第35話 大掃除再び。そして伝書鳩
この城を手に入れたとき、俺と水羽で大掃除をやった。
ところがミスティに言わせると「手ぬるい」らしい。
彼女はセリーヌの家から持ってきたメイド服に着替え、テキパキと掃除を始めた。
それはそれはもの凄い勢いで、この広い城を本当に一人でどうにかしてしまいそうだった。
「手伝おう」
「ボク一人で十分……いえ、お言葉に甘えましょう!」
ミスティは俺と水羽にも仕事を割り振ってくれた。
初めて会ったときは他者の全てを拒絶するかのようだったけど、それと真逆の反応。
魔物の討伐でも、カードの回収でもない。ただの掃除だ。
それでもミスティが俺たちと一緒にやってくれるというのが嬉しかった。
「起きてください、ロゼットさん! ボクもアキトさんもミズハさんも働いているのに、自分一人だけ寝ていて恥ずかしくないんですか! ほら一緒に掃除しましょう!」
なんとミスティはロゼットの寝室に突撃。
惰眠をむさぼる金髪の魔法師から、布団と枕を奪い取った。
「な、なんじゃ!? まだ午前中じゃぞ!」
「それがどうしたんですか。朝日が昇ったら起きる時間です。ほら、ホウキを持ってください。それとも雑巾のほうがいいですか? 掃除のやり方が分からないとは言いませんよね?」
「たわけ。ワシとて生まれたときから今の地位だったわけではない。家事くらいやったことがある。じゃが、今となっては国王さえ一目置くほどの大魔法師。なにゆえワシが掃除など……」
「みんなでやるのが楽しいんです! ほら、パジャマを脱いで、着替えて」
「ちょ、待て、自分で脱ぐから……アキトも見とるから! やめ……ミスティのえっち!」
ミスティは性格が図太くなった。
なんというか人生を楽しんでいる感じがする。
俺の死霊たちが掃除にも使えると知ったミスティは、そいつらの班分けまで仕切りだす。
鍋奉行ならぬ家事奉行として覚醒したらしい。
「ふぅ……お城がピカピカになりましたね! みんなでなにかを成し遂げるってこんなに楽しいんですね!」
いくら掃除しても古さを隠しきれなかった城が、ピッカピカに輝いている。それ以上に、ミスティの目が輝いている。
俺と水羽も心地いい達成感で汗を拭う。
「やれやれ……雑巾がけなんていつ以来かのぅ……腰が痛い……次に大掃除するときは、せめて前日に言ってくれ。叩き起こされては体が保たん」
そうボヤいたロゼットは「二度寝する」と呟いて、自室に帰ろうとした。
だが、そのとき、開いていた窓の隙間から、一匹の鳩が「くるっぽー」と入ってきた。
俺は前にもこの鳩を見たことがある。
ヴァルミリス王国魔法兵団が連絡に使っている伝書鳩だ。
「むぅ……二度寝の夢は潰えたか。ミスティよ。他人を頼ることを覚えたお主に習って、ワシも頼らせてもらうぞ。今から吸血鬼退治に行く。お主らも手伝え」




