39 よくあるテンプレ的なキレイごとを言っておく
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場面は、貨物列車と戻る。
「がッ――!?」
と、湯浅が苦悶の声をあげると同時に、ガタン――! と貨車が揺れたことも重なり、バランスを崩して後方とへと落ちてしまう。
「ゆ、湯浅ッ!!」
綾羅木定祐が、思わず叫ぶ
その湯浅は、空の台車のほうへ落下していた。
そのまま、走行中の車両へと、全身が落ちてしまうかのように見えた。
そうすると当然、走行し続ける巨大な質量を持つ車体と線路のバラストに挟まれ、肉体など、瞬殺で切断され、ミンチになってしまうであろう。
その、寸でのところで、
「ぐッ――!!」
と、湯浅はなんとか上半身を残しながら貨物台車にしがみつく。
しかし、片方の足が巻き込まれてしまい、
「――ッ!? あ”ぁ”ぁぁッ――!!!!!
と、湯浅から絶叫が上がる。
右足が巻き込まれたのだろうか、切断されてしまう。
そのままだと、常人であれば痛みに手を放してしまい、上半身も列車と線路地面の間に引きずりこまれてしまうのだろう。
――だが、湯浅は違った。
何とか力を振り絞って這い上がり、痛みにのたうち回ったり苦悶することもせずに、綾羅木定祐のほうを向いて、
「ああ”ぁ”ぁ”!!!! クソがぁぁぁッー!!!」
と、どこから取り出したか、銃を構え、
――ダンッ――! ダンッ、ダンッ――!!
と速射を見舞う。
「――うぉぉん!? ちょッ!? 銃持ってんならちゃんと最初から使いなさいよ!!」
と、ツッコミ混じりに、綾羅木定祐は叫ぶ。
同時に、放たれる銃弾が頬を掠める。
素人とは思えない精度だ――
綾羅木定祐は感心しながらも、湯浅からの銃弾を“見切り”ながらかわし、間をつめる。
そうしながらも、綾羅木定祐は湯浅の前に立った。
湯浅が、台車に背をもたれた形で、
「ッ――!!」
と、力を振り絞り、何とか銃を構える。
その時、
「もう、ええでしょう……」
と、まるで、フランス人貴族みたいな横文字の芸能人のように、綾羅木定祐が言った。
「……は?」
と、湯浅が、眉をピクリとさせる。
ただ、出血のせいか、その息は荒ぎ、顔からは脂汗が垂れていた。
その湯浅に、綾羅木定祐が言う。
「まあ、お前とB氏との仲を知らないから、何とも言えないけどな……、復讐としては十分すぎるだろう」
「……そう、……かしら? ハァ、ハァ……」
血の気が引きながら、湯浅が聞く。
「ああ……」
と、綾羅木定祐は頷きつつ、
「たぶん、死んだ恋人も、これ以上は望んでない――と、よくあるテンプレ的なキレイごとを言っておく」
と、続けた。
その言葉を聞いて、
「テン、プレ……、ねぇ……」
と、湯浅は、虚ろな目で何かを考えるように見えた。
その、次の瞬間、
――ブ、スッ――
と、まさに一瞬のこと、湯浅は自分の胸に鉄筋棒を突き刺した。
「――ッ!? お、おい!! 湯浅ッ!!」
綾羅木定祐が、思わず叫んだ。
ただ、その湯浅は穏やかな、微笑みまじりの表情で、綾羅木定祐を見ていた。
「フフッ……、ファンと、して……、もっと、早く会えていたら、よかった、わ、ね……、綾羅木、さん……」
「うん。ファンじゃないけどな」
命の炎が消えかける湯浅に、綾羅木定祐が答える。
「ちょ、っと……? そこ、は……、ファンって、言いなさいよ……」
と、湯浅はつっこむように言いながらも、穏やかな表情のまま、絶命した。
その亡骸となった湯浅を、
「……」
と、綾羅木定祐は見つめ、抱えてやった。
まだ終わってはないだろうが、これで、一応は終わったことになる。
ただしかし、この一連の復讐劇を、本当に湯浅単独の力で行ったのか――?
「……」
と、綾羅木定祐は疑問が残りながら、空を眺めていた。
ガタゴトと、貨物列車が揺れるのを感じながら、流れる星空を眺める。
「まあ、いいか……」
と、疲れたせいもあり、綾羅木定祐は考えるのをやめた。
このまま、列車が停まるまで暫し、亡骸となった湯浅に寄り添ってやりながら。
(終了)




