第208話 プレゼント(クリスマス特別編)
以前書いたクリスマス特別編になります。
明日異世界アジト2巻が販売されるので記念UPします!
よし、準備は整った。
思ったより時間はかかってしまったけど、これはなかなかいいものができたぞ!
さすが私のイト――そして蜘蛛達よ、ご苦労さま。
それでは、いざ出陣だ。
さぁ~みなの者、私についてまいれ~!
「それじゃ、荷物は僕が持つよ。ガストはぴんくをよろしく」
「ああ、も~っ、そんな俺の可愛い耳を引っ張んなよ~ぴんく、わかってるって。じゃあ行くかビビ」
「うん」
洞穴族の二人、白い袋を背負ったビビと、私を肩に乗せたガスト、それにイトや蜘蛛達を連れて、アジトの中を探索する。
今日は珍しく私の仲間達が全員アジトにいる日だ。
そう、今がチャンス――私はこの時を待っていたのだ!
ということで、まずは湖を目指そう。
いや、そっちじゃないぞ、ガスト、こっちだこっち!
「なんだなんだ、ぴんく。んふんっ――も~俺の可愛い鼻を引っ張んなよ~。まぁ……最初に目指すなら湖が間違いないか」
「湖なら、たぶん今頃クロが果物を干しているはずだよ」
というわけで湖に到着。
あれは……盟友クロとシロ、それにギゼラだな。
三人で果物や芋を干しているようだ。
あっ!
あれは私の好きな――酸っぱいやつ!
「ぎゅうぎゃう! ぴんくぅ」
「それはまだだめだよ、ぴんく。ほら、こっち食べて」
「ビビとガストじゃん。ほらこれさっき採ってきたんだ~食べる?」
「食う!」
「たべる!」
つまみ食いをクロに阻止される。
相変わらず素早い。
代わりにシロにおやつをもらう。
ん~っ、これも美味しい。
おっと――こんなことをしている場合じゃない。
さぁビビ、いまこそ袋を開く時だ!
「はい、ぴんく。どれなの?」
「あ~……まぁ、この三人にはそれでいいよな」
「ぐぎゃぁ~う~?」
「それは――ボナス?」
「あっはっはっ、このボナス泣いてるんだけど~」
三人にボナスの編みぐるみを渡す。
作ったのはもちろん蜘蛛達だ。
監修したのは私。
出来が良くて当然だよね。
三人はお互いの編みぐるみを見せ合って笑っている。
クロとシロ、ギゼラに渡したのはそれぞれ、笑っているボナスと寝ているボナス、泣いているボナスの三種類だ。
材料はエリザベスの毛が主だが、色が必要なところは仕立て屋の娘たちに提供してもらった材料を使っている。
「ボナスねてる……かわいいね」
「ぼ~な~す~! ぎゃっぎゃっぎゃっ!」
「なんだかこれ、かわいくて食べちゃいたくなる~」
よしよし。
皆それぞれに気に入ってくれたようだ。
クロは顔にこすりつけ、シロはじっと見つめ、ギゼラはなんだか……かじりたそうな顔をしている?
さて――用件は済んだ。
さぁ、次の仲間を見つけに行くぞ!
「うん? もう次行くのか? ああ、はいはい」
「三人ともそれじゃあまたあとでね。僕たち、次行くよ」
「ぐぎゃうぎゃ~う!」
「うん、ありがとう」
「これ気に入ったよ。ありがと~!」
おや?
あれは……よし――ガスト、止まるんだ!
さぁ、ビビ。
あいつを取り出してくれ!
「いててっ、今度はどうした、ぴんく? ああ……ザムザとオスカーか」
「ちょうどいいね。ふたりにはたしか……これと……これだね」
ザムザとオスカーは木材の山を前に、なにやらせわしなく動き回っている。
木をあっちからこっちへ積み替えたかと思ったら、二人でぶつぶつ言いながら、木材に落書きをして――そんなことを繰り返している。
作業に夢中で直ぐ近くの私達にも気が付いていない。
「――うわっ! なんだ、ぴんくか……木に変な虫でも住み着いたのかと思ったぞ」
「ビビとガストも――なんだか珍しい組み合わせだなぁ。うん? なんだこりゃ――おおっ、手袋か!」
「指が分かれている……俺の手にぴったりだ」
「なんだ? おお~……はははっ、なるほど。こりゃ俺以外はつけられないだろうよ! ぴったりだ! ありがとよ!」
ザムザとオスカーには手袋をあげる。
ふたりはよく働くからね。
その手袋で手を大切にするんだぞ!
