戦塵の中での出会い
「どうしてこんなことになってしまったの…」
少女は瓦礫の山に埋もれ、若い命を散らそうとしていた。戦火は至るところに立ち上り、街は火の海になりつつあった。
戦塵の中から大きな影が少女の傍に近づいてきた。
「お前はまだ息があるのか。今、そこから出してやるからな」
髭面の大男は少女の上に覆いかぶさった瓦礫を払い除けた。助けられた少女は絶望の淵から微かな希望を感じた。
少女のペイズリー柄の更紗で作られた青いドレスは粉塵で汚れ、至るところにできた、ほころびから柔らかい素肌を覗かせていた。
「どこが痛い。見たところ、目立った怪我はなさそうだが」
「テーブルの下に隠れていたから…。でも、足も背中もなんだか痛い」
「そうか、傷モノでは買い叩かれるからな。いやぁ、上玉が手に入ってよかった。これほどの女は滅多にいないぞ」
「…!」
男のいう通り少女は美しかった。腰まで伸びた真紅の髪を小さく震わせて、怯える少女は涙で潤んだ瞳を男に向けた。
男は少女の高貴で端整な顔立ちを嘗め回すように見つめた。少女の思わず抱きしめたくなる小柄で華奢な体つきは男の欲望をかきたてた。
「旦那、つれないじゃないの。そんな小娘なんかより、あたしと遊んでよ」
男は振り返ろうとした瞬間、十文字槍で首を突かれ、崩れ落ちた。
少女はあまりの事に声も出なかった。
「ああ、シケてるな。もっと気持ちいいことしたかったのに」
黒光りする鎖帷子を着込んだ大女は十文字槍を引き抜いた。男の血があたりに吹き出る。
「お嬢ちゃんも運がないね。まぁ、ここの人はみんな、運がないみたいだけど」
女は辺りを見回し惨状を嘆いた。
「どうして殺したの…。この男の人、私のこと助けてくれたのに」
少女は怖い気持ちを押さえて女を睨みつけた。
「敵だったからさ。お嬢ちゃんのことも売り飛ばそうとしてたんだよ」
女は男は殺したことに何の後ろめたさもないかのように振舞った。
「でも、殺さなくても…。わたしはもう一人ぼっちかもしれないのに」
か細い声で少女は心細い気持ちを訴えた。
「お嬢ちゃんはママのオッパイが恋しいのかい?あたしは牛みたいに胸がでかいけど、乳は出ないんだよ。残念だったね」
女は少女をからかいながら、被っているケトルハット(麦わら帽子風の鉄の帽子)の隙間から肩まで伸びた青い髪の毛をいじっていた。