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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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153/212

第153話 ビビ②

 ビビと二人、少しづつ道を下っていく。

 それにしても、鞣し工場は鼻がもげるかと思うほど臭かったな。

 工場を出てかなり歩いたはずだが、今もまだ臭いを感じる。

 匂いが体の中に滞留しているようだ。

 なんだか体までむず痒くなってくる。

 汚れた空気が全身にまとわりついているような気がする。

 かなりの不快感だ。

 後はこの地下全体的に言えることだが空気が生ぬるく、湿度が高い。

 体がべとつく。

 そりゃ汗くさくもなる。

 サヴォイアの埃っぽくもカラッとした空気が懐かしい。

 できることなら今すぐにでもアジトの湖へ飛び込みたい。

 そのままニーチェの木琴でも聞きながら、ぼんやりと水の上を漂って……。


「喉乾いたな……、そういえば食事っていつ貰えるんだろ?」

「朝の見回りの時、厨房へ寄って貰いに行く」

「一日一食?」

「そうだね。夜は酒を貰えるよ」

「酒だけなのか……」

「うん」


 これはかなりきつそうだな。

 少なくとも今日はもう飯が食えないらしい。

 よく考えると、サヴォイアで袋詰めにされてからずっと何も食べていない。

 いろいろ衝撃的なことがあり、思いつめていたせいでどれほど時間が経過したのかいまいち把握できていない。

 一度水分補給をしたような気はする。

 だが、食事は丸一日以上とっていない気がするな。

 今は鼻の奥にこびりついた臭気のせいで食欲もわかないが、これは……寝られるかな。


「水が飲みたいんだけど、どこか――」

「ああ、はい。これ、いいよ」


 ビビが水の入った革袋を押し付けてくる。

 少しだけ口に含んでみるが、生ぬるく革臭い液体に体が拒否反応を示す。

 だが、やはり咽が乾いていたのだろう。

 気が付くと革袋に入ってた水をすべて飲み干してしまった。


「ああっ……ごめん、全部飲んじゃったよ。ずっと飲まず食わずで……」

「別に……いいよ。袋は返して」

「あ、はい……水は厨房で貰えるのかな?」

「そうだね、後はさっきの鞣し工場にも井戸があるから、そこでも貰えるよ」

「ああ、なるほどね……。なぁ、ビビ、なんだか人と全くすれ違わなくなってきたし、やたらジメジメして……それにこの変な音は……?」

「ここは水の通り道。音は……風じゃないかな。それよりもここからは明かりが無くなるから。目を慣らしながらゆっくりついてきて。溝に落ちたら危ないから、注意」


 どうやら今歩いているのは排水路のようだ。かなり天井が低く、二人並んで歩くことができないほど狭い。

 内装はまったくなくなり、ごつごつとした岩肌が剥き出しになっている。

 ただし、自然にできた洞窟ではない。

 洞窟族が計画的に掘ったものだろう。

 片側は溝が掘られており、ドロドロした排水がゆっくりと流れている。

 鞣し工場などから出たものだろうか。

 黒い水面には、遠くの明かりをわずかに照り返すばかりで、実際の色味はまるで分からない。

 だがそのどろりとした粘り気を感じさせる質感から、恐ろしく汚そうだ。

 無意識に顔をしかめてしまう。

 手すりも無いので、暗がりの中進むのはかなり怖い。

 落ちたら病気になりそうだ。

 ただ工場の排水だけでなく、生活排水、し尿なども混ざっているだろう。

 ここもやはりしっかりと臭い。

 ドロッとした排水は今にも詰まってしまいそうに思える。

 雨が降れば勢いよく洗い流されるのだろうか。

 鞣し工場で先に鼻が死んでいなければ、相当きつかっただろう。


「あ……、今日はいるかも」

「え? いるって?」


 ビビは返事をすることもなく、背中でも掻くような気安さで、背負った盾の裏側へと片腕を滑り込ませる。

 盾の持ち手をひっつかむと、少し振り回すようにして目の前に構える。

 小さく細い体からは考えられないほどの力強さを感じるな。

 しかし何が起こっているのかいまいち把握できない。

 周囲は薄暗く、俺にはあまり状況が見えない。

