第167話 はじまりのトカゲ④
サヴォイアの路地裏で、私は真っ二つに切られてしまった。
普通に痛くて――怖かった。
とはいえ、もちろん死んだわけでは無い。
本当の私はボナスの中にいるのだから。
あぁ……ボナスが無事でよかった。
けれどボナスは私が死んでしまったと思い、ずいぶん落ち込んでしまっているようだ。
こんな状況なのにぐったりとしてしまって動かない。
このままではまずいことになる。
ボナスが生きてさえいれば、いずれ仲間達が必ず助けてくれるはずだ。
何とか私が生きていることを伝えなくては。
でも、どうやって……私の身体を再構築するには少し時間がかる。
魔素の豊富なアジトであればともかく、ここではそう簡単に魔素を集めることもできない。
ああ、どうしよう……どうしよう……。
なんとか内側から声を届ける方法を考えないと。
だけどボナスは――怒らないだろうか?
私は彼の大切な記憶を食べてしまったのだ。
そのことはまだ彼には伝えていない。
いやだなぁ……、ついこのあいだチョコレートを摘まみ食いしただけであんなに怒っていたのに。
記憶を食べたちゃったなんてバレたら、嫌われてしまうかもしれない。
嫌だぁぁ……。
夢の中で彼に会うことができた。
私の姿を見てボナスが涙を流し喜んでいる……嬉しい。
嫌われたくはないけれど、やっぱり正直に彼に伝えるしかないか。
いずれは伝えようと思っていたのだ。
ちょうどいい機会だと思おう。
ボナスはなんだかんだ言って私にやさしい。
最終的には許してくれるはず……だと、いいなぁ……。
よし、言っちゃうぞ~。
などと覚悟を決めたものの、そう言えば私は言葉を喋ることができない。
もちろん、何を言いたいのかは理解できるが、彼の言葉の意味を理解しているわけでは無い。
とはいえ脳を共有しているのだから、頑張れば伝わるはずだ。
せめて私が生きていることだけでも理解させなきゃいけない。
が、がんばろう!
数日が経過した。
あれから毎日ボナスと対話を重ねている。
もちろん夢の中で。
まだまだ体を構築できるような魔素は溜まっていないのだ。
ただ、私の言葉をそのまま彼に伝えることはできない。
脳は共有しているけれど、やっぱり認知構造はかなり違うのだ。
それでも彼の言葉は理解できるし、それに対する私の感情を伝えることもできる。
時間はかかるけれども、なんとか意思疎通はできている。
意を決して、私が彼の記憶を食べたことも伝えた。
彼は酷く驚いていたが、最終的にはもう食べちゃダメだぞと笑っただけで、むしろ感謝された。
いつも一緒にいてくれてありがとうと言いながら、やさしく私を突っついた。
んふふふっ、私のボナスはまったく……可愛い奴だなぁ!
ちなみに、最近彼の物忘れが酷いことに私の関与が疑われたが、まったく身に覚えがなかった。
そのことを伝えると、なんだかボナスはしょんぼりしていた。
それからまた数日。
ボナスは弱いが相変わらず適応能力は高いようだ。
ビビとガストという名の、みょうちくりんな連中とさっそく仲良くなった。
洞穴族というらしい。
意外と魔素を体内に沢山持っているようだ。
もともと地獄の鍋に住んでいた類の種族だろう。
このまま仲間になるようなら、またアジトで魔素をねじ込んでみようかな。
何が起きるか……面白そう。
そして三人は毎日のように私の大嫌いなタコをムシャムシャ食べている。
あの吸盤のついた足をみていると体がゾワゾワする。
おえっ~……。
まったく、あんなものをおいしそうに食べるなんて……どうかしてるよ。
それからさらに数日。
ついにコハクが来た。
さすがに鼻が良い。
普通、コハクほどの大きさのキダナケモになると、魔素の薄いこんな場所まで来ることは不可能だ。
だけどコハクはもちろん普通じゃない。
赤ちゃんの頃から私が延々魔素をねじ込んでおいたのだ。
かなりの無茶が効く。
そこからは簡単だった。
次々に仲間が合流し、あっという間にカミラの拠点を破壊していく。
なんだか仲間達みんな、昔に比べてずっと強く頼もしく感じる。
別に私が魔素をねじ込み続けたからというわけじゃない。
私と私のボナス、そして仲間達がいればなんだってできるような気がしてくる。
不思議な安心感を感じる。
ああ……はやくアジトに帰りたいな。
「私が魔法で……距離は厳しいですが、なんとか無理をすれば奇跡的に燃やすこともできなくは――」
「いや、ラウラ。それは――こいつがやるみたいだよ」
よし――、私のかっこいいところも、見せちゃおっかな~!




