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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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178/215

第178話 兵舎

 領主館内にある兵舎へと向かう。

 先ほど途中退席した領主の護衛兵たちへ、急遽お土産のケーキを届けることにしたのだ。

 とはいえ、もともと今回は各方面へとお土産を配る予定だったので、予定外というほどでもない。

 それにお土産は大量にある。

 俺が不在の間世話になった街の連中も多いようだし、領主含め新しい付き合いも増えそうだったので、ケーキに限らず持てる限りの食材を持ってきたのだ。

 先ほどの雰囲気からして、護衛兵たちとはあまり良い出会いとも言えなかった。

 俺達に対する印象も正直微妙なものだろう。

 今後長い付き合いになりそうでもあるし、できれば俺の方からあらためて挨拶しておきたかったのだ。

 ちなみにクロも一緒だ。

 領主との面談の後、くっついたまま離れなくなってしまった。

 俺にはあまりぴんと来ないが、マリーいわく、クロは街中の護衛としては最強らしいので、丁度良かったのかもしれない。

 それに鬼やマリーがいると、また兵士達にストレスを与えかねない。

 ちなみに、シロ達には文官の方へケーキを届けてもらっている。

 意外なことに、兵士に比べ文官たちはあまりシロ達のことを恐れてはいなかった。

 多分、持ち物や服装、身だしなみなどのせいだろう。

 うちの鬼達は品が良く文化的なのだ。

 ラウラはなにやら父親とお話し中のようだが、後でまたミシャールの露店で合流する約束だ。

 それにしても、案内も連れずにこのでかい領主館を歩いていると、どうも不安になってくるなぁ……。

 領主の執務室を出てからは、ただ直線的に移動しているだけだが、日陰がちの中庭に面した静かな回廊を歩いていると妙に緊張してくる。

 目の前で楽し気に揺れるクロの小さな背中が頼もしすぎる。

 もし一人で来ていたら帰っていたかもしれない。

 中庭の雰囲気もなんだか荒々しい。

 目を楽しませるようなものは何もなく、ただ高い塀と荒れた芝生が広がっているだけだ。

 ここは多分小さな訓練場と機能しているのだろう。

 ところどころ踏み荒らされたような跡がある。


「ぐぎゃうぎゃう」

「ああ……これ、どの扉入ればいいんだろうなぁ……」


 宿舎らしき建物へは到着したものの、大きな両開きのドアが三つ、等間隔で並んでおり、どの扉を叩くべきか悩む。

 扉向こうからは、わずかに話し声が漏れ聞こえてくるのだが、いざ扉の前に立ってみるとその扉とは別の扉から声が漏れ聞こえているような気がして、ノックするのを躊躇ってしまう。

 そうしてしばらく三つの扉の前をウロウロしていたが、クロから不思議そうに問いかけられる。


「ぼなす~?」

「俺は何をやってるんだろうな……まぁいいか、すみませ~ん!」


 ひとまず目の前の扉向こうへ大きく呼びかけてみると、 呼びかけた扉の隣の扉から、思いがけず見慣れた顔がひょっこりとあらわれた。


「あれ、ラウラの護衛の?」

「あら、クロさんに……ボナス様?」


 ラウラをいつも護衛している女性だ。

 うちの露店の常連でもあり、ラウラが来ない時もよくうちの露店にコーヒーを買いに来てくれる。


「も~も~!」

「もも?」

「ふふっ、私の名前はモモでは……いえ、クロさんがせっかく呼んでくれるのですからモモで良いですね。それにしても……ボナス商会の皆さまは領主様とお話されていると伺っていましたが、どうされました?」

