急な変更には戸惑います
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
朝、いつものように医務室に入った私は少々気まずい思いと共にシェルベ先生に挨拶をしました。昨日此処を出た時、直ぐに戻りますと言ったのに、あのまま自宅へ帰ってしまったからです。
「先生あの、……昨日はすいませんでした」
「ん? あぁ、別に構わんよ。あの後患者は来なかったしね」
先生はヒラヒラ手を振って気にするなと言ってくださいます。私のせいで忙しい思いをさせてしまっていたらどうしようかと悩んでいましたが、ほっとしました。
「アークには会えたんだろう?」
「え、えぇ。でもどうして……」
その事を先生にはまだ話していなかったのに、何故ご存知なのでしょう。首を傾げれば可笑しそうに先生が笑いました。
「君が出て行った後アクリア殿下が此処を訪ねてきてね」
「アクリア殿下が?」
脱いだコートをハンガーにかけていつもの椅子に座れば、先生が続きを話してくださいました。
「ずっとアークが連れて来たと言う君の事が気になっていたらしい。君と話をしたかったようだが、偶然会えて良かったと言っていたよ」
「私と、ですか?」
アクリア殿下が騎士舎にいた謎が解けました。でも、何故私なんかと会うためにわざわざ足を運んでくださったのでしょうか? 疑問は尽きませんが、次の先生の一言でこの話は終わりになりました。
「さて、今日は忙しくなるぞ」
「あら、何かあるんですか?」
「午後から騎士団の訓練がある。上位の騎士が下位の騎士達を相手に試合形式で打ち込みを行う日でね。怪我した奴らがわんさか来るぞ」
怪我をした騎士さん達が沢山来ると言うのに、何故かシェルベ先生は楽しそうです。
「……特に今日はアークが容赦しないだろうしな」
「え?」
「いや、こっちの話だよ」
なんだか不吉な言葉が聞こえた気がしましたが、やっぱり先生が楽しそうなので気のせいでしょう。
(それにしてもアクリア殿下が何故? やっぱり弟のアークさんのことが気になるのでしょうか?)
私は必要なものを揃える手伝いをしながら、つい今朝のアークさんの様子を思い出してしまいました。
ベッドの上で目を覚ました私は、初めてこの世界に来た時のようにアークさんに抱きしめられていました。違うのは私よりも先にアークさんが目を覚ましていた事。私を見下ろしていたアークさんに朝の挨拶をするとそっと私の額にキスを落としました。そしてそのまま私を横抱きにして自室まで運んでくれたのです。
準備を終えた私と共に朝食を食べる時も今まで以上に「あーん」の連続で、王城に着いてそれぞれの職場へ向かう為に別れる際にはなんと……いってらっしゃいませのキスまでされてしまいました。
なんだかまた、アークさんのキャラが変わってしまった気がするのです。
「どうしたね? 顔が赤いが……」
「い、いえ! なんでもありません!!」
先生の指摘に慌てて返事をして、私は調剤のリストに顔を埋めるのでした。




