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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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198/213

第198話 候補地

 昼食後。

 村長宅の板の間でラウラ、マリーにサラを加えて車座に座り、今後の村について話し合いをする。

 これまでの成り行きについてはラウラとマリーが村長たちにうまく伝えてくれた。

 村長もおおよその事情はすでに把握していたようだ。

 二人の話を特に驚いた様子もなく黙って聞いた。

 ただ、この事業を俺達ボナス商会が主導すると聞いたときだけ、そのことをとても喜んでくれた。

 俺はこの村とその周辺の地図を書き写しながらの参加だ。

 今後、村や村民の管理、建築を加える上で、やはり地図は必要不可欠になるだろう。

 村専用のものとして気軽に使えるよう、俺達がまとめた地図の写しを作ることにしたのだ。

 ついでに沿岸部や監視塔の辺りまで、周辺環境も追加で描き、村の現況に合わせて修正も加える。

 なかなか大きなものになるので、むしろ板の間で作業できて助かった。

 複数枚の皮紙を床に並べ仮止めし描き込んでいく。

 ちょうど皆で図面を囲むように座っているので、話をしながら気になった点はその都度指摘するよう頼んでいる。

 意外なことに、傭兵団を率いているはずのサラが村の現況も良く把握しており、おかしなところがあるとすぐに指摘してくれる。

 日常的に村人からのいろいろな相談に乗ってそうな雰囲気だな。


「あっ、ボナスさん、ヨシュアの家は二人目の子供が生まれてこっちに引っ越しました」

「えっ、あれ? じゃあここに住んでいた……」

「こっちの家に引っ越しましたね」


 とはいっても、復興して間もないのだ。

 そう大きな変化はないだろう、などと思っていたが、住人たちの住む場所は驚くほど変わっていた。

 もちろん建物は最近建てたばかりで、増減は無い。

 村内での引っ越しが多いようだ。

 家族構成や仕事の変化、あるいは気分転換で、わりあい気軽に住む場所を交換したり、引っ越すようだ。

 ヴァインツ村の場合、家は個人の所有物というより、村共有の財産という意識が強いのだろう。

 たしかに、この規模のコミュニティだとそのほうが上手くいきそうだ。

 ちなみに図面を書き写す作業については、ザムザとガストの手を借りている。

 でかいのとちっこいのが図面の上で四つん這いになり、行ったり来たりを繰り返している。

 ザムザは昔から一緒に地図作ってきたし、ガストはとにかく字が綺麗だ。

 そういうわけで二人を誘ったのだが、ガストは普通に図の模写もうまく、グリッドを割り付けなくても、それなりに正確に全体を模写すことができるようだ。

 相変わらずふざけた空間把握能力だ。

 作業は捗るのでかなり助かるのだが、ガストはこういう作業を皆ですることが面白くて仕方ないようで、非常に騒がしい。


「尻触ってくんな、ガスト!」

「目の前にあるのが悪い!」

「それは私のですよ、ガスト!」

「減るもんじゃない!」


 さらに背後をとられるといろいろな意味で危険だ。

 思い出したかのように尻を撫でてくる。

 ラウラは訳の分からないことを言いだすし、村長とサラは顔を見合わせるばかり。

 ぴんくも無駄に徘徊しはじめ、図面の上が一気に騒がしくなる。

 そんな中マリーだけが、心底呆れたような顔をしながらも話を進めてくれる。

 

