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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第207話 若い鬼達

 傭兵向けに作られた大きく無骨なテーブルも、こうして鬼達に囲まれるとまるでおもちゃのようだ。

 ザムザと俺を含む九人だと座りきれなかったので、さらにもう一つ向こうのテーブルまで借り出して座ってみたが、それでもまだ窮屈に感じる。

 暑苦しい絵面だ。

 ただ、鬼達はシロを見てからすっかりいい子になった。

 店に入ってきたときは無駄に荒ぶっていた癖に、今は借りてきた猫のようにおとなしく席についている。


「それで――せっかくだから色々聞かせてくれよ」

「うん? まぁ……別に構わんが」

「普段何食ってるんだ?」

「モンスターを狩ってその肉を食ったり……、たまに狩ったモンスターが売れれば店で酒を飲んだり食ったりする」

「なるほどなぁ。どこで寝てるんだ?」

「ちょうどいい大きさの広場を見つけたから、そこで固まって寝ている。井戸もあっていい場所だぞ! なぜか最近はあまり人も近寄らなくなって快適だ」

「そうか……」


 いたるところで迷惑をかけてそうな雰囲気だな。

 声をかけたのは早まったかもしれない。


「街の暮らしはどうだ?」

「ああ、悪くないな!」

「目新しいものが多くて面白いぞ」

「人が多いな」

「珍しい酒があった!」


 口々にサヴォイアの感想を言い始めるが、その表情は思ったより明るい。

 意外にこいつらシティライフを満喫していたようだ。

 生活は大変なようだが、山暮らしに比べれば刺激的で楽しいのだろう。

 みんな若いもんな……。


「ただ、街のやつらがたまに変な目で見てくるのが腹立つ」

「あと……大人の鬼達が怖い」

「何度か揉めて殺されかけた」

「それは……酷い話だな」

「そのうち一番ひどい目に遭わされたのが……」


 若い鬼男達は気まずそうな顔でザムザに視線を向ける。

 どうやらこいつらから見るとザムザも大人に見えるようだ。

 当のザムザはなんだかぶすっとした顔で若い鬼男達を睨みつけている。

 普段のザムザはしないような表情だ、。

 面白いな……。


「ザムザも怖いのか?」

「街で会った鬼の中で、ザムザとギゼラが一番怖かったな」

「死ぬかと思った」

「変な技を使って腕を折られたり……」

「よくわからないうちに意識が飛ぶんだ」


 どうやら昔教えた寝技の実験台にこいつらを使ったようだな。

 殺さないように制圧するのにはちょうど良かったのかもしれない。


「そ、そうかぁ……それで、モンスターを狩るのは楽しいのか?」

「ああ、俺は好きだな!」

「敵が強いと血がたぎる!」

「俺達は鬼だからな」

「面白いが……いつもあまりうまくいかない」

「毎回死にそうになるな……」


 さすが鬼だけあってモンスターとの戦い自体は楽しいようだ。

 穏やかなシロでさえ、戦闘はそれなりに楽しんでいるように見えるからな。

 ただ、あまりうまくはいってないらしい。

 たしかに、この適当な装備に雑な知識で行き当たりばったりに挑んでいるようだし仕方ないだろうな。

 そりゃ死人もでる。


「馬鹿なやつらだ」

「まぁまぁ、ザムザ、こいつら若いみたいだし――」

「お前達は――遠からず全員死ぬだろう」

