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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第194話 ザムザの苦難

 ガストに叩き起こされ、慌てて様子を見に行くと、荷下ろしを手伝っているザムザの姿を見つけた。

 直ぐ側にはオスカーやラウラもいる。

 そののんびりとした雰囲気に、ひとまず胸をなでおろす。

 ただ、やはりガストの言う通り、その姿はボロボロで、上着はほぼ破け上半身裸になっている。

 下半身の衣服には赤黒く乾いた血がこびりつき、まるで戦場帰りのような酷い有様だ。

 エリザベスの生地を使ってこの様子は、ただの殴り合いではないだろう。

 鬼なので特に傷跡などはないようだが、激しい戦闘があったことは間違いないはずだ。

 髪もボサボサで、全体的に煤けているような気がする。

 オスカーやラウラはまったくいつも通りの様子だが、いったい何があったのだろうか……。


「た、ただいま! あ、ああっあなっ、あなあなあなた!」

「え? あ、ああ……おかえり、ハニー」

「はにぃ……?」


 ザムザを観察していると、横からラウラが声をかけてきた。

 呪いの人形だってもっと流暢に喋るだろう。

 思わず俺も変な返しになってしまった。

 エリザベスの背から大きな荷物ごと飛び降りてきたギゼラが、俺達の様子に首をかしげている。


「それで――、なんでザムザはそんなボロボロに?」

「なんでも、こいつ男鬼とやりあったらしいぜ?」

「オスカー本当か!? ザムザ、お前それでそんな姿に……おい、大丈夫なのか、ほんとに?」


 思わずザムザへ駆け寄りあるはずもない傷を探してしまう。

 ザムザは少し恥ずかしそうに笑うだけで、特に心身ともにダメージを受けている様子はない。

 相変わらず腹が立つほどの完ぺきな肉体美を誇っている。

 シロやギゼラと並んでいるとあまりそんな気もしないのだが、あらためてよく見ると、出会った頃よりもさらに体に厚みが増している。

 今度スーツを手配してやる時は、採寸からやり直しだな。


「ボナス、俺にとって、もうその辺にいる鬼男なんて大したことはないよ。この姿は、あ~……まぁ……」

「あっ、あははは~……」

「そ、それは……」

「怒ったギゼラとラウラの二人を止めるのが大変だったんだ……死ぬかと思った」


 どうも先ほどからラウラとギゼラが気まずそうな顔をしていると思ったら……。

 ザムザをこんな有様にした元凶はこの二人だったようだ。


「それは……どういうわけで?」

「ピリと連絡を取るために斡旋所へ行ったんだが、傭兵の鬼男連中がいたんだ。そいつらが、ボナス商会のことを、なんというか……悪く言ったんだ」

「ああ、ピリへの伝言を伝えに行ってくれたのか」

「それでまずギゼラがキレて――」

「いやぁ……あはははっ、あんな扱い受けたの久しぶり過ぎてさぁ……それに、相手が鬼男だったから、ほんのちょっとだけ抑えが効かなかった……かも?」

「そ、そうか……」


 ギゼラはよぽど気まずいらしく、うつむき気味に長い髪で目を隠しながらも、こちらの表情を伺うようにのぞき見てくる。

 銀髪の向こう側で、青い瞳が行ったり来たりと左右に揺れている。


「さらに鬼男たちは俺やギゼラのことまで悪く言い始めて――ラウラもキレた」

「ラ、ラウラもか……」

「なんだか仲間のことを悪く言われた瞬間、自分を抑えられなくなっちゃって~……仕方ないですよね!」

「え、えぇ……」


 ラウラの方はあまり悪びれたところがないようだ。

 そういやこのお姫様、敵には意外と容赦がないんだよな。

 カミラの要塞化した本店を傭兵ごとあっさりと崩落させたのを思い出す。

 国崩しの魔女というのもあながち間違ってはいないのかもしれない。


「わ、私は三発目くらいで抑えたよ!」

「ギゼラ、間違いなく五発は喰らったよ。いくら鬼男でも、あの威力は俺じゃなければ……何人かは死んでいたと思う」

「ごめんね、ザムザ……でも、少し大げさじゃない?」

「大げさじゃない。それから、ラウラは斡旋所で炎の玉を作り出した。俺があいつらを突き飛ばさなかったら全員蒸発していたと思う。俺もエリザベスの服を着ていなければ危なかった……上着は横糸に別の獣毛を使ってたから燃えてバラバラになってしまったよ。あれ気に入ってたのに……」