「……それでボナス、一番の課題は保養所の建築場所かしら?」

「ああ、できれば村の入り口、あるいはその手前に作るのが良いかなと。貴族と村人の生活動線は分けられた方が良いだろ?」

「それはいいですね! 私が言うのも変ですが、村の中を貴族がウロウロしてもトラブルの元ですし」

「ラウラ様は貴族というよりラウラ様ですからね」

「サ、サラ、失礼だぞ……」

「いえいえ、私もこの村ではとてもリラックスした気持ちになれますからね」

「新種の生き物みたいだな」

「ボ、ボナス?」


 それからしばらく、村長やサラと候補地について相談を進める。

 保養所の性質として、海の近くが望ましい。


「できればすぐ近くで釣りができると良いんだけどな」

「でしたらある程度場所は限られますね。村の釣り場はミルが詳しいですよ」

「大体目安はついたから、後は現地歩きながら考えるか。それこそ釣りでもしながら探すのが良さそうだ」

「おい、ボナス。もう写し終えたぜ! いやぁ我ながらいい出来だ。後釣り行くなら俺も連れてって」

「ガスト、お前ほんと抜群に綺麗な字書くよなぁ……これだけで金取れそう。俺の尻触りながら書いたとは思えない」


 ガストの書く流麗な美文字を見ていると、字は体を表すなんて絶対嘘だと思う。

 とはいえ、ガストとザムザのおかげで地図の模写もかなり手早く終えることができた。


「ザムザもガストも本当に助かったよ。ありがとう」

「いや~、俺も面白かったぜ」

「俺抜きで地図をいじられる方が困るよ、ボナス」

「書類はザムザの管理だからなぁ」

「書類管理……あなたって本当に鬼なの?」

「最近自信がなくなってきた」


 マリーも心底不思議そうにザムザを眺めている。

 さっきまで二人は行動を共にしていたので余計そう思うのかもしれない。

 ザムザのことだから自作の地図片手に真面目にフィールドワークをしていたのだろう。

 合流時に見せてもらった地図には、アジトとヴァインツ村を結ぶルートとその周辺について、几帳面な文字で新しい書き込みがびっしりと増えていた。

 もうサヴォイア東部の地理について、ザムザほど詳しい人間はいないだろう。


「ボナスさん! まだ帰りませんよね? かみさ……エリザベスさんとまだ遊んでいても良いですよね!?」

「あ、ああ。エリザベスが嫌がらなければ良いよ」

「大丈夫です! エリザベスさんも新鮮な山の草木を楽しんでましたから。それじゃ村長また後で!」


 そう言うとサラはあっという間に村長宅を出て行ってしまった。

 エリザベスのストレスにならなければ良いが……まぁ、嫌なら逃げるか。


「じゃあちょっと釣りをしながら現地調査してくるよ。ラウラ達はどうする?」

「私、久しぶりにサウナ行きたいです!」

「サウナ……面白そうね」

「マリーも一緒に行きましょう!」

「お、俺も行きたい! けどやっぱり釣りが先だな。はやく行こうぜ、ボナス~」


 ラウラとマリーはサウナへ行くようだ。

 後で俺も汗を流しに行こう。

 保養所にもぜひ作りたいな。

 いや、まずはアジトに作るべきか……やるべきことが盛りだくさんだな。


「俺はシロやギゼラを手伝ってくる」

「この村だと鬼はそれこそ英雄だからな、ザムザが行けばみんな喜ぶだろう。ちなみにギゼラは鍛冶場に行ったようだぞ」

「わかった」

「よし~、それじゃガスト、海行くか」

「おう! 海かぁ、なんだか懐かしいな、ボナス」

「ああ。タコいると良いな」

「はははっ、あの潮だまり思い出すよ」


 シロはあのまま子供たちを引き連れて、女たちの力仕事を手伝っているようだ。

 ギゼラは鍛冶場の様子を見に行ったらしい。

 村の復興時に俺達が再建した共同の鍛冶場だ。

 ギゼラに助言を貰って簡易的な炉や最低限の道具を揃えただけだが、農具や生活用品の手直しくらいは十分にできる。

 近くサヴォイアの鍛冶場を新しくする予定なので、なにかフィードバックが得られないか気になったのかもしれない。

 あとで俺も顔を出そう。

 ガストと二人、釣り竿を持って移動する。

 日も傾いてきたので、ガストはフードを目深にかぶっており、少し視界を確保しにくそうだ。

 もう少しいい日除け方法があれば良いのだが……。





「おっ、いたいた。クロとビビも一緒だな」

「うわ~! 海だよ、ボナス!」


 村から離れ沿岸部へ移動すると、釣りを楽しむミル達を発見した。

 いつもの釣りスポットだ。

 岩の突端に腰掛け、長い延べ竿を持つ姿がよく似合っている。

 アジトの木で新調したものだ。

 柔らかいがよほど力を加えても折れない、あと釣れるとキューキューと独特の音が鳴ってしなるので面白いのだ。

 ビビとクロも一緒のようだ。

 クロはいつも通り、釣りより素潜りを楽しんでいる。

 よくわからない生き物を捕まえてくることもあるが、どちらかというと海の中の世界を目で楽しんでいるようだ。

 いつもその感動を身振り手振りで伝えてくれるので、俺もゴーグルを手に入れて覗いてみたくなる。

 そしてビビは海に向かってポイポイと蜘蛛を投げていた。

 あれは……釣りなのだろうか?

