「あなたのエネルギーは足りない」と七回言われた令嬢ですが、無愛想な炎診師だけは「眠っているだけです」と言いました(aet7)
炎診院の受付で名前を告げながら、エレナはもう次の行動を考えていた。
診察が終わったら、帰りに本屋に寄ろう。今日発売の植物図鑑が入っているはずだ。それから、兄への返事の手紙を書かなければ。夕食は昨日の残りでいい。
考えたことが、今日の診察への期待のなさを示していた。
体炎の診察は、今日で七回目だった。最初が六歳。次が九歳。十一歳、十四歳、十六歳、十八歳。そして今日、二十歳。毎回同じ結果だった。「体炎:最弱。魔法使用可能域未満。日常生活への支障は軽微」という三行の診断書が出て終わる。
今日も同じだ、とエレナは思っていた。
診察室に入ると、術師が一人いた。二十代後半くらい。黒い短髪に、白衣。作業台に診察道具が並んでいた。椅子に座って、エレナの入室に顔を上げた。
カイル・アルノと名札に書いてあった。
「ヴァルド家のエレナ、で合ってますか」
「はい」
「横になってください。体炎の確認をします」
エレナは長椅子に横になった。カイルが隣に座った。右手を、エレナの胸の上にかざした。
いつもの流れだ、とエレナは思った。三分くらい診て、「最弱ですね」と言って終わる。本屋の場所を思い出した。前の通りを右に曲がって、「待て」
カイルが言った。
エレナは思考が止まった。
カイルがもう一度、手をかざし直した。今度は角度を変えて。それから位置を変えて。さらに、微調整を重ねる。
五分、十分、と時間が過ぎた。普通の診察はとっくに終わっている時間だった。
「……過去の診断書はありますか」とカイルが言った。「持ってきています。六回分」
「全部見せてください」
エレナは鞄から診断書を出した。カイルが受け取った。一枚ずつ読み始めた。
エレナは天井を見た。カイルが読んでいる間、何も言わなかった。一時間、ただ横になって待った。
カイルが最後のページを閉じた。
「……これは全部、誤診です」
エレナは固まった。
「え」
「六回全部。「体炎最弱」ではありません。あなたの体炎は、休眠状態です」
「……休眠、というのは」
「消えているのではなく、眠っている。消えた体炎は復活しません。でも、眠っている体炎は目覚める。あなたのは、後者です」
エレナはしばらく何も言えなかった。
六回の診察。二十歳まで。「最弱」という言葉と十四年間生きてきた。それが「眠っているだけ」だった、と。
「……どうして、今まで誰も気づかなかったんですか」
「休眠と消滅は、表面上は同じように見えます。精密な診察をしなければ、区別できない。あなたを診た術師たちは、たぶん「最弱」と診断することに慣れていた。精密に見なかった」
カイルは事実を言っていた。責めてもなく、慰めてもなく。
「……目覚めることは、できますか」
「賦活の施術で、可能性があります。確率はわかりません。でも、「休眠」と診断した以上、やる意味はある」
エレナは間を置いた。
「……やります」
「決断が早いですね」
「十四年待ちました。これ以上は待てません」
カイルは何も言わなかった。手帳を開いて、何かを書き始めた。
*
翌日、カイルが問診に来た。
炎診院の小部屋で向かい合って、カイルが質問した。エレナが答えた。これを二時間繰り返した。
生まれたときの状態。体炎が「弱い」と最初に診断された年齢。そのころ何があったか。その後の生活。大きな病気やケガ。精神的に辛かった時期。食事の習慣。睡眠の量と質。今の体の状態。疲れやすさの程度。
エレナは二時間、質問に答えた。
カイルは全部を手帳に書いた。一言も聞き流さなかった。
二時間後、カイルが手帳を閉じた。
「……十歳のとき、高熱が三週間続き、一時、意識が混濁したと言いましたが」
「はい。高熱が三週間続きました。一時、意識が混濁して。医師には「峠を越えた」と言われましたが、その後しばらく体がきつかった記憶があります」
