和田 悠という男
あのコミケの件から時は経ち、春の風が吹く頃、俺 和田 悠は地元の中学を卒業した。
進学先についてだが、近くの高校を受けるのではなく少し離れた、知り合いのいない高校を選んだ。
わざわざそうしたのには理由がある。
俺はいわゆる隠れオタクというもので、中学時代では周りにオタク談義出来るような友人が居なかったのだ。
そのため、高校からは存分にオタク生活を楽しみたいと思ったわけだ。
だが、知り合いがいるとなるとどうしても中学時代を引きずってしまいそうでこんな選択をした。
周りの目など気にせずやりたいように生きれば良いものだが、高校に上がりたての俺はいちいち周りの目を気にしてしまうくらいには子供なのである。
しかしながらこの高校を選んだ理由は勿論それだけでは無い。
なんとこの高校には小説部なるものが存在しているのだ!
俺は大変目移りしやすいタイプであるため、過去にハマっていたものは多岐に渡る。
ギタリストに憧れてギターを買ってみたり、歌い手に憧れて歌を録音してみたりなど。
そのほとんどが中途半端に終わってしまったのであるが…
そんな俺でも続いている趣味として次の3つが挙げられる。
1つ、小説を書くこと。
2つ、イラストを描くこと。
3つ、料理をすること。
そう我ながら、思春期男子のオタクにありがちな趣味である。
そんな自分語りを心の中でしていると小説部の部室の前に着いた。
何を隠そう、小説部に入部するために歩いていたのだ。
正直、美術部とも迷った訳だが、自分の中では小説の方が書いていて楽しいのだ。
しかもイラストを描くというのはどうも美術部の活動とは合わないような気がする。そんなこんなで小説部を選んだ。
「さて、どんな部活なんだ?」
なんてある種の評論家のようなセリフとともに部室のドアをあけようとすると、
「ピギャー!」
とかいう品性の欠けらも無い叫び声とともに、とんでもない爆音が轟いた。
「なんだ!? 爆発でもしたのか?」
なんてお決まりのセリフを口にしながらドアを思いっきり開けると、そこには大量の本に埋もれている女の子がいた。
「大丈夫ですか?」
そんなことを言いながら大量の本を退かすと、そこには赤い髪でショートカット、オッドアイの女の子がいた。そう、コミケの時の子だ。
「あ、ああありがとうございます」
「き、きゅうに、ほ、本が落ちてきて」
そう言って立ち上がりペコペコと頭を下げる。
そんなに首振ったら取れちゃうんじゃ。
なんて考えながら話しかける。
「君、コミケの時の」
「あ、あなたは!!」
「あ、あの時は、ほ、本当にっっ!」
俺の言葉をかき消す大声で喋り始めたかと思うと
ゲボゲボ言いながらむせ始めた。
あまり大声で喋らないんだろうな。
「一旦落ち着いて、深呼吸 深呼吸」
「とりあえず自己紹介でもしよう」
彼女はコクコクとうなずく。
「俺の名前は和田 悠、1年A組 君は?」
言われた通り深呼吸を繰り返して彼女は言う。
「わ、わたっ、わたしはっ、た、小鳥遊 藍です!」
感動的でも何でもないただの再会であったが、この再会をきっかけに二人の運命は交わっていくのであった…
名前って難しいですよね。これから人生を作っていく相手の名前を決めるなんて余計に責任重大に思えてしまいます。 今回では主人公について軽く触れたのとヒロインを登場させました。藍は典型的な陰キャオタクだけど芯は強いって感じのキャラにしました。小説部にはもう少しだけキャラを登場させるつもりなので今後ともよろしくお願いします!