願いは出ていなかったので、身柄は一時城の預かりとなります。今夜は、私の屋敷に置くことになりました」
「え?」
思わず声を出してしまった私を静かな空色の目が見下ろします。
「民間の宿屋はこの時期観光客で一杯でな。王城の客室も同じだ。使用人がいないので不便だろうが、私の屋敷ならいくらでも空きはある。しばらくは我慢してくれ」
その言葉に私は正直な胸の内を吐露していました。
「どうして……」
「何?」
「あなた方からすれば私は身元不明の異邦人です。どうしてそこまで親切にしてくださるのですか?」