「その前後で、体炎の感覚が変わりましたか」
エレナは考えた。
「……変わった、と思います。病気の前は、もう少しだけ体が動きやすかった気がします。でも当時「体炎の感覚」を意識していなかったので、確かなことは言えません」
「でも、変わった気がする」
「……はい」
カイルが手帳を再び開いた。
「……おそらく、体炎が休眠に入った時点は、その病気のときです。高熱が続いて、体が「もう動かなくていい」と判断した。体炎が自己保護のために最低限の活動状態に入った。それが「休眠」です」
「……そのまま、十年間」
「防衛反応が解除されなかった。外部から正しい刺激が来なければ、体炎は自分から起き上がらない」
エレナはしばらく黙った。
「……十年間、間違えていたんですか。私の体は」
カイルが止まった。
「……体は間違えていません。正しく自分を守った。ただ、解除する方法を知らなかっただけです」
その言い方が、エレナには何かを変えた。
十年間、疲れやすい自分を「欠陥」だと思っていた。魔法が使えない自分を「劣っている」
と思っていた。けれど、体は十年間、自分を守っていた。その言葉が、胸の奥に刺さった。
*
帰り道、エレナは泣いた。
通りを一人で歩いていて、気づいたら涙が出ていた。泣こうとしたのではなかった。ただ、出た。
「体は間違えていない」という言葉が繰り返していた。誰かにそう言ってもらったことが、今まで一度もなかった。欠陥だと言われてきた。社交界では透明な存在として扱われてきた。婚約候補からも外された。体が間違えているから、と自分でも思っていた。でも体は正しかった。守っていただけだった。それだけで、十四年分の何かが、少し緩んだ気がした。
*
三日後、カイルが賦活前の生活指導に来た。
食事、睡眠、運動、精神的な環境。全部を「体炎が起きやすい状態」に整える必要があると説明した。
「一ヶ月かけて、準備します。急ぎすぎると、体炎が再び防衛反応を起こす可能性がある」
とカイルは言った。
「一ヶ月間、毎週来てもらえますか」
「はい」
「……何か、質問は」
エレナは考えた。
「一つだけ。カイル先生は、なぜ炎診師になったんですか」
カイルが止まった。
「……見逃せなかった人がいたからです」
「見逃せなかった?」
「正確には「見逃した」人がいた。その人の体炎の休眠を、診断できなかった。それからずっと、休眠を見逃さないための研究を続けています」
エレナはその言葉を聞いた。「見逃した人」が誰なのか、聞こうとして、止めた。
聞かなくても、何かがわかった気がした。
*
一ヶ月の準備期間が始まった。
ある深夜、カイルが診察記録をまとめていると、ドーン院長が通りかかった。
「まだいたのか」
「エレナの記録を確認していた」
「……記録が多い症例だ」
「そうだな」
ドーンは行きかけて、少し止まった。
「君が患者の名前を、記録以外の会話で口にするのは初めて聞いた」
一拍の沈黙の後、ドーンは去った。カイルは自分が口にした名前を、もう一度だけ頭の中で確かめた。
毎週月曜日の朝、カイルが炎診院に来た。エレナの状態を確認して、一週間の記録を確認して、次の週の指示を出した。
最初の一週間は、食事の変更だけだった。体炎に良い食材のリストを受け取って、それに合わせて食事を変えた。
二週目は、睡眠のルールが加わった。就寝時間を一定にすること。睡眠前の二時間は読書以外の刺激を避けること。
三週目は、軽い運動が加わった。毎朝、三十分歩くこと。「激しくなくていい。体炎を起こす前に体を温める、というくらいの強度で」とカイルが説明した。
エレナは全部従った。二週目の終わりに「今朝、少し体が軽い」と感じ、三週目には「昨夜はよく眠れた」と気づいた。
*
三週目の月曜日、カイルが状態を確認した後で、エレナが聞いた。
「体炎の賦活施術は、どんな感覚がしますか」
「経験したことがないので、私にはわかりません。患者によって違います」
「でも、多くの患者で共通することは?」
