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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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205/209

第205話 おみやげとピリ

 斡旋所の横にある酒場へと足を踏み入れる。

 以前ピリと殴り合ったり、ラウラ酒の試飲をしたのがずいぶん昔のことのように思える。

 久しぶりなので少し緊張したが、中に入ってみるとあまりに知ったような顔ばかりで笑いそうになる。

 ちょうど昼時というのもあるのだろう。

 ピリー傭兵団やマーセラスの部下、うちの店によく来る傭兵連中や斡旋所の職員、おまけにヴァインツ傭兵団まで、俺達を見ると皆あたりまえのように挨拶してくる。

 俺も随分サヴォイアに馴染んだものだ。


「これはこれは、ボナス一家のお出ましじゃないか」

「久しぶりだなピリ。本当に酒場に入り浸ってるんだな」


 もちろんその中にはピリの姿もあった。

 傭兵団の仲間達から少し距離を置き、奥まった席に一人腰掛けている。

 どうせ飲んだくれているのだろうと思っていたが、意外なことに本らしきものを読んでいたようだ。

 珍しいな……斡旋所から借りてきたものだろうか。

 何やら難しい顔をしている。

 う~ん、ただ本を読んでいるだけで、あいつの盗賊のような赤い髭や髪も、なんだか思慮深い哲学者のそれに思えてくるな。

 先に仲間の傭兵団員たちが俺達に声をかけてきたことで、ピリも気が付いたようだ。

 本を置き、大げさな身振りで茶化すように俺達を出迎える。


「久しぶりだな、ピリ。お土産持ってきてやったぞ」

「ぐぎゃうぎゃう! ぴりぴり~」

「どこに置けばいいかな?」

「本か……」


 ちなみに酒場へはクロとシロ、ザムザと一緒に来ている。

 ラウラはモモとカイに挟まれ、引きずられるようにして領主館へ連行されていき、マリーと洞穴族の二人はメアリと一緒に仕立て屋へ向かった。

 最近の蜘蛛達は妙に冒険心が溢れているので少し心配だが、賢い子たちなのでなんとかなるだろう。


「シロが狩ってきたのを、俺とクロが燻製にしたものだ。肉単体だと正直オスカーの作ったものの方が美味いけど、やりようによってはこいつも悪くないんだ」

「ああ、お前たちがいつも食ってる、あのやばい肉か……中々の量だな」

「日持ちするようなものは斡旋所の方に三箱ほど預けてきたから、そっちはみんなで分けて仕事の合間にでも楽しんでくれ。干し果物なんかも詰めておいた。それより昼飯、まだだろ? せっかくだから俺がこれ使って作ってやるよ、もちろん、みんなの分もあるぞ」


 ピリの仲間達から大きな歓声が上がる。

 仕事中の食事は基本的に自分たちで用意するピリ傭兵団だが、当然食べものを分け合ったりする機会もあるので、俺達が持ち歩いている燻製肉や干し果物、チョコレートは良く知っている。

