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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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第168話 潮風呂

「昨日と同じように風呂に入っているだけなのに、あまりに状況が変わっていて不思議な気分だな」

「ぎゃぁ~ぅ~」

「お風呂、気持ちいいね」

「星空と潮騒……ヴァインツ村を思い出しますね~。あっ、しょっぱい!」


 カミラの船を吹き飛ばした後、果たして何を優先すべきか迷ったものの、まずは全員で潮風呂へ入ることにした。

 疲れて見えるのはサイードくらいだったが、皆あまりにも汚れ切っていたのだ。

 ただ、潮風呂はそれなりの広さはあるものの、全員で入るには小さい。

 なので、食事を作ったり魚を釣ったりしつつ皆で交互に入浴することにした。

 そして今は俺の番。

 隣にはクロとシロ、そしてなぜかラウラがいる。

 夜、湯浴み着を羽織っているとはいえ、貴族のご令嬢がこれほど開放的に振舞って良いのだろうかとも思うが、本人は気にする様子もなく、無邪気に楽しんでいる。

 確かに俺もふわふわと少し浮かれたような気分だ。

 クロやシロの存在、そしていつもとは違う、まわりの雰囲気がそうさせるのだろう。

 暗闇の中、寄せては引いていく波の音に混じり、ギゼラやザムザ、ミルやマリーの楽し気な声が聞こえてくる。

 それに、この少し油っ気を感じさせるうまそうな香り。

 今日はタコだけじゃない。

 魚や肉も焼いているようだ。

 そこにビビやガストのはしゃいだ声も当たり前のように混ざっている。

 なんだか不思議な気持ちなるな……。

 ここ数日、洞穴族の二人と過ごしたこの潮だまり。

 今は俺の肩に頭を乗せ湯に体を遊ばせるクロやタコのように腕を絡めてくるシロがいる。

 昨日まで別々に進んでいた物語が、急に混ざりはじめたように感じる。


「それで――ぴんくちゃんは……やっぱり?」

「ああ、ラウラの言った通りだよ。とはいえ、結局よくわからないことも多いんだけど……。いま把握してることとしては――」


 そう、真っ二つになったと思いきや、見事に復活したぴんく。

 どうやらこいつの本体は俺の中に住みついているらしい。

 ただ、自意識は小さなトカゲの姿にあるようだ。

 アバターみたいなものなのだろうか。

 魔力とはまた違う、魔法に関わる謎の物質で俺の中の一部を占拠し、一体化しているらしい。

 要するに寄生されているようだ。

 ただ、脳みそが乗っ取られているのかと思いきや、ほとんどが腸内に根を張り、一部が脳と連携をとって機能しているらしい。

 真剣に考えると怖くなってくるので、腸内細菌みたいなものだと思っておくことにした。

 実際、免疫にもかなり良い影響を与えているようだ。

 そういえば、ここに来てから病気らしい病気をしたことが無いし、それなりに酷い怪我もしてきたが、化膿したことは一度もない。

 寄生する際に、俺の記憶を一部食ったらしいが、そんなことがどうでもよくなるほどには恩恵を得ている気がする。


「ほんとぴんくには感謝だなぁ……」

「私もそれなりに魔法を理解していたと思っていたんですけどね、まったく理解不能です……神様かなにかかしら?」

「つまみぐいの神様だろ」


 ラウラの視線に釣られ振り返ると、ミルに摘まみ上げられたぴんくが手足をジタバタさせている。

 口が不自然に膨らんでいるところを見ると、またなにかつまみ食いしたのだろう。

 ふと目があうと、気まずかったのかぷいっと顔を背けられた。

 神様は無いな……。

 ちなみにぴんくと俺は同じ対象を集中して見ると、たまに視界が共有されていることがあるらしい。

 たしかに思い返すと何度かそう言うことがあった。

 特にぴんくと一緒に敵を観察したり、撃とうとするときなどは、視界がいつもと違うように感じることがあった。

 もしかしてぴんくが酔いやすいのもそのせいなのかもしれない。

 あんなに狙撃が下手なのに、目だけはかなり良く、それなりに夜目も効くようだ。

 とはいえ意識的には使えないので、なにか役に立つかと言われれば微妙なところだ。

 ちなみに目だけではなく、実は嗅覚も一時的に共有していたりするらしい。

 ぴんくがレーザーブレスを撃った後、甘い香りを感じていたのも、ぴんくが魔力を匂いに近いものとして知覚しているからのようだ。

 あり得ないほどの超高濃度の刺激なので俺にも共有されたのだろう。


「――ボナスさん。私もご一緒しても?」

「うぉっ! メ、メナスもこっちきたんだ。もちろんいいよ!」

「ぐぎゃうぎゃう、め~なす!」

「あ、お酒持ってきたんだ。ありがとう、メナス」

「こんばんはクロちゃん。はい、シロさんどうぞ。ラウラ様は上がってからにしましょうね。あら~……潮風呂というのも意外と気持ち良いですね。ん~……波の音が聞こえるのも風情があります」