 放り投げた蜘蛛はしばらくスーッと水面を滑り、そこからするりと水中へ潜り込む。

 そうして暫くすると、自らの何倍もある魚を糸に巻き取って、ビビから伸びる糸を手繰り寄せ勝手に戻ってくるのだ。

 それを複数の蜘蛛達が次々に繰り返していく。

 反則だろ……。

 一応大きな木桶も用意しているようだが、もはやそれに入るような量でもなく、糸に巻かれた魚はそのままミイラのようにゴロゴロと転がされている。


「なぁ、ビビそれは……食べられるのかな?」

「これはお土産だって。蜘蛛たちは魚が好きみたいだよ」

「そ、そうか。ニーチェも海の魚は割と好きだし、白蜘蛛も喜ぶかもな」

「うん。でも、ボナスが欲しいのあれば勝手に持って行っていいって」

「立派なのが多いなぁ……」


 そんな話をしていると、ポケットからイトが出てきた。

 なにやらやる気を出している。

 とはいえどう考えてもサイズ的に無理がある。

 こいつは海に落ちたら戻って来れなくなりそうだ……。

 そのまま魚の餌になりかねない。

 わざわざ指先まで来て、こちらを見つめてくる。

 さぁ投げてごらん、という声が聞こえてきそうだが、そっと摘まんでポケットに放り込んでおく。


「おおっ、凄いな蜘蛛! 俺もやる! タコ取ってくれタコ!」

「ダメだよガスト。この子たち、タコとカニは嫌なんだって。八本脚は気が引けるみたい」

「え~……」

「たぁ~こ!」

「おおっ! さすがクロ!」

「ぐぎゃうぎゃう!」


 クロが素潜りでタコを捕まえてきた。

 ビビとガスト、クロの三人がタコを掴んで騒ぎ始める。

 ぴんくはポケットから半分だけ顔をだして、その様子を嫌そうに眺めている。


「ボナス、もう話合いは終わったのかい?」

「ああ、ミル……けっこうでかいの釣れたな。それで、いくつか保養所の候補地を回ろうかと思ってさ」

「そうかい。海の近くにするって言ってたよね」

「そうだね。一応いくつか候補地にあたりはつけたから、釣りしながら適当に探そうかなと。ミルいいとこ知らない?」

「そうだねぇ……」

「なるべくなら村の手前に設けて、あまり村の中に貴族が入り込まないようにしたい」

「ん~……それならいいとこあるよ。そこも良い釣り場だから、今から行こうか?」

「おおっ、ぜひ連れてってくれ」


 一度釣れた魚を村へ届け、ミルの案内で保養所の候補地へ移動する。

 もちろんクロとビビ、ガスト、そしてビビにくっついている蜘蛛たちも一緒だ。

 珍しく全員背が低く、この中では俺が背が高い。

 後ろから皆を見下ろしていると、なんだか新鮮な気分になる。

 ビビは背負っている丸盾のせいで、後ろから見るとまるで亀だな。

 ローブが緑なので余計そう見える。

 ちなみにビビの盾は新しく作り直したものだ。

 昔背負っていたものよりひと回り大きい。

 ギゼラやオスカーと相談しながら作った力作だ。

 とはいえ作りは簡単だ。

 木材を金属補強し、仕上げにエリザベスの布を何重にも張り合わせただけだが、当然その性能は抜群だ。

 見た目よりずっと軽く、マリーの斬撃も通さない。

 さすがにシロが金棒を叩きつければ、心材がだめになってしまうだろうが、それでもすぐにバラバラになるようなことは無いだろう。

