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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第199話 えび

 兵士は俺達の手前五メートルほどで足を止めると、こちらを取り囲むように弓なりに陣を張る。

 背後に控える二人のどちらかが指揮官だろう。

 ここまでお互い無言だ。

 さすがに緊張するな。

 剣を抜いているわけでは無いが、相手はどう見ても臨戦態勢だ。

 俺やミルのわずかな動きに竿がやたらビヨンビヨンと動くのが気になって仕方がない。

 そんなつもりは全く無いが、挑発しているようにも見えて気まずい。

 とっとと手放しておくべきだったが、このタイミングで動くと妙に勘繰られそうだ。


「俺はボナス商会のボナスだ。え~……釣りを楽しんでいたんだが、何か問題でも?」


 反応がないな……。

 やっぱり、領主に頼まれた仕事をこなしてると言うべきだったのかな?

 余計ややこしいことにもなりそうなので、とりあえず素直に現状を伝えたのだが――失敗だったか。


「ボナス商会。どこかで聞いた気がする……、サヴォイアのボナス商会、ああ――思い出した。シュトルム商会のカミラを潰した連中か!」

「えぇ……まぁ、そう言われれば……」


 後ろに控えていた男が一人、兵士を縫うようにして前へ出てくる。

 そのことに兵士たちは少し慌てているようで、先ほどまでの整然とした動きが乱れている。

 もう一人後ろに立っていた人物も慌てて前に出てくる。

 突然前に出てきたこの男が貴族だろう。

 服装は他の兵士とそれほど変わらないが、この男だけ両手に複数の指輪を着けている。

 髪も一人だけ特徴的だ。

 癖の強い赤茶色の髪を大きな三つ編みにしている。

 やや背は低く、ちょうど目の前のミルと同じくらいだろうか。

 顔立ちは整っており、ラウラと同じようなメガネをかけている。

 年もそれくらいだろうか。

 ただラウラと違い、少し気難しそうだ。

 しゃべるときに少し顎が上がり、こちらを見下すような三白眼になる。


「あの女、最近うちの領内でもデカい顔しててな、ちょうど邪魔だと思っていたんだ。どうやって因縁つけようか困ってたんだが……手間が省けて助かったよ」

「それはそれは……ところで、常識に疎くて申し訳ないのですが、そちらの名前をうかがっても?」

「うん? ああ、私はソルティス=ペンダル。最近代変わりしてな、正式にペンダル領主になった。まぁ、さすがに商人なら知ってるだろう? レナス王国一大きくて貧しいペンダル領さ」


 まずいな。

 全然話について行けない。

 いろいろ試されているような気もするが、どうなんだろう。

 話しぶりからはあまり穏健な性格をしているようには感じない。

 見た目は全然違うが、出会った当初のサイードと少し似ているような気もするな。

 流行りの交渉術でもあるのだろうか。

 なんにしろ気を付けないとな。

 今度は俺がカミラの代わりに因縁をつけられかねない。

 しかも相手は領主らしいのでそれなりに高位の貴族だろう。

 困ったな……どう振る舞うべきか何も分からない。

 ひとまずラウラが来るまで迂闊なことを言わないように気を付けよう。


「ところで……あ~ボナスと言ったか、こんなところでそんな可愛い護衛二人だけで大丈夫か?」

「二人とも頼りになる仲間ですし、もう一人下にいますから」

「そうか……それはそれとして、一応気を付けた方が良いぞ。今日はこの周辺のモンスターの様子がどうもおかしい。我々もひどい目に遭ったところだ。錯乱した足首鳴らしの群れに遭遇してなぁ、ほら――兵長が負傷した。せめて一匹位仕留められればまだ良かったのだがなぁ」


