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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第184話 洞穴族の性質

 サヴォイアからアジトへと帰り、荷物の整理などもひと通り終えた夕暮れ時、ふとビビとガストの姿が無いことに気が付く。


「なぁ、オスカー。ビビとガスト見た?」

「いや、見てないな! 昼飯時も姿を見なかったが……」

「ええっ、なんか変な生き物に食われたりしていないかな……?」

「洞穴族ほどしぶとい種族はないからな。あいつらはそう簡単にくたばらんだろう。間違いなく穴掘ってると思うぞ!」

「そうか……。まだ夕食までは時間もあるし、ちょっと見に行ってみようかな」

「私も行くよ。帰り水浴びしよう?」

「ああ、いいねシロ、一緒に行こう」

「それじゃ、悪いけど晩御飯頼むよ」

「ぎゃうぎゃう~!」

「今日のは結構辛いと思うから覚悟しておきなよ!」

「ほ、ほどほどにな……?」


 夕食はクロとミルが対応してくれるようだ。

 結局、ラウラは領主館に泊まり明日アジトに来ることになった。

 アジトのお土産で作った料理を一緒に食べるらしい。

 なにか企んでいるような顔をしていたが、領主に食事でも作ってやるのだろうか。

 最近ではよくミルと料理を作ったりもしているので、一品くらい用意してもおかしくはない。

 俺……、よく考えると貴族の娘に料理教えたりして、怒られたりしないよな。

 まぁあの父親なら、ラウラの手料理と聞けば素直に喜びそうだ。

 包丁さばきなどはあまり上手くないが、食べるのが大好きで記憶力も抜群なので、味付けに関しては間違いないんだよな。


「ギゼラもやる気出してたね~」

「ああ、ちゃんと寝てたらいいんだが……」


 ギゼラもアジトへ戻るかどうか悩んでいたが、今日はサヴォイアで屑鉄を叩きながらいろいろ新しい工房のことを考えることにしたらしい。

 たしかに実際に手を動かしながら考えるのは良さそうだ。

 メラニーがここぞとばかりに夕食に行く約束をしていたので、今頃二人で新しいアクセサリーの話などしているのかもしれない。

 あの二人なら話が合うだろうな。


「はい、手ぬぐい」

「ああ、ありがとう、シロ」


 着替えや手ぬぐいを用意して、シロと二人南側の岩壁へと向かう。

 岩壁を伝うように南へ移動していると、どんどん涼しくなってくる。

 やはり日陰になる範囲が増えると明確に差を感じるな。

 岩壁ベッドなどは午前中しっかりと日差しの熱を吸収するので、この時間でもまだほんのり熱気を感じるのだが、この辺りは逆に体温を奪われるような感じがする。

 これから夜になればさらに肌寒くなりそうだ。


「この辺りは少し寒いね」

「うん」


 シロがするりと腕を絡めてくる。

 彼女は特別体温が高く、こういう時肌を触れ合わせていると特に心地よい。

 ただ、あまりに身長差がありすぎるので、周りから見たら補導された子供のように見えてそうだな……。


「――あれ?」

「な、なんだコハクかよ~」


 夕闇の中、ひと際影の濃い場所から、コハクがぬるりと姿をみせる。

 毎度のことながら音もなく唐突にあらわれるので、いつもびっくりする。

 どうやらコハクも一緒に来るつもりのようだ。

 シロの長い脚に体をこすりつけるように歩いている。