「ああ、今帰るところだけど、護衛の人たちにお土産を持ってきたんだ、これ――」

「まぁまぁ、これはアジトのケーキですね!」


 比較的よく顔を合わせる割に名前を知らなかったが、どうもクロからはモモと呼ばれているようだ。

 ラウラと違い、特に甘いもの好きというわけでもないらしいが、食べることは好きなようで、アジトの食材とミルがつくる料理のファンとのこと。

 自分から話しかけてくることはないが、ラウラの背後でこっそりと色々料理を楽しんでいたり、クロを愛でている姿はよく目にする。

 剣を帯び、簡易的な皮鎧も身につけてはいるが、実は下位貴族の娘らしく、その所作はラウラと同じく上品だ。

 マリーとは逆に存在感が薄く、どちらかと言えばいつも背景に溶け込むように佇んでいる。


「――なんだ、客か?」


 見慣れた顔に少し安心していると、女性の背後から先ほどの護衛兵たちがぞろぞろと出てきた。

 全員体格が良く、人数も多いので、取り囲まれるとそれなりに迫力がある。

 領主から兵長と呼ばれていた男もその中に見つけたので声をかけておく。


「先ほどはどうも。ボナス商会のボナスです」

「あぁ……領主様の護衛兵長のカイです。ラウラ様の……婚約者様ということでよろしいですかな?」

「ご存じだったのですね……ええ、つい先ほど領主様とのお話の中で、そういうことになりましたね」

「そうですか。ということは、あなたも七位の貴族になられたということですね」

「七位……ですか?」

「ええ、ご存じありませんか?」

「申し訳ない、あまりそういった常識がなく……。あの、良ければお土産にボナス商会のケーキを持ってきたので、それを食べながら少しお話を聞かせてもらえないでしょうか?」

「そう、ですね……あと一時間ほどで訓練の予定ですが、それまででしたら喜んで――」

「では私が切り分けましょう! ボナスさんたちはどうぞ中へ。さぁさぁ、あなたたちは場所を開けなさい。ケーキの邪魔をするんじゃありませんよ?」


 俺の誘いに対し兵長の男が承諾するや否や、ラウラの護衛の女性が周りの護衛兵達を蹴散らすようにして、兵舎の中へと招き入れてくれる。

 片手にはパウンドケーキの包みをしっかり抱え、もう片手にはナイフを手にずんずんと進んでいく。

 地味なイメージだったが、やることはなかなか野性的だな……。

 この連中の中ではかなり立場が上のようで、兵長と呼ばれていた男を含め、皆その振る舞いに素直に従っている。

 しかしケーキ足りるかな……特大サイズのケーキを持ってはきたが、部屋には三十名ほどの兵士が詰めていた。

 いやむしろ、これほどの人数に取り囲まれながら話なんて……、やめておけば良かったかもしれない。

 当然ながら、突然現れた俺とクロに全員の視線が集まっており、とても気まずい。


「さぁ、ケーキを切り分けますから、兵長以外は一切れ食べたら急ぎ出ていくように」

「も~も~、ぎゃうぎゃう!」

「あら……クロさん、切り分けるの手伝ってくれるのですか? ありがとうございます、クロさんは器用ですものね~」


 あまりの兵士の多さに一人たじろいでいたが、どうやらラウラの護衛の女性がうまく兵たちを誘導してくれるようだ。

 さすがラウラの護衛だけあって、突発的な状況でも落ち着いて対応してくれる。

 彼女のおかげで少し俺も余裕が出てきた。

 切り分ける作業を彼女やクロに任せ、俺自身はなるべく兵士ひとりひとりと顔を合わせるようにして、直接ケーキを手渡していく。

 せっかくこんなところまで押しかけたのだから、少しは心証を良くしたい。

 休憩中に共有部屋を追い出されるということで、不機嫌そうにしている者もいたが、切り分けられたケーキを口へ放り込むと、皆あっという間に上機嫌になった。

 最終的にはほとんどの兵士が気さくに礼を述べ立ち去って行ったが、一部の兵士たちについては、さらに何かを目覚めさせてしまったようだ。

 やや血走った目で、いったいどうすればまたこれを手に入れられるのか――と、なかなかの勢いで問い詰められることになってしまった。

 そう手に入るものでは無いと断りを入れつつも、あまりの迫力に思わずミシャールの露店に丸投げしてしまったが……まぁ、ハジムラドあたりが良い具合に対応してくれるだろう。

 世界は違えど、やはり手土産の威力はでかいなぁ……。


「――ボナスさん、どうぞこちらへ。それで、お話とは……?」

「どうも俺は世間知らずなところがありまして……いくつかカイさんに教えてもらいたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 ひと通り兵士たちへケーキを配り終え、兵長のカイと二人で簡素なテーブル席へ着く。

 粗野で丈夫そうではあるが、作りが悪いのか座るとギィギィとうるさい椅子だ。


「ええ、ラウラ様以上に私が知っていることなどあるとは思えませんが……それでもよろしければ、もちろん」

「ラウラもやはり浮世離れしたところがありますから……。それではまず先ほどの七位の貴族とは、いったいどのようなものなのでしょうか?」

「ああ……そうでしたね、七位は貴族中最下位、準貴族的な立ち位置ですね。私や彼女も同じです。私達のような貴族の子供でありつつも魔法を使えないものや、魔法の使えない平民が貴族と結婚あるいは婚約した場合に与えられる位階ですね」