特にオスカーはこれ以上指をなくすと困るからね。
ザムザも最近剣の練習を頑張っている。
これなら直接剣を握り込んでも指は落ちないだろう。
今のザムザなら指くらいは生えてきそうだけどね。
「でもなんで俺のはキノコの絵柄なんだ、ぴんく……?」
「お前、キノコ好きだからじゃないのか、ザムザ? ほら、俺のはボナス商会のぴんくの絵柄だぞ!」
「たしかに料理するのは好きだけど……手袋に刺しゅうされてると……なんだか妙な気分だな」
ザムザはキノコ好きかと思っていたけれど、なんだか変な顔をしているなぁ。
イトの言う通り、やはり可愛い私の姿にした方が良かったかな?
まぁ、いいや。
次だ次!
「じゃあな、ザムザ、オスカー!」
「またあとで」
「おう、ありがとな!」
「ありがとう」
白いふわふわ小山を発見。
エリザベスだ。
昔から大きかったけど、最近また大きくなった気がする。
エリザベスはコハクが来てから、すっかり大人びたような顔をするようになったけれど、彼女だってまだまだ育ち盛りだね。
おや……?
よく見るとそのエリザベスにもたれ掛かるように、マリーとラウラ、そしてラウラに抱きしめられたコハクもいる。
マリーとラウラは何かお菓子を食べていたようで、空の皿とコーヒーカップが二つ、トレーに乗せられている。
「はれ? ああ、ビビとガストにぴんくちゃんも。どうしたんですか?」
「ん……起き上がれないわ」
「うにゃうん……」
二人ともエリザベスに体を預けてぐんにゃりしている。
淑女にあるまじき、だらけ切った様子だ。
普段はキリっとしているマリーでさえ、なんだかひどくだらしない顔になっている。
「二人とも、まだ朝だよ?」
「気を抜いてエリザベスにもたれ掛かったら終わるからな」
「気持ちいいもんね」
さて、この二人にはまさにこれがふさわしい!
やはり私の目に狂いはなかった。
「ん~ぴんくは今日も可愛いわね……あら? まぁ――これは……とっても、素敵ね」
「うわぁ! みてコハクちゃん! ほら、あなたよ?」
「うにゃうん?」
「うふふっ、手触りまで同じね」
「メェェ……」
「可愛い! 匂いも同じ!」
マリーにはエリザベス、ラウラにはコハクの編みぐるみをあげる。
ビビとガストが持っているものより一回り大きく作った。
ほとんど動く気配のなかった二人が、編みぐるみを見てむくりと起き上がる。
お互いの編みぐるみを交換してみたり、エリザベスやコハクに見せてみたりと、急に忙しく動きはじめた。
ラウラは顔に押し付けて匂いまで嗅いでいる。
うんうん、二人とも満足したようだ。
よし、次だね!
「それじゃ、また昼飯でな!」
「ええ、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「そういえばラウラ、最近また少し顔がまるくなってきた気がするって、ボナスが言ってたよ」
「えっ……う、嘘でしょう? ね、ねぇ、マリー……?」
「……」
「う、運動しないと!」
跳ね起きたラウラが急に腕を振り回し始めた。
相変わらず面白い娘だなぁ……。
ミルを見つけるのは簡単だった。
調理窯から立ち昇る煙が遠くからもはっきり見えた。
ちょうど食事の準備をしていたらしい。
近くに行くとそれだけでもう……いい匂い。
ミルは汗だくになりながらも、鼻歌交じりに上機嫌だ。
窯に鉄の棒を突っ込んで、なにかほじくりまわしている。
あれは――パンだけじゃないぞ。
ん~……あぁ……奥に炎がゆらゆらして……気になる……。
「こらこら、ぴんく! まったく、あんたは何でいつも隙あらば窯に入っていこうとするかねぇ……ほら、新作おやつ食べてみるかい?」
「たべる!」
「もちろん食べるぜ!」
「ああ、いいよいいよ。ビビもガストも、こっちおいで。でも今日は昼御飯もたくさん作る予定だから、今は一口分だけだよ!」
「やった。ん~……ラウラとマリーが食べてたのと同じ匂いがする」
「ビビ、お前鼻良いな――ってうめぇ! やっぱミルは天才だな!」
窯からつまみ出されてしまった。
ミルめ……。
彼女は私の可愛い尻尾をすぐにつまみあげる不届きものだ。
だけど、私はミルの作る食べものが大好きでもある。
それは勝手に尻尾が揺れちゃうほど、とっても素晴らしいものを作る。
ほら、やっぱり――これも最高に美味しいね。
ビビとガストだって、目を閉じてとろけそうな顔をしている。
いやいや――そうじゃない!
今日はそんなことをしに来たんじゃないぞ。
わ、わたしはおやつなんかに負けはしない!
さぁ、ビビにガスト、あれを出すんだ!