 補修も簡単なので、近々鬼達の分も用意する予定だ。


「このあたりだね」

「ありがとう、ミル。しかしヴァインツから見る海は夕日が綺麗だな」

「ん~まぶしい~」

「目がぁ~目がぁ~!」

「だ、大丈夫か二人とも?」

「うん、大丈夫」

「直接見なければなんてことないぜ」


 洞穴族が騒ぐので心配したが、ひとまず騒いでみたかっただけのようだ。

 それでも夕陽と直接対峙するのはやっぱりつらいようで、なるべく陽に背を向けるように動いている。


「少し高台になっていて建物も建てやすそうだ。下には降りられるの?」

「ああ、ほらそこ――、そこから降りられるよ。綺麗な砂浜もあるんだ」

「最高じゃないか!」

「ぐぎゃうぎゃう!」


 さっそくクロが駆け下りていく。

 また素潜りでもするのだろう。

 確かに高台から下を覗き込むと五メートルほど下に砂浜が広がっている。


「これはなかなか良いな……小さい砂浜だが綺麗だ。高台もこれくらいの高さがあれば高潮でも大丈夫そうだし、悪くないな」

「砂浜の右端にある岩場は良い釣り場なんだ。うまくすれば大物が釣れる、あたしの秘密の釣り場さ」

「いいねぇ……村からも遠からず近からず」

「まだまだ日が沈むまでには時間がある。ちょっと釣ってみようか」

「ビビとガストはどうする?」

「俺も釣ってみたい!」

「僕はもう蜘蛛達とたくさん楽しんだから、ボナスが釣るの見ておくよ」

「それじゃ移動しよう――うん?」


 ちょうど皆で高台から降りようとしたとき、村と逆方向から歩いてくる男たちがいることに気が付く。

 傭兵団だろうか、二十人ほどが長い影を引き、列をなして歩いている。

 皆腰に剣を差しているな。


「ミル、あれは……傭兵かな?」

「いや、騎士団だね」

「カイたち……では無さそうな雰囲気だなぁ、あまりサヴォイアで見ない服装だが、方向的にタミル帝国から来たということは無いだろう」

「お、おい……どうする? 俺、ラウラ達呼んでこようか?」

「一応頼む。クロがいるから何とでもなると思うけど――めちゃくちゃ泳いでるな、おーいクロ~!」

「――ぼなす~?」

「上がってきてくれ~!」

「ぎゃ~う~!」

「それじゃ、ラウラ呼んでくる」


 ガストは村へ駆けていき、ミルとビビが俺の前に出る。

 ミルは腰の斧に手をかけ、ビビは久しぶりに盾を構えている。

 大きな盾の裏側には、蜘蛛たちがびっしりとくっついている。

 出番なく終わってほしいな……。

 数匹が俺の視線に気づいたのか、陽気にこちらへ手を振ってくるので、小さく手を振り返しておく。

 頭にイトを乗せたぴんくがポケットから半身を乗り出し、様子をうかがっている。

 ひとまずこれで良いだろう。

 後はクロと合流すれば完璧だ。

 とはいっても、相手は見慣れない姿ではあるものの、結局は王国の騎士だ。

 基本的には味方である。

 それに俺はサヴォイア領主から拝命した仕事をこなしているだけだ。

 少なくとも突然襲われるようなことはないだろう。

 なるべく穏やかに行きたいところだ。

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