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ご紹介とお出迎え

 お酒が好き。っていっても、嗜む程度ね。すぐに寝ちゃうの。

 妹には、「飲み過ぎないで。周りがたいへんなんだから」って常々言われていたアラサー会社員の私は、聖女召喚に巻き込まれて、魔物がいる異世界へ転移してしまいました。そこで王子様から近衛騎士へ下げ渡されて結婚したものの、騎士さんには将来を誓った相手が。で、私たち三人は話し合って、逃げることにしました。バラバラに逃げるはずが、隣国のライアル公国にみんなで行ってしまったってことは後で知ったのよ。加えて、私が隣国ラーデン王国の召喚した聖女のオマケってこと、バレてたのも。

 でも、何だかんだあって、私はブドウ農園主のギルバードさんと恋に落ち、結婚することになりました。現在、婚約中。一緒に住んでます。部屋は別だけど。年が明けたら、結婚式だよ。いいでしょー。えへへ。日本の家族も招待したいなー。

 でも、ライアル公国の魔術師・ベネットさんに「召喚された時点で、向こうでのあなたの存在は人びとの記憶から消えています」って、気の毒そうに言われたの。もちろん、帰れないし。

 あーあ、うちの家族にも、私のウエディングドレス姿、見せたかったなー(泣)。

 いやいや、湿っぽくなっていけないぜ。

 日本の家族は失ったけれど、私はここでギルさんと新しい家族を作るのよ。ギルさんの家族も、私のこと受け入れてくれているしね。

 魔王を倒す勇者のオマケとして五十年前に転移してきて銀行と国を作ってしまったライアル公国先代・フィリップ様。デュラニ帝国の元第五皇女で奥方のヘルミーネ様。ギルさんのご両親の現公爵夫妻、モーリス様、カトリーヌ様。後継の長男夫妻、ジュール様、マドレーヌ様。帝国での銀行頭取の次男夫妻、アンリ様、エチエンヌ様。

 ……ああ、やっと言えた。最近、覚えたばっかなんだよ。この家族構成。長男夫婦のとこには男の子が二人いて、次男とこには女の子が一人。甥っこ姪っこの名前はまだ覚えてない。

 さて、ギルさんこと、ギルバード・フエル・ライアルさんは、公爵家の三男で、おじいさまが趣味で始めたワイナリーを手伝っていて、実質の経営者。私と結婚したら、正式に継いで、平民となる。私は下宿先の宿屋兼食堂の女将・ヨハンナさんがワイン職人たちの親方のジャンさんと結婚したので、ギルバードさんの住むシャトーに居候させてもらっているうちに婚約と相成り、今は女主人となるべく修行中なのでした。

「マリー様、ワインの試飲はグラス一杯までにしてくださいませね」

「はいっ」

 教育係のネッテさんに言われ、私はイザベルさんが手にする銀のトレイに空のグラスを置いた。

 ネッテさんは先代様所有のお屋敷でメイド長をしていて、私に行儀作法を教えてくれた人。イザベルさんはシャトーのメイドさんで、ギルさんが小さいときの世話係だった。

 やっぱ、ギルさんの作るワインはおいしいわー。

 と、ほわほわしていた私を、要注意人物を見るような目で眺めていたネッテさん。

「身だしなみはよろしいようですね」

 わたしのドレス姿は完璧。いつものブラウスと胴着とスカートとエプロンの姿でなく、アクアマリンのドレス。通常、赤いリボンで一つにまとめている肩甲骨までの長さの髪を結い上げ、ピンクの薔薇の造花の髪飾りがポイントでございます。コルセットがきついのは、がまんだけど。

「では、お客様のお出迎えを」

 ネッテさんが言うと、正装姿のギルさんがやってきて、私の手を取る。

「マリーさん。綺麗だ」

 いえ、あなたこそ。

 金茶の髪に夏空のような青い瞳。細マッチョの王子様のような――違った。現在進行形で王子様なんだったこの人。でも私は知っている。ヘタレイケメンだって。

「よろしくお願いいたします」

 にこっとすると、耳を赤くした。可愛い奴め。四歳年下でも気にしないもーん。

 私たちはお客様のお出迎えのため、玄関へ向かった。

 ギルさんのワイナリーでは、ワインを楽しんでもらうために昼食会を催す。室内楽の生演奏の中、会話とワインと食事を楽しむの。要予約。

 だって、室内楽団と料理人を公国のお城から借りるんだもの。準備が大変なのよーっ。

 おもてなしは、今までギルさん一人だったけれど、今回からは正式に婚約したあと、ということで私も参加。

 できるか、私。でも、やんなくちゃ。ギルさんに恥をかかせてはいけない。

 その使命感のみで、緊張で足が生まれたての小鹿みたいにプルプルしてたけど、玄関前に立った。使用人と助っ人のみなさんも並んでいる。

 実りの秋も終わって冬となり、外に出れば、息が白い。室内は魔道具であったかいんだけどね。

「お出でになられたようです」

 痩身、正装のセバスさん。この人も私が最初にいたお屋敷の執事さんだったけど、ワイナリーの食事会のときの助っ人として来てくれている。

 執事のセバスさんの言葉が終わると、禍禍しい黒い霧をまとった馬車が前で停まった。馬車の飾りはガーゴイルか? 御者は青ざめて痩せ、二頭の黒馬には、二十センチほどの角が生えていた。

〝中の人、もしかして、ニンゲンじゃないかも?〟

 この場にいた全員の心の声だ。でも、表情を崩さない。悲鳴もあげないのは、さすがプロフェッショナル!

 馬車の後ろに取りついていた従者が降りて足台を置き、扉を開けた。

 ぴょーん、と飛び出して来たのは、蝶ネクタイに黒い服を着て、長い黒髪を背に流した五歳くらいの男の子だった。

「マリー! 会いたかった!」

 と、私にいきなり抱きつく。上を向いてにっこりすると、かわいい口から八重歯がのぞく。えっ、八重歯? 牙?

 嬉しそう。でも、私は硬直。

 だれ? 記憶にないんだけど。

 もしかして、やっちまったときの知り合いか?







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