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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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164/202

はじまりのトカゲ①

 いまでもふと思い出すことがある。

 かつての私もまた、小さなトカゲだった――。

 湿った森。

 苔むした岩々。

 生い茂る植物。

 小さく力の弱い私達の種族は、いつも物陰に潜み、隠れるように暮らしていた。

 私達を食べようとする生き物は数多くいたし、事実仲間達はよく食べられてはいたが、あまり生活が大変だったという記憶はない。

 他の生き物たちのように、ものを食べる必要が無かったからだろう。

 これは後から知ったことだけれど、私たちのが持つ性質はとても珍しいもののようだ。

 それは、周囲の魔素を集め、貯めることができるというもの。

 溜め込んだ魔素で、傷を癒したり、少し体を大きくもできる。

 敢えて言うのであれば、これが私達の食事ということになるのだろうか。

 ただし、残念なことに大した魔法は使えない。

 ほんの小さな火を噴く程度。

 しかも、我ながら冗談かと思うほどへたくそだ。

 素早く魔法を組み立てることも出来ないし、狙いをつけるのも苦手。

 その威力も精々枯れ枝を燃やす程度。

 あんまり役に立たない……。

 もちろん集めた魔素で体を大きくすれば、体の大きくない捕食者からは食べられにくくはなる。

 けれど、いままで体の大きい仲間を見たことはない。

 そもそも、魔素を集めるのも体を大きくするのも、時間がかかりすぎる。

 なにより私たちは、周りの生き物から、とっても美味そうに見えるらしいのだ。

 いろいろな生き物たちが競うように、私達を食べようとする。

 大きくなる暇もなく、食べられてしまうのが普通なのだ。

 実際、仲間のほとんどは大きくなる前にむしゃむしゃと食べられてしまった。


 そんな中、私はとてつもなく運が良かったらしい。

 何度も襲われ死にかけはしたけれども、たくさんの幸運が重なって、奇跡的に生き抜くことができた。

 穴に隠れ、水に潜り、時には大きな生き物にばれないようにくっついて。

 何本もの尻尾を犠牲にしつつも、食われることもなく、森中を逃げ回り続け、生き残ることに成功した。

 そうして気がついた頃には、私の身体はこの森の誰よりも大きくなっていた。

 私を食べようとする生き物はいなくなったのだ。


 隠れる必要がなくなった私は、堂々と森を歩き回るようになった。

 魔素を思う存分集めつつ、延々と同じような日々を繰り返す。

 そして長い時間が過ぎた。

 私は当然のこととして、ずっとこの暮らしが続くのだろうと思っていた。

 だけど、そうはならなかった。

 いつのまにか森から音が消えていたのだ。

 不自然なほどの静寂。

 この慣れ親しんだ森は、いつのまにか死にかけていたのだ。

 かつてこの森にはたくさんの生き物がいたはずだ。

 昼夜問わず、鳥や動物の声が響き渡っていた。

 それなのに今は、ただ私の巨大な体を引きずる音だけが重く響き渡るのみ。

 あたりをよく見渡してみると、植物も随分と減ったような気がする。

 かつては多種多様な木々が入り乱れるように茂っていたが、今は数種類の樹木が弱々しく点在するのみ。

 魔素が無くても生きることができる、極わずかな植物たちだ。

 自分が小さなトカゲだった頃とは、まるで風景が違ってしまった。

 魔素を必要とする生き物たちが死滅し、もはや森とは言えないほどに荒廃してしまった。

 森から魔素が消えた。

 いや、私が全て吸収してしまったのだ。

 私は仕方なく、自分が生まれた森を離れ、別の森を探すことにした。

 