「ボナス、顔がにやけていませんか……?」


 先ほどまでサイードと商売上の取り決めなどを話し合っていたメナスが湯浴み着を羽織って現れた。

 薄紫の瞳を子供のように輝かせ、ラウラの横に静かに身を沈める。

 メナスは意外と好奇心旺盛で新しいものが好きだ。

 多少リスクがあるようなものでも自分で試してみたがる。

 かつての俺も相当怪しい人物だったが、彼女は暖かく受け入れてくれた。

 それにしても……色っぽいな。

 ラウラに比べそれほど肌の露出が多いわけでもないのだが、目が持っていかれる。


「メナス、今回もいろいろ動いてくれたみたいで、本当にありがとう。俺はもう一生メナスには頭が上がらないよ」

「いえいえ。私も珍しく感情的になってしまいましたが……結果的には大きな利益に結び付きましたから。サイードさんとも良い取引が出来そうです。今後の商売はサクの街まで足を延ばすことになるかもしれませんね~」

「サイードは今後ボナス商会の傘下に入るらしいから、どんどん無茶を言ってやってくれよ! あと……近々俺の本拠地にも案内するよ」

「あら、アジトですか? それは楽しみですね! ボナスさんは地獄の鍋に住んでいるのでしょう? ふふふっ……年甲斐もなくドキドキしてしまいますね」


 王国と帝国の関係が緊張している今、メナスも商売が難しくなってくるだろう。

 場合によっては戦争状態になる可能性もあるのだ。

 メナスは俺がこの世界に来てからの一番古い友人であり、同時に最も世話になった恩人でもある。

 いまさらアジトへと連れて行くのに迷いはない。


「とっても良いところですよ!」

「ラウラ様は何度か訪れているのですよね?」

「ええ、住む予定ですからね!」

「あら、良いですね。私も引退後はそうしようかしら?」

「メナスなら大歓迎だよ。今はいろいろ難しい時期だと思うし、いつでもうちに来てくれ。実際、少し真面目に商売もしようかと思っているし、メナスのような人が相談役として近くにいてくれるとうれしいんだけどなぁ」

「うふふふっ、ありがとうございますね」

「わ、わたしは……!?」

「ラウラはもう半分住んでるようなもんだろ?」

「う、うれしいですか?」

「ああ、嬉しいよ」

「そ、そうですかぁ……んふふふっ」


 俺がとやかく言うまでもなく、ラウラはとっくにアジトに馴染んでいる。

 変わった隣人達とも、実にうまくやっている。

 むしろ魔力に敏感な分、俺以上に親密な気さえする。

 少なくとも俺は通りすがりの蜂とダイエットについて雑談するようなことはない。


「メナスとはそれじゃここから一緒に移動できるのかな?」

「いえ、先行してタミル帝国へ行こうかと考えています。ここからなら海路も使えますから。なにより、今行かなければ次はないかもしれませんからね……」

「そうなんだ……う~ん残念だなぁ。まぁサヴォイアで待ってるよ」

「はい。それでその前にボナスさんへどうしても話しておかなくてはいけないことがあります」

「ああ――、あいつのことだろう?」

「ええ、アジールさんのことです――」


 メナスは雰囲気を少し深刻なものへと変えた。

 彼女は俺が捕らえられていた間、カミラについての情報を徹底的に調べて上げくれていたらしい。

 その過程でアジールについての情報も深く知ることになったようだ。

 何も今、風呂に浸かっているような状況で話さなくてもと思うが、むしろメナスはこういう状況で話したかったのかもしれない。

 たしかに、この星空の下で湯に浸かりながら聞くと、どんな事実も穏やかな気持ちで受け入れられるような気がしてくる。

 それにアジールについては俺もあれからいろいろと考えた。

 なので、もうある程度の予想はついている。


「アジールさんはタミル帝国と関わりのある魔人でした」

「やっぱり……そうだったのか……」

「昔ボナスさんがサヴォイアを離れた際に、傭兵らしき集団に襲われたことがありますね?」

「ああ、シロと出会って直ぐの頃だね」

「それを裏で指示していたのもアジールさんの可能性が高いです」

「そんな頃から……。もうあまり覚えていないけれど……確かあの時は、ハジムラドからアジールを護衛として紹介されて……そう、その後仲介された変な傭兵が結局俺のことを襲ったんだ。それもアジールの差し金……?」

