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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第179話 交流

 扉向こうから顔をのぞかせていたザムザだが、声をかけると素直に室内へと入ってくる。

 厚みのある木の扉を元気よく開けたは良いものの、ヒンジから酷い軋み音が鳴り響き、一瞬いたずらが見つかったかのような顔でこちらを見た後、今度はやたら丁寧に扉を閉めている。


「あ、ああ……、扉はご心配なさらず。いつものことですから」

「そうか……良かった。壊れたかと思って驚いた」


 そうしてザムザは一瞬クロへ目配せすると、俺と並ぶようにしてテーブルに付く。

 カイは何とも言えない顔で、俺とザムザの顔を見比べている。


「カイさん、こいつはザムザ。見て分かる通り鬼だ」

「ザ、ザムザさんよろしくお願いします」

「よろしく」


 カイの緊張した表情と反対にザムザはリラックスした様子で、興味深げに室内の様子を観察している。

 どうやら部屋の隅に設けられている、小さなミニキッチンが気になるようだ。


「なんだか――お二人は、少し雰囲気が似ていますね」

「えっ、俺とザムザが? はじめて言われたなぁ」

「いつも一緒にいるからな、当然だろう」

「そ、そうですか……」


 カイに意外なことを言われた。

 雰囲気か……確かに出会った頃のザムザはもっと粗野な男だった気がする。

 さっきだって、例えドアを引きちぎったとしても、昔のザムザなら気にもしなかっただろう。

 そういう意味では、昔よりも周りに対して配慮するようになったのかもしれない。

 ただそれも、俺の影響と言うよりも、シロ、ギゼラの教育の影響が大きい気もする。

 俺に似ていると言われても、正直ピンとこないな……。

 不思議と、ザムザの方は特に違和感なく受け入れているようだ。

 まさか……ぴんくと混ざって俺のほうが少し格好良く――。


「顔や体形は全然違うんですけど、不思議ですね」

「ああ、そうですか……」

「な、なんで俺の脚を叩くんだボナス?」

「丁度いいところに脚があったんだよ」


 ポケットのぴんくが俺のことを何とも言えない目つきで見てくる。

 ぴんくめ……ザムザの角はでかくするのに、俺も少しくらい何か――ああ、無いのね。


「あ、そういやザムザ。もしかして、シロ達待たせちゃってるかな?」

「いや、普通に文官たちと楽しそうに話をしているぞ。シロもギゼラもずいぶん気に入られていたようだ」

「あの二人は物腰が柔らかいし、意外と普通に話しやすいからな。なにより綺麗だし」

「ああ……俺にはよくわからんがな」

「おまえシロと顔そっくりだぞ」

「う~ん……」


 つい話し込んでしまい、シロ達を待たせていないか気になっていたが、どうやらそれは問題なさそうだ。

 それはともかく、これからどうしよう。

 うちの鬼達が恐れられてばかりなのも問題かと思い、とりあえずザムザに声をかけてはみたものの、特に共通の話題も思いつかない。

 ザムザはシロ以上に喋らないからなぁ――などと思っていたが、意外なことにザムザの方からカイへ声をかけた。


「――ケーキを食べたらどうだ?」

「はい? ケーキ……あぁ、そうですね」


 そう言ってザムザは目の前のテーブルの上、小さな木皿を大きな手で指差す。

 先ほどモモの切り分けたケーキが、そのままの姿で載っている。


「そのケーキ、俺が作ったんだ」

「……えっ!? あ、あなたがですか?」

「ああ、うまいぞ」

「そういや、これザムザが担当したやつか」

「うん、ココナッツ入れてみたんだが、けっこううまくいったと思う」

「なんかザムザ、いつごろからかは忘れたけど、ココナッツにはまってるよなぁ」

「前にボナスが揚げたパンに使ってたの、あれがとても美味くてびっくりしたんだ。食感が楽しくないか?」

「あぁ……ドーナツな。アジトのは香りも抜群だからな」

「――お、美味しいですね。これを……あなたが?」

「ふふんっ、どうだうまいだろ?」


 驚くカイに対し、ザムザは満足げな表情を見せる。

 実際ザムザの作る料理はケーキに限らず大体美味しい。

 ミルと毎日料理を作っているので、鬼の中では圧倒的に料理の腕が良いのだ。