 体が大きくなり、移動も早くなったせいか、新しい森はすぐに見つかった。

 かつて住んでいた森と同じように、多種多様な生き物の気配を感じる。

 とても賑やかな場所。

 この場所にも私を食べようとする生き物はもういない。

 さて――これだけ豊かな森なのだ、当然魔素もたくさんある。

 しばらくはこの森でのんびり暮らせるだろう。

 そう思っていた。


 だけれども、どうやら私は間違っていたようだ。

 結局は同じことの繰り返し。

 考えるまでも無いことだ。

 私は何もしていなくても、ただひたすら魔素を集め続ける。

 この性質がある限り、こうなることは必然。

 結果は最初と同じ。

 時間が経つにつれ、新しい森からも魔素はなくなっていった。

 私はより一層魔力を溜め込み、体もさらに大きくなった。

 同時に、生き物は消え、森は沈黙した。

 また、次の森を探さなくては――。


 いくつもの森を枯らし、また新たな森を探し歩く。

 そんなある日、私は唐突に攻撃を受けた。

 ごつごつとした岩場を重い体を引きずって歩いていると、突然横腹を蹴り飛ばされたのだ。

 痛い――。

 だけどそれ以上にびっくりした。

 攻撃を受けるのは本当に久しぶりだ。

 相手は私と同じくらい大きなトカゲで、そいつにはさらに翼までついていた。

 翼のあるトカゲは今まで見たどんな生き物より強く、素早く、魔法も上手かった。

 空から一方的に背中を炎で焼かれ、大きな鍵爪で体を引き裂かれた。

 あまりにも圧倒的な力だ。

 敵うわけがない。

 当たり前だ。

 体こそ大きいが、いままで敵を攻撃したことさえないのだ。

 どう戦って良いのか分からないし、この図体じゃ逃げることもできない。

 あぁ……私もここで終わりのようだ。

 だけど、それでいいのかもしれない。

 私はただひたすらに森を枯らし、魔素を蓄えるだけの生き物。

 結局同じことの繰り返し。

 もう十分だ。

 ただ――少しだけ、もったいないな……。

 大空を我が物顔で滑空するトカゲを見上げながら、ぼんやりとそんなことを思った。

 せっかく膨大な魔素を溜め込んだのに、ただこのまま死ぬなんて。

 そう思い、最後に私のへたくそな魔法を使ってみることにした。

 空飛ぶトカゲはボロボロで動けない私に、止めを刺すつもりなのだろう。

 何の警戒もなく、悠々と目の前へ近寄ってくる。

 私は魔法が苦手だ。

 狙いをつけるのはとりわけへたくそだと思う。

 けれども――あの油断した大きなトカゲであれば、なんとか当てられそうだ。

 すべての魔素を使い切る勢いで、大きく口を開ける。

 魔法を使うのは本当に久しぶりだ。

 私が唯一使える魔法。

 ただ小さな火を吐く魔法。

 ゆっくりと間違えないよう、慎重に組み上げる――。

 その瞬間、目の前が真っ白になった。

 強烈な光にびっくりして、まぶたをギュッと閉じる。

 いままで嗅いだことのない程の凄まじく濃厚な魔素の匂いがする。

 そして、再び目を開けたとき、目の前のものは全てなくなっていた。

 空飛ぶトカゲも、ごつごつした岩山も、何もかもすべて。

 私が魔法を使った後には何も残ってはいなかった。

 完全な更地が見渡す限り広がっていた。

 これは……私がやったことなのだろうか。

 少しクラクラとめまいがするだけで、あまり実感が無い。

 ただ、私の中に蓄えられていた膨大な魔力が、わずかに、ほんのわずかに減っている気がする。

 これは……もしすべての魔素を使い切るような火を噴くと、この世界全てを燃やし尽くしてしまいそうだ。

 遥か昔、この魔法を使った時は、枯れ枝一本まともに燃やせなかったのに。

 小さなトカゲだったあの頃と比べ、なにか別の生き物になってしまったような気がした。

 そうして思いがけず生き残ってしまった私は、結局どうすることも出来ず、また退屈な日々へと戻ることにしたのだ。


 それからも、たまに変わった生き物から襲われることがあった。

 中には自分より巨大で強力な生物もいたけれど、あの時と同じように、私が魔法を撃てば全て消えてしまった。

 そして不思議なことに、私を襲う生き物たちを倒せば倒すほど、より強いものがより頻繁に、私を襲ってくるようになっていった。

 私はそんな生き物たちから襲われ続ける日々にうんざりしていた。

 まだ小さいトカゲだった頃の方がましだ。

 あの頃は、いつ食べられるか恐ろしい毎日ではあったが、それでも森の中を潜み隠れ、静かに歩くのは悪い気分では無かった。

 今はあまりに体が大きくなりすぎて、静かに身を隠すことも、森を散歩することもできない。

 ただもちろん、良いこともある。

 体が大きくなるにつれて、頭はよくなっていった。

 いろいろと複雑なことを考えられるようになったし、魔法も少しだけ上達した。

 とはいえ、巨大な体を引きずり歩き回り、襲い来る生き物たちを倒し続ける毎日。

