出会いは突然に
それは中学三年の冬、高校受験の合間を縫って参加したコミケでの出来事である。
「ふぅ… 欲しかったグッズは手に入ったかな」
俺はこの冬、念願のコミケデビューを果たしたわけだ。
中学三年間サッカー部として過ごしてきたが、高校からは文化部に入ってオタク生活を堪能する予定である。
その第一歩としてコミケに参加することにしたのだ。今はその帰りである。
「今は一般参加だけど、いつかはサークル参加してみたいもんだ」
なんてただの願望を口にしながら歩いていると、前からとんでもないスピードで小さい物体が突進してきた。
「おおおおお!?」
俺は、漫画に出てくる主人公のように華麗によけることも、アニメのイケメンのようにスマートに受け止めることもできずにただ突進を食らって倒れる。
「いててて… 一体なんだ?」
「す、すみません… い、いそいでいたので…」
倒れたときにおもわず抱きかかえた物体を見ると、小柄なショートカットの女の子だった。
アニメの缶バッジをいくつも付けたリュックを背負い、首にタオルを巻いている典型的なオタクのような見た目をしている、コミケにならどこにでもいるであろうその子から目を離せずにいた。
燃えるような赤い髪、ぴょこんと立ったアホ毛、幼さを残してはいるが整った顔だち、そして何より右目は黄色、左目は青色のすべてを映すかのようなオッドアイにどうしようもなく惹かれてしまったのだ。
俺が何も言えずにいると、その子はパタパタと服をはたき立ち上がる。
「け、怪我はしてないですか? も、もし怪我してたら…」
「俺は大丈夫、君こそ怪我はない?」
「は、はい。 私は大丈夫です」
「なら気にしないで 急いでたんでしょ?」
なにを急いでいるかは知らんが。
「は、はいっ で、では失礼します」
あんまし急ぐとまたぶつかりそうだな。
そんなことを思っていると女の子は陸上選手顔負けのスタートダッシュを決めて走り去っていった。
嵐みたいな子だったな…
さっきの出来事を思い出しながら立ち上がると、一つの缶バッジが落ちているのを見つけて拾い上げた。
とっさに振り返って女の子を探すが、どこを見渡してもその子の姿は見つけられなかった。
ラノベならそこから感動的な恋が始まってもおかしくないくらいの突発的な出来事であったが、そんなことは一切起きず、それ以降再会することもなく無事に高校受験は終わり、やがて桜の咲く季節が訪れたのだった…
この話は不定期にはなりますがちょくちょく更新していこうと思いますので、まったり気長に見てもらえると嬉しいです。