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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第174話 新しい住人たちと④

 イノシシの解体も一区切りつき、やや遅めの昼食をとる。

 頬肉と舌、一部の内臓が巨大な鉄板の上で豪快に焼かれていく。

 一瞬にしてあたりに肉とタレの香りが充満し、それまで個別に作業をしていた連中も手を止め、夢遊病者のように集まってくる。

 いつのまにか当たり前のようにニーチェたちも混ざり込んでいる。

 熱々の鉄板に瑞々しい肉が踊る様子やその音もなかなか蠱惑的ではあるが、何より香りが凄まじい。

 もちろん肉の焼ける香りも素晴らしいが、このタレが反則的だなぁ。

 サヴォイアの市場やメナスキャラバンから仕入れたものに加え、アジトで採れる果物や香草、砂糖やラウラ酒、チョコレートまでふんだんに利用した、ミルがこだわりにこだわり抜いたものだ。

 さらに手の込んでいることに、しっかりと部位ごとに味付けも変えているらしい。

 いまだに解体直後は胃がせりあがる様に感じるのだが、この香りを嗅いだ瞬間、脳が痺れたように食欲に支配される。

 なにかやばい成分でも入ってるんじゃないだろうか。


「ほらマリー、このあたりのが心臓だよ」

「そう、これが――、あまり癖が無くて……食感が面白いわ。なにより、あなたの味付け、素晴らしいわね」

「口にあって良かったよ。まぁこいつには自信があったんだけどね! 少し辛いけどこっちのもいけるよ」

「これは何?」

「それは肝臓、かなり辛く味付けしてるから気を付けて」

「肝臓……あら、これも美味しいわ。あまり内臓は食べたことが無かったけれど、意外と美味しいものなのね」

「いやぁ、マリーこれは特別だよ。まず肉と肉の状態が抜群に良いし、ミルちゃんのタレが美味しすぎるんだって~。やっぱこれ最高~!」

「そうね、ギゼラ……これ、キダナケモの肉だものね。みんなで協力したとはいえ、まさか私の剣がキダナケモの心臓に届くなんて……ふふっ、やっと実感が出てきたわ。ねぇミルこの部位は?」

