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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第183話 本店の構想について

「こういう形状でいいかな?」

「え~っと、もうちょっとだけ奥行きを深くして――」


 ギゼラはたっぷりとした銀髪を一度かきあげ、長い指で小さくイヤリングを弾く。

 最近よく彼女が考え事をするとき見せる仕草だ。

 少し首をかしげ、右上に視線を彷徨せるその姿は妙に艶めかしくもある。

 本人にはまるで自覚が無さそうだが、イヤリングを追いかけるコハク以外にも、妙に熱い視線を周囲から集めている。

 前から妙にギゼラに好意的な常連の爺たちは、久々に見るその姿に拍手でもしそうな雰囲気で喜んでいる。


「――そうそう、これからのこととかシロの武器を考えたら、やっぱりこれくらいの大きさは必要かな~」

「今までのに比べると、炉も金床もひと回り大きなものになるなぁ……耐火レンガどうしよう。売ってるのかな?」

「かなり高いから、今使ってるものを解体して、使えるものはできるだけ使いまわそうかなって……」

「だめだめ、そこはケチっちゃだめだよ! 元のもあまり品質良くなかったし、あたしがちゃんとした店紹介するから。ボナスはゼラちゃんのためなら、そりゃ~いくらでも、喜んで金を出してくれるよ……ねぇ~?」

「お、おう。当然だろ!」

「あっはっはっ、ありがとうね~、ボナス」

「でさぁ、ボナス。実は……台所の方にもレンガが欲しいんだよね~」

「はいはい、もう、好きにしてくれよ~。実際ミルには世話になりっぱなしだからな」


 ギゼラとミルはさっそく本店の話を聞きつけて、新しい工房や台所の設えを考えるのに夢中だ。

 まだ物件すら目途が立っていないのに、ギゼラにせっつかれて早速図面を描かされている。

 ミルもサヴォイアではまともな調理場が無くていろいろ不満があったようで、どさくさ紛れにいろいろと注文を付けてくるので、先ほどハジムラドや仕立屋の娘達からの要望と一緒に取りまとめておく。


「いささか先走りすぎな気もするけど……、これはこれで良いのかもしれないな」

「そうそう、こういうのは思いついた時にどんどん話していかなきゃ」

「ボナス、それで工房だけど――」


 ギゼラもこれまで長い間使っていたうえでのことなので、要望がとにかく具体的で細かい。

 正直なところ、全体像があまりにおぼろげで、どこからどう手を付けていいのかほとんどわからない状態で困っていたので、意外とこういう細かい注文は助かる。

 具体的で詳細な部分を一度真剣に考えてみることは、想像力を駆動させる良いスターターになったりするものだ。

 引っ張られるようにして、全体像のイメージも自然と構築されていく。

 しかしよく考えると、鍛冶場を設けると煙突も必要になりそうだし、かなり大規模改築が必要になりそうだな……。


「まぁ、なんだかんだお金さえかければ作れなくもないし、そういう面ではまだ余裕がある。けど……騒音対策はあまり良い手段が思いつかないなぁ」

「地下に作ったりするのは難しいのでしょうか?」

「流石ラウラ、それもありかもしれない。完全な地下だといろいろ問題もありそうだけど、半地下くらいにすれば……そう言えば洞穴族の店は半地下だったな。店の中はうるさかったのに、外は比較的静かだった気がする。サイードの工場も地下にあったが鍛冶場もあったし……一度ビビやガスト、あるいはあの洞穴族がやってる酒場の連中に相談してみようかな」

「良いかもしれませんね! 領主館の地下牢も昔洞穴族に頼んで作ってもらったそうですよ」

「お、おぉ……地下牢なんてのもやっぱあるんだな」

「いいね! 地下の鍛冶場なんてロマンがあるじゃないか!」

「あはははっ、ミルちゃんも鍛冶場使って良いんだよ?」

「しかしそうなると、さらに大改修になりそうだな……」


 とはいえ、物件によってはそもそも地下を設けることが難しいかもしれない。

 構法や地盤の状況にかなり依存する部分だ。

 ただ、ラウラの話や洞穴族の酒場を思い出す限り、サヴォイアで地下空間を作るのはまったく不可能というわけでもなさそうだ。

 ただ、あの建物自体かなり高い技術力で建てられていたように見えたので、そう簡単には行かないだろうな。

 やはり地下をいじるのは、かなり難度が高そうだが……ワクワクもしてくるな。


「いずれにしろ、けっこうな量の資材が必要になってくるなぁ」

「日干し煉瓦であれば安く大量に手に入りそうだけど?」

「ギゼラの言う通りなんだけども……建物が三階以上になってきたり、地下や大きなホール状の空間を作るにはやや頼りないんだよなぁ~」

「じゃあ、木材は……あっ、そういやヴァインツ村、タミル山脈の木材は?」

「あるある。前復興作業していた時、ヴァインツ村の村人に買い取るから切っておいてほしいとは伝えておいたはずだから、ある程度は使えるようになっているだろうね」

「おお~、それじゃそれを使えば良いんじゃない?」

「う~ん、できればそれは酒蔵のほうに回したいんだよね」

「ああ~……なるほどね」


 べつに木材くらいサヴォイアでも手に入りはする。

 もちろん、それを買って使うのも手ではあるし、実際にある程度はそうするつもりだ。

 ただ、現状サヴォイアは建築資材不足で、木材はとんでもない価格になってしまっているし、今後拠点基地の材料としてさらに需要が高くなるであろう商品に横槍を入れるのもなんだか気が引ける。


