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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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150/213

第150話 サイード

 拉致されてから何日経ったのだろうか。

 ようやく麻袋から解放されたと思ったら、目の前には青黒い髭面の男が一人。

 風船のように大きな体に派手な緑色のローブを羽織っており、直剣を杖のようにして体重を預け、ニコニコとこちらを見ている。

 俺の周りには大量の酒や食事。

 そして人が倒れている……。

 五十人ほどはいるだろうか。

 ピクリとも動かない。

 どうやら、全員死んでいるようだ。

 皆ボロを着ており、間違いなく俺を拉致した連中だ。

 どこか大きな屋敷の中庭のようだが……少し磯臭い。


「ようこそカノーザ領、領都サクへ!」

「……え? カノーザ……サク? これは一体……?」

「お前は今日から俺の保険だ! 俺もいつカミラに殺されるとも限らんからな。ちなみに俺の名前はサイード、良い名前だろ? カミラの手下だが、それとは別に東区で一番大きい工場のオーナーでもある」

「やっぱり、俺を拉致したのはカミラなのか……アジールを殺したのも。だが、何故カミラの手下も死んでるんだ?」

「殺したんだよ。カミラの指示でな。お前含め、皆殺しにして、よ~く燃やせとさ! ま、いつものことだ」


 どうやら周りで転がっている連中は毒殺されたようだ。

 血の匂いがしない。

 中庭に散らばっている食事や酒に混ぜられていたのだろう。

 よく見ると皆、酷く苦しげな表情を浮かべたまま亡くなっている。


「なぜ俺は生きて……保険って……そういうことか」

「俺もよくわからんが、お前が生きてると、カミラにとっては都合が悪いんだろ? あの女のことだ、いつか俺も殺される側に回るかもしれん。だから、俺が下手こいて殺されそうになったら、お前を取引材料に使おうかと思ってな~。頭いいだろ? ま、その前にお前が生きてんのがバレたら直ぐ殺されそうだがな~、はははっ」

「仲間同士殺し合い騙しあってまで、一体何が欲しいのやら……俺にはよくわからんよ」

「余計なお世話だ。カミラもここに転がってる連中も俺の仲間じゃあない……だから別に良いんだよ。さて――選ぶんだ。地下牢暮らしか、俺の工場で働くか!」

「地下牢と工場……」

「ああ、そうだ。地下牢は安全で退屈だ。工場は酒が飲めるし女も抱けるが、仕事はきついし、たまに死ぬ。さぁ、どっちだ?」

「俺をサヴォイアへ戻してくれたら――」

「そいつは無しだ。俺はまだカミラの手下なんだよ。うまくいってる間はカミラほどいい上司はいない。こんな俺にも、たっぷりと稼がせてくれる。それにな、お前がどんな美味い条件を提示したところで、この街からあの女に見つからずに出ることは不可能だ。だから、聞いてもいないことを喋らず、質問に答えろ。いいな?」


