楠木の気持ち
「はあ〜 なんであたしってこうなんだろう」
入学式の日にはピンク色に染めあげられていた通学路も、すっかりと緑の生い茂る姿へと変貌していた。
今日は一日中晴れ模様で散歩をするには最適な天気だろう。
そんな中あたしは一人で帰路に着いている。本当は湊と家が近いこともあって一緒に帰れば良いのだが、あたしの方から距離を置いてしまっている。
それには理由がある、あたしはずーっと昔から湊のことが好きなんだ。
恋心に明確に気がついたのは中学二年生の夏休み、
二人で地元のお祭りに参加した時に、浴衣姿を褒められてドキドキがとまらなくなってしまった時だ。
それ以来、ことある事に照れ隠しであーだこーだ言うようになってしまった。本当は学校へ行くのも、家に帰るのも一緒がいい。だけどそんなことをしてしまったらあたしの心がキャパオーバーになって爆発してしまう。それくらい本気で恋しているのだ。
湊を追って同じ高校を選び、同じ部活にまで入ったのは良いのだが、小説のことなんて全く分からないから不安だった。
でも、部長の陽向先輩や同学年なのに副部長になった和田君、オドオドしてるけど色々教えてくれる藍ちゃんが居てくれてなんとかやってこれている。
だけど、正直あたしは今の環境に甘えてしまっていると思う、それじゃ中学の時と同じ。それは嫌だ、だからあたしは一年のうちに湊に告白しようと考えている。
それでも一人で成功させる勇気が出ないので、誰かに協力してもらおうと考えてから、はや二週間が経ってしまった。そのため嘆きながら歩いていたのだ。
そんな時に後ろからいきなり声をかけられた。
「やぁやぁ!楠木君じゃないか!」
「あっ、陽向先輩」
声をかけてきたのは我らが小説部の部長であった。
…でも、こんなところで何してるんだろ?
「先輩って家の方向こっちじゃないですよね? もしかしてあたしに用事があるんですか?」
「その通り! 入部してから君を見ていたのだけど、何か悩んでいるんじゃないかい? もし私で良ければ相談に乗るよ」
なんてことだ、いきなりあたしにチャンスが舞い込んできた。今までならのらりくらり交わしてきたのだが、今回は絶対に逃げる訳には行かない。
「そうなんですよ〜 今ちょー悩んでいることがあって…」
「おおかた予想はついているよ、新田君絡みのことなんじゃないかい? 例えば、君は新田君に惚れているとかね」
「そ、そこまで分かるんですか!? 今まで誰にも言ってこなかったのに…」
「まぁ、君の新田君に対するいつもの態度を見ていたら、大体の人間は勘づくと思うがね」
そんなに分かりやすかったのか、もしかして他の二人にもバレてたり… そう思うと一気に顔が熱くなる。
けど、照れている場合じゃない、せっかくこうして話しかけてくれたんだし相談しよう。
「陽向先輩、あたしの相談に乗ってくれませんか?あたし湊に告白したくて」
「いきなり告白の相談とは、アオハルだねえ」
「相談に乗るのは良いのだが、私は何をすれば良いのかな?」
あたしは告白の舞台に体育祭を選ぶつもりだ。理由は単純明快、あたしの得意分野だからだ。勉強とか芸術とかそういったものは全く分からないのだけど、運動だけは胸を張って得意だと言える。
あたしと湊は運良く同じクラスにもなれたし、応援に来てというのも言いやすい、絶好のチャンスだろう。
「実は、今度の体育祭で告白しようと考えているんです。でも具体的にはどうしたらいいのか全く分からなくて…」
「ふむ、そういうことならひとついい案があるのだが聞くかね?」
「本当ですか?ぜひ聞かせてください!」
「それはだな、私を当て馬にするというものだ。私が体育祭後に新田君を呼び出してだな、告白する流れを作る。そこに君が現れて私と喧嘩を始めるのだ。そうすればあっという間に修羅場の完成だ」
…それは告白どころじゃなくなるし、そもそも修羅場の作り方を聞いているわけじゃない。
そう思って口を開こうとすると、それを遮るように陽向先輩は続ける。
「おっと、君の言いたいことは分かる。さっきのは軽いジョークだよ、私の理想全開の展開といったところだ。気にしないでくれたまえ」
「真面目に答えるとだね、部室なんて良いのではないかな。あそこなら体育祭後に来る奴なんて部員以外に居ないだろう。他の部員は私が足止めしといてやるからそこでケリを付けるといい」
確かにそこでなら邪魔は入らないし、想いを伝えられそうだ。舞台を整えてもらえればさすがのあたしでも勇気が出てくる…はず。
「ありがとうございます陽向先輩! きっと成功させてみせます!」
「ああ、成功することを願っているよ、頑張りたまえ」
その声を背にして、あたしはいつもより少しだけ騒がしい帰り道を走って帰った。
走る楠木の背中を見ながら陽向は考える。
…つい先日、体育祭の日の部室使用についての相談を新田君から受けた訳だが、恐らくそういうことだろう。
どうせなら小鳥遊君か和田君が乱入してドロッドロの恋愛を見せて欲しいものだが、そうはならないだろう、なにせあの二人だからな。
あーあ、こんなことばかり考えているせいで私には春が訪れないのだろう、全く羨ましい限りだ。
半ば自暴自棄になりながら帰路に着くのであった。