カイルが少し考えた。
「……温かくなる、と言う人が多いです。体の奥が。それから、疲れる。体炎が動こうとする分、体がエネルギーを使うので」
「疲れるのは、良いことですか」
「施術後に疲れるのは、体炎が動こうとして体がエネルギーを使っている反応です。何も変化がない方が問題です」
エレナは頷いた。
「……もう一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「見逃した人、というのは、今も」
カイルが止まった。
「……亡くなりました。体炎の休眠が長すぎて、気づいたときには手遅れだった。私が研修医のときです」
エレナは何も言わなかった。
「……だから、見逃せない。「最弱」という診断書が来るたびに、本当に最弱なのかを確認したくなる。あなたの場合も、最初の一枚を見たときから「これは何か違う」と感じました」
「……感じた、というのは、感覚ですか。それとも根拠がありますか」
「根拠があります。体炎が消えているときの波形と、休眠しているときの波形は、精密に見れば違う。その違いが、あなたの診察で見えた。だから「待て」と言いました」
エレナはカイルを見た。感情表現が少ない人だが、今の言葉には何かが込められていた。過去の人への後悔と、それを繰り返さないという意志が、事実の言葉の中に入っていた。
「……あなたに診てもらって、よかった」
カイルは何も言わなかった。手帳に何かを書いた。でも、書く手が少し止まった。
*
賦活施術が始まった。
最初の施術は、一時間だった。カイルがエレナの体炎に、外部から刺激を送り込む。眠っている体炎の「入り口」を探して、少しだけノックするような術だと説明された。
施術中、エレナは体の変化に集中していた。
最初の三十分は、何も感じなかった。温かくもなく、重くもなく、ただ施術台に横になっているだけだった。
四十分後、胸の奥で何かが動いた気がした。
動いた、というより、震えた。体炎がある場所が、微かに震えた。一瞬で消えたが、確かにあった。
「……何かが、動きました」とエレナは言った。「どこが」
「胸の奥。一瞬だけ」
「それが正しい反応です。続けます」
施術が終わって、三時間後。
エレナが台所で夕食の準備をしていると、手のひらが温かくなった。
熱いのではない。温かい。体の内側から来る温かさ。今まで感じたことのない感覚だった。
翌日、カイルに報告した。「三時間後に手のひらが温かくなりました」
「……体炎が、初めて表層まで出てきた証拠です」とカイルは言った。「一回目でこれが出るのは、早い方です」
「早い、というのは良いことですか」
「良いことです。体炎が目覚める意欲がある、ということです」
意欲。体炎に意欲がある。その言い方が、エレナには少し面白かった。
「体炎に意欲があるんですか」
「比喩的な言い方ですが、状態としてはそう表現するのが正確です。休眠が長い体炎は、刺激を受けても反応しないことがある。あなたの場合は、最初から反応した。目覚める準備ができていた、ということです」
*
施術が三回、四回と続くにつれて、エレナの日常が変わっていった。
朝の目覚めが変わった。以前は朝が苦手で、起きてから三十分はぼんやりしていた。今は、目が覚めた瞬間から体が動く感覚がある。
疲れの質が変わった。以前は活動するたびに「消耗」していくような疲れだった。今は「使った」という感覚になってきた。疲れるが、回復する。
施術後、エレナが施術台に座り、カイルが記録をつけながら体の状態や次回までの注意事項を話す時間が続いた。やがて施術と関係のない言葉が少しずつ混じり始めた。
「エレナは、体炎が目覚めたら、何をしたいですか」と、ある日カイルが聞いた。エレナは少し驚いた。「したいこと」を聞かれたことが、あまりなかった。「……魔法を一つ、使ってみたいです。光でも、風でも」
「それが最初の目標ですか」
「はい。小さくてもいい。自分で出せる魔法を、一つ」