「にゃ~う」

「今日は甘えん坊だね」


 彼女の言うように、今日はなにやら甘えたい気分らしい。

 シロが抱っこしてやると目を細め、まるで子猫のような声で鳴いている。





「さて――、着いたはいいが、なんだか激しいな……」

「凄い音だね」


 ビビとガストがいると思われる岩壁に到着した。

 暗く静かな夕闇の中、目の前の亀裂からは激しい打撃音が噴き出すように聞こえてくる。

 周囲にはすでにすさまじい量の砂や砕石が雑に積み上げられており、これをねこ車で運ぶだけでもそれなりに大変そうだ。


「お~い! ビビ! ガスト!」

「…………聞こえてないんじゃない?」

「入ってみるかぁ……。口元手ぬぐいで覆っておこう」

「うん」


 手ぬぐいを簡易的なマスクとして使い、暗いなか足元に気を付けつつ、ゆっくりと亀裂の中へ入ってみる。

 つるはしを叩きつける音が周囲の岩肌に反響するせいで、いっそうけたたましいものに感じる。

 そうしてわずか数歩進んだ岩肌に、突如長方形にくりぬかれたドア枠のようなものが現れる。

 圧倒的な自然の造形物の中に突如現れる、人工的で整った矩形が何とも不思議だ。

 周囲もかなり薄暗くはあるものの、それとは比較にならないほどに枠の中は真っ暗な闇が広がり、その奥はまったく何も見えない。

 ただ、一定のリズムで刻まれる素早い打撃音と、ビビとガストの興奮気味な話し声だけが反響して聞こえてくる。


「今度はこっちを――うわぁ、凄い! また水晶みたいなの出てきたよ」

「おい、ビビ。これ、ほら! 見てみろ、上手いだろ!」


 中で何が行われているのはまったく見えない。

 だが、どうやらオスカーの予想通り、二人はひたすら穴掘りに夢中のようだ。

 その声は相当興奮したもので、なにやら取り付かれたように感じるほどだ。

 想像するに朝からずっとこの調子なのだろうな。

 真っ暗闇の中から、子供のはしゃぐような声だけが聞こえてくるのは――少々不気味だな。


「おーい! ビビ! ガスト!」

「――あれ? あっ、ボナス、シロ! おかえり~」

「なんだ、サヴォイアへ出かけたんじゃないのか? なにか忘れものか~?」


 やはりオスカーの言った通りだ。

 二人とも没頭しすぎて、時間の感覚までおかしくなっているようだ。


「もう晩飯の時間だぞ。にしても暗くてなんも見えんのだが……」

「えっ! も、もう……夜!? そういやガスト、なんか……周り暗いね」

「うぉっ、ほんとだな……気が付かなかったぜ……」

「むしろお前らこんな暗い中、よくつるはしなんて振り回せるなぁ」

「う~んっと、こっちかな……よし、明かりつけるね」


 一応ランタンを持ち込んでいたようで、ビビが手早く火をつけてくれた。

 真っ暗闇だった空間に子供のような二人の姿と、意外と広い空間が現れる。

 アーチを描きながら連続するかまぼこ型の天井に綺麗な長方形の部屋だ。

 室内には砕石や砂が山盛りになっているが、それでもわずかこの短期間で掘り進めたとは驚きの完成度だ。

 ただ、天井だけは洞穴族の体形なりにかなり低く、気を付けなければ頭をぶつけてしまいそうになる。

 シロなどはかなり背を屈めなければ入れもしないだろう。

 脚立のようなものがあればもう少し違ったのかもしれないが、そもそもこの場所は洞穴族専用の場所として用意したので、二人が心地よいと感じる空間になっていればなんの問題もない。