 どうやら目の前の兵長も同じ七位の貴族だったようだ。

 もとは魔法使いの家系だったのだろうな。

 それにしても、こいつも顔立ちが整っているな……。

 護衛兵たち全般に言えるが、どいつもこいつもやたら顔が良くて腹立たしいな。

 やや収まりの悪い灰色の髪をしているが、若々しく精悍な顔立ちをしている。

 ザムザほどではないだろうが、メラニーが好きそうな顔だな。

 そういえば、ラウラの護衛の女性も当たり前のように美人だ。

 魔法使いは全般的に美形が多いのかもしれない。

 ……なんだかピリの汚い悪人面や暑苦しいオスカーの顔が無性に恋しくなってくるな。


「七位の貴族には、何か特典や義務はあるのでしょうか?」

「他の位階と違い年金などありませんが、ほぼすべての税は免除されますね。その代わり、王国に対する忠誠心や奉仕的態度は求められますが……サヴォイアにいる限り、領主様の言うことを聞いておけば特に気にする必要も無いでしょう。あとは特典と言って良いのかは分かりませんが、貴族と直接やりとりするような、割りの良い仕事に付くことができますし、平民が立ち入ることを許されていないような場にも同席できます」

「ラウラの婚約者ということで、俺もそう言った場に同席することになるのでしょうかね……。ああそうだ、カイさん。せっかく同じ七位なわけですし、お互いにもう少し気を遣わず喋りませんか?」

「ええ、良いですね。とはいっても、私は常にこうですから、ボナスさんの、喋りやすいようにどうぞ」

「いやぁ、実は敬語は苦手だったんで……、助かるよ! ラウラの護衛の人もそういうことでよろしく」

「も~も~!」

「ふふっ、むしろこれまで通りですね。それと……、私のことはクロさんと同じようにモモと呼んでくださる?」

「良いのかな? 本名は違うみたいだけど……」

「せっかくクロさんが呼んでくれますし、モルモネイシスなんて呼びにくいでしょう?」

「……なるほど。いまさらだけど、よろしくね、モモさん」

「ええ、もちろんです、ボナスさん。これからはラウラ様の婚約者として、護衛の範囲がボナスさんへ及ぶこともあるでしょうし……とはいえ、私の力なんて必要なさそうですけどね、クロさん」

「ぎゃぁう?」

「よく考えれば、もうクロさんは私の同僚ということになるのかしら? あら……そう思うと楽しくなってきましたね! さぁ、この場はカイに任せて、クロさん、あちらで少しお話ししましょう? 今日もドリーと一緒なんですね……可愛い」

「ぎゃう……ぐぎゃぁう、ぼなす~?」

「ああ、いいよ。ここで話してるから、行っておいで~」


 普段はラウラの護衛として、背景に溶け込んでいるモモだが、今日はほんとうによくしゃべる。

 とはいっても、その相手は俺では無く、ほとんどがクロへ向けられたものだ。

 気が付けば他数名の女性兵士と、少し離れた場所でなにやら楽しそうに立ち話をはじめた。

 相変わらず、クロはどこへ行っても直ぐ馴染むな。


「あれが――本当に小鬼とは……とても信じがたいですね」

「よく言われるよ。うちは多少……いや、けっこう変わった仲間が多いけれど、皆気立ての良いのばかりだから、あまり忌諱せずに気軽に付き合ってもらえると嬉しいな」

「先ほどは情けない姿を見せてしまい……恥ずかしい限りです」

「いやいや、お互いまだ慣れていない状況だったから……一般的にはどうか知らないけれど、うちの鬼達は皆ほんとうに優しいから、きっとすぐに打ち解けて、お互い気楽に話ができるようになると思うよ」

「――ボナスさんは……意外に肝が据わっていますね。なぜラウラ様と懇意になったり、あの双剣のマリーや鬼を引き連れたりしているのかと、不思議に思っていましたが、少し納得できるような気がします」


