38 教育マンガじゃなくて、狂育マンガ
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――ガタン、コトン……
と、夜の静寂の中、揺れる貨物列車の音が響く。
その貨物列車を、少し遠くの高所から、見下ろす者の“影”があった。
「少し、苦戦しているでゲスね……」
と、男の声がした。
マンガでしか聞くことのなさそうな、「ゲス」という語尾。
ただ、“その男”のシルエットはというと、人間の“それ”ではなかった――
いや、形こそ、人間の“それ”に大体似ているのであるが、クラッシック音楽家のように、大げさがにカールしたカツラの長い髪。
そして、全然季節にあっていないロングコート姿。
ここまでは人間の“それ”であるが、男の顔はというと、口が、まるでワニというかトカゲというか――、まあ、さしずめ中間をとって、ワニトカゲといったところだろうか?
そのような“いで立ち”をしていた。
しかも、そのワニトカゲのような口はというと、まるで漫画のキャラのように、ギザギザの歯が並んでおり、また、目のほうも、白丸の中に黒丸がクリクリとしていたりと同様だった。
そのフランツに、
「――そうね。相手は、あくまで異能力者――、それも、異能力など用いずとも、かなり高い戦闘力を持ってそうだしね」
と、相方の女、マリアが答えた。
その姿は、フランツと同じくらいの長さの、カールのかかったブロンドの髪に、キリッとした目力の強そうな、整った白人女性の顔立ち――
ただ、なぜか、ブルガリアか東欧の民族衣装のような服を身にまとっているという。
「しかし、人の、復讐する姿というものは、こうも美しいものでゲスね。まるで、燃える花とか言うでゲスか」
「確か……? ある教育漫画で、意図こそは違うけどね、こんなセリフがあったわ」
「ほうほう」
「『君は、負けたというのに……、なぜ、死ぬほど悔しがっていないのか?』――、ってな感じの」
「ああ……! あの、少年にジャンプしろとかいう、エグい雑誌のでゲスね。ていうか? 教育マンガじゃなくて、狂育マンガじゃないんでゲスか? それは?」
と、フランツがピンとくるも、
「その理屈でいうとね――、人間、大切な人を奪われたり、大切なものを奪われた場合っていうのは、まあ、『恨まず、赦す』というホトケみたいな考え方もあるけどね……、本来、死ぬほど悔やみ、死ぬほど恨んで――、脳の、肉体の持てる潜在的な力をすべて用いてね、復讐を為すべきなの」
「あっ……? さっきのツッコミ、めっちゃスルーしたでゲスよね?」
「ただ、ね……、多くの復讐というのは、残念ながら、困難なことのほうが多い――」
「そのとおり、でゲス」
と、フランツが相槌しつつ、マリアが続けて、
「――なので、多くの人が、自分に無力さを感じながらも、復讐を諦めてしまう」
「……」
「もちろん、実は“それほどの復讐心”ではなかった――、っていうケースもあるんだけど、それを除くと、だいたいはね? 自分の潜在的な力に気がついていない場合が多い――」
「そこで、私たちがいるんでゲスね!」
「ええ。そのとおり」
と、同意して相槌する。
その、一呼吸の間を空けて、
「復讐者の脳に“侵入”して、“浸蝕”する――」
との、マリアの言葉に合わせるように、フランツの口から、カメレオンのような舌が伸び、蠢く。
その様は確かに、脳を浸蝕してくるナニカ秘術のような雰囲気を感じさせる。
また、マリアは続けて、
「その、潜在的なスイッチを入れるべく、脳を覚醒させる――」
「……」
「彼女は……、湯浅氏は、“それ”については、完全に優秀でした。たいていの人間は、私たちに驚くこと――、特に、アナタの姿ね」
「もう、ひどいこと言うでゲスね」
と、フランツが、マンガのようにムスッとした表情になりつつ、
「それはさておいてね……、いざ、この、復讐のための我々の術を受けるとなると、大変に動揺し、躊躇することも多い中、すんなり受け入れてくれたこともそうだけど……、それ以上に、彼女の復讐心と能力というのが、素晴らしいものだったわ」
「ええ……♪ 私たちが“スイッチ”を入れなくても、氏は、これほど素晴らしい復讐を為してくれてたでしょうでゲス」
と、今度は、フランツがニッコリと相槌する。
「強烈な復讐心――、それが為す復讐劇こそが、美しく趣のある」
「……」
「さて、最後まで、観ましょうか」
「ええ……、でゲス」
と、フランツが答えつつ、ぐるりと舌を巻いた。