「ひへへっ――も~ぴんく、俺の可愛い口を引っ張るなよ~。わかってるって」
「えーっと、ミルには……これだね。はい、どうぞ」
「えっ!? これは……ザムザ? あははっ、パンもたされてるね。これ、くれるのかい?」
「うん」
「ぴんくとイト、それに蜘蛛達からだ」
「それはありがとうね。けど、なんでザムザを……まぁ、可愛いけどね……」
「だって、ミルはザムザ大好きでしょ?」
「なっ! う、うるさいよ~!」
「鬼男に入れ込むなんて、まったく……ミルは面白れぇドワーフだなぁ~」
さて、おやつも食べたし、ミルの面白い顔も見れた。
そろそろボナスの顔が見たいな。
さぁ、また出発だぞ、ビビ、ガスト!
「いててっ――も~俺の髪引っ張んなよ、ぴんく~」
「じゃ、あとでね、ミル」
「美味しいごはん作っとくからね!」
ついにボナス発見!
見つからないと思ったら、寝床の前でお絵描き中だった。
そういえば最近のボナスは、いつも何か描いてる。
「おっ、姿が見えないと思ったら、ビビとガストと一緒にいたのか、ぴんく」
「これは……アジトの改築案?」
「うわっ! なんだこれ? また面白そうだな……ああ、なるほどな。これで荷車を途中まで――いててっ、わかってるよ、ぴんく!」
まったく洞穴族はこういうの見るとすぐに夢中になっちゃう。
困ったもんだ。
今日の目的を忘れてはいけない!
「最後の一つ、ボナスには~――はい、これだね」
「うん? これは――ぴんく?」
もちろんボナスには私の編みぐるみをあげる。
なかなかの力作だ。
私の可愛さを良く表現できたと思う。
この鮮やかなぴんくを再現するのが大変だった。
「うわぁ……よく出来てるなぁ~。この妙にもっちりとした感じもそっくりじゃないか」
ボナスは視線を手に持った編みぐるみと私でいったりきたりさせながら、驚いた顔をしている。
そう、この編みぐるみは見た目だけじゃない。
触り心地など、いろいろなところにこだわった力作なのだ!
「これだけは何度もやり直しになってね……イトと蜘蛛達の力作だよ」
「ぴんくの監修がそれは厳しくってなぁ……」
「そっか……ふふっ、ぴんくが二匹だな。なんだかこの顔見てると――ぴんくと出会った頃のことを思い出すよ」
ボナスは編みぐるみの私を図面の上に置いてじっと見ていたが、しばらくすると吹き出すように表情を緩める。
そうしてそのまま編みぐるみの頭を人差し指で優しくなでる。
優しい顔。
う~ん……いやいや、おかしいぞ。
目の前に本物がいるんだから、こっちを撫でるんだ、ボナス!
「え、えぇ……ああ、まぁお前も撫でておけばいいのかな?」
「ぴんくがぴんくを押し出して入れ替わってる」
「なにがしたいんだよぴんく……」
ボナスが私と編みぐるみを左右に並べて、両手の人差し指で同時に撫でて笑っている。
たしかに、ガストの言う通りかもしれない。
私は何がしたかったんだろう。
ボナスにはこの私がいれば十分な気がしてきたぞ!
「本当によく出来てるね、これは宝物にするよ、ありがとう、ぴんく。もちろんビビとガストにイトや蜘蛛達もね」
「僕たちは横で見てただけだけどね」
「仕立て屋の娘たちが良い色を見つけてくれてさ~、ビビの言う通り俺達は見てただけだから、ロミナとメアリのほうに感謝しておいてくれ」
「そっか。それは今度お礼言わなきゃな」
うん……やっぱり、ボナスが私の編みぐるみを大切にしているのを見るのも悪くないね。
それに、今日みたいに私が少し離れている間は、きっとボナスも寂しいだろう。
いまだってほら、図面の端っこには可愛い私の絵が描かれてる。
私がポケットにおさまっていないとボナスはダメなんだ。
だから、きっとこの編みぐるみも役に立つだろう。
「おや? ――おかえり、ぴんく」
「そういや、ミルがもうすぐご飯だって」
「もうそんな時間か……それじゃ、食べに行くか~」
イトと一緒にボナスのポケットに潜り込む。
ふぅ……。
あぁ、落ち着く~。
やっぱり、ここが一番だね。
さて――ひと仕事やり終えたし、御飯がでてくるまで、少しお昼寝でもしよっかな~。
いよいよ1月23日に異世界アジト2発売されます。
修正を重ね、書下ろし短編も複数話ついかしております。
もしよろしければ、お近くの書店やオンラインショップでチェックしていただけますと、著者としてこれ以上の喜びはございません!