「うわぁ、しろいコハク?」

「にゃ~ん!」

「へへへっ、良く出来てるだろ? 俺が作ったんだ」

「これ、ガストが作ったのか……?」


 そして入ってすぐの場所には、まるで門番のように白っぽいコハクの彫刻が俺達を出迎えてくれた。

 今にも動きだしそうだ。

 地面と連続しているので、その場で削りだしたのだろう。

 よく見ると、表面はノミで削っただけの荒々しさを残してはいるが、その姿はまるで血が通っているかのようで、今この瞬間にもこちらへ飛び掛かってきそうだ。

 それを見たコハクはシロの胸からするりと飛び降り、グルグルとその周りを歩き。

 最後に、彫刻のコハクと鼻同士をくっつけ、大きくくしゃみをした。


「土ぼこりが酷いから、コハクはきついかもしれないな。外で待っとくか?」

「うにゃうにゃう」

「気に入ったみたいだね」


 どうやらコハクは自分の姿の彫刻が気に入ったようだ。

 埃っぽいこの場所から動こうとしない。

 確かにこのあたりは猫さえ見かけないので、自分の似姿をみるのは存外新鮮な体験で、嬉しいのかもしれない。


「あんまり長いこと居ると、お前も白豹になっちゃうぞ」

「二人もすっかり真っ白だね」

「シロ……そうかな?」

「大げさだろ~?」

「酷いもんだぞ……飯食う前に絶対水浴びしろよ」


 あまりに完成度が高く、つい彫刻に目を取られてしまったが、ビビとガストの二人は全身に砂埃を被り酷い有様だ。

 ただ目だけが爛々と輝き、まさに洞穴族という名にふさわしい風貌になってしまっている。


「ちょっとここだけ……」

「ここがなんだか変だな、ちょっとだけ……」


 二人は何を思ったのか、まだ作業を続けようとする。

 本当に何かに取り付かれているんじゃないだろうか。

 しかしビビ、片腕にもかかわらず、すさまじい勢いで岩肌を削っていくな。

 ガストは鑿と槌で比較的細かい作業に従事しているようだ。


「いや――まてまて、二人とも。明らかにちょっとじゃ止まらないやつだろ、それ。今日の所は一旦水浴びして飯食おう。明日またやればいいだろう?」

「う~ん、わかったよ」

「俺は二、三日このままでも良いんだけどなぁ……わかったわかった!」

「それにしても……凄い精度で作業するなぁ」


 二人とも特に壁面へ印をつけている様子もなく、パッと見た感じただ力任せにつるはしを叩きつけているように見えるのだが、部屋の水平垂直はかなり綺麗に出ている気がする。

 もちろんつるはしでの作業故、岩肌に無数の打痕はあるものの、空間自体にはまったく歪みがない。


「なぁビビ、なんでこんなに綺麗に掘れるの?」

「えへへ、上手でしょ?」

「上手だね、ビビ」

「いや~上手なんてレベルじゃないぞ……どうやってこんなまっすぐ、水平もばっちり出てそうだし」

「うん? そんなの簡単だろ、地面の中の力の流れを見て基準にしてるんだから、ずれようがないだろ?」

「力の流れ……? なんだろう、地脈みたいなものかな……。シロ、見える?」

「みえない」

「ええっとね――」


 二人の感覚的でとりとめのない話を要約すると、どうもこの不思議生物たちには磁場のような、俺達では見ることのできない力場を感知する能力、磁覚のようなものが備わっているようだ。

 簡単に言えば、空間に三次元的なグリッド線のようなものが見えているような状況らしい。

 空間的に下書きがあり、それに沿って掘削しているようなものなので、いまさら水平垂直なんて間違いようがないということだ。

 羨ましいが、日常生活を送る上では少々うるさく感じそうだ。

 ガストいわく、この周辺の土地だけは、それが極端なほどはっきりと感じ取れるらしい。

 もしかすると、なにかしらの魔法が介在している可能性もありそうだ。


 そうして話を聞きながら二人を観察していると、意外なほど疲れた様子が見られない。

 見た目は大変なことになっているのに……やはり不思議な連中だな。

 朝見たときは綺麗だったビビの柔らかいごげ茶色の髪も、ガストの明るい金髪も、今はグシャグシャで頭から砂を被ったような有様だ。

 大量の汗が砂埃をわずかに洗い流してはいるようだが、次から次へ、また新しい砂埃を作り出しては浴びるものだから、まるで顔に迷彩柄でも施したようなひどい状況になっている。