「ぎゃうぎゃう! ら~うら~!」

「は~い、ミルク冷やしますね!」

「ラウラ、ありがとう」

「クロ、シロ、お疲れ様。二人とも街の人からの人気が凄かったなぁ」


 クロとシロが来たので、横のテーブルとつなげて座りなおす。

 それでも六人が車座になると窮屈で、ちょうどシロとギゼラの間にぎゅうぎゅうと挟まれていると、なんとも言えない気持ちになってくる。

 一方露店のほうはハジムラドとロミナ、メアリに加え、マリーが凄まじい存在感をまき散らしながらも、意外とまじめに働いているようだ。

 マリーも自分の状況を客観的に楽しんでいる節があり、傭兵の反応を観察しながら、妙にゆっくりとコーヒーを置いたりしている。

 ちなみにクロとシロは俺と同時に仕事を抜けたのだが、街の人たちに話しかけられてなかなかこのテーブルまで到達できなかったようだ。

 二人とも久しぶりの露店は充実したものだったのだろう。

 クロは冷たいミルクをぴんくやドリーと分け合いながら、頭を左右に揺らし、楽しそうに鼻歌を奏でている。

 シロは俺の横で露店の様子を満足そうに振り返り、汗をぬぐいながら小さく一息ついている。


「ボナス、ヴァインツの石はどうかな?」

「ヴァインツの石って――ああ、さっきの建築材料の話か。確かに……あの石材なら良いかもしれないね、シロ」

「きれいな石だったよね」

「監視塔に使った石だよね~、あれなら丈夫だし悪くないかも。それに石切るのって面白いんだ~。今ならちゃんとした道具用意できるから、もっと簡単かも?」

「あの時はギゼラのおかげで意外にうまくできたんだよな。ただなぁ……ヴァインツ村からサヴォイアの街へとなると、輸送が厳しいかもしれない。動力的にはエリザベスにお願いすればいけるだろうけど、この辺りで見かけるような荷車じゃ運搬に耐えられないだろうし……道らしい道もないからなぁ」


 軍や貴族たちが来れば、東側のルートも少しは整備されるかもしれない。

 ただ現状の荒れ放題の地形では、重い石を積んだ荷車などはとても耐えられないだろう。

 数百メートルも進めばバラバラになってしまいそうだ。


「う~ん……板バネを作って、頑強な車輪とクッション性の高いタイヤがあればなんとか……、いや、このあたりの鉄の強度じゃ、結局車軸がもたないだろうなぁ……」

「ねぇねぇ、ボナス。なぁに、その絵?」

「私にも見せてください……なるほど、衝撃を吸収する機構でしょうか?」

「ああ、板バネっていって――」


 ギゼラはコハクをシロの胸へむぎゅと預けると、俺の手帳を覗き込んでくる。

 ラウラは流石で、ひと目見ただけで、俺が感じている課題や、実現したいおおよその機能を掴んでしまったようだ。

 ギゼラに板バネの仕組みや、輸送についての現状の課題を説明する。

 毎度のことながら、彼女はこの手の話を聞いていると、視線の半分はここではないどこか遠くをさまよい、額がくっつくほど顔を寄せてくる。

 額の形が綺麗だな……。


「それじゃあ、こっちの……この卵みたいな曲線はなぁに?」

「ギゼラのおでこ」

「な、なに描いてるの~!」

「いや、綺麗な形だなぁと思って無意識に……」


 ギゼラが自分の額を隠し、こちらを責めるように見てくる。

 目を大きく開いて顔を赤くしている。

 その突然の様子に、シロとシロに抱っこされているコハクが目を丸くして、思わずと言った風に顔を見合わせているのが面白い。


「はぁ……ボナスはまったく、も~……まぁ、いいや――なるほどね~、二輪であれば簡単に作れそう……ではあるけれど、壊れるところも想像できちゃうね」

「ああ、その場ですぐ補修できるようなものであれば良いんだけど、なかなか難しいんじゃないかなぁ。車輪の問題もあるし」

「どうかなぁ……いやぁ……行けそうな気もしなくも……」

「ぎゃうぎゃう! ぎぜら~、ねこ!」

「うん? ねこ?」

「うにゃうん?」

「ああ~、猫車ね! そうだね~、試してみるにはちょうどいいかも。どう思うボナス?」

「最小単位の実験として、猫車で板バネを試してみるのはかなり良いアイデアだと思うよ。ちょうど半分の荷重を想定すればいいし、例えうまく荷車に流用できなくても、ねこ車の性能は上がりそうだしね」

