37 魔力発動のエフェクトのように、わざわざ
それと同時に、考える。
いくら体格がいいとは言え、目の前の、この湯浅が二十人近くも――、それも、自分よりも遥かにガタイの良い半グレまがいの男を何人も、ほぼ素手で以って殺してのけたという事実。
確かに、今こうして手合わせした実感として、間違いない。
ただ、その湯浅の能力というのは、“異能力”などを用いているわけではない。
まあ、自分も、いま異能力を使っているわけではないのだが……
それはさておき、そうすると、やはり疑問が湧く。
この湯浅という女の戦闘能力、“それ”は、湯浅ひとりで獲得したのものなのか? あるい、は――
と、そこまで考えたところで、
「――っ!?」
と、綾羅木定祐は何かに反応した。
「ぐぬぅッ――!!」
と、咄嗟に身をかわした直後、
――ザ、シュッ――!!
と、上から叩き下ろすような、雷撃ような鉄筋棒の斬撃が目の横をかする。
「危ッぶないじゃないかッ!! もうちょいで目ぇ逝っちまうとこだったぞ!!」
怒鳴る綾羅木定祐に、
「ごめんなさいね。アナタに恨みはないけど……、邪魔をするから」
と、湯浅はすこし憂い帯びた顔で、申し訳なさそうに答える。
「ちっ、――」
綾羅木定祐は、小さく舌打ちする。
何とかならなくはないが、互角くらい、か――
まったく、そもそもの話、理可氏のヤツが輩を助けて離脱するから悪かろうに。
そのまま、ホームから戻ってきて二対一なら、すでに湯浅を制圧できているわけだ。
綾羅木定祐は、やれやれと振り返りながら、
「(――おい、ポンコツダヌキ)」
と、ボソッと小さな声で、何か襟元に隠した“ナニカ”に向かって喋りかける。
『はぅ』
と、妖狐の神楽坂文の声が返ってくると、
「(何か、いい妖力よこせ。このポンコツダヌキ)」
『ふむ? 妖力など無くても、いけるだろ?』
「は? ふざけてんじゃねぇぞ? このクソどら焼きダヌキ」
と、綾羅木定祐はイラっとし、思わず声量があがりながら、
「まあ、いけるだろうが、安全に、なるべく早くヤツを制圧できた方がよかろう?」
『やれやれ……、まったく、』
と、そこまで妖狐が喋りかけたところで、
「――誰と、喋ってるの?」
「――うぉん!? 湯浅たんッ!?」
と、すぐ目の前に湯浅が現れる。
――ザ、シュッ――!!
と、居合のように振るわれる鉄筋棒の斬撃を、
「うぉぉんッ――!!」
と、綾羅木定祐は後ろに跳んで回避する。
それとともに今度は、おそらく石油燃料系のタンク車の上に降り立った。
湯浅も、それを追撃してくる。
「ちょっ!! タンマ!! そこじゃ爆発しちまう!!」
綾羅木定祐が慌てるも、
――ザシュッ――!! スバッ――!!
と、湯浅は鉄筋棒を振るい、容赦なく襲いかかってくる。
「何? 妖狐の力っていうの?」
「――ぬ!?」
と、綾羅木定祐は一瞬驚く。
何で妖狐のことを知ってると聞きたかったが、それどころでなく、
「おい!! 早くしろ、クソダヌキ!!」
と、襟元をチラッと見て叫ぶ。
『ふぅ……、仕方ないな』
と、緊急を要するこちらとは対照的に、のんびりした様子で妖狐は答える。
すると、
――ファ、ァァンッ……
と、綾羅木定祐に、オーラらしきものが走ると同時に、魔力発動のエフェクトのように、わざわざ何か鏡のようなものが一瞬だけ具現化される。
その結果、
「むぅ――!?」
と、綾羅木定祐は自身の身体、感覚に、何か変化があることに気がついた。
まるで、湯浅が動作するとのと同時に、自分も鏡に映った鏡像のように同じく身体が動こうとしているのが分かった。
『――ふむ。貴様に、ちょっと妖力を発動してやった。さしずめ、鏡の呼吸とか何とかいったところか』
「呼吸とかいうなよ、パクリかよ」
襟元からする妖狐の声に答える。
ただこれで、毎度毎度、まるで居合を交わすように、気や神経を張りつめる必要がなくなるわけである。
その間にも、湯浅が攻撃を仕掛けてくる。
「ちょっと? 何かしたの――!」
と、言いながら鉄筋棒を振るうが、
「うっしゃぁぁッ!! これで見切ったぞぉぉッ!! 湯浅たん!!」
と、綾羅木定祐が水を得たように動きがキレッキレになる。
その、鏡像のように同時に動く綾羅木定祐に、
「くッ――!!」
と、湯浅の余裕が少なくなる。
あらゆる攻撃が、ダマスカス鋼のネギによって受けられる。
対する綾羅木定祐は、その分の余力ができる。
「ああッ!! もうッ――!!」
湯浅がイラだちながら、鉄筋棒での突きを試みる。
「むっ――!!」
と、綾羅木定祐も同時に動く。
両者の、閃光のように速い動作、
――カッ、キィィンッ――!!
と、鉄筋棒とダマスカス鋼のネギがぶつかり合う音が響く。
あまりにも強い突き――
次の瞬間、
――ズ、ボッ――!!
「ぐっ――!?」
と、何とあろうことか――、折れた鉄筋棒が跳ねかえり、湯浅の片目に突き刺さっていた。




