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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第169話 閑話 オスカーのお留守番

「もう――朝か、よし!」


 夜冷えきった体に強烈な朝日が染みる。

 アジトに来てからは毎日のことだが、なかなかこいつは悪くない。

 職人の朝は特別貴重なものだ。

 起きた瞬間から、パキッと体も頭も最高の状態まで持っていく。

 そうして大切な仕事は朝の内に終わらせるくらいがちょうどいい。

 まずはいつも通り湖へと向かう。


「おうっ、エリザベスか、おはよう! なんだ、最近付き合い良いじゃないか、え~?」

「メェメェメェ~」

「うぉっとと~、よしよし。まぁ、お前も寂しいよな……まったくボナスは何してるのやら。アジトの改築や蒸留所の設計、他にもやらなきゃならんことは山積みなのに――なぁ?」

「メェ~」

 

 大きな鼻をぐいぐい押し付けてくるエリザベスを押し返すように撫でまわす。

 最近はやっと俺にも甘えてくれるようになった。

 いつもは澄ました顔をしているエリザベスだが、こいつもさすがに寂しくなってきたのだろう。


「メェ~メェ~メェ~」

「さてさて、うまくいってるかな~」


 猫車を押しながらエリザベスと湖へ向かい、まずは顔を洗う。

 眩しいほどの朝日を照り返す湖面へ、勢いよく頭を突っ込むのだ。

 これで体も頭も一発で目が覚める。

 手ぬぐいで顔を拭きつつ、そのまま燻製小屋へと向かう。

 これも最近では日課のようになってきた。

 小屋に近づくだけで、鼻にこびりつくような強烈な煙の匂いを感じ、ワクワクしてくる。

 ただエリザベスはこの臭いが嫌なようで、燻製小屋には近づいてこない。


「ん~、いい具合だな! よし、今日はこっちの……おやおや?」

「ニィニィッ」

「ああ、わかったわかった、まあ落ち着けって――これと、これ、え~っとこれもだな。ほら、もってけ!」

「ニェ~!」

「ニェニェ!」

「ニィッニィッ!」


 味見を兼ねた朝食の確保をしていると、小さな手が俺のズボンを引っ張ってくる。

 ニーチェたちだ。

 しかし、いったいどいつがニーチェなのか俺は今でも区別がつかない。

 ほぼ全員同じ顔をしていると思うんだが……ボナスはよくわかるな。

 群がるニーチェたちにホイホイと魚の燻製を渡していく。

 くるくるふらふらと燻製を掲げながら妙な踊りを踊っているが、たぶん喜んでいるのだろう。

 そもそも燻製にしている魚のほとんどはニーチェたちがとってきたものだ。

 こいつら湖に住んでいる癖に肉も野菜もしっかり食うし、燻製のような手を加えたものも好きらしい。

 夜に燻製をこしらえていると、よく魚をぐいぐいと押し付けてくる。

 変な生き物――と言いたいところだが、ここアジトで暮らす生き物の中では、まだまともな方なのだろうなぁ……。


「――ふぅ~、めちゃくちゃ美味いな。自慢する相手がいないのが残念だな、まったく……早く帰って来いよなぁ」

「ニィニィニィ」

「そうだな、お前らがいたな! どうよ? 前回のより、さらにうまいだろ! こりゃハジムラドにも持って行ってやるか。あいつもなかなか違いの分かる男だからな!」


 湖に張り出したウッドデッキの上で優雅に朝飯だ。

 俺が作ったデッキの上で、俺が作った燻製を食い、俺が作ったコップでコーヒーを飲む。

 最高に気分が良い。

 我ながらどれも気が利いた作りでよくできている。

 ただこれは全てボナスが考えたものでもある。

 俺の腕が良いのは当然として、ボナスもなかなかやる男だ。

 次はなにを言い出すか楽しみだ。


「う~ん、そろそろ収納場所が足りなくなりそうだなぁ……」