 シロやギゼラも料理はよく手伝ってくれるし、自分が食べたいものをぱぱっと作ったりはするのだが、ザムザほど手の込んだことはまずしない。


「凄いですね、ザムザさんは。私は……料理一つ作れません」

「それは――ダメだな。戦士なら料理くらい作れないと、まるで鬼のようだと馬鹿にされるぞ?」

「えっ!?」

「……冗談だ。俺もボナスに出会うまでは、ただ剣を振り回す粗野で馬鹿な子供だった」

「そうそう。今でこそ身綺麗で格好良くなっちゃったけど、昔のザムザは小汚かったからなぁ~」

「風呂に入ったこともなかったからな」

「信じられませんね……。今こうしてザムザさんを目の前にしていると、私こそ粗野で愚かな蛮人のような気がしてきますよ」


 意外なことに、無理に俺が介在しなくても、カイとザムザの間には普通に会話が続いている。

 どちらもそれほど良くしゃべるほうでもないだろうに……ザムザの手料理効果だろうか。

 単に気が合うだけのようにも見えるな。


「今度、俺が料理を教えてやろうか?」

「ザムザさんが私に料理を……? あはははっ、たしかに――それも案外悪くないかもしれませんね」

「そうだ、その代わり俺に戦い方を教えてもらえないか? さっき文官たちから、兵士はここで訓練をしていると聞いたんだが……それに参加してみたい」

「それは――ええ……ザムザさんが訓練、ですか?」

「ああ」

「し、しかし……ザムザさんのまわりには、マリーさんなど優秀な方がたくさんいるのでは?」

「いや……クロやシロ、マリーなんかはもちろん強いが――、強すぎるんだ」

「確かになぁ……、ありゃ説明というより擬音だよな。生き残るコツは掴めそうだが、ちょっと戦闘訓練になっているのかは怪しいな……あと見てて怖すぎるんだよ、お前達の戦い方」

「いや、あれは俺も怖い……。それで、どうだろうか、教えてもらえないか?」


 カイは状況をまだのみ込めないような表情をしている。

 どうも鬼に戦い方を教えるということに実感が持てないようだ。

 それとも身の危険を感じているのだろうか。

 確かに、シロやギゼラが言い出したなら俺も止めたかもしれない。

 彼女たちが少し力の入れ加減を間違えるだけで、死人が出るだろうし、いつもザムザとじゃれている様子を見るかぎり、訓練どころか相手の心を挫くだけにしかならない。

 それに比べればザムザは手加減も上手いし、太刀打ちできないにしても、まだなんとか理解の及ぶ膂力だ。

 そういえば、昔関節技を教えたことがあったが、一応組み合って形にはなっていた。


「カイさん。ザムザなら無茶なことはしないし、訓練として怪我をしないよう、配慮もできると思うよ」

「そうですか……そうですね……。私達にとっても、鬼と訓練できるのは貴重な経験ですし……」

「おお! それじゃあカイ、俺も参加していいのか?」

「ええ、構いませんよ。ボナス商会の方々とは今後付き合いも増えるでしょうし、こういう形での交流があってもいいでしょう」

「よし、じゃあ早速――」


 流れでザムザが訓練に参加することになってしまったが、俺はどうしようかな。

 別にこのままザムザを置いて先に露店へ行っても問題ないとは思うが……初回だし、やはり少し様子を見てからにした方がいい気もする。

 それにしても、ザムザだけでなくカイも意外とやる気になっているようだな。

 二人で肩を並べ、何やら楽し気に話しながら部屋を出ていく。


「ぼなす~! ……じゃむじゃ?」

「あのカイって人と訓練するみたいだから、少し様子を見に行こう」

「あら、面白い。ザムザさんが訓練に参加するんですね。彼でしたら兵たちへも良い影響を与えてくれそうですね」

「そう言えばモモさんは訓練しないの?」

「う~ん、いつもは兵たちに訓練を付けたりもするのですが……今日はザムザさんもいますし、私は見学しようかしら」


 モモはどちらかと言えば教える方の立場らしい。

 体格的にはラウラと変わらないように見えるが、兵たちの中でも実力者のようだ。

 そりゃそうか。

 一人でラウラの護衛を任されているくらいだもんな。


「ぐぎゃう~!」

「あっ、クロさんはダメですよ」

「も~も~……?」

「クロさんは……彼らにはまだ早いです。少々刺激が強すぎて……ある意味、シロさんやマリーさん以上にまずいんですから。こっちで私やボナスさんと一緒に見学しましょうね~」

