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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第70話 乳香採集へ

 マリー達がサヴォイアへ発ってから6日目。

 

 久しぶりに全員でアジトの外へ向かう。

 乳香の採集のためだ。

 目の前に広がる荒野は、相変わらず日差しがきつく、乾燥した風が肌をひりつかせる。

 アジトは大きく豊かな自然を感じつつも、隠れ潜んで守られているような感じがして心地いい。

 だが、この見渡す限り何もない荒野の、厳しくも自由な空気もこれはこれで悪くない。


「とはいえ、エリザベスのおかげでだいぶ楽になっちゃったなぁ」

「メェェェェ」


 それに、やはり一人で徘徊していた昔と比べれば、緊張感がまるで違う。

 もちろん今でも油断はできないし、そういうつもりも無いのだが、クロやシロをはじめ、エリザベスにギゼラ、ザムザ、ミルと心強い仲間に囲まれていると、まぁ何があっても何とかなるかなと思えてきてしまう。

 いずれは鬼達が暮らすという東の山脈や、危険度の高そうな南へも旅してみたいなぁ。

 そんなことを考えながら移動していると、あっという間に最初の採集ポイントに着く。


 

「この木から採取していたんだねぇ」

「そうそう、クロがやってるように、ナイフでこそげ取って、適当に集めてくれればいいから。簡単でしょ?」

「ああ。まぁ作業は簡単だけど……普通はここまで来るのが難しいからねぇ」

「木から採れるんだ」


 ミルとギゼラが早速わくわくした様子で採集を手伝ってくれる。

 実はこの2人は、乳香の香りが随分お気に入りのようで、個人的にも欲しがっていた。

 特にミルは香りに敏感なようで、アジトの暮らしの中でも、よく色々なものに鼻を近づけては、クンクンしている。

 それもあって、今回採集へと出かけることになったのだ。

 アジトの西側は、植物のほとんど無い荒れた土地ではあるが、意外とこの木はぽつぽつと生えている。

 おまけにかなり広大な範囲に生息しているので、しらみつぶしに集めていけば結構な量採集できる。

 


 

「ちょっと休憩しようか」

「ぐぎゃうぎゃう~」


 特に疲れているわけでは無いが、切りが良いので休憩する。

 クロがコーヒーの準備をしてくれる。

 ギゼラとザムザがキリムを敷いたり、タープを広げたりしつつ場所を整えてくれる。

 俺はミルと一緒に採集した乳香を片付けたり、ミルが作ってくれたアジトの果物を砂糖で煮た、コンポートのようなものを取り分けたりする。

 甘みが強く、コーヒーとよく合い、つい食べ過ぎてしまう。

 ぴんくとザムザのお気に入りである。


「これだけいると布が全然足りないね」

「今度街に行ったとき、色々買い足そう」

「そういやマリー大丈夫かな~」

「シロも食べるよね?」

「ん~今はいいかな」


 ちなみにシロはこういう皆が少しリラックスしている時は、俺のそばで武器片手に油断せず、しっかりとあたりを警戒してくれている。

 シロから見ると、俺があまりに弱々しくて、不安なのかもしれない。

 確かに逆の立場だと、気が気じゃないかもしれない。

 なんとなく凛々しいその様子を見ていると、まだ俺がシロを男だと勘違いしていたころを思い出す。


「シロ、はい、あ~ん」

「んあむ。……おいし」


 シロの口にコンポートを突っ込んでやると、顔がふにゃっと柔らかくなる。

 やはり、あの時から比べると随分変わったな。


「ぐぎゃ~ぅ」

「あ~」


 すかさずクロとギゼラ、そして何故かぴんくが便乗し、目の前に並んで口を開けてくる。

 とりあえず、みんなの口にコンポートをどんどん突っ込んでいく。

 後ザムザ……何でお前までソワソワしてんだよ。

 お前は自分で食え。

 ミルは我関せず、自分で作ったコンポートを食べ、満足げにうなずいている。

 確かに今日のは、果物の香りや酸味が活かされていて、今までで一番うまいかもしれない。


「なぁミル、このちょっといい匂いするのって何?」

「これは、いい香りのする木の皮を使ったのさ」


 どうりでシナモンぽい香りがすると思った。

 これはチョコレートのバリエーションがさらに増えそうだな……。


「ミルの探求心とモノづくりのセンスはやっぱ凄いな」

「いや、場所が恵まれすぎてるんだよ。あと、ゼラちゃんと一緒に色々やっていると止まんなくって」

「ミルちゃん、センスあるからね~」

 

「――――うん?」


 おもむろにクロとシロが立ちあがり、同じ方向を見つめる。

 エリザベスも特に警戒をした感じでもないが、ゆっくりと起き上がる。


「ぎゃう……ぐぎゃう!」

「ボナス、なんかくる」

「わかった。急いで片付けよう」


 とりあえず警戒と、事態への直接対応はクロとシロに任せ、残りのみんなで急ぎ片付ける。

 ちょうど荷物全てを背負子に積み終えた頃、遠くで砂埃とともに黒っぽい何かが暴れながら近寄ってきているのが見える。

 キダナケモだよな……。

 俺とミル、ギゼラにザムザはいそいそと背負子を背負い、邪魔にならないよう距離をとる。

 クロは既に状況を掴んでいるようで、ナイフを抜き迷いなく走り出す。

 シロは金棒を肩に背負い動かないが、随分余裕を感じる。

 あの2人と1匹は、毎日アジトの外でキダナケモの相手をしているくらいだし、特にぴんくに頼む必要も無いだろう。


「いやぁ、あの状況で平然としてるの、頭おかしいよね~」

「ああ、狂ってる……」


 鬼の2人からしてもクロとシロはおかしいらしい。

 まぁ確かに俺もエリザベスと2人が戦っているのを間近で見た時は、こいつら頭おかしいんじゃないかと思ったよ。

 目を凝らしていると、徐々に状況が掴めてきた。

 どうやら誰かがキダナケモに追いかけられているようだ。

 ミルが目を眇めながら状況を確認しようとする。

 

 

 

「――――――ねぇ、あれアジールじゃないかい?」

「あ……、ほんとだわ」

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