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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第171話 新しい住人たちと①

 夜明け前に目が覚めてしまった。

 とはいえ、空はもう白んできている。

 あと数分もすれば、朝日は顔を見せるだろう。

 岩壁ベッドで寝るのは久しぶりだが、寝ている間にずいぶん汗をかいてしまった。

 う~ん……、ここもそろそろ定員オーバーかもしれない。

 特に体温の高いシロとザムザに挟まれるように寝たせいだろう。

 しかもいつの間にかザムザと俺の間にビビもぴったりと挟まっている。

 洞穴族も体温高いんだよな……。

 皆を起こさないようにゆっくり体の向きを変えていると、青い瞳がじっとこちらを見ていることに気が付く。


「おはよ。ボナス」

「おはよう、シロ。……起こしたか?」

「ううん、起きてたよ」

「そっか。思ったんだが、ビビとガスト、朝日が昇る前におこしてやった方が良いかな?」

「うん、そうかも」

「ここ朝日強烈だもんな」

「ふふっ、そうだね」


 囁き声で挨拶を交わしていると、シロがくすぐったそうな笑顔を浮かべる。

 お互い無意識に顔を近づけすぎていたようだ。


「おーい、ビビ、朝になるぞ」

「ん……、うん~?」

「もうすぐ夜明けだ。ここは日当たりが良いからそろそろ準備したほうがいいんじゃないか?」

「うん……朝、あぁ……おはよう。えっと……僕のローブどこだっけ? ほら、ガストも起きなよ」

「ふぇ……?」


 むくりと起き上がったビビは、目をこすりながらも素早くローブを探しだし、たまたま目に留まったガストを引きずるようにして寝床を出ていく。

 なんだかサイードの工場で巡回に行くような雰囲気だ。

 ガストは状況がよくわからないようで、半目で引きずられながら、妙に可愛い寝ぼけた声をだしている。

 二人ともまだ半分夢の中といった雰囲気だな。

 昨日は相当はしゃいでいたようだし、洞穴族の二人は遅くまで起きていたのだろうか。

 酒を飲んでいたわけでも無いが、あまり寝る間際の記憶がないな。

 ニーチェと横並びで、にやけながら木琴の練習をするマリーと、カワウソもどき達と楽しそうに踊る洞穴族の二人の姿は辛うじて覚えている。


「水浴び行こうか、シロ」

「うん。布取ってくるね」


 シロと二人、ビビ達を追いかけるように寝床を出ていくと、ぐぎゃぐぎゃと鼻歌のような声が聞こえてくる。

 クロが朝食の準備でもしているのだろうか。

 先に外の調理場でシロを待つことにする。


「おはよう、クロ、ミル」

「ぼなす~!」

「おはよう。さっき窯に火を入れたばかりでね。朝食はまだまだだよ」


 ミルは朝食の支度をはじめたところのようで、クロは昨日までの旅で溜まった洗濯ものをちょうど片付け終えたところのようだ。

 丁寧に吊るされた大量の洗濯物が、朝日を浴び静かに揺れている。

 あれなら朝食を食べ終えるころにはほとんど乾いてそうだ。


「ああ、なんか目が覚めちゃてさ。少し汗もかいたから水浴びしてくるよ」

「ついでにあんた、いい加減髭剃ったらどうだい?」

「ああっ! 忘れてたわ……う~ん」

「ぎゃうぎゃう! ひ~げ~」


 洞穴族以外からは評判の悪い髭。

 アジトに戻ったらすぐに剃ろうと思っていたのに、すっかり忘れていたな。

 クロも俺の髭は早く剃ってしまいたいらしい。

 片手でナイフをくるくると回しながら、もう片方の手で伸びた髭をわさわさと触ってくる。

 ただ剃った髭が散らばるので、せっかくなら湖で上着を脱いでから頼みたいところだ。


