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和田悠の葛藤

 今、俺はひとつの問題を抱えている。それは体育祭についてだ。

 先日話し合った作戦を成功させるためには、湊のクラスが優勝する為に色々案をだすべきなのだろう。だが、そうすると俺のクラスは優勝出来なくなる。

 自分もクラスの一員として出場する以上、手を抜きたくは無い。


「はあ、どうしたもんかね」


「た、ため息なんて、ら、らしくないぞ、どうした?」


 おっと、思わず漏れ出てしまっていたようだ。


 キョロキョロと部室を見渡すと部屋にいるのは小鳥遊1人であった。


 …丁度いい、少し相談してみるか。こいつの事だし体育祭なんてどうでもいいとか言いそうだけど。


「俺は今かなり深刻な問題を抱えている。小鳥遊よ聞いてくれるか?」


「は、はあ、き、聞いてやる」


「なに、今度の体育祭についてなんだがな、例の作戦があるだろ?」

「その作戦では、優勝することが一つの重要なキーとしてあるわけさ。だけど俺と湊は違うクラスだ」

「だから湊のクラスが優勝するってことはうちのクラスが負けるって事で、それは俺が出場する競技でも負けた方が良いだろ」


「つ、つまり湊に協力したいけど、和田は負けたくないってことか?」


 毎度思うがこいつの理解力はかなりのもんだな。思考回路が似てるのか?


「ざっくり言うとそういうことだ、小鳥遊だって違うクラスだろ、そんな感じのこと考えたりしないのか?」


「わ、私は、た、体育祭とか、あ、あんまり興味無い」

「けど、わ、わざと負けようとするのは違うと思う、やるなら全力でぶつかるべき、そ、それに和田はズルいことはしたくないって言ってただろ」


「まあ、それはそうなんだけど、なんていうかこう煮え切らないというか、モヤモヤするというか」


「そ、それは仕方ないだろ、へ、変な立ち位置にいるのは間違いないから、あ、あんまり考えすぎるな」


「それもそうか、ありがとな」


 なんて口では言ったが、依然としてモヤモヤが晴れることは無い。多分体育祭が終わるまでずっと頭の中にあり続けるのだろう。

 だけど人に相談するってのはいいな、何の解決にもならなかったけれども随分スッキリするもんだ。


「ああ、そういえばもうひとつ聞きたいことがあったんだけどさいいか?」


「い、いいぞ」


「前にギャグ系書けって言っただろ。俺もその通りにしようとしてたんだけどさ、やっぱりバトル物書きたいわけですよ私は」

「だからさ、俺に書き方教えてくんねえか?あんだけ言うなら書いたことぐらいあるんだろ?」


 すると、小鳥遊は今にも消え入るような声で話す。


「うっ、わ、私もバトル物は書いたことない…」


「あれれぇ?向いてないだのなんだ言ってたくせに自分は書いたことすらない?」

「もしかして小鳥遊も書けないんじゃあないの?あーあ、そんな奴に酷評されてたのか俺の作品は、悲しいなあ」


 よし、こうしてちょいと煽ってやれば対抗して書き始めるはず、小鳥遊の取扱説明書は俺の脳内に刻まれ始めているからな。


 なぜ小鳥遊に書かせようとしているのかだが、この前の本屋であいつが買っていた本は大体がバトル物だったからだ。

 興味があるのは確実だろう、後は書き始める口実を作ってやればいいわけだ。俺は小鳥遊を小説家としては買っている、だから書いて欲しいのだ。

 それを直接言うのはなんか負けた感じがするからこんなやり方になってしまったのだが、いつも散々暴言やらなんやらされているんだ、これでおあいこだろう。


「わ、分かった、そ、そこまで言うなら書いてやる」


 よし、予想通り乗ってきたな。しかし煽ると乗せやすいからってさっきの言い方は感じ悪かったか、今度謝るついでにジュースでも奢ってや…


「そ、その代わり、サ、サボテン並のIQしか感じない文章力で真面目な話を書くな、お、お前の文章の、あ、粗から濃厚な出汁が取れるくらいには酷いからな」


 あ? こいつとんでもない暴言吐きやがったぞ。

 …前言撤回だ、隙を見つけたらとことん突いてやる、徹底抗戦だ。


「言ってくれるじゃあねえか、よぉし、そこまで言うなら俺と勝負しろ!」


「し、勝負?」


「ああそうだ勝負だ、俺とお前でどっちがより面白い小説を書けるかでな」

「もちろん、ジャンルはバトル物で評価は部員の多数決で決める。これなら文句ないだろ?」



「ほ、ほんとにそれでいいのか?」


 …それでいいのかだと? 確かに前の作品は酷評だった。だがな、次は俺の魂どころか全てを込めた作品にしてやる、絶対に面白くなるはず、いや面白くしてみせる。


 それに小鳥遊にいくら文才があるとはいえ、初めて書くジャンルで良さを存分に出せるわけが無い。

 つまり、俺に勝機は十分に、いや十二分にある。


「ああ俺は全然いいね!むしろお前の方が心配だぜ、絶対に面白い小説を書いてくるから覚悟しとけよ!」


 俺は随分と興奮してしまっていたらしく、小鳥遊の肩をがっしりと掴んでいた。


「うひゃぁ!? な、なんでいきなり… か、肩掴むな…」


 おっと、つい気持ちが昂ってしまった。これは申し訳ないことをした。いきなり肩を掴まれるなんて恐怖以外の何物でもないだろう。


 …だけどこいつ、いつもなら暴言とともにぶん殴ってくるくせに今はなんでこんなにモジモジしてやがる?

 …も、もしかしてこれは、照れているのか?ということは、もしや俺に…


「ば、ばかぁ!!」


 そんな訳の分からない妄想は、小鳥遊の繰り出した右ストレートが俺のみぞおちを的確についたことで綺麗さっぱり頭の中から消え去ったのであった。


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