 兵長のカイは、しばらくその青い瞳で俺の目を覗き込んでいたが、大きく息を吐き背もたれへと体を預けた。

 俺の椅子は少し身じろぎするだけでギィギィとうるさいが、カイの椅子からは何故かなんの音も聞こえてこないな……。

 目の前のカイは特に笑みを浮かべているわけでは無いが、雰囲気はかなり柔らかくなったように感じる。

 俺が考える以上に、警戒感を持たれていたのかもしれない。

 やはり……お土産を持ってきてよかった。

 マリーやラウラのような天才の意見も重要だが、カイのような人間が俺達や世の中をどう見ているかを知っておくことも同じくらい重要なことだ。

 それに、いくら仲間が頼もしくても、ボナス商会がただ恐怖や警戒の対象と捉えられるのは良くない。

 最終的には組織の寿命を縮めることになるだろう。

 なにより俺の仲間がそんな目で見られるのは、純粋に腹が立つ。

 かつて街の人がシロやギゼラを見る目も、やはりあまり気持ちのいいものだけでは無かったと思う。

 それが今では市場に限らず街中でも気軽に声をかけてくるし、シロやギゼラ、ザムザにまで、隠れたファンがたくさんいるのだ。

 なにより、俺がさらわれている間も街の人に支えられ露店は続き、ボナス商会に多くの人が協力してくれた。

 かつてのように、彼女達がただ恐れられるような存在のままであれば、間違いなくそううまくは行かなかっただろう。


「いやぁ……、俺は馬鹿なだけで臆病な人間だよ」

「……まぁ、そう言うことにしてきましょうか。それで――、せっかくですからもう少しお聞きになりたいことはありませんか?」

「あっ、それじゃ領主様の位階って……?」

「サヴェリオ様は王弟なので二位ですね。王の子供として生まれた者は王以外、すべて二位となります。その地位は王に次ぐものですが、実権はかなり制限されており、自前の正規軍を持つことさえ許されていません。私達のような護衛兵でさえ、王から借り受けなければならないのです。さらに成人後は中央から最も離れた辺境の領主を任されるのがならわしで、次代への領地継承権もありません。ですのでラウラ様は五位の貴族というわけです」


 サヴォイアが傭兵の街というのも、地政学的な理由以外にも、そういう背景があったのか。

 それにしても、王の身内への警戒感が凄いな。

 過去に王族間で派手な内戦でもあったのかもしれない。

 そしてラウラは領地継承権を持たない貴族として五位か……。


「それはつまり、四位までの貴族だけが、領地を治めているということなのかな?」

「ええ、大小、新旧ありますが、自前の領地を持てるのは四位までです。そして二位から四位までの後継ぎ以外に与えられる位階が五位または六位となっています」

「五位、六位は同じ位階同士でも人付き合いが難しそうだなぁ……」

「そうですね、五位や六位の貴族たちは、同じ位階でも実際にもっている影響力の差がとても大きいので、事前情報なしで付き合うのは危険ですね」

「どうせ俺は七位だし、ひたすらペコペコしておけばよさそうではあるけれど……ただ、ラウラに恥ずかしい思いをさせたくはないし、そう考えると人付き合い難しそうだなぁ……」


 正直俺の安い頭はいくら下げたって良いが、ラウラや自分の仲間が馬鹿にされたり傷つくのは見たくない。

 これまで貴族なんてまったく関心もなかったし、関わるつもりもなかったが、いよいよそうも言ってられなくなったな。

 うまく対応できるように、なるべく事前に情報を集めておかなければ。


「ラウラ様が五位とそれなりに高位なので、ボナスさんに求められる立ち振る舞いは難しいものになるでしょうね。一位から四位までについては、サヴォイアにいる限りあまり関わることも無いでしょうが、五位から七位はいろいろ関係が複雑ですし、競争も激しいですからね」

「競争……位階は生まれで自動的に決まるんじゃないの?」

「婚姻も競争ですよ。最も手っ取り早く位階を上げる方法ですからね。それに、五位から七位までは親の位階以外にも、自身の才能によって位階を上げることができますから。もちろん魔法の才能が無い私のような存在は自動的に七位に割り当てられるので、そういった心配もいりませんが」


 やはりこの国においては、魔法を使えるかどうかが決定的なんだな。

 カミラのような大商人も相当な力を持っていたようではあるけれど、それでも明確な天井はあったわけだ。

 忌々しい女だったが、それについてどう考えていたか、一度聞いてみたかったような気もするな。


「才能というのは、やっぱり魔法についてのみ?」

「六位以上であるには魔法を使えることが大前提ですが、そこから先は魔法の才が全てというわけでもありません」

「というと……?」

「基本領地を持たない貴族のほとんどは、中央官僚になるか、地方で文官になるか、あるいは軍に所属するかです。その中でどれだけ優秀であり、実績を残せたかは、意外と忠実に位階に反映されるようですね」

