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追い出されてしまいました

 

 結論から言います。私、アークさんのお家から追い出されてしまいました。


 まぁ、それも当然かもしれません。後ろを振り返れば、そこにはアークさんのご自宅が。一軒家です。しかもお家と言うよりお屋敷と言った方が良いような、レンガ造りでクラシカルな雰囲気の大きくて立派な建物です。寝室を出てから玄関まで誰にも会わず、朝の台所から何の物音もしなかった事を考えるとどうやらアークさんは一人暮らしみたいです。寝室を出た所で彼の奥様や恋人とバッタリ出くわし、修羅場に突入……という昼ドラ展開にならなかったのは良かったですが、こんな大きなお家にお一人なんてちょっと寂しいですね。


 ぴゅうと冬の冷たい風が首筋を撫でたので、私はコートの襟を立てて首を引っ込めました。実はこれ、私のコートではありません。昨夜寝たままの格好だった私はフリース生地のロングワンピース型のパジャマ一枚。ナイトブラを着けていたのは幸いでしたが、当然裸足。けれどそんな格好の私を冬の寒空の下放り出すのは忍びなかったのか、アークさんが子供の頃に使っていたというコートと靴を貸してくださったのです。見ず知らずの人間に衣服を貸してくださるなんて、アークさんはとっても親切な方です。彼からすれば私は突然の侵入者。犯罪者として警察に突き出されたっておかしくは無いのだから、此処までお世話になったのに、お屋敷を追い出された事への文句を言ってはいけませんね。

 お屋敷から視線を戻し、改めて正面を見れば、そこには驚きの光景が広がっていました。


「すごい……」


 レンガ造りの家が並ぶ街並み。鉄骨やコンクリートの建物はありません。高くても三階くらいまでで、どの家にも針葉樹で作られたリースを青いリボンで飾ったものが玄関ドアに付けられています。そして街全体を覆う真っ白な雪。どうやら昨夜は雪が降ったようですね。道理で寒いはずです。厚手のコートを下さったアークさんに私は心の中だけで再度感謝しました。

 それにしても――


「ここ、どこなのでしょう?」


 思わず声に出してしまいました。私の自宅は世田谷にあるマンションの一室です。当然こんな素敵な街並みは世田谷にはありません。あ、まだ早朝ですがちらほら人が歩いていますね。けれどどういう訳か、皆さんアークさんのように青っぽい髪をした方が多いようです。玄関前を掃除しているご婦人、荷車を引いている青年達、窓を開けて空を見上げている少年。その濃淡は様々ですが、一様に綺麗な青色。私が知らない間に世間では青く染めるのが流行していたのかもしれません。それにしても、皆さん顔つきや服装が外国っぽいです。もしかして、誘拐されて海外に売り飛ばされてしまったのでしょうか? けれど私はもう二十五歳。人身売買されるにはいささか歳を取り過ぎだと思うのですが……。


「っしゅん!!」


 ぶるっと体が震えます。コートがあるとは言え、靴下もはいていない状態で雪景色を堪能するのはちょっと無謀ですね。とりあえず暖かい場所へ行きたい所ですが、アテなど無いので困ったものです。お金も無いのでご飯も食べられません。そうだ。仕事はどうしましょう? 休むにしても連絡を入れなければ皆さんを心配させてしまいますね。


 あら? もしかして私、結構ピンチですか?

 

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