35 まあ、ふざけるも、誰もつっこまない
■■ 11 ■■
夜の闇の中。
加速する貨物列車の台車ので、綾羅木定祐と湯浅は対峙していた。
「まさか、お前が一連の事件の犯人とは……。意外だったぞ、湯浅たん」
綾羅木定祐が、湯浅を見ながら言った。
つい先ほど、「やはり、おまいだったか」とか言ったにもかかわらず。
それはさておき、
「……」
湯浅も、ジロッ……と、少し睨むかのような目で綾羅木定祐を見た。
どこか、“たん”付けした呼び方に、少し不快そうな顔をしながら。
「どうして? 私が犯人だと、分かったの?」
湯浅が聞き、
「まあ、色々と、調べさせてもらってな」
と、綾羅木定祐が、まずそれだけ答える。
その、一連のことを振り返る――
「「――え?」」
と、声をそろえて同時に驚きながらも、
「この人、って――」
「いちご、湯浅?」
と、次にはタイミングをずらしながら、無二屋と群麻が言った。
少し時間は戻ること、綾羅木定祐と上市理可が調査に着手する前のことである。
群麻と無二屋は調査先で、混沌事件の“被害者の被害者”――、すなわち、痴漢冤罪などの悪質な動画を撮られる被害にあい、命を絶ってしまった男性B氏について調べていた。
「ええ……。まあ、公にはできませんでしたが、Bは、湯浅さんと付き合っていました」
B氏の、かつての仕事仲間の女性社員が、そう答えた。
すなわち、B氏には恋人がおり、その恋人というのが現在失踪中のグラドル兼コスプレイヤー、インフルエンサーで、いちご湯浅の芸名で活動している女性であった。
「知り合ったきっかけというのは、仕事上の?」
無二屋が聞いて、
「ええ。わが社は、多くのレイヤーや、アイドル、インフルエンサーとイベントで関わる機会がありますからね」
「その中で、Bと湯浅さんは知り合いました」
と、Bの同僚の男性社員と女性社員が答える。
また、群麻もふたりに聞く。
「それで、B氏と湯浅氏が、恋愛関係になったというわけですね?」
「ええ……」
と、女性社員が答えた。
まあ、業界あるあるなのか、“そういうこと”もあるものだろうと、それ以上は深く聞かずに納得しておく。
「ふたりは、仲は良かったんですか?」
再び、無二屋が聞く。
「ええ。ずいぶん、仲良さそうでしたよ」
「Bから、SNSを見せてもらうこともありましたし」
「近く、結婚の予定も、考えていたみたいなんです……」
「そうです、か……」
と、二人の答えに、それ以上の返す言葉が思い浮かばなかったが。
また、間をおいて、
「――それで? その湯浅さんは、B氏が亡くなったあと……、しばらくして、失踪している、と――?」
と、群麻が意味深そうに、質問した。
「ええ。事務所の人間も、湯浅さんの家族も、いっさい連絡が取れなくなったみたいですし……」
と、男性社員が答え、
「奇しくも、それからしばらくして、一連の、目つぶし連続殺人事件が起き始めた、と――」
と、それに続くかっこうで、また群麻が言った。
同じく、意味深そうな様子で。
「……」
「……」
と、Bの同僚ふたりの、沈黙が挟まる。
そうして、また一呼吸おいて、
「もしかして? 刑事さんは、湯浅さんが、事件に関係あると――、“犯人”であると、考えているんですか?」
と、女性社員が少し恐る恐るとしながら、核心的なことを聞いた。
「まあ、我々も、色々な可能性というのも、調べなければなりませんからね……」
群麻が、そう答えながら、
「もっとも、このような連続殺人事件の犯行を、湯浅さんのような女性が行っているとは……、少し想像しにくいのは、確かなんですがね――」
と、付けくわえた。
ここで、以上の話を、そのまま時と空間を超えながら、
『――という感じで、調べてきたんです』
と、群麻がまとめて、綾羅木定祐と上市理可のふたりにテレビ電話で報告した。
すなわち、これは、回想の中で回想を伝えたという形に当たろう。
まあ、それは気にせずに、続けて、
「そう、か……」
と、群麻たちの話に、綾羅木定祐は頷いた。
『まさか? 綾羅木さんたちは、この、B氏の恋人の――、いちご……湯浅氏が犯人だと考えているんですか?』
「まあ、あのポンコツダヌキの妖力を使って調査している中で、“ひっかかって”しまったからな」
と、群麻の問いに、綾羅木定祐が答える。
「それで、逆にの逆に――、群麻氏や無二屋氏は、どう思っているの? この、いちご湯浅が犯人って可能性について?」
と、続いて、今度は上市理可が聞いた。
『いやぁ……? 何とも、言えないですね』
『その……、私たち、綾羅木さんや上市さんみたいに、異能力を使えるわけではないですし』
などと、群麻や無二屋は答えつつ、
『ただ、今までの犯行は、異能力によるものじゃ、なさそうなんですよね?』
と、聞いた。
「ああ」
綾羅木定祐が頷き、
「そうなん、ですぅ~」
と、上市理可がふざける。
まあ、ふざけるも、誰もつっこまないが……
それはさておき、
『ただ、その……、異能力によるものじゃないと、こんな犯行、難しくないですか? 超人クラスの、特殊部隊にでもいそうな人間じゃないと? ガーさんとか、みたいな』
「おい、その名前、出すな。ムカつく」
と、無二屋が話すのに、碇賀元の名前が出てきて綾羅木定祐は顔をしかめる。
『その……、湯浅氏は、経歴を見たかぎりでは、スポーツ系の部活動は中学の時していたくらいで……、特に、格闘とかの経験はなさそうなんですが……』
群麻が、にわかには信じられない様子で言うと、
「まあ、そうなんだろうけど、さ? ただ、ね……? 時に、人間の恨みというか復讐心というのは、なかなか強力なものでね――」
『……』
『……』
と、上市理可が話すのに、二人は注意して耳を傾ける。
そうして、上市理可は続きを言った。
「時に、信じられない力を――、それも、私たち異能力者も驚くような、超人的な力を生み出すことが、ある」