「たしかに、魔法使えても実務能力がないと国回せないもんな……。そういえば、七位の子供に魔法使いが産まれることもあるのかな?」

「ええ、七位に限らず平民の子でも稀に魔法使いが産まれることもあるようですよ」

「そんな場合、位階はどうなるんだろう?」

「五位までであれば、実力次第で位階を上げることができます。加えて器量が良く三位四位と婚姻関係になり、最終的には領地持ち貴族となった例なども一応はありますね。もちろん極まれなケースですが」

「やっぱり魔法の能力は血筋の影響が大きいのかな?」

「一般的にはそういうことになっていますね。王家の血を引くサヴェリオ様やラウラ様などは、特別優秀な魔法使いとして有名ですから、実際そういう傾向はあるのでしょう」

「たしかに、ラウラの魔法はよくわかっていない俺から見てもぶっ飛んでるもんな……」

「ただその一方で、マリー殿の兄であるフェデリコ様などは、はじめは魔法がほとんど使えず六位でしたが、現在は五位まで位階を上げています。今では魔法使いとしての腕も悪くないようですね。この戦争が終わった後、入り婿として三位の貴族家へ――、などという噂もあるようです。ですから、必ずしも血筋だけというわけではないようですよ。フェデリコ様のご両親も位階こそ五位ですが、魔法の腕は最底辺らしく、なんとか使える程度らしいですから」

「マリーの兄なら、まぁそんなこともあるかなって気がしてくるよね……」

「中央にいた頃、私も稽古をつけていただいたことがありますが、たいへんお強い方でしたね。私では手も足も出ませんでした。さらに魔法も得意らしく、見た目も秀麗ですから……」


 見事な成り上がりだな。

 まさに物語の主人公みたいなやつだ。

 なんとなくマリーの男版を想像してしまったが……、とてもやばいやつに思えてきた。


「そういえばマリーも七位になるのかな?」

「いえ……彼女もかつては七位の軍人としてかなりの有名人でしたが、上官と問題を起こして除隊処分になり、その際に平民へ落とされたはずです」

「ふ~ん、うっかり上官を殴り飛ばしたりしたのかな」

「いえ……ま、まぁ……、似たようなものですね」


 いずれにしろマリーの兄とは嫌でも顔を合わせることになりそうだな。

 これから起こる戦争の総指揮官らしいし、なにより本人もマリーと会いたがっているようだ。

 何の因果か、いまではマリーもボナス商会の一員である。

 アジトでの暮らしっぷりを見るかぎり、もう追い出そうとしても出ていきそうにない。

 俺も逃れられないだろうなぁ……。

 そういう意味では七位とは言え、一応貴族としての体裁を整えてもらったのは良かった。

 領主には今度出来の良いラウラ酒も差し入れしなくては。



「――ボナス。まだか?」

「あれ? ああ――ザムザか、どうした?」

「遅いから……心配で見に来た」


 どうやら、少し長居しすぎてしまったようだ。

 思わぬ方向から声を掛けられ、慌ててそちらを振り向くと、俺が入ってきた扉から、ザムザが顔半分をのぞかせるようにしてこちらを見ていた。

 やや遠慮がちな雰囲気や、ザムザ一人で来たところを見ると、一応兵士達を怖がらせないように配慮しているのだろう。

 しかし、どうもその配慮はうまくいかなかったようだ。

 俺でもわかるほど、一瞬にしてカイが緊張してしまった。

 やや腰を浮かせたまま、凍り付いたように固まっている。

 う~ん、ザムザ一人くらいならいけるかと思ったが、やはり鬼は相当恐れられているようだな……。

 ただ、その一方でモモや女性兵はあまり気にした様子がない。

 クロを囲んで、まだ話が盛り上がっているようだ。

 俺もカイと多少は打ち解けてきたような気はしていたが、それとは比べ物にならないほど、彼女たちは砕けた関係になっているようだ。

 モモと女性兵の髪型が異様に手の込んだものへ変わっており、クロはまた別の女性兵のヘアセットまで始めている。

 相変わらず恐ろしいコミュニケーション能力だな。


「……外で待ってようか?」

「いや――、ザムザちょうど良かった。この人が兵長のカイさんだ、せっかくだから挨拶していけよ」

「うん、わかった」

「ボ、ボナスさん!?」


 ザムザは仲間内では可愛げがあるほうだし……まぁ、何とかなるだろ。

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