 猫車に燻製を積み込むと、そのままいくつかの果物や野菜などを収穫しつつ、アジトを一回りするように遠回りして歩く。

 アジトは本当に楽園のような場所だ。

 サヴォイアとは思えないほど豊かな水場があり、食い物がある。

 木陰も多く、湖面を抜けてくる風は爽やかで心地よく、日中でも驚くほど快適に過ごせる。

 サヴォイアの埃っぽい空気とはずいぶん違う。

 だが、かつてはこのアジト内部にもキダナケモが侵入したりと、かなり危険な場所だったらしい。

 もちろん、今ではそういったことはまったくない。

 ラウラ曰く、ボナスが住み始めたことがきっかけで、アジト内で緩やかな近所づきあいが始まり、そうして生まれた新しい秩序が外敵の侵入を許さないらしい。

 まぁ、俺には難しいことはよくわからん。

 ただ、この場所が上手くいってることだけは感じるし、俺もこの環境を維持する一員でありたいと思う。

 ただその上で、今は岩壁の住環境を改善していくのが楽しくてならない。

 ボナスが描く図面を実際の形にしていくのは、今まで経験したことのない手ごたえがある。

 これまで手に覚え込ませてきた職人仕事が、何倍にもドカーンと膨らんでいく感じがして面白い。

 ただ、それも今は止まってしまっている。

 ボナスが帰ってきたら、さっさと図面の続きを描かせよう。


「おっ、どうした? なんだぁ?」


 花のような甘い香りをまき散らしつつ、大量の蜂がまとわりついてくる。

 普通なら悲鳴をあげて湖へ飛び込むところだろうが……もう、すっかり慣れちまったな。

 こいつらはちょっと風変わりな隣人として、お互い協力し合っている。

 アジトの果実や花々を凝縮したような香りの良い甘い蜜。

 そして、大型のキダナケモさえ一刺しで卒倒する凶悪な毒。

 どちらも市場に出せばすさまじい値が付くだろう。

 だが、同時に死人もでそうな代物だ。

 そんな貴重なものを蜂たちは惜しげもなく分けてくれる。

 そしてもちろん、俺たちも協力している。


「また増やすのか!? そうか――いやいや、今日は壺持ってねぇからいいや。ラウラやミルがいねぇから、あんまり蜜も減らんのだ」


 どうやらまた巣箱を増設して欲しいらしい。

 最初に作ってから少しづつ増やしていき、もう当初の三倍くらいになった気がする。

 天敵の鳥たちに巣箱を襲われなくなったせいらしいが……増えすぎだろ。


「ただちょっと最近忙しいもんで、ボナス達が帰ってきてからになるぞ。うん? それはわかってるって……なんだ、あいつらそろそろ帰ってくんのか……?」


 こいつらとも付き合いが長い。

 群れの動きでおおよそ言いたいことが分かってきた。

 どうもボナスたちがそろそろ帰ってくるから巣箱を増やせと言いたかったらしい。

 ラウラが言うにはこの蜂たちはべらぼうに頭が良いらしく、なんでも占い師のように先のことが少しわかるらしいのだ。


「そうか、帰ってくるか……はははっ! ああ見えて図太いところのある男だし、そう簡単にくたばることもないとは思ってたが、そうか~やっと帰ってくるかぁ~」


 身体がスッと軽くなった気がする。

 さすがの俺も果ての見えないこの状況に不安を感じていたのだろうか。


「なんにしてもあいつらが帰ってくるのはめでたいことだな! 巣箱はあいつら帰ってきたら、真っ先に作ってやるからよ!」


 集めた収穫物や燻製を岩壁の倉庫へ丁寧に収納し、出かける支度をする。

 なんだかんだで今日も大荷物だ。

 露店にもってくもの以外にも、頼まれていた木工品もある。

 メラニーやハジムラド、仕立屋の娘達に頼まれている食い物も持って行かねばならん。

 特にあの娘達は果物を忘れるとうるさい。

 姉妹揃って意外と気が強いんだよなぁ……。


「メェ~」

「ああ、毎日ありがとうな!」


 すべての荷物と自分自身をしっかりとエリザベスに固定し、サヴォイアへと出発する。

