預けられました
あの後アークさんに馬に乗せられ、連れて来て頂いたのはなんと王城。アークさんはお城にお勤めの騎士さんだったそうで、騎士専用の門を通り抜け、そのまま詰所へと移動します。
その間、門で警備をしていた騎士さん達が驚きの表情で私を見ていました。それも当然でしょう。アークさんは私を抱き抱えるような格好で馬に乗っていたのです。出勤時に女性同伴なんてびっくりですよね。乗馬自体は初めてではないのでそれ程苦ではなかったのですが、後ろからすっぽりと男性に抱かれながら乗るのは初めてで、ちょっと恥ずかしい思いをしました。
さて、馬から下され無言で歩くアークさんに付いて行くと、辿り着いたのは平屋の大きな建物。騎士さん達の詰所になっているそうで、長い廊下を進んだ先にある部屋に案内されました。アークさんが丁寧にノックして、そのドアを開けます。
「先生。アークです」
「あぁ。おはよう。朝からどうしたね?」
中に入ると、そこは医務室でした。先生と呼ばれた老齢の男性が読んでいた本から顔を上げます。青黒い髪には白髪が混じっていて、目尻の皺が優しそうな印象の方です。先生はアークさんの後ろに立っていた私に気づくと、彼を見上げました。
「彼女は?」
「街中で保護した民間人です。護国外から来た異国民のようですが、行くアテが無い様で……。夕方迄で構いませんので、こちらに置いていただけないでしょうか?」
「ほう。まぁ、今日ばかりは仕方が無いね。どこも手一杯だろうから」
「お手を煩わしてしまって申し訳ございません」
「いや、いいよ。君もこんな所で油を売っている暇は無いのだろう?」
「えぇ」
アークさんが振り返って私を見下ろします。その表情はちょっと心配そうです。
「悪いが今日から冬節祭で手続きしている暇がない。君の話は後で聞くから、迎えに来るまで此処で大人しくしておいてくれ」
「はい。分かりました」
素直に頷くと、ほっと息を吐いてアークさんは医務室を出て行ってしまいました。私は先生の傍に行って、頭を下げます。
「吾妻美波と申します。お世話になります」
「これはどうもご丁寧に。ここは男ばかりのつまらない職場だからね。お嬢さんのように若い女性が居てくれれば華やぐよ」
そう言って先生が笑ってくれました。見た目通り優しい方のようです。
先生に勧められた椅子に座り部屋を見渡すと、部屋の隅に小さな暖炉。アークさんのお家もそうでしたが、ここではエアコンやストーブより暖炉が主流なのでしょうか?
「先生」
「ん? なんだね」
「アークさんが仰っていた“冬節祭”とは何ですか?」
すると先生はびっくりした顔で私を見返しました。
「冬節祭を観に、観光に来たのではないのかね?」
「はい。違います」
「……そうか。冬節祭は冬の季節を護国中で三日間祝うお祭だよ。この時期には各国の王族が蒼の国を訪問するから、騎士団は警備で大忙しだ」
「だからアークさんも今日は暇が無いと仰っていたのですね」
「団長だからね。当然だろう」
「だんちょう?」
「彼が騎士団長だよ。それも知らなかったのかい?」
あらあら。アークさんはとっても偉い方だったようです。