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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第196話 サラ

「ヤギの神様が私を迎えに来た!」

「エリザベス……お前、神さまだったのか」

「メ、メェェ……?」


 ひとまずサラとヴァインツ傭兵団員たちを何とか落ち着け、監視塔の場所まで移動する。

 蜘蛛達に手伝ってもらいつつ荷下ろしをするが、その間もサラだけは様子がおかしい。

 エリザベスにノミのようにへばり付いたまま、離れなくなってしまったのだ。

 蜘蛛たちも不気味がって近寄ろうとしない。

 エリザベス本人でさえも困惑しているようで、助けを求めるようにこちらを見つめてくる。


「とりあえず――サラ傭兵団長、エリザベスの毛並みは後で存分に楽しんでくれればいいから。村長に会う前に、少しお仕事の話をしておきたい」

「あっ、はいはい――」


 そう声をかけると、サラは我に返ったようにエリザベスの身体から離れ、ボサボサになった髪を整えながらこちらへ駆け寄ってくる。

 真面目ではあるんだが、ちょっとずれたところがあるんだよな……。

 ちなみに噂ではサラは傭兵団長としてなかなか優秀らしい。

 ハジムラドが言っていたくらいなので間違いないだろう。

 あのピリでさえ一目おいてるとのこと。


「ヴァインツ傭兵団、最近評判良いね」

「そうですか?」

「ハジムラドが褒めていたよ」

「それはたぶん……ボナス商会の傘下として扱ってもらえるからですね。他の傭兵団からちょっかい掛けられるようなこともありませんし、比較的良いお仕事を優先的に回してもらえるんです」

「護衛なんかもちゃんとこなしてるって聞いたよ。噂では東門付近を稼ぎ場にしていた盗賊は、サラたちが壊滅させたって言うじゃないか」

「群れを狙う悪い狼はすべて排除しないと!」

「そ、そうか……」

「なによりボナスさん達の顔に泥を塗るような仕事だけはできませんからね。それは他の皆も同じですよ」

「ああ、わかってる。信用してるよ」


 ハジムラドから聞いた話では、他の名の売れた傭兵団と比べても、その団結力に関してはヴァインツ傭兵団のほうが勝っているようだ。

 やはり元々ヴァインツ村の仲間同士ということが大きいのだろう。

 加えてサラは面倒見がよく、若い割に人望も厚いらしい。

 メナスやピリとも行動をともにすることが多く、いろいろと教えを乞える環境にいたのもよかったのだろう。

 最近では金銭的にも余裕が出てきたようで、皆身だしなみにも余裕を感じる。

 先ほどのノミのような姿を見ていなければ、サラも貫禄のある女傭兵団長に思えたかもしれない。


「それで、お仕事のお話とは何でしょう?」

「ああ、輸送に関する相談だけど――」


 今後の活動において重要な輸送経路は、サヴォイアとアジト、ヴァインツ村の間を結ぶ三つのルートだ。

 特にサヴォイアとヴァインツ村を結ぶルートは重要かつ注意が必要だ。

 これからヴァインツ村でいろいろと建築することを考えると、必要になる資材のほとんどはサヴォイアから運び込むしかない。

 ただその一方で、このルートは貴族たちも頻繁に利用するようになるだろう。

 戦場拠点にも最も近いルートのはずだ。

 今は道らしい道とも言えないが、それも整備されたものになっていくだろう。

 当然そんな場所を通っていれば、キダナケモであるエリザベスやコハクを貴族に見られる可能性も高くなる。

 今の俺が置かれた環境や、エリザベスの桁外れの輸送能力を考えると、いまさらそれらを絶対的な秘密にすることは難しいだろう。

 だが、なるべくなら目立ちたくはない――。


「ということで、サラ達にはヴァインツ村とサヴォイア間の輸送をまずお願いしたい」

「それは……べつに今と同じですね? もちろん、構いませんよ。ボナスさん達の仕事を優先しますので、任せてください!」

「ああ、あとできればいろいろと建築にも人員を貸してくれると助かる」

「建築……ですか?」

「領主様の計画ではヴァインツ村に保養所、宿泊施設を建てる予定なんだ。負傷した兵士の療養や貴族たちの保養に使いたいらしい。ついで――というかむしろ俺的にはこっちが本命なんだが、酒造りができるような施設も建てる予定だ」