 もちろん大人気だ。

 ピリへのお土産は、その大部分を斡旋所の方に預けておいた。

 酒場に持ってきたのは昼食を振る舞うための食材だ。

 とはいえ持ち込んだ食材も相当な量だ。

 少し多すぎたかもしれないな……。

 ピリー傭兵団どころか店中の人間に提供できそうだ。


「ぎゃうぐぎゃう!」

「ボナス、料理はわたしとクロが用意するよ」

「えっ、そうする? でも珍しいね」

「わたしたちもピリには感謝してるからね」


 クロとシロは特に打ち合わせをしていたわけでも無いだろうに、食材を抱えて酒場の厨房へ入っていく。

 そんなスタスタと……自由すぎだろ。

 二人の姿が消えていった厨房からは、大きな笑い声が聞こえてくる。

 またクロがうまくやったのだろうな……。

 まともに喋ることはできないが、間違いなくうちの商会で一番交渉力が高い。

 どうしようかな。

 単に目の前のテーブルで持ってきた食材を適当に切り分けるだけのつもりだったが……手持無沙汰だ。

 ザムザは俺の護衛として残ってくれているのだろう。

 先ほどからピリの本が気になっているようでチラチラ見ている。


「とりあえず二人とも座ったらどうだ」

「それもそうだな。なぁ、それ――何読んでたんだ、ピリ?」

「ああ、毒キノコの美味い食い方について書かれている」

「なんだそれ……きのこ狩りでもするのか?」

「そんなわけないだろ。暇がないから読んで満足してるんだ。なんだザムザ、気になるのか?」

「ああ、ちょっと……見たい」


 ピリはザムザの二本角に器用に本を乗せる。

 表紙に描かれたきのこの絵が毒々しい。

 仲間に読ませるには不安になる内容だな。

 ザムザは嬉しそうだ。

 そういやこいつ、キノコ料理得意だもんな。

 もちろんアジトにはまだ手を付けていないキノコもたくさんあるが……あまり無茶はしないで欲しいなぁ……。


「それで――相変わらず忙しいらしいな、ピリ」

「ほとんどお前たちのせいだけどな」

「なんだ、儲かって良いじゃないか、感謝してくれていいんだぞ。……けど、ほんとうに俺達の影響なんてあるのか? 全然実感わかないが――」

「毎度お前は……あぁ、そうだった。お前なんていっちゃぁ貴族様には失礼だったか、ボナス様?」

「おいおい、勘弁してくれよ。気色悪いなぁ」

「お前が貴族とはなぁ……まぁ、それはどうでもいい。とにかく、俺達がボナス商会の関係者だと思われているせいで、無限に仕事を頼まれるんだよ。特にカノーザ領とサヴォイアまでの交通に関しては、誰かが暴れまくったせいでな。みんな怖がって、ボナス商会のお墨付きが欲しいんだとよ」


 ピリはそう言いながらクロとシロのいる厨房へ視線を向ける。

 どうも俺の知らないところで、俺の仲間達はとんでもない恐怖を振りまいていたようだ。


「サヴォイアに居るとピンとこないなぁ」

「特にシュトルム商会の影響が強かった町や村ではその傾向が強い。悪さをしたら白髪の鬼や緑眼の小鬼が来るぞ――ってな。百年くらいは語られそうな雰囲気だ」

「えぇ……いったいみんな何したんだよ」

「そういやサイードも俺と同じような状況らしいぞ。会うたびに恨み言を聞かされる」

「ああ……ビビとガストも引き抜いちゃったしな」

「特にサクの街は今結構荒れててなぁ……。シュトルム商会が崩壊した後、小さな商会が商機だってんで無茶やって、相場もぐちゃぐちゃになってるし……肝心の領主もあの一件以来、どうもおかしくなってるらしいしな」


 たぶんそっちはラウラのせいだろうな。

 正しくはコハクのせいかもしれないが……サヴォウイア領主とはずいぶん反応が違うようだな。


「今度サイードにもお土産持って行こうかな……」

「ああ、そうだ! あの革、かなり良いものになりそうだぞ」

「革? あれ、なんだっけ……ああ、あの原皮仕上がったんだ」


 そういえばガストの処理した革をサイードの工場で鞣してもらう手はずになっていた。

 それほど前のことでもないのに、すっかり忘れていたな。


「まだ全ての行程終わったわけじゃないらしいが、次回俺がサクの街に行くころまでには完成してそうだ。サイードがどうしても一枚手元に置いておきたいと言っていたぞ」

「構わんよ、いろいろ迷惑もかけてるからな」

「なぁ……ついでに、俺にも一枚売ってくれないか?」

「いいよ、やるよ。ただ先に仲間のものを優先的に手配したいから、ガストが選別した後のものになるけど」

「十分だ。俺もいろいろな種類の皮革は運んだこともあるが、あれは洒落にならん。性能までは分からんが、見た目のオーラがとんでもない。なにより美しい……あれで肩当なんか作れば、かなり雰囲気の良いものになるだろう」

