第45話 庭でピクニックを。
庭の草の上にシートを広げ、みんなでワイワイと集まった。
それにしても、水羽にロゼットにミスティにヴィクトリア。
美少女だらけ。その中に男は一人。これではまるでハーレムみたいだ。
いつだったか冗談でハーレム願望を口にしたけど、俺が恋心を抱くのは水羽だけ。
みんなと一緒にいるのは楽しいけれど、それだけだ。他意はない。
「えへへ……アキトくんにロゼットさんにミスティちゃんにヴィクトリアさん……美少女だらけ……眼福すぎる。こんなのハーレムじゃん……うへへ」
水羽のハーレムなんかーい。
考えてみると前世の水羽は、ラノベ作家としてデビューしたのだ。
美少女が大好きで当然……なのかな?
あと俺は美少女じゃないぞ。
「さあさあ、みなさん。たんとお食べくださいな」
ミスティはバスケットを開け、お弁当を広げる。
サンドイッチ。卵焼き。サラダ。フルーツ。唐揚げ。タコさんウインナー。
ウインナーをこの形に切る文化って、この世界にもあるんだなぁ。
「最近、料理の本を新しく読んで知ったんです。ウインナーをタコの形にするの、可愛いですよね。百年くらい前から少しずつ広まったらしいですよ」
「ふっふっふっ……これをこの世界で最初にやったの、おそらく私よ!」
「え、そうなんですか!? さすが初代聖女ですね!」
水羽が広めたんかーい。
「うむ。ワシもミズハに教わったから、本当にミズハが世界最初かもしれんなぁ」
「わたくしは今初めて知りましたわ。あんまりにも可愛くて、食べるのがもったいないですわ」
「どやっ!」
水羽は胸を反らして自慢げな顔になる。
「せっかくボクが作ったんですから食べてくださいよぉ」
「もちろんですわ。パリッとしていて大変素晴らしい焼き加減ですわね。ミスティさんの料理は相変わらず美味ですわ」
「本当ですか!? アキトさんの血よりもですか!?」
「うふふ。そうかもしれませんわ」
「やったー! 嬉しいです!」
「ミスティちゃんの料理を食べれば、ヴィクトリアさんがアキトくんへの興味を失う……? ヴィクトリアさん、もっと食べて! ほら、あーん」
「あーん……美味しいですわぁ!」
「あ、ミズハさん、ズルいです。ボクもヴィクトリアさんにあーんってしたいです!」
ミズハとミスティは、競うようにヴィクトリアの口に料理を放り込んでいく。
吸血鬼に沢山食べさせると御利益があるのだろうか。
珍妙な儀式に見えてきた……。
「のぅ、アキト。あの三人ばかりが盛り上がってズルいとは思わんか? そこでお主がワシにあーんしておくれ」
ロゼットが小悪魔的な笑みで囁いてきた。
その狙いがどこにあるのか俺はすぐに分かったので、その誘いに乗ることにした。
「ほら、あーん」
ぱくり。
「あ、ああああ! なにしてんの二人ともぉぉぉっ!」
「くふふ。ミズハのそういう反応が見たくての。ちょっとイタズラ心を出したまでよ」
「同じく」
「そ、そうなんだ……ああ、びっくりした」
「しかし異性にこうして食べさせてもうらうなんて、もしかしたら初めてかもしれんのぅ。ちょっと本気でドキドキしてきたのじゃ。ほら、アキト。次はワシが食べさせてやる」
「あーん」
ぱくり。
「交互にやった! 交互にあーんってやった! そんなの……えっちすぎる! アキトくんの浮気者っ!」
「そんなに怒んないでよ。ちょっとからかいすぎた。謝る。ほら、水羽にもあーんってしてあげるから」
「ふーんだ。そんなとってつけたようなのじゃ私の機嫌は直りませーん。こうなったら私もロゼットさんと浮気してやりまーす。ロゼットさん、私にあーんして!」
あーん。ぱくり。
「くふふ。ちなみにそのフォーク、さっきアキトにあーんしてやったやつじゃ。つまりミズハは今、アキトと間接キスしてしまったわけじゃ。えっちじゃなぁ」
「なっ、んなっ……き、キス……ぴょぇぇっ!」
水羽は真っ赤になって、何語か分からない声を出す。
みんな、そんな水羽を見て笑っていた。
俺を見ている者は誰もいない。
よかった。
間接キスと言われて、俺も頬が熱くなっていたから。
「か、間接キスくらいどうってことないし! 私と秋斗くん、ちゃんとしたキスしてことあるもん! ね、秋斗くん!」
は!?
急に爆弾投げてきやがった! 照れ隠しで暴走するにしてもやりすぎだ!
「ほほう……お主ら、いつの間にそこまで進んでいたのじゃ?」
「あら? それだけイチャイチャしているのに、まだキスしていなかったら逆に驚きですわよ?」
「く、詳しく聞かせてください! ボク、興味あります!」
三人が俺と水羽に詰め寄ってくる。
水羽は自分が失言したとようやく気づき、俺に助けを求める視線を向ける。けれど、俺にだってどうしようもない。
「逃げるぞ、水羽!」
「ひええっ、楽しいランチタイムがどうしてこんなことにぃ!」
「「「待て~~」」」
水羽は悲鳴を上げながら走っている。
けれどその声とは裏腹に、表情は明らかに楽しそうだった。




