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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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56:孤児保護

 人口増加。


 冬が近づいていた。


 冷たい風が街を抜ける。


 だが、この街には湯気があった。


 市場。


 鍋。


 焼き魚。


 焼きたてパン。


 肉の香り。


 酒。


 人の笑い声。


 寒いのに、空気が温かい。


 そしてそれは、外から来た人間ほど強く感じるものだった。


「……なんだここ」


 街道を歩いてきた男が呟く。


 痩せている。


 服はボロボロ。


 後ろには子供が三人。


 目が死んでいた。


 どこにでもいる難民。


 珍しくもない。


 戦争。


 飢饉。


 盗賊。


 税。


 この世界には理由が溢れている。


 だから人は流れる。


 死ぬために。


 だが。


 この街は違った。


 門前。


 警備兵が怒鳴らない。


 槍を向けない。


 代わりに。


「飯食うか?」


 鍋を差し出した。


 男が固まる。


「……え?」


「冷えるだろ」


「並べ」


 湯気が立つ。


 味噌鍋。


 魚出汁。


 巨大蟹の旨味。


 野菜。


 豆腐。


 肉。


 腹に刺さる香りだった。


 子供達が震える。


 我慢していた。


 だが限界だった。


 一番小さい少女が泣き出した。


「おなか……すいた……」


 警備兵は何も言わず器を渡した。


「火傷するなよ」


 少女が食う。


 一口。


 止まる。


 そして泣いた。


「……おいしい」


 父親が崩れ落ちる。


 嗚咽。


 周囲の難民達も静かに泣いていた。


 この街へ来るまで。


 誰も優しくしなかった。


 だから。


 優しさに慣れていなかった。


 その頃。


 市場二階。


 クルザードは資料を見ていた。


 マチルダが紙を並べる。


「流入増加」


「一週間で百七十三人」


「子供四十二」


「孤児十三」


 クルザードが静かに聞く。


「死者は」


「ゼロ」


 マチルダが答えた。


「冬前なのに?」


「ああ」


「あり得ない数字よ」


 ジェシカが腕を組む。


「衛生」


「栄養」


「水」


「全部改善してる」


「特に子供」


「免疫が落ちてない」


 普通。


 冬前は死ぬ。


 風邪。


 飢え。


 感染。


 特に子供は弱い。


 だが。


 この街では減っていた。


 理由は単純。


 食えている。


 風呂がある。


 清潔。


 水が綺麗。


 治療がある。


 全部が噛み合っていた。


 クルザードは静かに言う。


「孤児区画を増やす」


「……本気?」


 ヴァレリアが聞き返す。


「金かかるわよ」


「食料も」


「分かってる」


「でも拾う」


 迷いがなかった。


 ティグリスが笑う。


「クルらしいな」


 クルザードは窓を見る。


 外。


 子供達が走っている。


 笑っている。


 以前は見なかった光景だった。


「子供が死ぬ街は伸びない」


 静かな声だった。


「未来が減るからだ」


 誰も反論しない。


 合理だった。


 感情だけじゃない。


 子供は労働力になる。


 学習する。


 技術を継ぐ。


 街を広げる。


 つまり。


 国家資源だった。


 そしてクルザードは、それを理解した上で守っていた。


 三日後。


 孤児保護区画が完成する。


 石造り。


 風呂付き。


 共同食堂。


 暖炉。


 寝台。


 水路完備。


 しかも清潔だった。


 難民達が絶句する。


「……本当に住めるのか?」


「無料?」


「なんで……」


 クルザードは即答した。


「働けるようになったら働け」


「それまでは食え」


 子供達が固まる。


 信じられない顔。


 マチルダが教育計画を説明する。


「読み書き」


「算術」


「衛生」


「簡単な職業訓練」


「適性で振り分ける」


 ガルドが笑う。


「鍛冶師足りねぇしな」


 ヴァレリアも頷く。


「商人も足りない」


「帳簿出来る奴は貴重」


 街は拡大していた。


 だから人が必要。


 しかも。


 教育済み人材が。


 その夜。


 共同食堂。


 大量のパン。


 シチュー。


 魚料理。


 湯気。


 香り。


 子供達が夢中で食っていた。


「おかわり!」


「あるぞ」


「肉だ!」


「すげぇ!」


 笑い声。


 明るい。


 クルザードは入口から見ていた。


 デニーゼが隣へ来る。


「……変わったわね」


「ああ」


「前は死んだ目しかいなかった」


 今は違う。


 目が動く。


 笑う。


 未来を見る。


 それだけで空気が変わる。


 その時。


 一人の少年が近づいてきた。


 十歳くらい。


 ボロ服。


 だが目が強い。


「……なんだ」


「働きたい」


「何出来る」


「わからない」


「でも食わせてもらった」


「だから返す」


 クルザードは少しだけ笑った。


「名前は」


「レオン」


「じゃあ明日から市場」


「荷運びからだ」


「……はい!」


 少年が走っていく。


 クルザードはその背中を見る。


 ヴァレリアが横で呟く。


「囲い込みね」


「結果的にはな」


「怖い男」


「快適にした方が強い」


 クルザードは焼き魚を食う。


「恐怖より長持ちする」


 それがこの街だった。


 脅迫じゃない。


 洗脳じゃない。


 快適。


 安心。


 食。


 居場所。


 だから人が残る。


 そして。


 人が人を呼ぶ。


 一週間後。


 さらに難民が来た。


 二週間後。


 獣人集団が定住希望を出した。


 三週間後。


 エルフ薬師達が移住交渉を始める。


 一ヶ月後。


 人口は倍近くになっていた。


 市場拡張。


 住宅増築。


 水路延長。


 学校建設。


 全部が同時進行。


 忙しい。


 だが止まらない。


 クルザードが流れを決める。


 だから回る。


 その頃。


 他国。


 ある貴族は報告書を見て眉をひそめていた。


「……人口増加?」


「冬前に?」


「しかも死亡率低下?」


 普通あり得ない。


 冬は減る。


 人口は死ぬ。


 だから春を待つ。


 それが常識。


 だが。


 この街は増えている。


 しかも。


 食料備蓄増加。


 衛生向上。


 医療普及。


 教育開始。


 意味が分からない。


「なんなんだその街は……」


 答えは単純だった。


 飯が美味い。


 死なない。


 安心出来る。


 だから。


 人が集まる。


 夜。


 孤児区画。


 暖炉が燃えている。


 子供達が眠る。


 静か。


 穏やか。


 以前なら凍えていた子供達だった。


 クルザードは外を歩く。


 魔導灯。


 雪混じりの風。


 それでも街は温かい。


 ティグリスが隣へ来る。


「増えたな」


「ああ」


「怖くないのか?」


「何が」


「責任」


 クルザードは少しだけ考えた。


 遠く。


 市場の灯り。


 宿屋。


 笑い声。


 鍋の香り。


 人。


 全部見る。


「……腹減ってる奴放置する方が嫌だ」


 ティグリスが笑った。


「ほんとお前らしい」


 その瞬間。


 市場側から声が上がる。


「焼き蟹追加ぁ!」


「酒足りねぇ!」


「パン焼けたぞ!」


 笑い声が広がる。


 クルザードは歩き出した。


 街が生きている。


 人が増える。


 仕事が増える。


 技術が回る。


 教育が広がる。


 そして。


 この街はもう。


 単なる拠点ではなくなっていた。


 国家の形を取り始めていた。







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