和田家
「馬鹿みたいに食ってしまった…」
部屋で一人お腹をさする。
あの後注文を決めかねた小鳥遊が全部頼んだせいで、結局食べきれなくて半ば残飯処理のような事をした。
最初俺が食うと言った時には苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てきたが、そんなもの無視して全部食った。
なぜそんなことをしたのかというと、俺は料理に対して紳士的でありたいと考えているからだ。誰かが作ったものは例え味が悪くても最後まで食べきることを信条にしている。
理由はシンプルで自分が作った時に残されるとなんとも言えない気持ちになるからである。
「それにしても小鳥遊の奴、食いもんが好きなんだな。いかにも飯食ってませんよって見た目してるのに」
だからって頼みすぎるのは良くないが。
そんなことを一人口にしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
「兄貴、今時間ある?」
「いいよ、入ってきて」
するとドアが開き中へ入ってくる。そこに居たのは俺の弟だ。
弟の名前は和田 夏樹、二個下の中二であり、運動神経がとんでもない。サッカーをやっていてプロチームのジュニアユースに所属している。マジモンのプロ候補生だ。
さらに顔がいい。どうやらモテモテらしく、花の青春を送っているらしい。
「どうしたんだ?」
「新学期始まって授業始まったんだけど、早速わからないところがあるから教えてよ」
「そんくらいなら任せろ 教科は?」
「数学 もう何言ってるのか分からない」
夏樹は勉強だけは苦手らしく、ことある事に頼ってくる。
もし勉強まで俺より出来てしまったら完全に兄の上位互換であるので、一分野だけでも兄らしくできるのはシンプルに嬉しいしほっとする。
勉強を教え始めてしばらくした頃、夏樹が話しかけてくる。
「そういえば、兄貴サッカー部じゃなくて小説部に入ったんだって?」
「ああ、無理に続けるもんでもないし、今はそっちの方が楽しいからな」
「兄貴ならレギュラーくらい簡単に取れるだろうに…、勿体なく感じちゃうわ」
「それでもレギュラー止まりだよ、プロになれる訳でも全国行ける訳でもない」
俺はどうやら大体の分野で平均以上の結果を出せるらしい。だけどそれだけだ。
サッカーに関しても身近にとんでもない才能を持つ弟がいる。それをずっと見てきた身からするとどうしても引け目を感じてしまう。
いや、これはただの言い訳だ。俺は本気でなにかに取り組むことが怖い。ただひたすらに努力から逃げているだけだ。
対人関係にしたってそうだ。ある程度を超えた責任からは逃げようとするし、友人とも一定の線引きをしてしまう。
これじゃいけないと思えば思うほどにげてしまう。これは俺の最大の悪い点だろう。
「それでもサッカー続けて欲しかったけどなー、俺がサッカー始めたのは兄貴のおかげだし」
「まぁ、兄貴が決めたことだし、俺が何か言うものでもないだろうしね」
夏樹はいつも俺の決定を肯定してくれる。それだけ信頼してくれているということなのだろうがその反面、信頼が重荷になることもある。だが、弟のことからだけは逃げるわけにはいかない。
弟には才能がある、それを潰す訳には行かないからだ。だからできる限りの事はしてやりたい。
俺はもしやブラコンなのかもしれないが…
「それでさー、小説部には女子いる?」
いきなりなんだ?
「いるけどどうした?」
「いやさ、兄貴モテそうなのに今まで彼女いた事ないじゃん。」
「今度からは文化部だし恋愛に力入れてもいいんじゃね? 花の高校生なんだからさ」
「あいつらはなんというか、そんな感じじゃないんだよ」
「みんな癖強いし介護対象というか保護対象というか…」
「そうなんだ、俺はてっきり昔のあれをまだ引きずってるのかと思ってたよ」
いきなりぶっこむなぁ。
「流石に引きずってないよ、もう何年も前の話だしな」
口ではそう言ったが、俺には一つだけトラウマがある。
傍から見れば大したことでは無いんだろうが、俺にとってはこの出来事だけで勝手に対人関係に線を引いたり、恋愛から逃げたりしてしまうくらい心を抉られたのだ。
あれを思い出す度に自己嫌悪に陥ってしまう。こういう所がまだまだガキな所なんだろう。
「おし! 大体わかったわ、サンキューな兄貴!」
「おう、分からんとこあったらまた聞きに来な」
どうやら疑問はあらかた解決したらしく勉強道具を持って部屋から出ていく。
「兄貴も困ったことあったら頼ってくれよ、俺は恋愛に関しては兄貴よりも玄人だからな!」
「ああ、そんときは頼むよ」
そんななんでもない会話ではあるが夏樹が気を使ってくれたのだろう。ゆくゆくは頼ろう、暫くは恋愛など出来そうもないが…
弟が出てきました。悠には物事に本気になるのが怖くなる出来事があったのですが、それについてはのちのち語ろうと思います。