カイルが手帳に書いた。
「……覚えておきます。目標が明確な患者は、賦活が進みやすい」
「それは本当ですか」
「……本当です。体炎は、向かう先があると動きやすい。目標は体炎にとって「行き先」になる」
エレナはその説明を、手帳に書き留めた。カイルが「メモするんですか」と言った。「参考になることを言うから」とエレナが答えた。カイルが何も言わなかったが、少し間があった。
*
最終賦活の日は、夜に行った。
深部の体炎に到達する施術は、表層より時間がかかる。体に与える影響も大きい。夜の方が体が落ち着いているため、深部施術に向いているとカイルが説明した。
炎診院の特別施術室。他の患者は来ない時間帯。灯りが少なく、静かな部屋だった。エレナが横になった。カイルが椅子を引いて、横に座った。
「今日は、深部の体炎まで届かせます」とカイルが言った。「これまでは表層から中層でした。今夜は、十年間眠っている体炎の核心部まで」
「どんな感覚がしますか」
「わかりません。深部施術を受けた患者は、それぞれ違う経験を話してくれました。過去の記憶が来ることもあります。強い感情が来ることも。どちらでも、それは正常な反応です」
「……怖いですか、という意味の質問でした」
カイルが少し間を置いた。
「……怖いと感じてもいい。俺はここにいます」
エレナは頷いた。
施術が始まった。
最初の一時間は、これまでの施術と似ていた。体の奥が温かくなり、体炎が少しずつ動く感覚。でも今日は、深部に向かっている感覚があった。
一時間半後、深部に届いた。
その瞬間、記憶が来た。
十歳の夜。高熱が続いていた。布団の中で、体が動かなかった。頭の中で何かがぐるぐるしていた。恐ろしかった。こんなに体が言うことを聞かないことが、初めてで、恐ろしかった。
「もう動かなくていい」とどこかで思った。体が重すぎて、「もう止まっていい」と思った。その瞬間に、体炎が休眠に入ったのだと、今ならわかった。エレナの目から涙が出ていた。施術中だった。でも涙が出た。「……エレナ」
カイルの声がした。
「大丈夫です」と言おうとして、声が出なかった。「大丈夫じゃなくていい。続けます」とカイルが言った。「聞いてください」
「……はい」
「あなたの体炎は、十年間、あなたを守るために眠っていた。十歳の夜に正しく判断して、休んだ。それは間違いじゃない。でも、もう守らなくていい。もう、大丈夫だ」
その言葉が、深部に届いた。
エレナの体の奥で、何かが動いた。
今までとは違う動き方だった。核心部から手先、足先まで、温かさが一気に広がった。
光が出た。
エレナ自身の体から、光が溢れた。施術室が明るくなった。カイルが「……」と声を飲み込んだ。
しばらくして、光が落ち着いた。エレナの体の内側に収まった。でも、消えなかった。体の奥に、温かいものが残っていた。今まで感じたことのない、温かさだった。
「……これが」とエレナは言った。「……あなたの休眠が解除された体炎です」とカイルが答えた。声が、少し変わっていた気がした。
*
施術が終わって、エレナが起き上がった。
体が、違った。重さがない、というわけではなかった。でも、「軽くなった」というより「満ちた」という感覚だった。
手のひらを出した。以前は何も出なかった手のひら。
光が来た。
小さかった。でも、確かにあった。手のひらの上に、光の粒が一つ。消えなかった。
「……出た」とエレナは言った。声が震えた。カイルを見た。カイルの表情が、崩れていた。崩れた、というのは変な言い方だが、正確だった。いつも静かで感情を見せない顔が、今日は違った。何かが出ていた。何かを言えないでいる顔だった。「……カイル先生」
「……光が出ましたね」
それだけだった。でも、その一言に、何かが全部入っていた。
*
翌日、体炎ランクの再測定が行われた。
院長のドーンが立ち会った。カイルが測定した。数値が出た。
ドーンが眼鏡を外した。数値を見直した。眼鏡を戻した。また外した。
