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没収されてしまいました

 

「……騎士達が、差し入れを?」

「はい。皆さん持って来てくださったんですよ。きっと先生はお祭の間も医務室で待機しなくてはならないから、気を使ってくださったんでしょうね」


 結局頂いた沢山の差し入れは食べきれないので私達と先生とで持って帰ることにしました。

 今日も迎えに来てくださったアークさんに私が抱えている紙袋の中身を聞かれたので事情をお話したのですが……。どうしたのでしょう。表情が硬くなってしまいました。アークさんの好物が入っていなかったのでしょうか?


「あの、アークさん……」

「ミナミ」

「はい?」

「知らない者から食べ物を貰ってはいけない」


 とっても真面目なお顔で怒られてしまいました。けれど何故ダメなのでしょう。


「でも、下さったのは皆さん騎士の方ですよ?」

「それでもダメだ。君からすればほとんど初対面だろう。若い女性がそんな真似をするのは関心しない。君の故郷ではどうか知らないが、少なくとも護国では褒められた行為ではない」

「そうだったのですか……。すいません」


 シェルベ先生は何も仰らなかったので知りませんでした。どうやら此処では見ず知らずの方から食べ物を頂くのはお行儀が悪いようです。異国の文化は難しいですね。先生はきっと喜んで差し入れを受け取る私を見て咎める事が出来なかったのでしょう。


「明日からは気をつけます」

「うむ」

「でも、何と言ってお断りすれば失礼に当たらないのでしょうか?」


 そうなのです。差し入れを下さるのは相手の好意。受け取るのは行儀が悪いとされている以上、上手く断る方法があると思うのですが、私はそれを知りません。下手な言葉をお返ししては、相手を傷つけてしまいますから。

 隣を歩くアークさんを見上げれば、彼は眉間に皺を寄せていました。そんな事も知らないのか、と言う表情なのでしょうか? 異国民なのでそこは許して欲しい所です。

 しばらく答えを待っていると、頭上から低い声が返ってきました。


「私に断るよう言われたと伝えろ」

「アークさんのお名前を出して宜しいのですか?」

「……あぁ」

「分かりました。ではそうします」


 不意に腕の中が軽くなりました。気づけば抱えていた紙袋はアークさんの手の中に。私は両手で抱えていたのですが、体の大きなアークさんは片手で軽々持ち上げています。紙袋が小さく見えますね。


「分かったならこれは没収だ」

「アークさんがお食べになるのですか?」

「あぁ。お前の夕飯はこっちだ」


 そうして渡されたのは昨日と同じランチボックス。ふたを閉めたままでも美味しそうな匂いが漂ってきます。うーん。スパイシーな香りですね。開けるのが楽しみです。


「ありがとうございます」

「うむ」

「今日もこの後お城にお戻りになるのですか?」

「いや、今日はもう終わりだ」

「そうですか。なら、お夕飯ご一緒できますね」

 一人で食べる食事は味気ないものですから。私が笑って見上げれば、アークさんはちょっと目を見開いた後、静かな笑みを返してくださいました。

 

 



【その頃 蒼の国王城】


「つまんないなぁ」

「つまんないねぇ」


 一口サイズのオードブルを摘みながら同じ顔をした双子が呟いた。

 二人が珍しく無気力にワインを口にしているのには訳があった。一つは何よりも愛しいつがいが傍に居ないこと。そしてもう一つは向かいに座っているまだ幼い他国の王子。

 いつもなら自分より年上の者が相手でも強気で言い返す翠の国第三王子リーリアスであったが、彼は今まさに双子よりも意気消沈していた。これではからかい甲斐がないと双子は嘆息しているのだ。

 その証拠に、さっきからちっともリーリアスの前に並べられた料理が減っていない。食べ盛りの少年が豪華な料理を前に手を動かさずにいるのだ。余程のことがあったのかとホストである蒼の国第一王子アクリアが口を開いた。


「リード、リルメア。一体君らの弟はどうしたのだ? 体調が悪いなら客室まで送らせるが」


 だがそんな心配を他所に翠の国第一王子リードは笑みを返した。


「あぁ。大丈夫ですよ、アクリア殿下」

「そうそう。リーリアスは自分の理想通りにならなくてヘコんでるだけなんです」


 続く第二王子リルメアの言葉にアクリアは首を傾げる。


「フィアンセにね、にっこり笑って『いってらっしゃい』って言われちゃって」

「良いことじゃないか。笑顔で見送ってくれたのだろう? どこか理想通りじゃないんだ?」


 すると兄二人はその時の様子を思い出したのか、口元の笑みが深くなる。意地の悪そうな顔で話を続けたのはリルメアだ。


「本当は『行かないで!!』って言って欲しかったみたいですよ」

「……成る程な。自分が居なくなることを寂しがって欲しかったわけか」


 同じテーブルでその会話を聞いていた双子は互いに顔を見合わせた。自分達にも覚えのある我侭だったからだろう。その後も二人が翠の末王子をからかう事はなかった。


(番を得て、少しは大人になったのかもな)


 国が違えど王族は何かと交流がある。歳が離れていても皆幼馴染のようなものだ。現王族の王子達の中で最も歳上のアクリアは、しみじみとそれぞれの変化に感慨深さを感じていた。

 

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