「そんなこともあったね~」

「ぎゃうぎゃう」


 もう顔さえも思い出せないが、クロとシロの三人でサヴォイアを出る際、傭兵に襲われたことがあった。

 とはいえあの時はシロがタイミングよく仲間になってくれたおかげで、簡単にあしらうことができたのだ。

 ただ、その面子の中に、護衛を頼んだ傭兵の顔があり、そのことにずいぶんとうんざりした気持ちにさせられた。

 あの後エリザベスが仲間に加わったりといろいろなことがありすぎたし、傭兵たちを皆殺しにしてしまったので、ハジムラドに文句も言えなかった。

 だが、やはりあれはかなり特殊な事例――というよりもアジールの差し金だったようだ。


「ええ。ハジムラドさんに確認したところ、ボナスさんを襲った傭兵は、アジールさんが次の護衛候補として推したらしいですよ」

「アジールは俺を殺したかったのか……いや、それならいくらでも別に機会はあったよな」

「ボナスさんは……とても変わって見えますからね。念のため探りをいれたのかもしれません」


 少し変わったやつがサヴォイアに紛れ込んできたから、試しに素行の悪い傭兵を利用して小突いてみようと思ったのだろうか……。

 簡単な仕事の割にまじめに護衛をしてくれてくれる良い傭兵だと思ったのだが……どうやらあれは俺を観察していただけのようだ。


「そんな俺変わってるのかなぁ……。あぁ、そういえばクロのことを珍しそうに見ていたし、そっちかな?」

「ぎゃう~?」

「そうかもしれません……が、ボナスさん自身も十分変わっていますよ」

「私もボナスは変わった人だと思いますね。間違いなく変ですね!」

「サヴォイアには変わり者が多いですが、大体はどういった人生を歩んできたか予想がつきます。けれど長年手広く商売をしてきた私でさえ、ボナスさんのこれまでの人生はまったく想像することができません」

「そ、そうかなぁ……」

「アジールさんが興味を持ったのも不思議ではありません」

「でも、黒狼の討伐はどうして誘われたんだろう? あれはタミル帝国の差し金だったよね? 結局俺達が参加したことで倒してしまったし……」

「ええ、基本的にはタミル帝国が組織的に行ったことでしょうし、なんらかの形でアジールさんも協力していたでしょうね」


 黒狼の討伐か……もうずいぶん前のことな気がする。

 記憶が曖昧だな。

 ただ、アジールが何か率先して行動していた記憶はない。

 黒狼に限らず、これまでずっとそうだった。

 いろいろと愚痴りつつも、引き受けた仕事を卒なく淡々とこなしている印象が強い。

 それに、あの時はアジール自身、相当の数の黒狼を倒していた気がする。


「あまりタミル帝国のために動いていたようには見えなかったけどなぁ……」

「実際、アジールさんの行動にはあまり一貫性がありませんね。必ずしもタミル帝国の利益のため動いているわけではないのかもしれません。ただ、ヴァインツ村復興の際、会合でピリさんとボナスさんを揉めさせようとしたのは確かだと思います。ボナスさんがヴァインツ村の復興に協力することを良く思っていなかったのでしょう」

「ん~? ああ、あれかぁ……。確かに今思い返せばピリの奴、なんで初対面であんな攻撃的だったのか不思議だったんだよな……ハジムラドもなんだか焦っていたし」

「長期遠征で皆疲労しているところ、長々と待たされている状況を作り出し、それが全てボナスさんの都合によるものと誤認させていたようです」

「おぉ……そうだったんだ。なんだかピリには色々悪いことしたな。今回もかなり協力してくれたみたいだし」

「ふふふっ、ピリさん、意外とボナスさんのことは好きだと思いますよ。ここ数日行動をともにすることも多かったのですが、悪態をつきながらも言葉の端々から好意を感じましたね。一緒にお酒をつくるのも楽しみにしているようですよ」

「そっか……今度、タコでも食わせてやろう」


 出会いは最悪だったが……なかなか人間関係わからんもんだな。

 仲間がピリを殺してしまわなくて本当に良かった。

 しかし、俺がピリと揉めているあいだ、アジールの奴居眠りしていたが……あれは狸寝入りだったのか。

 そう思うとやっぱり腹立たしいな。


「しかし、それじゃあ復興時に現れた魔人もアジールの仲間だったわけだ。しかし……あいつ何がしたかったんだろう。路地裏で死んだわけじゃないんだよな?」

「アジールさんは路地裏で刺されて死んだことになっていますし、傭兵斡旋所でも死亡扱いになっています。ですが、誰も死体の行方は把握していませんでした。この状況自体がアジールさんの狙ったものかもしれませんが、魔人の考えることですから……やっぱりわかりませんね」

