確定のようです
「まだ居たのか……」
頭上からかけられた声に顔を上げると、そこにはアークさんがいらっしゃいました。あぁ、やっぱり背が高いですね。160cmギリギリしかない私が見上げるにはちょっと首が痛いです。
アークさんは黒のコートをきっちり着込み、黒皮の手袋とのブーツ。あ、パンツも黒ですね。お好きなんでしょうか? 黒と水色の組み合わせはクールで素敵です。どうやらこれからご出勤のよう。いつの間にかお屋敷を追い出されてから随分時間が経っていたみたいです。
私は怪訝な顔をしてこちらを見下ろしているアークさんに苦笑してしまいました。だって「まだ」と言われても、どこに行けばよいのか分からなかったので移動のしようがなかったのです。
「すいません。いつまでもご自宅の前に居座ってしまって。あの、此処がどこかだけでも教えてもらえないでしょうか?」
「……本当に分からないのか?」
「はい」
アークさんは顔をしかめました。そしてそっと溜息をつきます。あから様では無いものの、冬の外気で息が白くなるのでバレバレですよ。
「……ここは王都だ」
「オウト?」
「ここから王城が見えるだろう」
アークさんが指差す方を見れば、ここから十キロも離れていない場所にお城が見えます。青い屋根と装飾が美しいお城。どこかのテーマパークかと思っていたのですが、どうやら本物のお城のようです。つまり、『オウト』は『王都』なのですね。ちょっとびっくりです。
「……ここには王様がいるのですか?」
「王城に王がおわすのは当然だろう」
という事は、やっぱりここは日本ではないのですね。現在王制を敷いている国は少ないですから、王制と雪が降る国であることを考えれば多少は絞り込めそうです。私が見たことの無いお城なのでイギリスだけは対象外ですが。
「ここはデンマークですか?」
「何?」
「ではノルウェー?」
私の予想はどうやらハズレのようです。アークさんの眉間の皺が深くなりました。そんな顔ばかりしていると跡が残ってしまうので止めた方が良いですよ。
「……ここは蒼の国だ」
「アオノクニ?」
聞いた事が無い地名です。しかも『ノクニ』ってもしかして『の国』ですか?それだと思いっきり日本語ですが。United States of Americaを『米国』と呼ぶのと同じでしょうか? それでもやっぱり聞いたことがないですね。
首を傾げる私を見て、アークさんの声が低くなりました。
「蒼の国が分からないのか? では護国は?」
「えーと、すいません。それはどこにあるのですか? アメリカ? ヨーロッパ? それともアジア?」
アークさんが再び可哀想な子を見るような目になりました。しかも先程より同情の色が強くなった気がします。
とっても不本意なのですが、どうやらアークさんの中で私は可哀想な子で確定してしまったようです。