 俺ならとっくに具合を悪くしてそうだが……。


「二人ともその姿……体調は大丈夫か?」

「うん? なにが?」

「そんな状況で体調悪くなったりしないのか?」

「アジトに来てから、僕ずっと調子が良いよ。もちろん今もね」

「今日は特に良いぜ。これは土が合ってるんだろうなぁ~」

「そうか……まぁ元気そうで良かったよ」

「そうだね、力が漲ってるのを感じるよ」

「やっぱり……、将来的にはサクに置いてきた連中も連れてきてぇよな」

「ああ、俺もそのつもりだよ。しかし……二人でこの有様だと、いずれこの場所に地下帝国でもできそうだな」

「おもしろそう」


 シロが無責任に面白がってはいるが、二人の勢いを見ていると冗談抜きにそうなりそうで恐ろしい。

 しかし洞穴族を連れてくるのであれば、やはり流通についてもう少し真剣に考えた方が良さそうだな。

 食料だって今でこそ圧倒的に供給過多ではあるものの、人口が増えていけば、やはりいつかは需要が上回るはずだ。

 もしかするとワーム養殖がうまくいけば、それすらも何とかなりそうな気もするが……さすがに毎日食えば飽きるしな。

 やはり外部との流通を確保することは重要だ。

 結局のところぴんくやエリザベスがいなければ、今でも移動時の安全が担保できているとはいえないのだ。

 クロや鬼達、マリー、あるいはラウラやコハクなどが協力すれば、弱いキダナケモであればなんとか討伐できるようだが、かつてアジトにいたようなワニ、あるいは恐竜のような生き物や、そいつと水場を争っていたようなとりわけ体格の大きな連中は、多分今のエリザベスであっても倒せないのではないだろうか。

 そう思うと、やっぱりぴんくの奴はとんでもない存在だな……。


 ともかく、今後のことを考えるのであれば、運搬方法の開発と並行して、安全な移動方法も考えていかなくてはならない。

 アジトに住む連中を見るかぎり、地獄の鍋全体でもキダナケモの縄張りのようなものはあるのだろうし、意外と細かい生態を観察していけば、安全なルートだってあるのかもしれない。

 あるいはワームのような極めて危険ではあるけれども、こちらが制御できるような生き物を利用するのも手だろう。

 戦争なんて面倒なことがなければ、今の精強なメンバーで協力して、地獄の鍋の詳細な地図を作りたかったのだが……しばらくはそれも難しいだろうな。


「どうだコハク、気に入ったか? ふふんっ、俺もなかなかやるだろ~?」

「うにゃうにゃ~う」

「うわっ、お、おもいぞ~、コハク」

「あはははっ、コハク本当に彫刻気に入ったんだね」

「ガストとっても上手だね」


 コハクはガストの肩に前足を置き、鼻をこすりつけるようにしてじゃれついている。

 俺達のことを知らない人が見たら悲鳴をあげそうな状況だが、もちろんガストが食われるようなこともなく、ただ皆に褒められて気恥しそうにしている。

 それにしても良く出来ている。


「やっぱり――コハクを彫ったんだな」

「ああ、なんか気が付いたらコハク彫ってたわ」

「そうか……」


 二人にとってコハクは特別なのだろうな。

 あの地下工場で俺が一人奮闘していた間、ビビとガストはずっと親切で、いつも俺の思い付きを面白がって、どんな馬鹿なことでも全力で協力してくれた。

 けれど、たぶん――二人が本当に、自分たちの運命が変わるかもと思ったのは、潮風呂でタコを捕まえたあの晩だったと思う。

 突然目の前に現れた恐ろしいキダナケモ、コハクが自分たちの味方だと知ったあの時から、二人を取り巻く世界の様相は大きく変わっていったのではないだろうか。


「ガスト、タコは彫らなかったんだな」

「タコ? ああ……懐かしいな。タコは美味いが――掘る気にはなれんなぁ~」

「それもそうか、ぴんくも嫌がるだろうしな」

「だけど、ボナス……ほんとうは――お前の姿を彫ってやろうかと思ったんだぜ?」

「えぇ……お、俺?」

「もちろん、全裸の奴な! ただなぁ~……一部どうしてもよくわからんの箇所があったから今回は断念したんだ。また今度観察させてくれよ~、じっくりと、よ~くさぁ! へへへっ」

「まったく……この神々しいまでのコハクを彫り上げた天才が、目の前のこいつだとは……信じられんよな」

「にゃうん……」

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