「え、えぇ~……それはまた……こんな小さな村で対応できるでしょうか?」

「まぁ多少の混乱は避けられないだろうけど、俺がある程度自由にしていいらしいし、ヴァインツ村にとってなるべくいい話になるよう、頑張って取りまとめてみるよ」

「な~んだ、ボナスさんが采配するのですか、それなら心配いりませんね。貴族の方々が村に来るというのは少し怖いですが……」

「サラさん、大丈夫ですよ。わたしも、今はボナスだって一応貴族ですからね」

「えっ!? あっ……そ、そういえばそうでしたね。お二人とも婚約おめでとうございます!」

「あ、ありがとう、サラ……んふっんふふふっ」


 婚約についてはつい数日前に明らかになったことのはずだが、サラは既に知っていたようだ。

 ラウラはなぜか俺の腕をがしっと掴み、奇妙な笑い声をあげている。

 今後貴族と会う機会もあるだろうから、自然な挨拶ができるように練習をしておいた方が良さそうだ。


「貴族と言っても俺はラウラのおまけだけどね。――それで、建築の人員なんだが、傭兵団から暇な人員を貸し出して欲しいのと、他の村人の雇用管理もして欲しいんだ。個別に給金出すのが面倒でさぁ……、ある程度先払いということでまとまった資金をサラに預けておくから、任せられないかな?」

「わかりました。最近団員が増えちゃって、人を持て余し気味だったのでむしろ助かります」

「そういえば……傭兵団、けっこう人数増えた?」

「増えました……いっぱい。村で定職についていない若い子は全部押し付けられるんですよ。教育してやってくれって……」

「そ、そうか。まぁ読み書きや計算なんかも団員同士で教えあってるみたいだし、俺が親でも預けたくなるな」

「最近じゃあ、若い子だけじゃなくて、お小遣いが欲しいっておじいさんたちまで押しかけてくるんです」

「お、俺はまだまだ働けるぞ!」

「いやいや! わしだって若いもんには……が、頑張ります」


 どうも心当たりのありそうな年かさの男たちが、なにやら必死で自分の有用さを主張しているが、サラにジトっとした視線を向けられると急に勢いがなくなる。

 いつもサラが持ち歩いている、フックのついた細長い木の杖で地面をトントンと叩くと、男たちは妙にびくびくと落ち着きのない様子を見せる。

 やはりヴァインツ傭兵団はあの杖でしつけられているのだろうか。

 若い傭兵団員たちも作業をしながらその杖を横目で追っており、なんだか嫌そうな顔をしている。


「いやぁ~噂の傭兵団長様は怖いもんだねぇ」

「ミ、ミル姉さん!」

「サラ、あんたヤギよりこいつらの扱いの方がうまいんじゃないか?」

「そんなことはありません! いろいろ大変なんですよ……みんなちょ~っとお金を持つとすぐ調子に乗って馬鹿なことして、ほんとに悪いヤギたちばかりです! あ~あ、私にもザムザさんみたいな人がいたらなぁ……それにヤギの神様まで連れて、姉さんはずるいです!」