「じゃあ、クロ剃ってもらえる?」

「ぐぎゃぁ~ぅ~!」

「ありがとうな、じゃあ湖で頼むよ。いまシロも来るから、もうちょい待って」


 クロと二人、しばらくミルがパンをこね回す様子を眺める。

 なかなか面白い。

 ミルは背丈こそ低いものの、体力はかなりのものだし動きの切れもいい。

 さすがは元傭兵。

 腰が安定していて動きがダイナミックだ。

 体格的にこういう動きはクロであってもまねできないだろう。

 どんな作業も素早くリズミカルで、見ていて気持ちが良い。

 ただ作業台はかなりぐらついており、みていると心配になってくる。


「作業台、そろそろオスカーに新しいの作ってもらった方が――」

「パンこね台なら石がいいんじゃないか? 俺が作ってやるぜ!」

「おはよう、ガスト。あんた石なんて加工……そういや洞穴族だったね」


 いつのまにかローブを羽織ったガストが作業台を覗き込んでいた。

 ミルの作業を青い瞳をせわしなく動かし、追いかけている。


「うん? 洞穴族だと石の加工できるのか?」

「この連中は、生まれながらにそう言うのは得意らしいねぇ」

「そんなことよりミル! それ、パン作ってるんだろ? なぁ、俺も……ちょっとそれ、やってみたいなぁ……だめかな?」

「いいさ、手伝ってくれよ。あんた陽の光は大丈夫なのかい?」

「ここは木陰だしな。ローブがあれば大丈夫だぜ!」


 少し心配していたが、洞穴族もひとまずは大丈夫なようで良かった。

 特に調理場は日陰になっているので、それほど朝日も差し込まない。

 シロもガストと一緒に歩いて来ていたようだ。

 後ろから手ぬぐいと着替えを掴んだ手が回り込んできたと思ったら、頭上から声が降ってきた。


「みんなおはよ。じゃあボナス、行こう?」

「ああ、シロ、俺の分もありがとう。んじゃ俺達は湖行ってくるよ。クロも行こう!」

「ぎゃ~ぅ~!」

「あいよ~」

「へへへっ、パン作るのなんて初めてだぜ。ボナスにも俺の作ったパンを食わせてやるよ!」

「おう、楽しみにしとくよ」





 クロとシロの三人で湖へ移動する。

 少しひんやりした空気に、朝日が心地良い。

 岩壁ベッドで体験する、身を焼く光線のような日差しとはずいぶんと違う。

 良く茂った草木を通り抜けてくる光は軽く柔らかい。


「う~ん、夜の湖も綺麗だけど、やっぱり朝もいいよなぁ~」

「ボナスは特に……久しぶりだもんね」

「鳥たちも沢山集まってるなぁ」


 この時間帯の鳥たちは特別活発なようだ。

 湖周辺のそこかしこから鳴き声が聞こえてくる。

 美しく風情がある――というには少々元気すぎるほどで、少々けたたましい。

 ただ、その鮮やかな羽色は、朝日を浴びて驚くほど美しく輝いて見える。


「とーりー」

「おっ、そいつも久しぶりに見るなぁ」


 そうして目の前の風景に見入っていると、見覚えのある黄緑色の鳥が一羽、クロの頭へと吸い込まれるように乗っかった。

 クロが卵から育てた小鳥だ。


「いやぁ~、お前綺麗に育ったなぁ……」

「羽、きれいだね」

「ぎゃう?」


 両手で包み込んでしまえそうなほどの小さな鳥だが、もう大人と言っても良いだろう。

 クロの瞳と似た緑と黄色の複雑なグラデーションがとても美しい。

 まるで俺の言葉を理解したかのように、胸を反らし美しい羽を広げて見せてくれる。


「他の鳥もやってきたな……羽自慢か? あっ、ぴんく、乗るのはやめとけよ……お前絶対落ちるって。それに、すぐ酔うだろ?」

「あら……鳥?」

「おはよう、マリー。散歩?」

「ええ、気持ちのいい朝ね。鳥……綺麗ね」