「ご、ごめんなさい、ザムザ……でも、やっぱりエリザベスさんの毛は凄いですね!」

「ラウラってやっぱ、俺達洞穴族から見ても感覚ずれてるよなぁ~」

「えぇっ!?」


 ラウラはあのガストにまで呆れられている。

 もちろん彼女なりに手加減はしていたのだろうが、斡旋所でためらいなく魔法を使うとは……。

 俺の婚約者は思ったよりやばい奴だったのかもしれない。

 ザムザの奴、よく生きてたな。


「それは……頑張ったんだなぁ、ザムザ」

「前に――ボナスがピリと揉めたとき、俺はダメだったからな。今度は頑張ってみたよ、誰も死人はだしてない」

「えらかったね、ザムザ」

「ぐぎゃうぎゃう! じゃむじゃじゃむじゃ!」


 どうやらザムザは、俺とピリが以前酒場でやらかした、残念な中年同士の殴り合いを覚えていたようだ。

 それを見習ったつもりらしい。

 だが、俺の場合は所詮道端で行われる酔っ払い同士の喧嘩程度のものだったし、どうせ誰かが止めに入るだろうという打算もあった。

 それに比べるとザムザのやったことのほうがはるかに難易度が高い。

 相手は悪辣のギゼラと国崩しの魔女だ。

 本当によく頑張った。

 ボナス商会もそれなりに力を付けたが、やはり街中での明らかな殺しはまずい。

 今では鬼であるギゼラやザムザ、貴族であるラウラも、街の住人から自然に声を掛けられる存在になった。

 ボナス商会はサヴォイアの街の住人の仲間だと思われるようになったのだ。

 どちらかというと異端なメンバーで構成された俺たちにとって、これは奇跡と言っても過言ではない。

 もちろん舐められるのは良くないが、ここまで親しみを持って向けられていた目が恐怖に染まるのは、きっと誰にとっても耐え難いことだろう。

 領主の後ろ盾を得た今だからこそ、より一層気を付けるべきなのだ。

 あのザムザがそう言ったことを当たり前に理解してくれていることが、心底誇らしい。

 珍しくクロやシロにまで褒められて、ザムザは恥ずかしそうだ。


「また一緒に服作りに行こうな、ザムザ」

「ありがとう、ボナス」

「ちなみにその鬼男たちはどうなったんだ?」

「ちゃんと半殺しにしておいたぞ。やっぱり俺も腹が立ってたから……少しだけやりすぎた」

「そ、そうか」

「もう俺たちにちょっかいをかけてくることは無いと思う。全員俺とあまり変わらないような若い鬼だったが……とりあえず、風呂に入って身綺麗にしろと言っておいたよ」

「あんまり気が付かなかったけど、ザムザも強くなってたんだね~。なかなか格好良かったよ」

「そ、そうかな? なんだかギゼラに言われるむず痒いな――あっ、い、痛い痛いぞ」


 なんだかんだギゼラもザムザのことはよく可愛がってはいるが、直接的に褒めるのは確かに珍しい。

 ザムザが最も意外そうな顔をしていたが、それが気に入らなかったのかギゼラに背中をバシバシと叩かれ、悲鳴をあげている。

 確かに……ギゼラが本気で殴れば首がもげそうだな。


「聞いた感じだと最終的に変な雰囲気になった様子も無いようだし、本当に良かったよ」

「実はその場にピリもいたんだが、いいタイミングでうまく俺達のことを茶化してくれたんだ。二人がキレたときは結構まずい雰囲気だったけど、俺が鬼男たちと殴り合う頃には、むしろ斡旋所全体が盛り上がっていたと思う」

「そうか……あいつらしいな」

「ちなみにピリたちは今かなり忙しいようだな。またすぐ街を出ると言ってた。それでも後五日もあれば、いったん今抱えている仕事は落ち着くらしい。それから二三日は酒場で飲んだくれているはずだと言っていた」

「なにか良いお土産を持って行かないとなぁ……」


 それからしばらく、皆で荷下ろしを終えると、それぞれに水浴びや夕食の支度へと向かっていった。

 俺とオスカーは、新しく持ち込んだ木材や建築資材、道具などを整理していく。

 ギゼラやザムザがいたとはいえ、凄まじい量だ。

 鬼がいなければ、荷物を積み込むことさえ難しかっただろう。


「本格的に輸送方法を考えないとなぁ」

「ああ、ボナス、なかなか深刻だぞ。エリザベスへの積み込みも何とかしたいところだ! どんなに低く伏せてもらっても、それでもまだエリザベスの背は高いからなぁ……腰が痛てぇ!」

「そうだなぁ、場当たり的にロープを使って括り付けるようなやり方にも限界があるし……荷車もエリザベスが引いたらあっというまに粉々になりそうだしなぁ」

「あ~……あのあたりは道も悪いからな」

「アジトからヴァインツ村であれば道を選べば何とかできそうな気もするが、サヴォイアまでの道は厳しいだろうな……今は積み込み作業を効率化することを考えた方が良いだろう」

「ヴァインツ村での建築に使った、あの吊り具みたいなのを使えば積み込みも便利なんだが」

「簡易クレーンは組み立てるだけでも、積み込み以上に手間がかかるから――ああ、そうか、クレーンか……一度あの連中に頼んでみようかな。うまくコミュニケーションできるかが問題だが……なぁオスカー、お前虫好き?」

「むしぃ?」

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