「乗り心地の検証なら私に任せてください!」

「ぎゃうぎゃう~!」

「ラウラ、あんたまた太るよ?」

「うっ、ううっ……ミルさん酷い……」

「あんたには、いつもあたしの料理を美味しく食べてもらいたいから言ってるんだよ」

「ああっ、ミルさん大好き!」

「ぐぎゃぅ……」


 なんてちょろいんだ、ラウラ……ミルに餌付けされきっている。

 クロがこころなしか残念そうだ。

 だが、これで少し輸送についても前向きに考えを進められそうだ。

 とはいえ、最終的にはメナスやピリ、あるいはヴァインツ傭兵団のサラの意見を聞くべきだろうな。

 今後アジト、サヴォイア、ヴァインツ間で資材の輸送が増えるであろうボナス商会にとっては、地味ながら一番大きな課題かも知れない。

 アジトやエリザベスの存在もやはり大っぴらにはできないので、なかなか難しいところだ。

 こういう時、メナスがいれば心強いんだけどな。


「ボナス、本店が出来たら、露店はもうやらないの?」

「う~ん、そうだなぁ……シロはどう思う?」

「ちょっと残念かな。私は体が大きいから、建物の中よりもこういう場所の方が気持ち良い」

「それはあるよね~、私たち鬼族はみんな感じてると思う。建物の中はな~んか落ち着かない。だからアジトなんかは最高の環境なんだけどね~」

「俺も今のこの市場の空気が好きなんだよなぁ……。もちろん室内は室内でこだわりの空間も作れて面白いと思うんだけどね」


 この場所に対する愛着に加えて、やはり鬼族にとって街は少し窮屈なものに感じるようだ。

 確かに、今座っている椅子とテーブルでさえ、鬼達にとってはいまいち腰が落ち着かないように見える。

 領主館のような広くてゆったりした作りであれば、彼女達も少しはくつろげるはずだが、鬼のサイズを想定して作られている場所や家具などは見たことがない。

 アジトは始めから彼女達に合わせたサイズ感で改築予定だし、新しい本店にも彼女たちがのびのびと過ごせるような場所を設けておきたい。


「それなら――物件によると思うけど、屋上も使えば良いんじゃないかい?」

「それ良いな、ミル! 内部に大きなホールを作るよりも構造的に簡単だし、日除けだけうまくやれば、むしろ風が通って室内より良いかもしれない」


 カフェよりビアガーデンを想像してしまい、なんだか冷たいビールが飲みたくなるが、たしかに屋上を使うのは良いかもしれない。

 サヴォイアは日除けさえできていれば、乾燥しているので意外に過ごしやすかったりする。

 地面のほこりっぽさからも少しは逃れられそうだ。

 今より空が近くなるのも悪くない。

 夜などは身内を集めて、それこそビアガーデンのように使うのも良いだろう。

 街の人との交流という意味ではいささか閉鎖的なものにはなりそうだが、すでに固定客は十分見込めるし、ありだなぁ……。


「ミルのアイデアは良いね。何かあった時も、みんなを守りやすいかも」

「確かに、シロが言う通り防犯上も悪くないかもね。屋上床の強度確保と、雨仕舞だけは少し神経を使いそうだけど……他のことに比べれば、それほど難しいこともないかな。そうだ、煙突はやや高めに作らないとな……」

「いやぁ~あたしも楽しみになってきたよ! オスカーなんてこの話聞いたら、また興奮するんじゃないかなぁ」

「それは間違いないだろうね、ミル」

「やっぱり……、私はボナスと一緒にこういうの考えたり作ったりするのが一番面白いし、幸せだなぁ~」

「いまさら大げさだなぁ、ギゼラは。まだまだもう勘弁してほしいってくらいそんな機会はいくらでもあるぞ?」

「あははっ、そうだね~!」

「お、おいおい、俺はコハクじゃないぞ……うわっ、粉屋の爺がこっち見て笑ってる。恥ずかしいわ勘弁して、ギゼラ」

「あっはっはっはっ」

「うにゃうん~?」


 妙に上機嫌になったギゼラが、俺を抱えてまるでコハクのようにその膝に乗せられる。

 先程からかった意趣返しなのかもしれない。

 ギゼラの髪から漂う妙に甘い香りや、体を包む柔らかい感触に、余計恥ずかしくなってくるが、どうやらどこからも助けは見込め無さそうだ。

 シロも面白がって同じように抱かれているコハクの顔をこちらへくっつけてくるし、クロとミル、ラウラにぴんくまで、我関せずと、ついさっき仕入れてきたであろうスパイスの香りを確認しあって、今日の晩飯の算段を始めている。


「お、お~い、ギゼラ?」

「あっはっはっはっ、楽しいね~、ボナス」


 しかし、こういうギゼラは珍しいかもしれないな。

 俺とラウラが婚約したことで、何か思うところでもあったのだろうか。

 大胆に見えて本質的には遠慮がちな彼女は、あまり自分から積極的に俺に触れてくるようなこともない。

 今だって笑いながらも肌が少し赤らんでいるので、本当は恥ずかしいのかもしれない――が、それ以上に気持ちを寄り添わせてくれていると考えれば、やはり悪い気もしない。


「やれやれ……また続きはオスカーも交えてアジトで一緒に考えような、ギゼラ」

「うんうん……そうだね~、ボナス」

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