「あいつは……アジールは多分、たとえタミル帝国のスパイだとしても、嘘はつかないタイプだと思うんだ」

「そう……かもしれませんね。もし彼が嘘つきであれば、マリーさんが黒狼討伐の際に見破っていたでしょうし……」


 アジールは俺達を欺いたかもしれない。

 だが、これまでに嘘を言ったことはない気がする。

 だからこそ、誰もあいつの発言には裏を見ようとはしなかったのだろう。


「あいつと最後に飲んだ時、ほとんど馬鹿話しかしなかったが……ただ、戦争は嫌いだって言ってた気はする。もしかして、より大きな視点で見ると――俺たちのヴァインツ村への介入は、戦争を招く原因になったのかな……?」

「それは……どうでしょうか?」

「どうしてそんな顔をしているのですか、ボナス? そんなことは大した問題じゃありませんよ」

「え、えぇ……」


 ラウラは俺の顔を見て、本当に不思議そうに首をかしげている。

 貴族であるラウラから見ると、王国と帝国の間の関係も、また別の見え方をしているのだろうか。


「レナス王国は戦争が好きですし、帝国は常に領土的野心に溢れています。もう、これはそれぞれの国の本能のようなものです。そんな二国が隣接すれば、好き嫌いにかかわらず戦争は必ず起きるものですし、その要因を突き詰めても意味がありません。それに、延々小競り合いを続けながら数百年栄華を誇る国もあれば、長い平和を享受したのち一瞬で滅亡する国もあります。ボナスが思い悩むようなことではないですよ。ただ、私はヴァインツ村の復興を通してあなたに救われましたし、当然村人たちも同様でしょう。それで良いじゃないですか。後のことは国政を担う貴族や官僚、兵士達に任せれば十分でしょう」


 この世界、この時代の貴族は俺が思っているよりずっと割り切った考え方をしているようだ。

 俺のようなぬるい人間が彼女の言うことをそのまま飲み込むのは難しいが、たしかに俺が考えてもどうしようもない問題であることは確かだ。

 国同士の関係なんて手に余る。

 実際俺自身レナス王国の人間かと問われても、その実感はあまりない。

 そうだな……そんなことよりクロやシロ、仲間達や友人のことを考えるべきだ。

 今身近にいる人間を大切にしよう。


「おい、ボナス! たいへんだ、これ食ってみろ! ミルの奴すげぇ、天才だ!」

「これ、ほら! これ、すごいよ、ね!」

「ビビ、ガスト、まぁ落ち着けって……なるほど、ミルの奴アジトの食材も持ってきてたんだな」


 大きな皿を抱えたビビとガストが興奮した様子でこちらへ駆け寄ってくる。

 少し感傷的に振れていた気持ちが、この二人を見ていると一気に吹っ飛んで行く。

 どうやらミルの料理に感動したようだ。

 ここで採れた海鮮にキノコや香味野菜、香辛料を加え、獣脂で煮たもののようだ。

 たしかに食べ飽きたはずのタコでさえ、とんでもなくうまそうだ。

 アジトのハーブや柑橘類もふんだんに使われており、懐かしい香りに思わず顔がほころぶ。


「ぎゃ~ぅ……おいしぃね~、ぼなす」

「タコ、お酒に合うね」

「そうだな。クロ、シロ。ここで採れた魚なのに、アジトの味がして泣きそうだわ。これはぴんくもつまみ食いするわけだ」

「うわぁ! ミルのお料理は久しぶり……あふっ、ああっ、美味しいです!」

「それじゃ、そろそろ上がって……メナスも良かったら食べてってよ。あ、エッダ達は?」

「ふふっ、もう混ざってるようですよ?」

「え? ああ……ジェダの奴、相変わらず心配になる食い方だなぁ……」


 メナスの視線を追うように振り向くと、とっくにメナス商会の面子も合流していたようだ。

 ジェダは口から触手をはやした化物みたいになっている。

 今日採れたタコはかなり立派なものだったようだ。

 爺さんの癖に食べ方がダイナミックすぎる。


「なぁビビ、ガスト、洞穴族の他の連中もできれば呼んでやってくれないか? ここじゃあ、いろいろと世話になったし……これからもなるだろうしな! あとは……来るかはわからんがサイードにも一応声かけてやってくれよ」