 マリーの肩にひと際派手なオレンジ色の鳥がとまる。

 彼女の髪色に対抗心でも感じたのだろうか。

 両翼を広げ、胸を膨らませている。

 見ようによっては求愛されているようにも見えるな……。

 マリーがあまり見たことのないような顔をしている。

 少し面白いな……。


「ボナス。これ、どうすればいいかしら……?」

「さぁ……? けど、気に入られたんじゃないかな」


 嬉しいような困ったような、なかなか複雑な顔をしているマリーは置いて、上着を脱ぎ捨て湖へ入る。


「んあ~っ、気持ちいな」

「ぐぎゃうぎゃう!」

「寒くないの?」

「ちょっと寒いから、俺はあんまり長くは入ってられないね――こうやって一回浸かるだけ。ふぅ~、すっきりした」

「ぐぎゃう~、ひ~げ~!」

「クロ、よろしく~」


 湖へ入り、頭をくぐらせ直ぐにウッドデッキに這い上がる。

 そして、そのままなるべく日当たりの良い位置まで這っていき、寝っ転がる。

 一瞬にして冷えた体を朝日に晒してじんわり温めるのだ。

 なんだかワニにでもなったような気分だが、爽快感とポカポカした感覚を両方味わえて気持ち良い。

 シロはまだ少し水に浸かっているようだ。

 頬杖をつき、シロの水浴びを眺めているとクロが寄ってきて膝枕をしてくれる。

 髭を剃ってくれるようだ。

 朝日が眩しいので目を閉じると、クロの指が頬を探り、じょりじょりと髭が剃られていくのを感じる。

 クロにしてはゆったりとした手つきだったが、あっという間に剃り終わってしまう。

 もう少しこのままでいたいような名残惜しさも感じつつ、薄目を開けると、マリーも俺と同じように濡れた体でウッドデッキへ転がっていた。


「確かに、悪くは無いわね、これ。私もクロの膝枕が欲しいわ」

「じゃあ、私がしてあげるよ」

「え、シロ? ――ふふっ、悪くはないけど……ちょっと高いわね」


 ちょうど湖から上がったシロがなぜかマリーに膝枕をしてやっている。

 頭を抱え込まれたマリーはシロの顔を見上げ、何とも言えない顔で笑っている。

 珍しくマリーが照れているようだ。


「ありがとうクロ、今度は俺が髪梳かしてやるから、こっちおいで――うわっ」

「ぎゃぅぎゃぅ!」

「準備がいいね」


 体を起こし声をかけると、クロは膝上に飛び込んでくる。

 なんとかクロを抱き留めると、俺の胸元に愛用のブラシを押し付けてきた。

 どうやらお待ちかねだったようだ。

 俺がクロほどうまく出来るとは思わないが、とりあえず親愛と感謝の気持ちだけはしっかりとこめて、ゆっくりと髪を梳かしていく。


「う~ん、相変わらずの毛量。髪艶っ艶で羨ましいなぁ」

「ぼ~なす~! きゃぅきゃぅっ!」



 たまに足をバタバタさせたり、ふと振り向いて目を覗き込んできたりと落ち着きはまったくないが、とても楽しそうでなによりだ。

 クロに少しでも報いることができればなどと思いつつも、実際はそんな彼女の様子を見ていると、むしろ自分自身が圧倒的に幸せな気持ちにさせられてしまう。


「朝飯、できたぞ」

「できたぞ~」

「おっ、わかった~。ザムザ、ビビ、お前ら仲いいなぁ」


 朝食ができたようだ。

 ザムザがぶかぶかのフードを被ったビビを肩車してあらわれた。

 ビビは楽しそうに余った袖をパタパタと振り回している。


「ミルのパンもある。早く食べよう」

「ああ、それはいいな」

「ぎゃうぎゃう~」

「マリー、行こう」

「嫌、もう少しこのままが良いわ」

「ダメだよ、マリー。はやく朝ごはん、たべよ」

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