「うん? それは脾臓だね」

「これは?」

「ええっと、そっちは腎臓」

「……?」

「ああ、それはぴんく――って、あんた何してんの! も~あんたの分はそっちでボナスが焼いてるでしょ!」


 どうもマリーは内臓がお好みのようだ。

 自分が倒したという実感がより強く持てるのも理由のようだが、純粋に味も楽しんでいるようだ。

 ちなみにぴんくも内臓は割と好きらしく、小さく切ったものを俺が端っこで焼いていたりする。


「ね、ねぇ、これ、もういいかな? もういいよね、ザムザ?」

「もう少しだ、ビビ。あと少しで……いやまてガスト、お前は鉄板に顔を近づけすぎだ、こら涎が垂れる!」

「だ、だって、肉が俺を呼んで……」

「まてまて!」


 ビビとガスト、ザムザは焼き始めから頬肉にターゲットを絞っていたようだ。

 肉が焼けるにつれて顔が鉄板へと吸い寄せられていき、なかなか危なっかしい。

 ガストは猫のようにザムザに首根っこを掴み持ち上げられても、まだ肉から視線を外さない。

 確かに気持ちは分かる。

 この脂の感じは独特のコクと甘みのある、抜群に旨いやつだ。

 イノシシ系の肉は大体あたりが多いが、こいつはその中でも特別だな。


「ボナス、こっちは焼けたよ」

「おっ、いいね~」


 ちなみに俺とシロは大きな舌を薄切りにしたものを焼いている。

 やはり最初はタンから行きたい。

 これだけはただ塩を振っただけで、柑橘類の搾り汁に浸して食べる。

 周囲に立ち込める凶悪なタレの匂いについ浮気しそうになるが、しっとりと脂をまとったタンも十分に魅了的だ。

 ガストのことを笑えないほどには肉から目が離せない。


「よし、そろそろだ――いやぁ、これはこれは……焼き加減、完璧じゃないか? しかしさすが大きいな……シロ、半分こしよう」

「うん。――ん~っ、おいしい。おいしいね、ボナス」

「んぅ~……うんまい」


 香草を大量に巻いて半分に切り、シロと分け合って食べる。

 あまりにうまい。

 肉を噛み締めているだけで自然に唸り声がでてしまう。

 ついシロとお互い顔を見合わせてしまう。

 いつもは優し気に細められているシロの目も真ん丸になっている。


「よし、次も焼けた――、おーいクロ~」

「ぐぎゃぁ~う?」

「ああ、作業中か。なら――ほら、食ってみな~」

「ぐぎゃ~……ん。ん~……おいしい、ね!」


 すぐ背後でミルの手伝いをしていたクロにも声をかける。

 大なべを使って臓物や筋肉を使った鍋の仕込みをしていたようで、狂ったような速度で大量の野菜を刻んでいた。

 両手が塞がっているので隙を見ては、ひと口大の大きさに切って、シロと俺が交互に口へと放り込んでいく。

 同じく作業をしていたミルがその様子を呆れつつも少し物欲しそうな顔で見てくる。


「ミル、頬肉焼けたぞ。ひと口大に切ってきたから、ほら」

「ザ、ザムザ!? あ、ありがとう……」


 ザムザが気を利かせて、ビビ達から守り抜いた肉を切り分けてミルへ持ってきた。

 俺やシロを真似て、ミルに出来たての頬肉を食べさせようとしている。

 よし――、アドバイスをしてやろう。


「なぁなぁ、ザムザ、それ出来たてだろ? ミルが火傷するかもしれんからフゥフゥして冷ましてやれよ~」

「それもそうだな、わかったよ、ボナス」

「えっ……あ、あたしは別に熱いのは――、う、ん~……ああ、やっぱりうまいね」

「ミルの作ったソースが良い」

「こ、これは自信作だからね」


 ニヤニヤする俺やクロ、シロが注視する中、真っ赤になりつつも、少し嬉しそうに肉を頬張っている。

 ただひと口食べた後は特に照れるでもなく、バクバクと大口開けてザムザから肉を貰って食べている。

 思いのほか肉と自分の作ったタレの完成度が高く、満足感が恥ずかしさを上回ったようだ。


「うぉおおおお! う、うめぇ……くっ、うますぎるだろ!」

「んんんっ……おいしいねぇ、おいしいね~」


 一方のビビとガストは野生に帰ったかのように、大きな頬肉に齧り付いている。

 熱い肉を手で摘まみ上げるようにして食べている。

 普段は目立たないが意外と犬歯が鋭い。

 小さな口を大きく開けて豪快に肉を喰らっては、妙な叫びや唸り声をあげている。


「うおっ! もう食ってたのか!?」

「何度も声かけたろうがオスカー……まぁ、下ごしらえお疲れ様。かな~りうまいぞこの肉」

「ああわかってる、下ごしらえしてるだけで何度も腹が鳴ったわ」

「燻すのは明日以降か?」

「ああ、今は岩壁の倉庫に寝かしてる。あそこもそろそろ一杯だ。早く拡張せにゃなぁ……」

「ぼくたちも手伝うからね!」

「ああ、岩削るなら俺たちに任せとけって! いやぁ、ほんとやりたいことが多すぎるな。しばらくは寝られないぞこりゃ」

「ぼく、夜はニーチェたちと泳いだり、アジトをお散歩したいな。なんでだろう……アジトの星空はとっても綺麗に感じるんだ」

「いやいや、まだ来たばかりなんだからゆっくりしてくれ。とりあえずちゃんと寝ろよ」

「大丈夫だ。洞穴族は十日程度であれば寝なくても普通に動けるからな!」

「えぇ……、何かと無理効きすぎだろ洞穴族」

「日差しに当たれないのが面倒すぎるけどね」

「それもそうか……」


 そう言えばビビはサイードの工場での短い睡眠を繰り返すような生活の中、あきらかに俺より寝てない様子だったが、全くもって元気だった。

 慣れの問題かと思っていたが、あれは種族特性だったか。


「大丈夫だよボナス、ぼくたちにとっては、こんな面白い環境でじっとしてるほうが体に悪いよ」

「そうだそうだ! ということで、俺はそろそろ皮に残った脂肪剥いでくるわ」

「今食ったばかりなのに……せわしないなぁ。まぁ、しかしみんなよく食ったもんだ」


 気が付くと、あれほど大量に用意した肉もほぼ食べきってしまった。

 鬼族はもちろんのこと、洞穴族やマリーもその体格からは考えられないほどよく食べた。

 実際ビビとガストはまるで漫画のようにポッコリと腹が出ている。