 酷い二択だ。

 商会の仲間、あるいはラウラやメナスに接触できれば何とでもなると思うが……このサイードという男がいつまでニコニコしているかはわからない。

 少し付き合えば、交渉のラインも見えてきそうではあるが、今は下手に刺激するのもまずい気がする。

 この死体が散乱する中庭で平然と笑っているのだ。

 まともな神経じゃない。

 この男がもたれ掛かっている直剣も、飾りというわけでは無いだろう。

 いつ気まぐれに振るわれるとも限らない。

 しかし……地下牢は無いな。

 別に俺は長生きがしたいわけじゃない。

 アジトへ帰りたいのだ。

 その可能性がわずかでもあるほうを選択すべきだ。

 どんな工場かは分からないが、外にいれば少しは情報も得られるだろう。

 せめて手紙位ならばうまくすれば届けることができるかもしれない。

 クロ達だって俺を探しているはずだ。

 ……無茶していないか心配だな。


「工場で働くよ。退屈なのは死ぬより嫌なんだ」

「おおっ! 良いなお前~、おれもただ飯食い飼うより、労働力が増える方がずっといい。良いじゃないか~」

「俺の名前は――」

「いや、聞きたくない。お前は今日からナナシだ」

「あ、ああ……わかった」

「今日から髭は剃るな、髪も切るなよ。しかしナナシ、お前なかなか洒落た服着てやがるな……うーん俺の着れる大きさじゃあないか、残念」

「俺の吐しゃ物が良く染み込んでて、なかなか香しいぞ」

「きったねぇなぁ~……まぁいいや。庭の掃除の邪魔になると悪いし、工場行きながら話すか」


 いつの間にか、周囲には口元を黒い布で覆った、小さな老人たちがわらわらと現れ、死体から手早くかつ丁寧に衣服をはぎ取っている。

 サイードはそんな様子は視界にも入れず、俺に背を向け勝手に話を進めていく。


「ついてこいよ~」

「あっ、ちょっと待ってくれ、俺の杖が……」


 俺が入っていた麻袋からギゼラの杖をほじくりだすと、すぐにサイードがそれを横から奪い取る。


「ほう――凝った細工だな……仕込み武器じゃあなかろうな?」

「いやまぁ殴ったりはできるが、ただの杖だよ」

「トカゲに女……いや鬼女か、ヤギ? 珍しい意匠だが……意外と格好良いな。俺が貰っておいて……あ~ん~いや、やめておこう……。作り手の思いが強いな……こういうのは呪いと同じだ。もっているとなにか良くないことが起こりそうな気がする。ほれっ」


 サイードはひと通り杖を検め、しばらく何か考えているようだった。

 ギゼラの杖を奪われてしまうのかと、ずいぶんやきもきしたが、最終的にはなんだか苦い顔をして、俺に杖を放り投げてきた。

 未だにその片手には直剣を持っているので、唐突に動かれるとおっかなくて仕方がない。

 いずれにしろ大切な杖が奪われなくてよかった……。

 特に何に使うわけでは無いが、今はアジトを思い出せるものは手放したくはない。

 ギゼラが練習がてら定期的にいろいろと手を加え、今では俺の杖にはアジトの仲間達がデフォルメされて彫り込まれているのだ。

 我ながら女々しいが、見ているだけで泣きそうになる……。


「それでだな、まず工場で働くにあたって重要なことは三つだ。まず一つ、俺の言うことは絶対だ」

「ああ」

「二つ、上司に逆らうな。お前の上司はこれから紹介するから、そいつの指示に従って働け」

「わかった……仕事以外でも?」

「そうだな、半分共同生活みたいなもんだから、必然的にそうなる」

「なるほど、共同生活か……」

「三つ、部下を死なせるな。まぁこれはお前には関係ない話だろうけどな~」

「俺……死んじゃわないかな?」

「頑張れよ!」

「……そういえば酒と女って言ってたが、金貰えるのか?」

「ああ、もちろん。こなした仕事に応じて金は支払われるからな、まぁ……それもお前の上司次第だが」


 これは……あまり期待できないな。

 生かさず殺さずといったところだろう。

 結局のところ、食い物や酒、女だってサイードから買うことになるのだろう。


「歩いて行ける場所にあるのか?」

「うん? ああ、直ぐ近くだ。ほら見ろ、あそこだ」


 サイードについて建物の中へ入ると、すぐに大きなホールへと出る。

 おおよそ十メートル四方の空間で、壁面は切り出した石組で作られている。

 見慣れぬ青みがかった石肌に、ここがサヴォイアでないということを改めて強く感じさせられる。

 上部に明り取りの窓は設けられているものの、ホール内は薄暗く、外から入ってくると目が慣れるまで少しかかる。

 突き当り中央には、大きな階段が上下へと伸びている。

 踊り場の構造からこの建物が三階建てだとわかる。

 地下の方からは蝋燭か何かの光が漏れ出ており、むしろ地上のホールよりもずっと明るいようだ。

 この空間は上階と地下との物資や人、情報のやり取りのターミナルのような役割を担っているようで、常に誰かが階段を上り下りしている。

 ホール内には人でごった返しており、非常に汗くさい。

 皆自分の仕事で手一杯なのか、サイードや俺が入ってきても、だれ一人見向きもしない。

 意外と子供や老人が多いな……。


「つまり工場って……地下にあるのか」

「正解! そんな顔するもんじゃないぜ? 実際そう悪いところじゃないさ。少々汗臭いかもしれんがな~」

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