 どうやら兵長とははじめこの男と並んで後ろに控えて男らしい。

 痩せた背の高い男だ。

 負傷したせいか、ずっと表情が険しいな。

 髭は生えていないが、ハジムラド以上に前髪が後退している。

 しかしこの周辺のモンスターか……。


「あしくびならし?」

「知らんのか? 地を走る鳥の姿をした大型モンスターで、群れで行動している。走るときに足首からキュウキュウと奇妙な音が鳴るのが名前の由来だ。高級食材だが捕まえるのが難しいうえ、生命力が強く倒すのも難しい。私も魔法で応戦したが、逃げられてしまった」


 なんだか心当たりありすぎるな。

 ミルとビビが気まずそうな顔をしている。

 うまかったよな、あれ……。


「首の長い……?」

「ああ、なんだ、知ってたか。もしかしてこのあたりのは呼ばれ方違うのか?」

「いえ、見たことはあるのですが、名前は知らなくて」

「まぁいい。ところで、その盾を構えた護衛、顔を見せてみろ」

「あ、いや、こいつは洞穴族で別に怪しいわけでは――」

「大丈夫だよ、ボナス。でも、痛いから一瞬だけね」


 ソルティスという貴族は先ほどからペラペラしゃべりながらも、やはり俺達のことをずっと探っているようだな。

 フードを深くかぶったビビを怪しんだのかは分からないが、顔を見せろと言ってきた。

 周囲の兵たちはここに至って一切無言を通している。

 サヴォイアで見る傭兵と違い、よく訓練されているようだ。

 ただ先日会った領主の私兵であるカイ達ともまた雰囲気が違う。

 領ごとに兵士も気風が違うのだろうか。

 剣を抜いてはいないが、その鞘には手を添えており、いつ切りかかってきてもおかしくないような威圧感を感じる。

 どうやって切り抜けようかと思っていると、ビビは盾を背負いなおし、俺が止める間もなく、フードをずらして顔を見せた。

 盾の裏側にいた蜘蛛達は器用にローブの中へとゴソゴソ入っていく。

 ビビは目をギュッと閉じ、すぐにフードをかぶりなおす。


「愛らしいな……洞穴族か、初めて見た。本当に肌が赤いのだな。だが悪いことをしたようだ、陽の光が苦手だったか。名前は?」

「僕はビビだよ」

「ビビか……。どうだ、うちで雇ってやろうか? うちの領は貧乏だが賃金は悪くない、それに日陰で働けるぞ?」

「僕はボナスといるよ。もう一生住むって決めた巣だってあるんだ。僕はそこで生きて、そこで死ぬよ」

「そうか……それは非常に残念だが、本人が満足しているなら仕方あるまい」

「なんでもいいんだけど、あんたらいつまで剣に手を添えてるんだい? いい加減あたしは疲れてきたんだけどね。いつまでたっても釣りが始めれらないじゃないか」

「それは悪かったな――おい、お前達休め! しかし釣りか……このあたりの釣り場には詳しいのか? え~……なんだ、名前は?」

「あたしはミル」


 ソルティスという男の関心はミルへ移ったようだ。

 しかしミルも貴族相手になかなかひやひやするやり取りをするな。

 兵たちはソルティスの指示に左手を鞘から離したものの、一切の警戒を解いていない。

 あいかわらず俺達を見つめたままで、いつ切りかかってきてもおかしくない雰囲気だ。

 ミルやビビの落ち着いた様子を見る限り、兵士たちはそれほどの実力者というわけでもなさそうだが……実際どうなんだろうか。

 こういう時、身内が化物過ぎて、相手がどれくらいの脅威なのかさっぱりわからないな。

 緊張はするが、まったく恐怖は感じない。


「それじゃあミル、お前はこのあたりの釣り場に詳しいのか? ああ、別にお前の釣り場を荒そうってわけじゃあないから安心してくれ、俺達は戦争に先立ってこのあたりの調査をして――」