「お、おぅ……」


 ザムザが邪悪な予言者のようなことを言いだした。

 その言葉に鬼男たちは反発するかと思ったが……意外に皆静かだな。

 この様子だと、本人たちも薄っすらそんな気がしていたのかもしれない。

 全員しょんぼりしてしまった。

 さっきまでは意外に楽しそうに話していたが、ザムザの一言でシナシナになっちゃったな。

 デカい鬼達が揃って肩を落として……いたたまれない空気だ。


「なぁ、お前達――」

「うん……?」

「俺達の商会は今、次の戦争に備えてとても大きな、とても大きな仕事を抱えているんだ」

「戦争……?」

「大きな仕事……?」


 若い鬼男達の顔があがる。

 やっぱり皆若いな。

 体格や顔立ちだけ見ていると分からないが、人の言葉に反応する表情は若者特有のそれだ。


「実は、ほら――ここにいるザムザは、その大きな仕事の一つで、とても大きな役割を担っている」

「役割……とは?」

「とある村に、この店より大きな建物を、建てようとしているんだ。もちろん一人でできるような仕事じゃない、何人もの人手を使い、たくさんの資材を運び、何日も何日もかけておこうなう大仕事だ」

「大仕事……」

「その指揮をザムザが執っている」

「でも戦いはしないんだろう?」

「それは戦士のするような仕事なのか?」

「いや、これはモンスターと戦うなんて比べ物にならないくらいの大仕事なんだ」

「う~ん?」

「そうなのか、ザムザ?」

「ああ。昔の俺は――お前達と同じ弱く馬鹿な鬼だった。だが、ボナスについていったことで人生が変わった」

「しかし英雄になるには強い敵を倒すことが……」

「何が英雄だ、くだらん! たしかに――俺は昔ボナスや仲間達と数万の黒狼と戦ったことがある。その時初めて自分に誇りが持てた。だがそれは強い敵と戦い打ち負かしたからではない。村のために戦ったからだ! そして今度はその村により大きな発展をもたらそうとしている。戦士としてこれ以上の誉れは無い」

「おぉ……」

「数万の黒狼!?」

「す、凄いなザムザ」


 ずっと苦い顔をしていたザムザだが、英雄と聞いてついにキレたようだ。

 しかもなんだかいろいろと語り始めた。

 さすがに茶化すのもどうかと思うのでおとなしく聞いているが、かつての自称英雄に今どんな気持ちか詳しく聞いてみたい。

 実際は巻き込まれた上、流れに身を任せているうちに、そうなったようなものだが、ザムザの話ではすっかり村を守った英雄談になっている。

 しかし若い鬼達にはなんだかその言葉は深く刺さったようで、皆キラキラした目でザムザを見ている。

 数万という数がインパクトあったのかな。


「でもさすがにそんな数は……」

「おまえら、それ、本当だぞ。俺はこの目で見た――というより、その死体は俺達が処分したんだからな。それに実際のところ、ありゃ数万じゃあ効かないかもしれないぞ」


 それでも何人かはザムザの話に懐疑的なようだったが、後ろから面白がったピリがそう付け加えると、いよいよ尊敬と驚気の眼差しをザムザに向けている。

 よしよし、良い感じだ。


「そう、ザムザはヴァインツ村では有名人でな。最近じゃザムザも自分で英雄を名乗らなくなっちゃって、おもし――残念だけど、村の連中は全員、ザムザのことを英雄だと、間違いなくそう思っているはずだ。もちろん俺だってそう思っているし、だからこそ、安心して現場を任せられるんだ」