「……A ランク相当、だな」とドーンが言った。「A ランク相当です」とカイルが繰り返した。「……最弱から、A に」
「最弱ではありませんでした」とカイルが言った。「休眠していました。休眠が解除された結果、休眠解除後の体炎ランクが現れた」
エレナは数値を見た。「A ランク」という文字が、現実として入ってこなかった。
「……これが、私の体炎ですか」
「そうです」とカイルが言った。「最初から、ずっとあなたの体炎でした。眠っていただけで」
*
一週間後、クラウスが来た。
クラウスはエレナの兄の友人で、一年前に「婚約候補として考えていたが、体炎の問題があって」と遠回しに断ってきた人物だった。
今日は笑顔で来た。「体炎が回復したと聞いた。おめでとう」と言った。それから「今からでも、縁談を考えたい」と言った。
エレナは間を置いた。
「……いいえ」
クラウスが止まった。
「……いいえ、お断りします」とエレナは言った。「体炎が変わったからといって、私が変わったわけではありません。一年前の判断を、体炎のランクが変わったからといって変える理由がありません」
クラウスが何か言おうとした。エレナは続けた。
「……あなたが一年前に断ったとき、私は何も言いませんでした。今日は、言います。お断りします。それだけです」
クラウスは何も言えなかった。帰っていった。
エレナは自分が今、はっきりと断ったことに、後から気づいた。今まで「断る」という経験がほとんどなかった。流されてきた。受け入れてきた。でも今日は、自分で「お断りします」と言った。
体炎が変わると、声も変わる。カイルが言っていたことが、今わかった。
*
翌日、炎診院でカイルに会ったとき、「昨日、縁談を断りました」と言った。
「そうですか」
「なぜ断ったか、聞きますか」
「……聞いていいですか」
珍しかった。カイルが「聞いていいですか」と問いかけるとは思っていなかった。
「……最初に「あなたの体炎は、休眠しているだけだ」と言ってくれた人は、他に誰もいませんでした。六回の診察で、一度も。それを最初に見てくれた人が、いたから。それだけです」
カイルは何も言わなかった。しばらく手帳を見ていた。
「……今の言葉の意味は、伝わっていますか」とエレナは言った。「……伝わっています」とカイルは言った。「でも、確認させてください」
「どうぞ」
「あなたは、誰かに縁談を断った。その理由として、炎診師を引き合いに出した。それは、その炎診師への気持ちが理由に含まれますか」
エレナは間を置いた。
「……含まれます」
カイルが手帳を閉じた。
「……続きは、次の診察のときに話しましょう」
「次の診察、ですか」
「三ヶ月後の定期確認です。そのとき、私からも話したいことがあります」
エレナは頷いた。「わかりました」と言った。
三ヶ月、待てる。今の自分なら、三ヶ月は短い。
*
三か月後。
体炎は A ランクで安定。
カイルが数値を読み上げる。
「揺らぎなし」
エレナは聞いた。
「先生の体炎の話は、今日はしないんですか」
カイルが止まる。
「数値を出す必要はありません」
「どうして?」
「あなたが入ってきた時点で、もう変わっているので」
今度はエレナが止まった。
「先生の体炎が?」
「はい」
「それ、炎診師として正常ですか」
「まだわかりません」
「三か月かけて、自分でも確認していたんですか」
「確認したから言っています」
カイルは珍しく視線を逸らした。
「あなたのそばにいると、私の体炎が通常より動く」
エレナは手のひらへ光を出した。
三か月前より迷わず出る。
「次の目標を言っていいですか」
「どうぞ」
「先生の体炎が私のそばで動くなら、私もそうです。それを時間をかけて確かめたいです」
カイルは一拍置いた。
「時間をかけることは、得意です」
エレナは笑った。
カイルも笑った。
手のひらの光が二人の間に残る。
十年間眠っていた炎は、もう消えなかった。
了




