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美味しいものを頂きました

 

 蒼の国に来て二日目。私は昨日と同じくシェルベ先生と一緒に医務室でお茶を飲んでいます。先生がこの国のものとは違う包帯の巻き方や処置方法に興味を持ったそうで、アークさんに連れて来て欲しいと頼んだそうです。今日もアークさんはお仕事なので、先生がお声をかけてくださらなければお屋敷に一人でお留守番になるところでした。それに、誰かのお役に立てるのは嬉しい事ですから。先生には今日も感謝しなければいけませんね。


 先生と互いの知識を披露しながらお話しているとあっと言う間にお昼になってしまいます。今日も誰かが昼食を用意してくださるのでしょうか? そう思っていたら、若い男性が顔を出しました。昨日の小間使いの少年よりも少し年上の方です。


「こんにちは」

「なんだ怪我か? 腹でも痛いのか?」

「いやその……」


 先生の問いかけに言い辛そうに口篭る青年。青を基調とした簡易の鎧に身を包んでいます。どうやら騎士の方のようです。彼は私を見るとずいっと紙袋を差し出しました。


「これ! 良かったらお昼にどうぞ!!」

「え? あの、いただいてよろしいんですか?」

「は、はい!」


 どうやらお祭の屋台で売っているプチパンケーキのようです。丁度お昼時ですし、差し入れとはありがたいですね。


「まぁ、ありがとうございます」

「じゃ、じゃあ! 俺はこれで!!」


 笑顔で御礼をしたら、何故か彼は顔を赤くして医務室を出て行ってしまいました。パンケーキは沢山入っていたので、ご一緒にどうですか?と声をかけようと思っていたのに残念です。やはり騎士さんは忙しいのですねぇ。


「どうしましょう、先生。こんなに沢山二人で食べ切れるでしょうか?」


 私がそう言って紙袋の中身を見せると、先生は人の悪そうな顔でにやりと笑いました。あらあら、先生ってそんなお顔もなさるんですね。


「こりゃあ、ハウリィケーキ店のもんだなぁ。良かったね、お嬢ちゃん。ここのパンケーキはいつも午前中に売り切れちまうんだ」

「そうなのですか? お忙しいのにわざわざ列に並んでくださったのでしょうか?」

「まぁ、遠慮せずに食おう。俺は甘いものに目が無くてな」

「あら、ではきっと先程の方はそれをご存知でパンケーキを差し入れして下さったのですね。」


 私がそう言うと、何故か先生は大笑い。あら、私何かおかしなこと言いましたか?


「先生?」

「あはははっ、お嬢ちゃん、本当に分かってないのかい?」

「え? 何がでしょう?」

「くくくっ、こりゃあ、あのボーズも気の毒にな」


 私はどうやらあの青年に申し訳ない事をしてしまったようです。理由は良く分かりませんが、先生がなにやら楽しそうなのでそれ程重い問題ではないのかもしれません。それより美味しそうなパンケーキが気になるので、温かい内に早速頂きましょう。


「今度は私がお茶を淹れますね」

「あぁ。ありがとう。かみさんには甘いものばかり食べるなと言われていてね。内緒にしておくれよ」

「はい」


 二人でパンケーキをご馳走になっていたら、次から次へと騎士さん達が差し入れを持ってきてくださいました。

 シェルベさんは騎士の皆さんに慕われている良い先生のようです。

 

 



【同時刻 紅の国】


 主催である夏節祭程ではないものの、紅の国で催されている冬節祭は今日も沢山の人で賑わっている。

 そんな中、賑やかな街並みをキョロキョロしながら隣を歩く姿に、僕は思わず溜息をついた。


「アカリ、そんなに買って食べ切れるんですか?」


 どうやら冬ならではの食材を提供してる屋台が気に入ったようで、美味しそうなものを見つけては嬉しそうに次々買ってしまうものだから、彼女の両手は既に屋台料理で一杯になっているのだ。

 冬節祭の三日間は王族の方々が蒼の国へ訪問している為、レティシア姫の子守であるアカリは当然休みとなる。僕の方は一日だけだが、二人の休みが重なった今日、こうして祭で賑わう街を共に歩いていた。

 僕の心配をよそに、当のアカリは「へーきへーき」と笑っている。


「だってイースも食べるだろ? ホラ。」


 そう言ってアカリは串に刺さった肉団子を僕の方へ差し出した。


「…………」

「食べないの? もしかしてコレ嫌いだった?」

「……嫌イ、デハ、アリマセン」

「何で急にカタコトだよ。腹でも痛いのか?」

「…………。食べていいんですか?」

「良いに決まってんじゃん。早く食べないと冷めるぞ」

「食べますよ?」

「だから……」

「いいんですね?」

「…………」


 やっと僕の真剣な様子に気づいたのか、アカリは首を傾げている。何故こんなにも念を押すのか、彼女は分かっていないのだろう。


「いただきます」

「あっ……」


 口を開けてアカリが手にした串から直接団子を頬張る。成るほど。噛めば噛むほど温かい肉汁が溢れてきて、これは美味しい。


「美味しいですね」

「あっ、そう……」

「アカリは食べないんですか?」

「た、食べるよ!」


 だから結局何なんだよ、と文句を言いながら、同じ串から団子を食べるアカリ。

 その横顔を見ながら僕はすました表情を崩さずに、内心喜びをかみ締める。その理由はまだ彼女には秘密だ。 

 

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