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【混沌事件調査】  作者: 石田ヨネ


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36/39

36 まあ、性悪説に乗っ取れば、人間だいたいクズだかんね


 ――と、ここまでが、振り返りである。

「てな感じで、だ――、調べて、最後は、山カンを張らせてもらったわけだ」

 綾羅木定祐が、そうまとめるように言うと、

「その結果、私にたどり着いた――、というわけね」

「ああ……。お前は、恋人であったB氏が自殺に追い込まれたことから、痴漢冤罪などの迷惑系動画制作者や、それを拡散するインフルエンサーを恨むようになった――」

「……」

 と、湯浅が、ジッ……と無言で聞きつつ、

「なので、B氏の自殺に関わった連中だけでなく、それらの人間すべてを復讐の対象とした――」

「ええ……、そのとおり」

 と、綾羅木定祐に頷いた。

 さらに続けて、

「それで? 目を、喉を潰したのは、 “アレ”か? “お前ら”なんかに、こんなものはいらない。お前たちなどが、目と、耳、口を持って世の中とつながっているからこそ、冤罪などお構いなしの動画が撮られ拡散されることが、世から無くならないのだ。それならば、いっそ、“そんな穴”など潰してやる、と――」

「だいたい、そうよ……」

 と、これも同じく、心情をおおよそ推察されて湯浅は頷く。

 またここで、

「やれやれ、まったく……、漢文の、『混沌』を思い出したぞ」

 と、綾羅木定祐が、唐突に『混沌』について触れる。

「“混沌”……? ああ」

 湯浅も、思い出してピンときながら、

「混沌であれば、開けられることによって死んでしまう、目、口、耳といった“穴”……。――だけど、人間っていうのは、それらの“穴”を持つことで、より強欲に、醜悪になるよね」

「うーん……、まあ、性悪説に乗っ取れば、人間だいたいクズだかんね。仏陀とかイエスも含めて。人間、そんな穴をいくつも持って生まれてくる以上、仕方ない。ある意味、我々の業のようなもんじゃないか? 知らんけど」

「そこで、“知らんけど”、なのね」

「うん」

 と、綾羅木定祐が答える。

 そのようにしながら、

「とにかく、邪魔をするなら、貴方も殺さざるを得ないけど……」

 と、湯浅が鉄筋棒を持った手を、なかば構え、

「うむ。俺は邪魔をするんでなく、湯浅たんのお尻をペロペロ、したいッ――」

 と、綾羅木定祐は言って、キリリッ――! と鋭い目をキメる。

「は? 何? その、お尻ペロペロって? 変態なの、尻フェチなの? それとも、ふざけているの?」

 湯浅が、軽い引きと不快感の混じった顔で聞きつつ、

「さあ、な――。まあ、それとも、俺が、お前のファンって可能性もあるかもしれないけど」

「はぁ、」

 と、軽く呆れ気味に相槌する。

 そう、一呼吸おきながら、

「まあ……、もしファンであっても、邪魔はさせないけど、ねッ――!」

 と、言って湯浅が動く。


 ――ザ、シュッ――!!


 と、まるで残像を残すがごとく、台車の連結部を隔てて5、6メートルほど離れていた距離を、一瞬にしてつめる。

「――!?」

 これには、さすがの綾羅木定祐も驚いて目を見開く。

 上級パルクーラーなど遥かに凌ぐほどの、また、忍びの末裔でもある碇賀元にも匹敵する運動能力――

 揺れて不安定であり、なおかつ、踏み外せば即ミンチとなる貨物台車という足場。

 それらに、まったく恐怖することなく、鉄筋棒を振りかざして綾羅木定祐に襲いかかる。

 ――ブンッ――!!

 と、その一振りは剣術の達人レベルを超越し、かつ鞭のようでもある。

 その連撃に、

「うおぉんッ――!! あ、ひゅぅぅんッ――!!」

 と、綾羅木定祐が思わず奇声をあげながらも、こちらも超人的な身のこなしで、何とかかわす。

 そうしているうち、


 ――ブンッ!! ドゴ、ンッ――!!!


 と、湯浅の振るった鉄筋がコンテナに直撃し、轟音のような音が響く。

「うぉぉッ――!? 危ッないやないかいッ!!」

 綾羅木定祐がツッコミの勢いで叫ぶ。

 そのすぐ横の、コンテナの決して薄くはない鉄筋棒に穴が開いていた。

 もし当たっていたら、ひとたまりもないだろう。

 その間も、湯浅は次の攻撃を振るう。

 ――ブンッ――!!

 襲いくる鉄筋棒の斬撃。

「ちィィッ!!」

 と、綾羅木定祐は舌打ちしつつ、ひらり――と、忍者のように回転して宙を舞いながら、コンテナの上に回避する。

 ただし、そこに足を下ろしてしまえば、必然と高圧電流の架線に近づくことになる。

 もし身体が触れてしまえば、爆ぜると同時に感電し、そのまま死に至るか大けがをしてしまうだろう。

 しかし、そんな中でも、湯浅は綾羅木定祐を攻撃しにかかる。

「うぉぉんッ――! あっぶッ!? 感電しちゃうて――!!」

 と、綾羅木定祐が湯浅の攻撃もかわしつつ、架線も何とか避け、

「そう、ねッ――!」

 と、湯浅のほうも、すぐ2、30センチのところによぎる架線をかわしながらも、攻勢をかける。

 そんな、危険をものともせずに、両者は戦闘をつづける。

 綾羅木定祐は、妖具の――、ダマスカス鋼でできた、木目模様のネギを手にしていた。

「貴方には恨みはないけどね!! 邪魔するなら死んで!!」

 と、架線すれすれに身を屈めつつ、湯浅が居合のように鉄筋棒を振るう。

 それを、

「見ィィ切ったぁァァッ!! 湯浅たんのおっぱい!!」

 と、綾羅木定祐が低く屈んでかわしつつ、

「ちィィっ――!! もう!! 何でいちいちキモいくするのッ――!!」

「ふん!! キモくしてんだよ!! ゆ、湯浅たん!! ウェヒヒヒィィ!!!」

 お、わざわざ「ゆ、湯浅たん」とひと噛み入れて、余計にキモくふるまってみせる。

 そうしながら、綾羅木定祐が言う。

「――とは言っても、なかなかに大した能力だな。異能力者であっても苦戦するほどの、怪物クラスの能力――」

「……」

 と、湯浅が、ジッ……と綾羅木定祐を見る。

「B氏を、死に追いやられたことに対する恨み。それが、お前の原動力となっているわけか」

「でなきゃ、Bが浮かばれないでしょ……」

「……」

「自分の、大事な人が、痴漢の冤罪なんて理由で自殺に追い込まれた――。怪物になるくらいに、悔しがって復讐しなきゃ、ダメなんじゃない?」

 湯浅が、虚ろながら殺意のこもった目で言う。

「ああ……、そうだな……」

 綾羅木定祐が静かに、それだけ答える。

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