「そんなに? 別のだけど、また原皮溜まってきてるんだけどな……」

「それは……お前……まぁなんの皮かは敢えて聞かないことにしよう。お前たちの日常を聞いていると頭がおかしくなる。健康に悪い」


 ピリはそう言うと手元のジョッキを煽る。

 酒かと思っていたがどうやら違うようだ。

 何を飲んでいるのかはわからないが、まずい薬でも飲んでいるような顔だ。


「忙しいのは良いんだがなぁ……」

「なんだ、急に愚痴っぽくなるじゃないか」

「ミシャール市場のあたりでうろうろしているだけじゃ、あまりそうは思えんだろうが、最近サヴォイアもあまり治安が良くない」

「まぁ、戦争が近いしな。ある程度変な連中が入り込むのは仕方ないだろ?」

「――娘が、心配だ」

「はぁ……? えっ……なに、お前娘居るの? というか結婚してたのか?」

「結婚はしていない。相手の女には子供を押し付けられて……まぁなんだ、逃げられた」


 この男に子供がいるなんて思わなかった。

 しかも娘。

 なかなかハードな人生を送っていたようだ。


「そ、そうか……それ、本当にお前の――」

「ふんっ……」

「えっ、あぁ……なるほどな」


 今更どうでもいいことだとは思うが、本当にこいつの子供なのだろうか――などと考えているとピリが店の一角に向けて顎をしゃくる。

 そこにはピリとまったく同じ、赤い巻き毛の女が両手に大量のジョッキを引っ掴んで運ぶ姿があった。

 完全に親子だな。


「いくつだ? 目つきは悪いが……お前の娘とは思えんほど美人だな」

「あまりジロジロ見るな……今年で二十だ。器量は悪くないと思うんだが、なぜか男にはあまり人気がないらしい」

「そうか……いや、まぁ完全にお前のせいだろうけどな」

「なんだと!? お、俺は何もしていないぞ……」

「お前の顔怖いからなぁ~。この髭が悪いんじゃないか? この髭がよ」

「あ~もう、触ってくんな、鬱陶しい!」


 ピリもサヴォイアでは有名人だ。

 かなり大きな傭兵団の団長だ。

 顔も怖い。

 伸ばし放題の髭面は海賊か野盗のようだ。

 そんなやつの娘にあえて手を出したいとは思わないだろう。

 大体休みの日はここで飲んでいるというのも、まぁ……そういうことだ。

 これまで何も知らず、娘に声をかけた不幸な男も少なくは無かっただろう。

 もしかして俺とピリが馬鹿みたいに取っ組み合っていたの、娘に見られていたのだろうか。


「まぁ状況は察した。しかし傭兵の家族持ちなんて珍しいんじゃないのか?」

「うちは荷運びメインだからな。他の傭兵団に比べれば死ぬことも少ないし稼ぎも良い。家族持ちは多いぞ」

「なるほど。しかし……不在も多いからいろいろ大変そうだな」

「特に最近はサヴォイアを離れる時間も長くてなぁ……それだけが心配だ」

「ん~……今度、俺たちサヴォイアに拠点を構えることになってさ。いろいろ物件を探していたんだが――それがかなりの広さになりそうなんだ。ただ、常駐して拠点を維持管理できるような人間がいなくてな。良ければだが、お前の娘やら他の傭兵団の家族なんかも住めるような場所を手配しようか? もちろん掃除なんかは頼みたいし、ついでに働いてくれると助かるんだけど――」

「なんだって!? いや、それはぜひ頼む! サヴォイアで名高いボナス商会、しかも今じゃラウラ様の婚約者の店だ、これ以上ない話だろ! それで――場所は!? どこなんだ?」


 思った以上に食いつきが良い。

 それまで遠巻きにしていた傭兵団の連中のうち何人かがグイっと前に出てきた。

 こいつらも家族持ちか……。

 基本は女や子供が主になるだろうから護衛にはならないだろうが、人手が増えるのは俺としても助かる。

 ピリー傭兵団、しかもその家族となれば、変な奴が紛れ込んでいる可能性も低い。

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