「凄いなザムザ!」

「お前こそ真の英雄だ!」

「あ、いや……まぁ……」


 鬼達はどんどん盛り上がってくる。

 なぜかザムザまでうれしそうにしているな……。

 やっぱり鬼男は英雄に憧れるようだ。


「それでだ――お前達もザムザに従って、その一大事業を成し遂げてみたらどうだ?」

「おお!」

「悪くない!」

「面白そうだ」

「ザムザは良い奴だしな!」

「え? えぇ……ボナス?」


 困惑するザムザ以外はさらに盛り上がってきたな。

 さすがにこの連中を俺が直接監督するのは遠慮したいが、ザムザに任せるのはありだ。

 戦闘力は怪しいものの、この体格なのだ。

 力は間違いなく有り余っているだろう。

 俺の仲間達を見ている限り、人と比べて特別不器用などということもないはずだ。


「それに……俺の頼もしい仲間達に戦い方を教えてもらえるかもしれないぞ?」

「何だって!?」

「お前たちの働きっぷりによっては、あのギゼラが武器を作ってくれるかもしれない!」

「ギ、ギゼラは……こわい」

「でも、ギゼラは鬼が使っても壊れない武器を作るらしいぞ?」

「それは欲しいな……」


 若い鬼達は表情をコロコロ変える。

 反応が良すぎてついいろいろ言いたくなるな。


「飯だって毎日食えるように考えてやろう」

「おお!」

「飯!」

「腹減ったな……」

「なぁ、さっきからこの匂いは……」

「――できたよ、ボナス」


 その時、ちょうど美味そうな香りをまとったシロが現れた。

 巨大なトレーを左右に持っている。

 鬼達は一斉につまみあげられたように背筋を伸ばしている。

 モンスターには命懸けで挑んでいくくせに……どんだけ怖いんだよ。


「ごはん、あげるけど――良い子にしてなきゃだめだよ?」

「ヒエッ……」

「も、もちろんだ!」

「わわっ、わかった!」

「まぁまぁ、シロ、こいつらしばらく飯食っていないみたいだし、さっさと食わせてやろうぜ」

「……もう、ボナスは甘いんだから」


 燻製肉と溶けたチーズを山盛りのせた温かいパンはあまりにも美味そうだ。

 若い鬼男達もシロとパンの間を視線が行ったり来たりと忙しい。


「俺の分もある?」

「うん――」


 シロはトレーをテーブルに置くと、後ろからその長い両腕を伸ばし、まるで俺を抱き寄せるようにパンを手渡してくる。

 そうして、俺のこめかみに白く大きな角を何度かこすりつけるように額を寄せると、またするりと立ち去って行った。

 なんだかマーキングでもされたような気分になるな。


「じゃあ、おかわり、作ってくるね」

「ありがとう、シロ――あ~、やっぱりこれ、最高にうまいね!」


 パンを一口かじり、ふと視線を上げると、鬼達が全員唖然とした顔で俺を凝視していた。

 目玉が飛び出そうなほど見開いている奴もいて、吹き出しそうになる。

 シロの振る舞いはそれほど驚くようなものなのだろうか。

 日常的なやり取り過ぎて、まったくピンと来ないな。

 ただよく見ると若い鬼達の驚き方も、二種類あるようだ。

 青い顔で目を見開き、ひたすら驚愕している奴と、その逆に頬を赤く染めて驚愕している奴だ。

 う~ん、面白いな。 

 

