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自己紹介をしましょう

 

「……お前は誰だ」


 あら、日本語お上手ですね。

 けれどそんな暢気な事を言っている場合ではないようです。空色の彼は慌ててベッドから飛び起きると、鋭い目つきでこちらを見ます。睨むと言うよりは観察しているような、探っているような視線です。無理もありませんね。起きたら知らない女がベッドにいるなんて、ベタな不倫現場のよう。けれどこの様子では彼に説明を求める事は難しいようです。


 よくよく見ればやはり体格の良い方でした。身長は二メートル近くありそうです。肩幅は大きく、肉厚の胸板。半袖から覗く太い腕には古傷がありました。土建の方でしょうか?


「何故此処に居る? どこかの店の者か?」


 店? 店とは何のお店でしょう? 何にせよ、私は何処のお店の店員さんでもありませんが。


「答えろ」


 視線と同じく重低音な声も鋭いです。けれど困りました。どう説明すれば良いのでしょう? 正解は分かりませんが、今は正直に話すしかないのかもしれません。


「私はどこのお店でも働いていません」

「ならお前は何者だ」

「初めまして。吾妻美波と申します」

「…………」


 お行儀は悪いですがベッドの上に座ったまま頭を下げて自己紹介。すると先程まで剣呑な光を宿していた目が驚いたように丸くなりました。初めてお会いするのですから自己紹介は当たり前だと思うのですが。何故驚くのでしょう。


「……アジュマ・ミ…?」


 あぁ、外国の方ですものね。日本語の名前は聞き取り辛かったかもしれません。


「あづま、みなみです」

「アヅマ、ミニャミ?」

「み・な・み」

「……ミナ…ミ」

「はい。そうです」


 にっこり笑ってお返事すれば、硬かった彼の表情がちょっとだけ緩みました。大きな男の人に睨まれるのは怖いですから、良かったです。


「貴方のお名前もお伺いしてよろしいですか?」

「……アークだ」

「アークさんですね。よろしくお願いします」

「あ、あぁ……」


 再び頭を下げる。けれどすぐに彼は顔をしかめました。


「いや、待て違う。そうでは無くて……」

「まぁ、私発音間違ってましたか? アークさんではないのですか?」

「俺の名前はそれで合っている。だからそうではなくて、お前は此処で何をしていたのだ」


 成る程、最もなご質問ですね。これも正直に答えましょう。


「寝ていました」

「…………」

「私は自宅で寝ていた筈なんです。でも起きたら此処にいました」

「……起きたら、ここに?」

「はい。それで、此処は何処なのでしょう?」


 私が首を傾げたら、アークさんは片手で顔を覆って「はぁ」と大きな溜息をつきました。次に私に向けられた目がなんだか可哀想な子を見るような目つきなのは何故なのでしょう? 私、もう立派な社会人なのですが。

 

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