 魔素の豊富な森は、もうこの世界に残ってはいない。

 私が行く先々では、森が枯れ、周囲の景色がどんどん荒れていく。

 そんなうんざりするような日々は、ある時急に終わりを告げる。

 私の身体が魔素を吸収しなくなったのだ。

 最近なぜか襲われなくなったなぁなどと思いながら、重い体を引きずり歩いていたある日、私は直観的に気が付いてしまった。

 ただ、もちろん私の身体が急に変わったわけでは無い。

 吸収すべき魔素が無くなったのだ。

 多分私は、私がいる世界のすべての魔素を溜め込み切ってしまったのだ。

 すべての魔素は私にあり、私自身が魔素そのものと言えるような存在となってしまった。

 もうこの世界で残っている生き物は極わずか。

 魔素が無くても生きていける、弱い生き物ばかりだ。

 私はこの世界を……終わらせてしまったのだ。

 その恐ろしい事実に気が付き、絶望し――眠ることにした。


 そうして何年経っただろうか。

 十年、百年、千年、……それとも何億年?

 永遠のまどろみの中、私はただひたすらに自らの内側に耳を澄まし。

 魔素と私自身を知り、少しづつその存在を変化させていった。


 私は無限に魔素を溜め込むこの体にうんざりしていたし、もはやどのような傷を負っても死ぬことができない、この巨体も嫌だった。

 なので私は、私が使える唯一の物、魔素により私自身を消してしまうことにした。

 ただこの巨体では、頑張って火を噴き続けても残された世界を滅ぼすばかりで、一向に魔素は減らないだろう。

 それに自分の身体だけは唯一どう頑張っても燃やせないのだ。

 工夫が必要だ。

 私ができることは、魔素を溜め込むことと、溜め込んだ魔素を物質化すること。

 ならばその逆もできるはずである。

 私自身を物質から解放して、すべて魔素にする。

 そうして私は私自身を消し去ろうと考えた。

 けれど、それは魔素を蓄えることよりも、はるかに難しい試みだった。

 魔素を貯めるという、私に備わった最も素朴だと思っていた機能は、想像以上に異常で複雑なことのようだ。

 どれほど時間を使おうが、理をもって解明できるようなものではなかったのだ。

 そこで私は方針を少しだけ変え、まずは魔素とわたしの体を一体化させることから始めた。

 溜め込んだ魔素をすべてを私自身の身体にしたともいえるし、私の身体全てを魔素に変えてしまったともいえる。

 より正確にいうのであれば、この時はじめて魔素という概念が誕生したと言ってもいい。

 魔法をなしうる最小の単位、魔素。

 魔素の総体こそ私であり、同時に個別の魔素全てに私が格納されているともいえる。

 果てしない試行を重ね、ついに私と魔素はそのような奇妙な存在へと融合した。

 そこからはとても簡単だった。

 ただ願うだけ――、それだけで私は消滅し、ただ個別の魔素となり、世界へと果てしなく広がっていく。

 そうして、私は完全に消えたのだ。

 普通の生き物が死に、土に還り、別の生き物、この世界の材料になるのと同じことだ。

 私は死に、魔素に還り、別の生き物、この世界の新たな材料となるのだ。


 ただ……少しだけ誤算もあった。

 偶然にも魔素がある一定の密度と配列で集まると、私が生まれてしまうのだ。

 そう、ピンク色の小さなトカゲとして。

 まぁ確かに私自身が魔素なのだ。

 世界に拡散する魔素、その全てに私が記憶されている。

 奇跡的な偶然により、そんなことが起こってもおかしくはないのかもしれない。

 それに、世界にとって、そんなことは些末な問題だ。

 小さなトカゲだった私は果てしなく弱いのだ。

 脳も小さく難しいことは考えられない。

 集められる魔素も少ないし、魔法もうまく扱えない。

 もちろん力も弱い。

 そして他の生き物からは、やはり美味しそうに見えるようだ。

 ちょっとした事故や捕食者との出会いにより、すぐに消滅してしまうことになる。

 だからただ、ぼんやりしているだけで良いのだ。

 生き残ってもどうせろくなことにはならない。

 もう同じことを繰り返したくはない……。

 だからたまに世界のどこかで私は生まれ、すぐによくわからないままに消えていく。

 それでいいのだ。

 ただ、ひとつ残念なことは、小さなトカゲになっている間の記憶もしっかりと魔素へと記憶されていることだ。

 つまり私は、結局このよくわからない生を、延々と生き続けることになってしまったということだ。

 たまにこの世界に放り出され、少しうろうろしてはすぐに死に、またどこかに放り出されるように発生する。

 そしてその記憶は連続し蓄積され続ける。

 なかなか混乱する話だ。

 とはいえ、私にできることはもう何もない。

 ただこの救いようのないあり方を受け入れる他はない。

 う~ん、なんでこんなことになったのかなぁ…………。

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