「おう、いいぜ! そうか、そうだよな……俺達もボナス商会になるんだもんな?」

「ああ、あらためてよろしくな」

「お、おう!」

「よろしくね、ボナス……えへへへ。じゃあ、呼びに行こっか、ガスト」





 海水を川の水で洗い流し着替えているあいだに、洞穴族も集まってきていたようだ。

 若い洞穴族たちは、本物の鬼がいる、鬼怖い~、などと口々に言いながらも、ギゼラとザムザに群がっている。

 ギゼラが悪乗りして一人捕まえるとキャーキャーと嬉しそうに叫んでいる。

 一方のザムザはなぜかビビを肩車しており、そこに数人の洞穴族が列をつくってキラキラした目で見上げている。

 元々陽気で人懐っこい連中だが、ずいぶんと楽しそうだ。

 ある程度年を重ねた洞穴族も、ミルの料理やメナス商会の持ち込んだ酒に大興奮で、一口ごとに皿やコップを高く掲げ歓声をあげている。

 見た目もやっていることも、あまり子供と変わらない。

 普段は優秀な職人なんだけどな……。

 今までタコを嫌っていた連中も、ミルによりうまく調理されたものをそれとは知らずに、実にうまそうに食っている。

 ビビとガストがそれを見て、ニヤニヤと悪い笑顔を浮かべていたりする。

 あれは食い終わったところで教えてやるつもりなんだろうな。

 それにしてもとんでもない賑やかさだ。

 こいつら全員引き連れてアジトに帰って大丈夫だろうか……。

 楽しそうではあるが、環境に馴染めるかもある。

 やはり最初はビビとガストでお試しだな。

 ぽつぽつと並ぶ小さな明かりや、その光に照らしだされる明るい笑顔を見ていると、なにかの祭りにでも紛れ込んだような気持ちになってくる。

 いつのまにか疲れた顔のサイードも混ざっており、ジェダの横でやけくそのようにキノコを食べている。

 マリーはどこから持ち込んだのか敷物の上にコハクと寝そべり、その毛並みを堪能しつつ、ご満悦の様子で酒を傾けている。

 ただだらしなく酒を飲んでいるだけなのに、無駄に絵になる奴だ……。


「ぼなすー」

「ごはん、たべよ?」

「ああ……今日は良い夜だな」


 いつのまにか着替え終えたクロとシロが横に寄り添うように立っていた。

 久しぶりに仲間と過ごす夜。

 想像していた以上に満ち足りた気持ちになる。

 ただ、それだけに残念だ。

 目の前の風景に、アジールが混ざっていたとしても何の不思議もなかった。

 いまごろあいつは何をしているのだろうか。

 意外に近くから俺達を観察しているのか。

 まぁ鼻の効くコハクがいるこの環境じゃ無理だろうな。

 まったく……無駄に心配させやがって、腹立たしい。

 そういえば最後に飲んだ時、あいつは故郷に帰ると言っていた。

 たぶんあれも本当のことだろう。

 周囲には死んだことにして、ただ一人故郷へと帰りたかったのだろうか。

 俺には分からない、しがらみのようなものがあったのかもしれない。

 だとしても、変な風に振り回してくれたものだ。

 一歩間違えれば、俺だって死んでいた。

 だがそれでも――実に腹立たしいことに、どうしてもあいつを嫌いにはなれない。

 また、会うことがあるだろうか。

 あいつのことだ、またいつの日かふらりとあらわれ、二日酔いの酷い顔であたりまえのようにコーヒーを注文してきそうだ。


「あっ! そういえば、ボナス」

「うん? どうしたんだ、ラウラ?」

「うっかり忘れていたのですが、お父さまがボナスにとても会いたがっていましたので、ひと段落着いたら領主館に来てくださいね!」

「あ、あぁ……お父様……ね」


 着替え終えたラウラが明るい笑顔でそう言ってくる。

 彼女の父親……それはつまりサヴォイア領主だ。

 そういえばラウラもずいぶん雰囲気が変わった。

 彼女の理知的な面はそのままに、逞しく、自信にあふれ、そして美しくなった。

 太り始めたときはどうしようかと思ったが、今目の前にいる彼女は誰がどう見ても魅力的だ。

 だが――それは父親目線になると果たしてどうだろうか……。

 あとは気楽にサヴォイアへ帰るだけ、などとのんきに構えていたが、どうやらそうもいかないようだ。

 う~ん、早速新しい心配事が出てきたなぁ。

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