「べ、別にザムザは関係――」

「どうした、ミル?」

「ザ、ザムザ!? ……戻ってたんだね」

「ちょうど今着いたところだ。ほら鳥型の珍しいモンスターを捕まえたんだ。後で調理場を借りて一緒に料理しような、ミル」

「ぎゃうぐぎゃう!」

「走ったらお腹が減ったわ」

「マリーさんお久しぶりです。それにしてもザムザさんは会うたびにどんどん格好よく……姉さん、今度お酒付き合ってください!」

「ま、まぁ、いいけど……」


 クロとザムザ、マリーが戻っていたようだ。

 ザムザは馬鹿でかいダチョウのような鳥を三匹ほど、その異様に長い首をだらんと肩にかけるようにして背負っている。

 鳥型モンスターの顔つきは、ほんとうに食えるのか心配になるような気色の悪いものだが、アジトではあまり鳥肉を食べる機会がないので少し楽しみだ。


「そうだな、いい加減村に入ろうか。村長を交えて昼食をとりながら打ち合わせをしよう。村長宅のあの厨房ならこの鳥も調理できるだろう」

「あっ! その羽欲しいです! 私達が毛を毟って、村長の家まで持って行きますね。お金は――」

「いいって、それくらい。サラへのボーナスだよ」

「えぇ……でもそのモンスター信じられないくらい足が速い上、生半可な矢も効かないから倒すのめちゃくちゃ難しいんですよ? 当然お値段も……」

「ふ~ん……クロが狩ったのかな?」

「ぎゃうぎゃう、まり~」

「クロはこいつらに乗って遊んでただけだな。コハクがじゃれついて引き倒して、マリーが一突きで仕留めていった」

「大きな群れだったから、こんなのまたいつでも狩れるわ。美味しかったら……また狩っても良いわね」

「ということらしいから、羽くらい貰っとけばいいじゃないか、サラ」

「やった! 臨時収入!」

「布団にでもするのかな?」

「いえ、このモンスターの羽は固いので、矢羽根や装飾品向きですね。貴族の方も増えるようなので、これは高く売れそうだなと……ふふふっ」

「羽毛布団には向かないのか……。ああ、そうだ、せっかくだから後でエリザベスをブラッシングしてやるといい。取れた毛を布団に使うと――最高だぞ?」

「んなっ――なんて罪深いっ! でも我慢なんてできるわけがないっ――ん~神様~!」

「昔からサラは少し変わった子だったけど……傭兵団長になってから、本格的におかしくなっちまったねぇ~」

「楽しそうだぞ」


 エリザベス布団の提案を受けたサラは、目をカッとひらき天を仰ぐ。

 その場でコマのようにくるくると数度回り、凄まじい勢いで駆けていく。

 一度ぴたりと足を止め戻ってくると、洞穴族の二人へ律儀に挨拶し、さらに傭兵団に何やら指示を出すと、今度こそ止まることなくエリザベスへ向け一直線に走って行った。


「ぎゃうぎゃう……」

「サラさん、ブラシは持っているのでしょうか」

「なにやらストレスもたまっているようだし、料理している間くらい、そっとしておいてやるか……また後で呼びに行けばいいしな」


 一方、残された傭兵団員はザムザからモンスターを引き取り、俺達の持ってきた荷物などと合わせて荷車へ積み込んでいる。

 お互い黒狼とやりあってた頃からの顔なじみというのもあるが、共同でなにかするのにこいつらほどやりやすい連中はいない。

 鬼達とも皆楽しそうに雑談しながら粛々と作業が進んでいく。

 先にエリザベスの登場に十分混乱したせいか、蜘蛛たちの存在ついてもそれほど気にした様子がない。

 荷下ろしを手伝う蜘蛛の姿に一瞬固まってはいたが、すぐに諦めたような表情で自分の仕事に戻っていった。

 予備の資材などもシロやギゼラ、オスカーと一緒に監視塔へ保管してくれていたようだ。

 サラが俺達と話している間、特に指示があったわけでもないのによく働く。

 今も新顔の洞穴族へ一人づつ丁寧に挨拶をして、名刺交換をするサラリーマンのような律義さを感じる。

 いつもはマイペースなビビやガストも、この慣れない扱いに面食らっているようで、二人並んで口は半開き、目はまんまるくして……唖然とした顔が面白い。

 こういうところは皆若いのにかなりしっかりと教育されているな。

 やはりサラを団長に選んだのは当たりだったようだ。

 ほんとうによく頑張っている。

 エリザベスにノミのように張り付き奇声をあげるているのも、きっとその疲れからなのだろう……。

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