「ほらクロ、こっちおいで」

「ぎゃうぎゃう~!」


 確かにクロの動きも、普通の人が参考にできるようなものではない。

 仲間内でも、彼女の動きにまともについて行けるのは、マリーかコハクくらいだろう。


「静かだった中庭が一気に賑やかになったな……こんなに人いたんだ」

「非番の警備兵まで集まってきましたね~。こういう時は連絡早いんだから……」

「ぎゃ~う~! じゃむじゃ~!」


 気が付くと中庭には大量の兵が集まってきている。

 さすがに傭兵達とは違い、賭博が始まる様子は無いが、それに近しい熱気を感じる。

 一応それでも訓練の体裁をとってはいるようで、それぞれ二人組を作っている。

 何処からともなく木製の小盾と木剣も持ち込まれ、ザムザとカイはもう軽く打ち合いをはじめた。

 カイやザムザの様子から、もっと理論から入るのかと思いきや、さっそく実戦形式で訓練するようだ。

 他の兵士たちもその様子を見て、同様の訓練を始めたようだが、ほぼ形だけの様子だ。

 実際は全員がザムザとカイのやり取りを見守っている。


「はじまりましたね」

「ギャラリーが多いなぁ……でも、案外地味だね。動作の確認って感じなのかな――って、なんだか激しくなってきたな」

「ぎゃうぎゃ~う!」


 はじめは二人とも軽く剣と盾を打ち合わせる程度だったが、その動きはどんどん早くなってくる。

 それでも、まだお互い体を慣らし、力加減を調整している段階なのだろう。

 カイは余裕を感じさせる動きで木剣を振るい、ザムザもそれを難なく受けとめている。

 とはいえカイの斬撃は意外と鋭く、俺なら今の時点で受けきれないだろうな……。

 マリーなどは双剣と一体化した獣のような凄まじい動きをするが、カイの動きからは人が何代にもわたって培ってきた、技術的な蓄積を感じる。

 動きが合理的なのだ。

 あれは確かに良いお手本になりそうだ。

 一方のザムザはたまに攻撃を返しているようだが、まだずいぶん遠慮しているようで、軽く木剣を押し当てる程度だ。

 ただ、カイはそんな軽い攻撃に対してもしっかりと反応し、全身を使い受け流すような動きで応えている。

 ああやってザムザに盾の使い方も教えているのだろうか。

 実際に真似できるかは別として、伝えたいことはわかりやすいな……。

 思った以上にカイは優秀な教師のようだ。

 しかしザムザの学習能力もすさまじい。

 素人目にも、少しづつザムザの動きにカイのそれが混ざり始めていることが見て取れる。

 それまでの剣を振る上半身の動きに下半身の動きが連動するようになり、ただ攻撃を受け止めるだけだった盾の動きにも、剣をいなし、力をうまく逃がすような動きが混ざりはじめている。