 サヴォイアのあるアジトの北西側はキダナケモもそれほど多くない。

 いてもエリザベスよりはずっと弱いので、比較的移動も安全だ。

 シロやクロ、ラウラがいれば、手ごろな肉が手に入るので、むしろキダナケモとの遭遇はありがたいくらいだ。

 だがもちろん、俺の場合はそうもいかない。

 エリザベスの判断によるが、基本的には逃げることになる。

 ただ全力でエリザベスが走ると、荷物や俺が吹っ飛びそうになるので、しっかりと固定することが重要だ。

 そのため、特別製の鞍を俺が自作したわけだが――なかなか座り心地もよく、気分が良い。


「こうやってエリザベスに乗ってると、王様にでもなったような気がしてくるな!」

「メェ~メェ~メェ~」


 エリザベスからすれば軽く流している程度なのだろうが、景色は飛ぶように過ぎ去っていく。

 ただその身体はどっしりと安定しており、全く怖くはない。

 むしろ高級絨毯のような白く輝く背中からあたりを見下ろしていると、優雅な気持ちになってくる。


「よし、それじゃあ帰りもよろしく頼むな!」

「メェ~」


 サヴォイアの手前でエリザベスと別れ、重い荷物を抱えて露店へと急ぐ。

 まだ早朝だが、すでにミシャールの市場は賑わっている。

 そんな中、壁際の定位置には不機嫌面の髭オヤジが当たり前のようにコーヒーを淹れている。

 若草色のエプロン姿が妙に様になっているな。

 ボナスのとデザインがよく似ているが、仕立屋の娘達に頼んだのだろうか。

 俺もちょっと欲しいな……。

 片手をポケットに突っこんだまま、器用にドリップしている。


「今日もはやいな」

「お前もな、ハジムラド!」


 コーヒーの泡をじっと睨みつけたまま、こちらを見向きもせずに声をかけてくる。

 これで意外と上機嫌だったりするのでよくわからん男なんだよなぁ。

 魚の燻製で顔に風を送ってやると、顔をしかめ、こちらを向く。


「ん――なんだこれは?」

「昨日の夜作った。やるよ」

「燻製か……ふん――なるほど、これは悪くないな」

「うまいぞ! ほかにも、う~ん――今日は芋と……果物な」

「ああ、その芋はありがたい――」

「おはよう、オスカー。 私のは?」

「おう、あるぞ! メラニーのはこれと――」


 しばらく早朝から来る常連たちをふたりでさばきつつ、ハジムラドとメラニーの三人で芋のうまい食い方について話し合う。

 午前中の露店は大体こんな感じで過ぎていく。

 コーヒーを提供しつつ、たまに客も交え、のんびり話しているうちに終わっていく。

 最近のサヴォイアは街は人の出入りも多く、少々治安も悪いらしい。

 だがうちの露店にはエプロンつけた地竜殺しがいるおかげか、いたって平和だ。

 ハジムラドは今回のことで色々責任を感じているようで、領主の仕事を断ってまで露店を手伝ってくれるている。

 一応ボナス達が戻るまでと期限付きでの話にはなっているが、意外と本人は楽しんでいるように見える。


「クロやシロの代わりがこんな髭面たちなんてね~、この世の終わりだとおもったもんだけど……意外とお客さん減らないもんだね」

「ふんっ」

「客よりお前が残念そうだよな、メラニー」

「そりゃね~。可愛いクロやコハク、ぴんくに美形の鬼達がいないなんて! 早く帰ってこないかなぁ……」

「お前、面食いだよな。ああ、そういや~ボナス達そろそろ帰ってきそうだぞ!」

「えっ、ほんとに? やった!」

「なに!? どこの情報だ、オスカー?」

「蜂だ」

「は、はち……? オスカー、あんた遂に……」

「蜂……おまえらボナス商会のやつらは時々よくわからんことを言いだすよな……」

「いやいや、信用できる連中なんだ!」

「まぁ何でもいいよ。クロ達帰ってくるんだね! それは楽しみだなぁ~」

「結局、店はつぶれなかったな……」

「ああ……」

 