 ただ……いつのまにか何かをずるずると引きずるような音が聞こえてくる。


「……モンスター?」

「たぶん」


 お互い自然と小声になる。

 戦いの邪魔にならないよう、ビビと距離を少し開ける。

 念のため、俺も腰に差していたギゼラの杖を構えておく。

 小鬼や黒狼であれば攻撃も単調だし、それほど力が強いわけではない。

 杖でいなすくらいなら俺にもできる。

 ただ……、ここはあまりにも視界が悪い。


「――ん!」

「うわっ」


 突然、ビビの盾に何かがぶつかる。

 ゴンという鈍い音が地下空間内に反響する。

 周囲が暗い上に、ビビの構える盾が邪魔でなにも見えない。

 ただ、いずれにしろモンスターはそれほど大きいものでは無さそうだ。

 壁に身を寄せ、少し角度をつけてその姿を確認してみる。


「ん~……カエルみたいだな」

「ふんっ!」


 丸々と太ったでかいガエルのような生き物が盾にはじき返され、ひっくり返っている。

 白く膨らんだ腹を見せ、意外に細い手足を必死にバタバタと動かしている。

 いろいろと体のバランスが悪く不気味だ。

 普段はあの大きな腹を引きずるように歩いているのかもしれないな。

 あまり強そうには見えないが、盾にぶつかってきた際の衝撃音はなかなかのものだった。

 腹だけは病的に白いが、それ以外の表皮はヘドロのような色でヌラヌラとした光沢がある。

 毒を持っているかもしれないな。

 あまり油断しない方がいいか。

 とはいえ大きなカエルはひっくり返ったままだ。

 ビビはその腹を何度も盾を叩きつけ、そのまま殴り殺してしまった。

 もちろん、これまで目にしてきた戦い、クロやシロ、エリザベス等、そしてキダナケモ達の死闘、激戦に比べればずいぶん大人しく、のどかといってもいいようなものだ。

 とはいえ、ビビのその手際は危なげなく、なかなか手慣れたものだ。

 見ていて安心感がある。

 それに、これまであまり気が付かなかったが、盾にもいろいろと細工を凝らしているようだ。

 敵を殴りつける箇所には丁寧な補強が施されているし、盾の下部にはおもりのようなものが取り付けられている。

 それをまるで振り子のように揺らしながら、うまく勢いをつけて攻撃していた。

 片手でも効率よく戦えるよう、いろいろと考えてきたことがうかがえる。


「上手く戦うなぁ。あまり見たことのないモンスターだったけど、この辺じゃ良く出るの?」

「そうだね。こいつらは最初の飛びつき攻撃が少し痛いだけで、あとは弱いよ」

「毒とか無いの?」

「どうだろう。洞穴族はあんまり毒効かないから……わかんないな」


 鬼族のような雑な感想だな……。

 確かこいつらも身体丈夫らしいもんな。

 毒がある場合は危なそうだが、一応一人で遭遇してもなんとかなりそうだ。

 なによりアジト周辺で出会う化け物どもと比べるとかなり冷静に対峙できる。

 俺も当初から比べるといろいろ感覚麻痺してるな……。


「ナナシは……意外なほど落ち着いているね。強い相手じゃないけど、普通はもう少しモンスターに会うと緊張するもんだよ?」

「ああ……住んでた場所が少々物騒でね」

「ふ~ん……。そいつ、こっちに引っ張ってきてもらえる?」

「え? ああ、いいけど……どうすんのこれ?」

「捨てる」

「ど、毒、無いよね……?」

「たぶん?」


 カエルの死骸を杖の先にひっかけるようにして引きずっていく。

 横を流れる溝から出てきたと想像すると、毒があろうがなかろうが直接触りたくはない。

 しかしどこに廃棄するのだろうか。

 ビビはどんどん進んでいく。

 相変わらず妙な音が延々通路に響き渡っていて不気味だ。

 意外とこのカエル重いな……。

 こんな場所でいったい何食ってでっかくなったんだろう。

 さすがにこんなカエルはクロも食べたがらないだろうなぁ……。


「なんか腹減ってきたな……」

「こいつ捨てたら一旦終わりだよ。次は陽が落ちてから……夜だね」

「そうか……あれ? なんか空気が変わったような……」

「こっち」

「うわっ、まぶしっ――――おお~!」


 ちょうど河口付近の断崖に出た。

 どうにも磯臭いと思っていたが……こんな場所にも繋がっていたのか。


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