「――凄いですねっ! ザムザさん!」

「これはいいな……勉強になる! カイ、もっと強く! 殺す気で打ち込んできてくれ!」


 いきなり鬼相手に実践的な練習なんてずいぶん思い切ったことをするな、などと思っていたけれど……驚くほどうまく噛み合っているようだ。

 二人は何やら分かり合った様子で頷きあい盛り上がっているな。

 ザムザは素直に楽しそうだ。

 確かにシロやギゼラ相手だとこういう感じにはならないもんな……。

 ただ、意外なことにカイもザムザと同じように活き活きとした表情をしている。

 やはり兵士はこういうの大好きなんだろうなぁ……。

 訓練をするふりさえ止めてしまった他の兵たちからも、感嘆の声が漏れ聞こえてくる。

 実際俺も見ていて面白い。

 木剣が激しく打ち合うたび、大きな音と歓声が中庭に響き渡る。


「あっという間に激しくなってきたなぁ……カイさん、体格良いけど動きもはやいね~。兵長やってるだけあって、やっぱり強いんだろうな」

「ええ、カイは元々国軍の精鋭部隊の小隊長でしたからね。マリーさんやハジムラドさんのような規格外は別として、サヴォイアの屈強な傭兵でも勝てる人はそういませんよ」

「でも……なんだかその話っぷりだと、モモさんも強そうだよね……?」

「どうかしら? 私もそれほど若くはありませんし、ちょうど今のカイと同じくらいでしょうね」

「おぉ……」

「も~も~!」

「ふふふっ、それでもクロさんの足元にも及びませんけどね」


 モモはどちらかと言えばラウラと変わらないか、少し華奢に見えるくらいだが、実際はかなりの実力者なようだ。

 上品に微笑む姿が少し怖いな。


「ザムザさん、そろそろ本気で行きます!」

「ああ、いいぞ!」


 カイの打ち込みはどんどんとその激しさを増している。

 先程までの余裕のある動きでは無く、全体重をかけ、体ごとぶつける様な激しいやり取りになってきている。

 顔は真っ赤で凄まじい汗だ。

 逆にザムザは初めのころより余裕を見せているな。

 カイの全力攻撃も軽く盾で受け流し、軽く振るっているように見える斬撃も、カイの盾を今にも打ち砕きそうだ。

 すっかり技術を吸収して、いっそう効率の良い動きになってしまったようだ。

 鬼が反則的なのか、ザムザが特別優秀なのか……まぁ、両方か。


「っだあああああ! さ、さすがに……、限界です……ザムザさん。あなたは……な、なんて体力なんだ……」

「ぬ? そうか……カイの動きはとても勉強になったし、楽しかったぞ! ただ……もう少し打ち合いたかったな」


 ついにカイにも体力の限界がきたようで、ザムザの剣をいなしきれずにひっくり返ってしまった。

 全身に滝のような汗をかき、まともに喋れないほど息が上がっている。

 膝をついたまま、うまく立ち上がれないようだ。

 ザムザはそんなカイへ手を差し出し、引っ張り上げている。

 お互い肩を叩きあい、健闘をたたえ合っているようだ。

 いやぁ……なんか青春だなあ。


「ええ、私も楽しかったですよ! やはり人となりを知るには剣を合わせて見るのが手っ取り早いですね。ザムザさんとは仲良くやって行けそうです……ただ、さすがに少し休ませてくださいね」