「す、凄いものを見てしまった……」

「あ、あぁ……」

「けどあの怖い鬼女、よく見るとなんだか……なんというか……村の女たちと全然違うな」

「白い髪がサラサラして……」

「ああ、なんだか俺はよくわからないが……ドキドキしたぞ」

「お~い、お前達、喋ってないで早く食えよ~」

「うっ、こ、これ食っていいのか?」

「うおおおおおっ!」

「おい、お前たち! これはミルが作ったパンなんだからよく味わって食え!」


 はじめ恐る恐る口をつけた鬼達だったが、一口食べた後はすさまじい食欲を見せた。

 シロが途中お替りを持ってきたことにさえ気付かず、落ち着いて食えと何度もザムザに注意されていた。

 頬をぱんぱんに膨らませた若々しい姿は、なかなか微笑ましく感じる。

 そんなことを思いながら、しばらくコーヒーを傾けながらぼんやりと鬼達の様子を眺めていると、ちょうど横に座っていた鬼男が、突然俺に話しかけてきた。


「よくわかった――ボナス、お前は凄いリーダーだ! やはりザムザの言うことには間違いがなかった。俺の名はゴトウだ、これからよろしく!」

「んぇ? あ、あぁ……まぁ、よろしくな」


 なにやら神妙な面持ちで、自己紹介をしている。

 しかしゴトウか……覚えやすくていいが、なんだか妙な気持になる名前だなぁ。

 立ち位置的にこいつが七人のまとめ役だろう。


「これからは俺達もお前に付き従おう! 文句のあるやついはいるか?」

「ない! 飯がうまい!」

「俺も文句はない! 確かにこいつはザムザの言う通り凄い男のようだ」

「ああ、俺も良いと思う! あと、できれば鬼女に好かれる方法を……」


 なんだか急に懐いてきたな。

 俺が凄いというより、シロが凄まじいんだろうな……。

 しかしどうしようか。

 もちろん建築要員や新しい拠点の護衛としては、ぜひ欲しい人材だ。

 正直なところ、声をかけたのは面白半分だが、もちろんあわよくば使えればいいなとも思っていた。

 ただなぁ……なんだが、このでかくて元気な坊やたちの相手を四六時中すると思うと、途端に面倒くさくなってきたぞ。

 しかも七人、すっごい疲れそう。

 やはりザムザに全力で押し付けておこう。


「よし、わかった! 良いだろう、お前達のことはボナス商会が預かろう。ひとまずお前達はザムザに従え! 」

「えっ、ボ、ボナス?」

「ザムザは出会ってから大きく成長した。昔は英雄だなんだとわめきたてる、いかにも未熟な若い鬼だったが、それも今では誰もが認める英雄だ! きっとお前達若い鬼を立派に導いてくれるだろう! だから――頼んだぞザムザ!」

「わ、わかった!」


 よし、これで良いだろう。

 実際ザムザは面倒見もいいし、仲間の中ではかなり常識的な人材だ。

 頭だってかなり良い。

 シロやギゼラ、マリーなんかに任せると、いつのまにか数人欠けてそうだし、クロなんかに導かせると、それこそとんでもないことに……いや、ちょっと面白そうだな。

 とはいえ、クロとシロにはなるべく身近にいてもらいたいし、ここはザムザが妥当なところだな。

 う~ん……あとはついでに、あいつも巻き込んでおくか。


「あと――、ちょうどそこにいるピリ傭兵団も紹介しておこう」

「げえっ……お、おいボナス!?」

「こいつらはこんな見てくれだが、サヴォイアでも有数の傭兵団だ。見ての通り俺達ボナス商会との縁も深い。お前達の大先輩にあたるから、存分に教えを乞えばいいぞ!」

「おお!」

「わかった!」

「ボナス、お前はまた――」

「良いじゃないかピリ。お前達も人手が足りてないんだろ? うまく使ってやればいいじゃないか。なにより将来お前達の家族の住む拠点を作るのも、守るのも、こいつらになる可能性も高いんだぞ?」

「わかってる……まったくお前は本当に……おい、ザムザ! くれぐれも頼んだぞ、よ~くしつけておけよ!」

「ああ、わかってる……俺だって、同族が街に迷惑をかけるのも、野垂れ死ぬのも嫌だからな」


 しばらく傭兵団と鬼達がザムザを交えて話始めた。

 同じ飯を食っているおかげか、意外に話しも弾んでいるようだ。

 特に若い鬼達は嬉しそうだ。

 これまで他の傭兵などとまともに話したことがなかったのだろう。

 ピリたちの武勇伝を喜んで聞いている。

 ピリ自身も当初は渋い顔をしていたくせに、今は満更でもなさそうだ。

 俺の方を指差し、悪い顔でなにか語っているところを見ると、ろくでもないことを吹き込んでそうだな。

 いつのまにかクロもナイフ使いを披露して崇められている。

 こいつは誰が相手でもすぐ馴染むな……。

 もしかすると若い鬼男達も現状を不安に感じていたのかもしれないな。

 なんとなく鬼男たちの気を許した笑顔を見ているとそんな気もしてくる。

 いやまてよ、こいつらまさか……ザムザみたいにずっとついて来たりはしないよな。

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