 メラニーの言うように、当初は俺もハジムラドもいつ店がつぶれても仕方ないと思っていた。

 だが、蓋を開けてみればまったくそんなことはなかった。

 客は今もひっきりなしに来ているし、午後からはもっと増えるはずだ。

 昨日も仕立屋の娘達が手伝ってくれていなければ、さばききれなかっただろう。

 もうこの店はすっかりサヴォイアに根を張っている。

 かつての俺の工房も……こんな風に愛されてたら違ったんだろうか。

 自分でいうのもなんだが俺は木工の腕はいい。

 だが商売はまるでダメだ。

 愛想が無く、声が無駄にでかくて、交渉も計算もろくにできない。

 だから腕は良いが商売が下手で、親方として店を上手く切り盛りできなかった。

 そう思っていたが……この店に立っていると、どうやら俺はなにか勘違いをしていたような気がしてくる。

 今はこんな俺が店に立っていても、ちゃんと客が来て親しみを込めて挨拶してくる。

 計算もろくにできないが、しっかりと稼ぎは出ているし、間違っても周りが何とかしてくれる。

 そもそもボナスの奴だって、決して商売がうまいわけじゃないだろう。

 俺でもカモれそうな顔してるしな。

 不思議だ。


「おい、オスカー。今度うちの店、やりかえるんだが――内装一式、おまえんところで頼めないか?」

「ああ、いいぞ! とはいえ俺は作業できんけどな。段取りならするぞ」

「それでかまわんよ。ボナス商会も今は大変だろうしな」

「そうか……」


 それに何故か木工屋をやってた時より仕事も来るようになった。

 当時は安い下請けばかりだったが、今はなぜか俺が仕事を差配している。

 たいして利益は見込んでいないはずだが、それでも顔なじみの職人連中や昔の弟子なんかに仕事を割り振るだけで、当時の数倍は稼げてしまっている。

 工房を閉じ、ボナス商会に入った今の方がよっぽど親方っぽい。

 周りの職人達からもそう言われる。

 ふと、あの日のことを思いだす。

 いい加減資金繰りに行き詰まり、いよいよ店を閉じるかなどと憂鬱な気持ちで下請け仕事をこなしていたところだ。

 店の戸口に立つ妙な小鬼を連れた変な男。

 普段なら、飛び込み依頼は無理だと軽く断っていたかもしれない。

 それがまさかだ、めぐりにめぐってこんなことになるなんてな。


「人生わからんものだな」

「ああ……まったくだ」


 エプロンを粋に着こなした竜殺しと目が合う。

 人生が思わぬ形で変わったのは、俺だけでないようだ。

 こいつも同じようなことを考えていたのかもしれん。

 ハジムラドが珍しく笑っている。


「だけどハジムラド、むしろこれからなのかもしれんぞ!」

「ふふんっ、蒸留所はなかなか楽しみだな」

「だな! はははっ、腕が鳴るな。あいつが帰ってきたら早速打ち合わせが必要だ!」

「ああ、そうだなオスカー。酒は時間がかかるし、俺はもう年だ。早く手を付けなくては……まぁ、それでも死ぬまでに納得のいくものは飲めんかもしれんが――それこそ、夢があっていい」

「ハジムラド、お前もボナスみたいなこと言うなぁ……、おれは生きてるうちにうまい酒が飲みたいぞ! 俺が作った醸造所で、俺の作った樽で寝かせた酒を、俺の作ったコップで流し込むのさ! 美味いに決まってる!」 