「へ、兵長! お、俺が代わりにザムザさんとやってみても良いでしょうか!」

「――ああ、せっかくの機会だ……ザムザさん、どうでしょうか?」

「もちろん、いいぞ! 誰でも来てくれ!」

「そ、それでは――」


 それまでギャラリーとして取り巻いていた兵たちも次々とザムザへ話しかけ戦いを申し込んでいる。

 ザムザも喜んで応じているようだ。

 さすがにカイのようにはいかないようで、ザムザの十分手加減した一撃でさえ、ひっくり返る奴がほとんどのようだ。

 なぜかひっくり返された方が嬉しそうな顔をしているな……。


「いやぁ、どうなることかと思ったけど……あの様子だとザムザはすっかり兵たちとは打ち解けらそうだね」

「そうですね。ザムザさんって、意外と可愛いですものね」

「じゃむじゃー!」

「おおっ、モモもやっぱりそう思うんだ。みんな怖がるけど、鬼って素直でかわいいやつ多いよな」

「それは……どうかしら。ボナスさんの周りの鬼が特別なんだと思いますよ」


 俺とモモが話している間も、ザムザと兵たちは模擬戦で盛り上がっているようだ。

 今のところ、兵たちもまったく負傷していないようだ。

 普段から俺と接しているのもあって、力加減がうまいんだろうな。

 安心してみていられる。


「――ねぇ、ザムザは……なにしてるの~?」

「あら?」

「ぐぎゃう~! ぎぜら~!」

「おっ、ギゼラ、どうした? 待たせちゃったかな?」

「ううん~、今ミルがここの厨房借りて昼ごはん作ってるから、ボナスたちも呼んできてってさ~」

「ああ、そっか、そういやもうそんな時間か――って、ギゼラ……?」


 ギゼラはそう話しながらも、フラフラと今も模擬戦を繰り返すザムザの方へと近寄っていく。

 和気あいあい見学していた兵士たちが一瞬にして道を開けているな……。


「ザムザ」

「うげっ、ギ、ギゼラ!?」

「あなた、ボナスの様子を見に行ったんじゃなかったの?」

「あ、ああ……特に問題なかったから、ちょっと訓練に混ぜてもらって……」

「一度、帰っておいでって言わなかった?」

「――あっ! いや……でも、ちょっといろいろあって、だな……忘れてた」


 どうやらザムザはギゼラから、俺の様子を確認したら一度戻ってくるように言われていたらしい。

 いままですっかり忘れていたようで、顔を青くして焦っている。

 さっきまであれほど力強く堂々としていたザムザだが、ギゼラの前ではしどろもどろで、まるで小さな子供のようだ。

 対戦希望していたはずの兵士たちも、何か察するところがあったのか、いつの間にかしっかり距離を取っている。

 ギゼラはいつも姉のようにザムザを可愛がっているが、その分当たりもきつかったりもするんだよな……。

 元はと言えば俺がザムザを呼び込んだので、さすがに申し訳ない気持ちになってくる。

 それに、カイたちとこれほどうまく交流できたのもザムザのおかげだ。

 フォローしておくか……。


「なぁギゼラ、まぁ許してやってくれよ。ザムザのおかげで、ここにいる人たちとも結構仲良くなれたんだ」

「ん~も~……、ボナスはいつもザムザに甘いんだから」

「実際、なかなか良い訓練にもなったようだぞ?」

「い、いい訓練になった!」

「そっか……うん、まぁ~……分かったよ」

「良かった……」

「それじゃ――、ザムザには訓練の成果を見せてもらおっかな~?」


 ギゼラはそう言って肩をすくめると、あらためてザムザの顔を覗き込む。

 ザムザはそんなギゼラを呆けたような顔で見上げ、俺は頭を抱える。


「えっ――ええ?」

「さぁ、ほら」

「うっ……わ、わかった! 行くぞっ、ギゼ――」


 ザムザは腹を括ったのか、ギゼラが構える前に、不意打ち気味に木剣を振りかぶる。

 やけくそ気味に見えるが、ちゃんとカイから吸収した動きが反映されている。

 そうして、そのまま木剣をギゼラへと振り下ろそうとした瞬間――ザムザの姿が掻き消えた。

 激しい衝撃音と、飛び散る木片。

 突如数メートル離れたところにザムザの身体があらわれ、ゴロゴロと転がる。


「あっ……」

「ひえっ……」

「あら~……」

「じゃむじゃ~……」


 いつのまにか片足立ちになっていたギゼラは、ゆっくりとその長く綺麗な脚を下ろす。

 どうやらザムザは蹴り飛ばされたようだ。

 一応しっかりと小盾でガードを試みたようで、砕けた盾だったものが散乱している。

 アジトでは大して珍しくもない風景だが、兵士たちは全員とんでもない顔になっている。

 さっきまで爽やかなイケメンだったカイも、いまでは目玉が飛び出しそうなほど目を見開き、少し面白い顔になっている。


「う~ん、すこし……変わったかも?」

「おっ、折れてない! ほらギゼラ、今日はどこも折れてないぞ! どうだ、訓練の成果があっただろ!」

「おぉ? ほんとだね~。へぇ~……それなら、私も今度からその訓練、混ぜてもらおっかな~?」


 カイ、その他兵士達全員の視線が一斉に俺へと集中する。

 中庭は静まり返り、誰一人言葉を発しないが、声なき声がはっきりと聞こえる……。


「ギゼラには……、それよりも俺の側でものづくりを手伝ってほしいんだけどなぁ」

「え? そ、そう~?」

「ああ、アジトや酒蔵、その他にもこれから作らなければいけないものが山積みだろ? それに、いくら訓練とはいえ、お前の綺麗な顔や体に傷がつくのは、あんまり見たくないなぁ」

「じゃ、じゃあ……仕方ないね~。訓練はザムザに任せて、使えそうな技術があれば、ザムザから教えてもらうようにするよ」

「それがいいよ、ギゼラ。さあ、昼ごはん手伝いに行こうか。クロも一緒に行こう!」

「ぐぎゃぁう~!」


 ギゼラの腰に手を添え兵舎を後にする。

 そろそろギゼラを連れて、この場所から退散した方が良さそうだ。

 もう少しザムザの成長を見ていたいような気もするが、まだ会ったばかりのカイたちには、ギゼラは刺激が強すぎたようだ。

 それに、これからその機会は、いくらであるだろう。

 振り返りつつザムザやカイたちへと声をかける。


「ザムザ、悪いがあと任せていいか?」

「――ああ、任せてくれ! 少しカイたちと話してから、俺も厨房へ行くよ」

「それじゃ、カイさん、いろいろありがとう!」

「ボナスさん、こちらこそありがとう! これからもよろしくお願いします」


 カイには異様な熱意のこもった視線で感謝される。

 兵たちもなぜか尊敬のまなざしを俺に向けてくる。

 う~ん、ギゼラもザムザには少し厳しいところはあるが、普段はそんな危ないやつじゃないんだけどな……まぁ、それもいずれわかることか。

 最後に兵士たちがギゼラに怯えてしまい、ボナス商会と兵たちとの交流は微妙なものになったかとも思ったが、謎の連帯感を感じる結果になったな。

 壁際で転がっていたザムザにも、今は兵たちが肩を貸して笑いあっている。

 これなら大成功と言っていいくらいだな。


「モモさんも、ありがとうね」

「ラウラ様と一緒に後で露店へお邪魔しますね。クロさんもまた後で」

「ぐぎゃうぎゃう、も~も~!」


 ラウラと婚約することになったし、せめて領主館の連中とはうまく付き合っていこうと、あれこれ考えてはみたものの――あまりそんな必要もなかったな。

 ただ単純に、うちの連中をぶつけてやれば良かったのだ。

 あたりまえだよな……俺の仲間たちは皆、その才能や能力以上に、ただ人として魅力的なのだから。


「さ~て、ミルはいったいなに作ってるのかな」

「ふふっ、なんだろね~?」

「ぐぎゃ~う!」

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