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【混沌事件調査】  作者: 石田ヨネ


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39 よくあるテンプレ的なキレイごとを言っておく


          ***



 場面は、貨物列車と戻る。

「がッ――!?」

 と、湯浅が苦悶の声をあげると同時に、ガタン――! と貨車が揺れたことも重なり、バランスを崩して後方とへと落ちてしまう。

「ゆ、湯浅ッ!!」

 綾羅木定祐が、思わず叫ぶ

 その湯浅は、空の台車のほうへ落下していた。

 そのまま、走行中の車両へと、全身が落ちてしまうかのように見えた。

 そうすると当然、走行し続ける巨大な質量を持つ車体と線路のバラストに挟まれ、肉体など、瞬殺で切断され、ミンチになってしまうであろう。

 その、寸でのところで、

「ぐッ――!!」

 と、湯浅はなんとか上半身を残しながら貨物台車にしがみつく。

 しかし、片方の足が巻き込まれてしまい、

「――ッ!? あ”ぁ”ぁぁッ――!!!!!

 と、湯浅から絶叫が上がる。

 右足が巻き込まれたのだろうか、切断されてしまう。

 そのままだと、常人であれば痛みに手を放してしまい、上半身も列車と線路地面の間に引きずりこまれてしまうのだろう。

 ――だが、湯浅は違った。

 何とか力を振り絞って這い上がり、痛みにのたうち回ったり苦悶することもせずに、綾羅木定祐のほうを向いて、

「ああ”ぁ”ぁ”!!!! クソがぁぁぁッー!!!」

 と、どこから取り出したか、銃を構え、


 ――ダンッ――! ダンッ、ダンッ――!!


 と速射を見舞う。

「――うぉぉん!? ちょッ!? 銃持ってんならちゃんと最初から使いなさいよ!!」

 と、ツッコミ混じりに、綾羅木定祐は叫ぶ。

 同時に、放たれる銃弾が頬を掠める。

 素人とは思えない精度だ――

 綾羅木定祐は感心しながらも、湯浅からの銃弾を“見切り”ながらかわし、間をつめる。

 そうしながらも、綾羅木定祐は湯浅の前に立った。

 湯浅が、台車に背をもたれた形で、

「ッ――!!」

 と、力を振り絞り、何とか銃を構える。

 その時、


「もう、ええでしょう……」


 と、まるで、フランス人貴族みたいな横文字の芸能人のように、綾羅木定祐が言った。

「……は?」

 と、湯浅が、眉をピクリとさせる。

 ただ、出血のせいか、その息は荒ぎ、顔からは脂汗が垂れていた。

 その湯浅に、綾羅木定祐が言う。

「まあ、お前とB氏との仲を知らないから、何とも言えないけどな……、復讐としては十分すぎるだろう」

「……そう、……かしら? ハァ、ハァ……」

 血の気が引きながら、湯浅が聞く。

「ああ……」

 と、綾羅木定祐は頷きつつ、

「たぶん、死んだ恋人も、これ以上は望んでない――と、よくあるテンプレ的なキレイごとを言っておく」

 と、続けた。

 その言葉を聞いて、

「テン、プレ……、ねぇ……」

 と、湯浅は、虚ろな目で何かを考えるように見えた。

 その、次の瞬間、


 ――ブ、スッ――


 と、まさに一瞬のこと、湯浅は自分の胸に鉄筋棒を突き刺した。

「――ッ!? お、おい!! 湯浅ッ!!」

 綾羅木定祐が、思わず叫んだ。

 ただ、その湯浅は穏やかな、微笑みまじりの表情で、綾羅木定祐を見ていた。

「フフッ……、ファンと、して……、もっと、早く会えていたら、よかった、わ、ね……、綾羅木、さん……」

「うん。ファンじゃないけどな」

 命の炎が消えかける湯浅に、綾羅木定祐が答える。

「ちょ、っと……? そこ、は……、ファンって、言いなさいよ……」

 と、湯浅はつっこむように言いながらも、穏やかな表情のまま、絶命した。

 その亡骸となった湯浅を、

「……」

 と、綾羅木定祐は見つめ、抱えてやった。

 まだ終わってはないだろうが、これで、一応は終わったことになる。

 ただしかし、この一連の復讐劇を、本当に湯浅単独の力で行ったのか――?

「……」

 と、綾羅木定祐は疑問が残りながら、空を眺めていた。

 ガタゴトと、貨物列車が揺れるのを感じながら、流れる星空を眺める。

「まあ、いいか……」

 と、疲れたせいもあり、綾羅木定祐は考えるのをやめた。

 このまま、列車が停まるまで暫し、亡骸となった湯浅に寄り添ってやりながら。



(終了)


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