「ああ、違いないな」

「おーい、芋! 揚げてきたけど、食べるかい?」

「食う!」

「いつも悪いな、メラニー。いただこう」


 どこかへ消えたと思っていたメラニーが、揚げた芋を木皿に山盛り持ってきてくれた。

 食いなれた芋がなんだかいつも以上にうまそうに見える。

 早めの昼飯にしては悪くない。

 それから三人でむさぼるように芋を食い、午後からは仕立屋の娘達も交え店を切り盛りする。

 なんだか話をしている間に、いつのまにか俺もエプロンを買うことになってしまった。

 あの娘達、俺やボナスなんか足元にも及ばないほどの商売上手――と言いたいところだが、実際は全くそんなこともないらしい。

 あいつらの仕立屋も実はボナスと関わるまでは、生活は苦しかったらしい。

 まったく……どこかで聞いたような話だ。


 そうして、午後もやはり昨日と同じく客が大量にやってきた。

 コーヒー豆の在庫はまだまだ余裕はあるが、そろそろチョコレートは無くなりそうだ。

 ボナス達は近々帰ってくるようだが、少し焦るな。

 チョコレートの代わりになるようなものがあるだろうか。

 俺には思いつきそうにない。

 日も暮れてきたので、ハジムラドに片付けを頼み街を出る。


「なんだか一日が早いなぁ」

「メェ~」


 エリザベスの背中に揺られ、アジトへ帰る。

 西日に背を向け歩いていると、背中と尻がじんわりと汗ばんでくる。

 日中の喧騒と熱気がまだ体に残っているようだ。

 はやく火照った体を湖へと沈めたくなってくる。

 体もなんだか埃っぽいような気がしてくる。

 昔は全くそんなことを思わなかったが……俺も贅沢になったもんだな。


「うん? どうしたエリザベス、キダナケモでもいたか?」

「――メッ」


 ピタリとエリザベスが立ち止まり、耳だけがピクピクと動いている。

 キダナケモを察知した時と似ているが、なかなかすぐに動こうとしない。


「うぉっ! うわっ、うわわっ、ど、どこ、いくんだ~!?」


 急にエリザベスがアジトとは全く違う方向へと走りだす。

 しかも全力疾走だ。

 こうなると振り落とされないようしがみついているだけで精いっぱいだ。

 猛烈な速さに加え、西日を向いているせいで、まともに目を開けていることができない。

 ただ力の限りエリザベスの毛を握りしめ、ノミのようにエリザベスの巨体へばりつく。


「――お~い、お~い! こっちだよ~!」


 エリザベスの激しい跳躍に、まともに口を開くことも出来ないが、間延びした懐かしい声が聞こえてくる。

 逆光に浮かぶシルエットだけでもうわかる。

 一番デカいのがシロで、次がギゼラ、そしてザムザだ。

 ぴょんぴょん踊るように歩いているのはクロだろう。

 ミルはまたとんでもなく大きな荷物を背負っているようだ。

 見慣れない小さな人影も二つ、子供だろうか。

 あの立ち姿は……間違いなくマリーだな。

 そしてその中心に居て、こちらへ大きく手を振っている中肉中背の男。


「待ちくたびれたぞ、ボナス! まったくお前は……」

「あぁ、おそくなってごめんよ、オスカー。店守ってくれてたんだってな、ありがとう! いやぁ、なんだか懐かしいな~」


 相変わらず気の抜けるような笑顔だ。

 だがそうだ、こんな顔だった。

 あの日、妙な小鬼を連れ突然俺の工房の戸口に現れた男は、たしかにこんな顔をしていた。

 ああ、良かった……生きていてくれた。


「どうしたオスカー? 珍しく大人しいじゃないか。あっ、そうだ、タコあるけど食べるか?」

「――まったく、おまえは! 何処で何をしていたのか知らんが、仕事が山積みだぞ! あとタコはもらう!」

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