33 命がけのサスケ・チャレンジ
■■ 10 ■■
――場面は代わって。
雨のシトシトと降っている以外は、人気の無い、静まりかえった薄暗い駅のホーム。
とうに、終電の時刻は過ぎていた。
あとは、夜に動く貨物列車だったり、保線用の車両が通過するだけだろう。
そんな中、どこから現れたのだろうか? 不自然にポツン――と、男二人の姿があった。
少し、アウトローの雰囲気のある男二人。
彼らは、私人逮捕を謳いつつも相手に暴行や嫌がらせをする、迷惑系ユーチューバーのようなグループのメンバーだった。
そして、そんな彼らはというと、例の目つぶし式ゴーグルがつけられており、その状態で膝間づかされていた。
さらには、暴行を受けた跡もあり、ガタガタ……と怯えているのが見て取れる。
案の定というか、屈服した彼らの前には、
――ゴゴゴ、ゴゴ……
と、かの“フード姿の男”と思しき者が――、“目ぶつし事件”というか“混沌事件”の犯人が佇む姿があった。
「う”っ……、あ、ぁ”っ……」
極度の恐怖ゆえか、言葉が出ない男。
また、その横から、
「ほ、本当に……、やるんですか?」
と、彼の相方の男も、極限まで怯えながらも、恐る恐るフード姿の犯人に“何か”を聞いた。
「ああ……」
とだけ、感情のないように、フード姿の犯人は答える。
当然のこと、二人は『NO』と言うことはできない。
もし断れば、この“目が潰れてしまうこと”が分かっていた。
そして、もちろん、目を潰したら“それ”で終わり――、というわけではないことも……
そんな、彼ら二人を、それほどまでに“恐怖させるナニカ”。
できることなら逃避したい中、
「もうすぐ……、列車が、来るよ」
と、フード姿の告げる声が、二人を非情な現実へと戻した。
同時に、
――カタン、コトン……、カタン、コトン……
と、レールから小さく音がした。
確かに、遠方から列車が迫っているのだろう。
その、遠くからのヘッドライトと、
――カタン、コトン……、カタン、コトン……!
と、レールの揺れる音が、段々と大きくなってくるのが分かる。
「……!」
「う、うぅ”……!」
男二人が、恐怖に萎縮していた。
すると、
「さあ――? まずは、お前が“飛び乗る”んだよ……?」
と、フード姿の犯人が、信じられないことを告げてきた。
「――!?」
「い、い”ッ――!?」
二人の顔が歪む。
知ってはいたが、改めて告げられると恐怖に絶望する内容。
「せっかく、頭に、カメラも着けてあげてるんだ……。走る貨物列車に飛び乗るなんて、前代未聞の、命がけのサスケ・チャレンジ動画――。君たちの望むような、大いにバズる動画が撮れるじゃないか?」
フード姿の犯人が言いながら、露出した口元をニタァッ……とさせる。
「ひっ!」
「ゆ、許してくれよ……!」
男ふたりが、ガタガタ震えながら助命を請う。
ひとりのほうは、あまりの恐怖からか、
――ジョ、ワァァ……
と、小便が漏れていた。
ただ、非情なことに、その間も、
――カタン、コトン――!! カタン、コトン――!!
と、線路からの音が大きくなりながら、段々と近づいてきていた。
そうして接近して、照らしてくるライトとともに、
――グォォン……!
と、動力車の音まで聞こえてくる。
その音は、まるで、無慈悲な肉引き機のようだった。
先頭の電動車まで、もう200メートルも無いほど接近してくる中、
「――さあ? まずは、君からだよ?」
と、フード姿の犯人の者は、タトゥーの入った色黒の金髪の男の肩にポン――と手を置いた。
「ひッ!? ひぃぃ”っ――!?」
格闘技でもやってそうなガタイの良いにも関わらず、男はひどく萎縮する。
壊れかけの玩具のようにガタガタと震え、涙をグシャグシャに流しながら、
「た、助け――、ゆ! 許じで、ください!!」
と、男は許しを請う。
しかし、列車はもう30メートルほどのとこまで来て、まさに通過せんとするところである。
その時、
「――いいから、さっさとやれってんだよッ!!」
と、フード姿の者が、豹変したように言ったと同時、
――グワシッ――!!
「うッ――!?」
と、金髪に黒肌の男を掴む。
そして、次の瞬間、
――ブンッ――!!
と、男を無理やりスタートさせる。
「う、うわぁぁぁ!!!!」
男は叫ぶ。
ただ、そのままでは、ポカンと大きく口を開いたような、コンテナを積んでない空の車両へと突っ込んで、一瞬のうちに挽き肉になってしまうだけだろう。
そこは、人間の生への執着か、
――シュ、タッ――!!
と、男は力を振り絞り、何とか空中へと跳ねた。
しかし、そのあとが問題である。
少なくとも、数十キロの速さで動く、大きな穴の開いた“床”――
着地しようとするも、
――キュッ――!!
「うごぉッ!?」
と、動く出っ張りか金具に躓いてしまう。
無慈悲な慣性の法則の中、案の定バランスを崩し、
「た、助けッ――」
と、言葉を発しようとするも、
――ストンッ――!!
と、大きく開いた台車の“穴”に落ちてしまい、
「ぎ、ぎゃ”ぁ”――」
と、最後まで叫ぶ間もなく、台車とバラストの地面によって身体は圧し折られ切断され、ミンチになってしまった。