 ちなみにコハクは骨周りの肉を堪能したようだ。

 今はあおむけにひっくり返って、イノシシの硬い骨を弄ぶように齧っている。

 無邪気な顔でバリボリと恐ろしい音を立て骨をかみ砕いているようだ。

 鬼族が全力で斧を叩きつけても簡単には割れないような骨なんだけどな……。


「はい、みんな順番だよ!」

「ニィニィニィ」

「ニェニェ」


 ニーチェたちは今ちょうどお食事中のようだ。

 ギゼラがカワウソもどき用に取っておいた味のついてない肉を茹でて分け与えている。

 全身にカワウソもどきがまとわりついているが、半分くらいはただ甘えに来ているだけのようだ。

 マリーもその手伝いをしているようで、ゆであがった肉をわざわざ一つづつ冷まして手渡ししている。

 よっぽど可愛いのか、思わずにやけそうになるのを堪える様な表情だ。

 珍しく頬が赤い。


「手が小さくて……本当に可愛いわね」

「ニィニィ!」

「ニェ」

「かわいいよね~。みんな顔も性格も違うんだよ」

「そうなの、ギゼラ? 覚えていきたいから、みんな顔を良く見せてね」

「ニェ?」

「あら?」


 まるでマリーの言葉が通じたように、一匹のカワウソもどきがマリーの顔を覗き込み、不思議そうに首をかしげている。

 しばらくマリーと見つめあっていたカワウソもどきは、背伸びするように小さな黄色い手を伸ばし、マリーの頬をペタペタとやさしく触れている。

 どうやらイノシシとの戦いでついた顔の擦り傷に触れているようだ。

 本人は平気な顔をしていたが、確かに傍目には痛そうな傷だ。


「これは一体……」

「ニィニィ」

「ああ、こいつらの魔法かなんかかな?」

「痛くなくなったわ……」

「治癒ってほどじゃないけど、そうやってさすってもらうと、腫れや痛みが無くなって、治るのが早くなるんだ。あと傷跡も残りにくい気がする。ラウラいわく水の魔法の一種らしい」

「そう……ありがとう。あなたは優しいのね」

「ニェ~」


 マリーは自分の頬をひと撫ですると、こらえきれなくなったようにカワウソもどきを抱きしめている。

 一方のカワウソもどきは人形のように抱きしめられつつも、茹でた頬肉をおいしそうに頬張っている。


「さぁ、デザート焼けたよ」

「おおっ、シンプルなチョコレートケーキ! これ食いたかったんだよ」

「オレンジも入ってるけどね」

「最高じゃねぇか! よし、サヴォイア行く前に俺がとっておきのコーヒー淹れてやろう!」

「オスカー風か?」

「ぐぎゃうぎゃう」

「クロ師範が審査してくれるようだぞ」

「お~い、ガスト~! 戻っておいで、おやつだよ!」


 もう一口も食えないと思っていたが、いざ目の前に切り分けられたチョコレートケーキが出てくるともうダメだ。

 これを食わないなどという選択肢は頭から完全に除外される。

 マリーも片手でカワウソもどきを抱きしめたまま、しっかりと皿を引き寄せている。

 他の皿よりケーキがちょっちだけ大きいな……恐ろしい女だ。


「休暇は楽しんでもらえてる、マリー?」

「期待以上ね。もともと気に入ってはいたけど、やっぱり最高ね。なんだか……罪悪感すら感じるわ。このチョコレートケーキひとつとっても背徳的よ」

「隣人達ともうまくやれてるようで良かった」

「ええ、もぅ……なんでこの子達こんなに可愛いのかしら」


 カワウソもどきたちともずいぶん打ち解けたようだ。

 お互い鼻をくっつけあったりしている。


「素晴らしい食事に美しく快適な環境、全力で狩りもできる。おまけに可愛いものがいっぱいだし、めんどくさい連中が訪ねてくることもない。控え目に行って楽園ね」

「そういえば、ラウラがこの場所は魔法使いには特別だって言ってたけど、マリーにはどう見えてるんだ?」

「魔法は使えないけれども、私も魔法使いの世界は見えているわ。――そうね、たしかにそう言う意味でも、ここはとんでもなく美しいわ。だからボナス、領主様含め今後貴族と会う時は、必ず私を連れて行きなさい。あなたの味方としてついて行くから。この場所に我が物顔の貴族が来るなんてことは――決して許せそうにないもの。それに、この場所が今のような状態であるには、どうやらあなたやぴんくの存在が必要不可欠のようだから……でも、それはダメ、わたしのケーキよぴんく、あなたはボナスのを食べなさいね」

「そう言われると、領主に会うの怖くなってくるな。あっぴんく、オレンジの部分だけ食べるなよぉ……」

「それなりに攻撃的な性格をしているけど、真っ当な方だと思うわ。私もそれなりに付き合いは長いし、なによりラウラ様はあなたたちの味方よ、大丈夫でしょう」

「そ、そうなんだ」

「そんなに不安なら、コハクでも連れて行けば? ふふふっ、カノーザ領主はコハクの姿を見て卒倒したそうよ。ラウラ様もコハクを連れて面会するだなんて、意外と人が悪いわね。サヴォイアの領主様はどう反応するかしら?」


 そう言えばコハクもキダナケモか。

 赤ちゃんの頃ならともかく、子供とはいえ今はそれなりに立派な体躯だ。

 しかもぴんくが昔からなにやら仕込んでいたようだし、魔法使いにはとんでもない生き物に見えるのかもしれない。


「んな~ぅ?」

「ほら、コハクもおいで。こんなに可愛いのに、とんでもない魔力をまとって……ふふふっ」


 マリーの悪い笑顔を見ていると余計不安になってくるな。

 以前黒狼と戦った直後に、領主の一声で王都へ連れまわされることになったのを、今でも恨みに思ってそうだな。


「コハクは……面会には連れて行かない方が良さそうだ。ラウラの父親を卒倒させたくはないしな」

「あら、残念だわ」

「うにゃうにゃうにゃう」

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― 新着の感想 ―
食事の情景描写が秀逸です 僕も肉を食べたくなった
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