「ぐぎゃぁ~う~!」

「うわっ、うわわっ! な、なんだ!?」

「お帰りクロ。さっき言った仲間です」


 クロは崖下から飛び出してきた。

 ソルティスはよほど驚いたのかひっくり返りそうになっている。

 それまでいかにも貴族らしく尊大な調子でしゃべっていたので、よほど自分たちの力に自信があるのかと思っていたが、実際はそれほど余裕があるわけでも無かったようだ。

 兵士の方も大混乱している。

 クロは海から慌てて駆けつけてくれたのか、ローブを羽織っただけの姿だ。

 ただし採集物を入れた籠はちゃっかり背負っている。

 左手には大きな伊勢海老のようなものを掴み、右手にはウニを突き刺したナイフを持っている。

 こんな時だが、どっちもめちゃくちゃうまそうだ。

 背中の籠から這い上がってきたのか、頭にはなぜかタコが張り付いている。

 長い髪が全身にべちょりと絡みついて、海水を滴らせながらこちらへ駆けよってくる姿は妖怪っぽい。

 

「ぎゃうぎゃうぎゃう!」

「お、おい、そいつはなんだ!?」

「ソルティス様下がってください!」

「さ、下がれ化物!」

「ぐぎゃ~う~?」

「お、おい……何かこっちに近づいてくるぞ!?」

「とまれ! それ以上近づくと攻撃するぞ!」

「ソルティス様を守れ!」

「おのれ、やはり帝国の手先だったか!」

「クロ!?」


 兵士たちへどう説明しようか考えていると、どうもクロの様子がおかしい。

 何やら首をかしげながら、ペタペタとソルティス達の方へと近づいていく。

 兵たちは次々に剣を抜くが、クロは特に気にする様子もない。

 ただ攻撃する隙も与えずに、するりするりと兵士たちの間を抜けていく。


「こ、攻撃が当たらない!」

「手練れだ! ソ、ソルティス様今のうちに魔法を――」

「ヒエッ――」

「ぐぎゃ~うぎゃう! え~び~!」

「あっ、あぁ~クロ、だめだよ! 戻っておいで。すいませんソルティス様、そいつは仲間の小鬼でちょっと変わってるんですよ」


 クロは逃げるソルティスを追いかけながら、その三つ編みの横にでかい伊勢海老を並べて見せる。

 どうやらクロはソルティスの三つ編みがエビっぽいことを言いたかっただけらしい。

 確かにそう言われればそれっぽい。

 ただ、当のソルティスはそれどころでは無かったようだ。

 顔の横に唐突に現れた伊勢海老に、ついにひっくり返ってしまった。

 それで満足したのだろうか。

 クロはまた兵たちの攻撃をぬるぬるとかわしながら、聖火ランナーのようにウニを掲げこちらへ戻ってくる。


「こ、この化物が小鬼だと!? そ、そんな、そんなわけ――いや、この目は……変身……そうか」

「ぐぎゃうぎゃうぎゃう!」

「お、おい、お前達! 落ち着け! もういい、剣をしまえ!」


 クロはもはや攻撃されているという意識さえなさそうだ。

 さきほどまで綺麗な隊列を守り緊張感を漂わせていた兵たちも、攻撃をかわされ転倒したり、ただソルティスへ覆いかぶさるように集まったりとぐちゃぐちゃだ。

 そんな中、一番早く落ち着きを取り戻したのは意外なことにソルティス本人だった。

 ずり落ちたメガネをカチャカチャと慌てて掛けなおしている。

 それにしてもこの状況、気まずいなんてもんじゃないな……。


「あ、あの~、よければこのエビ、お土産にどうですか? 美味しいですよ」

「なっ――お前達は! ……いや、そうだな。もらっておこう」

「ぎゃあぎゃあ! え~び~!」

「お、おい兵長! ま、またこっちくるぞ! お前がさっさともらって来い!」

「えっ? あっ、は、はい」


 あっという間に場が滅茶苦茶になっちゃったな。

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