31 おっ? ジョジョの誤植みたいな声
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場面は変わって、神楽坂の洋館の事務所。
世間的には、ちょうど夜飯時か、テレビでいえばゴールデンタイムの時間帯。
漆喰装飾に陰影が美しく浮かぶ中、綾羅木定祐と上市理可のふたりは書斎で、一応ちゃんと仕事をしていた。
「へぁ……、チカレタ……」
綾羅木定祐が、屁のような声を漏らした。
ゆらゆら揺れる椅子に、くたびれたようにもたれ――
片手には、ワイングラスに注いだドクターペッパーと、もう片方の手には、フィンガーボールのようにして、キャベツ太郎をつまむ。
まあ、手が、青のりで汚れるのだが……
そんな恰好ながら、パソコンなどカタカタしつつ、碇賀や群麻たちが調べてきた情報に目をとおしていた。
「はぁ……、まったく……。何で? 私らが、また、分析や推理までしないといけないのだ? 調査から推理まで、一式でやれって話だよ、使えん無能どもめ」
ため息交じりに、綾羅木定祐が愚痴る。
「ほんそれ、よね」
と、上市理可も、ひと言同意する。
まあ、碇賀や群麻たちに任せつつ、自分たちは夕方まで昼寝をしていたという、何とも良い身分だという話だが……
それはさておき、
「――ところで、綾羅木氏?」
「は、いぃ?」
と、特命課の、右京さんイントネーションで反応する綾羅木定祐に、
「綾羅木氏的に、何か目ぼしい人物――、いる?」
と、上市理可が、本題となるべき質問をしてきた。
「う~ん……? そうだなぁ……?」
綾羅木定祐が唸りつつ、天井を仰いだ。
ドクペを片手に、いかにも考えている空気感を出しながら。
ただし、もう片方の手にあったのは、グラビア週刊誌であり、
「――その、菊池、何とか――、ってのは?」
と、視界の外から、上市理可のかけてきた声に、
「ああ? この子、な……。やや平凡な顔に、グンバツの巨乳ボディーという、まさに、世の男のドンピシャ・ストライクゾーンとでもいうべk……」
と、綾羅木定祐はナチュラルに反応し、そこまで答えかけたところで“ナニカ”に気づく――
「おぅ、んッ――!?」
綾羅木定祐は咄嗟に、超反応を見せるも、
――スチャッ――!!
と、すでに銃口のごとく――、上市理可が手にしたカンチョーの先端の照準は、綾羅木定祐に合っていた。
(マズいッ――! やられるッ!!)
綾羅木定祐は心の中で声にしつつ、回避行動をとろうとする。
だが、上市理可の凄まじい速射が襲う。
――ぴゅッ――!!
「うっ!? うわぁぁぁん――!!」
と、綾羅木定祐の叫んだ先、雑誌のグラビアのページが液体で濡れ、犠牲になっていた。
「な、何をするだぁぁーー!!!」
次に、「ゆるさん!」と続きそうな声で叫びつつ、
「おっ? ジョジョの誤植みたいな声」
「ジョジョ、じゃないが! 人に、雑誌に、カンチョーを向けるもんじゃ、ありま、せんッ!! いい加減にしなさいッ!!」
と、綾羅木定祐は憤ってみせた。
再び、気を取りなおして本題に戻って、
「――で? ナニカ、目ぼしいつながりのありそうな情報って、あったの? 綾羅木氏?」
と、何も無かったかの様子で、上市理可が聞いた。
「いや、微妙」
綾羅木定祐は、ひと言だけ答える。
なお、今度はグラビア週刊誌を、電子媒体で開いていた。
また続けて、
「てか? やる気、無いでしょ? 綾羅木氏」
「理可氏も、無いだろに」
「うん。無い」
と聞き返されて、上市理可が答える。
そんな感じで、話の流れは停滞していると、
「あっ――? こういう時こそ。さ? ドラえもん、使お?」
と、上市理可が、何か閃いたかのようにピンときた。
なお、当たり前のように“ドラえもん呼ばわりされたナニカ”は、妖狐の神楽坂文のことであるが。
「おっ? そうだな、」
便乗する様子で、綾羅木定祐が相槌する。
続けざま、スマホを手にして、
――プル、ルルル……
と、呼び出し音のもと、妖狐につながるのを待つ。
「ちっ、早く出ろよ、あのクソポンコツダヌキ」
綾羅木定祐は、舌打ちする。
そうして、しばらく待っているうちに、
――プル、ルルル……、ピッ――
と、電話はつながる。
「おい、早よ出んかい、このポンコツダヌキ」
妖狐が何か言うよりも先に、綾羅木定祐が悪態をついて言った。
『はぅ、』
気の抜けた返事する妖狐に、
「はぅ、じゃないが。屁みたいな返事、しやがって」
と、綾羅木定祐が言う。
そうしながらも、
『――で? 何の用だ?』
と、妖狐が、要件を聞いてきた。
「ああ……、もう、単刀直入に言う。例の、目つぶし連続殺人の犯人をな? お前の妖具で、ピン、ポォイィント……に、調べれないか?」
綾羅木定祐が答える。
ポイントを、ポォイィントと、少しねっとりとした独特なイントネーションで発音しながら。
『はぁ、』
曖昧な相づちをする妖狐に、
「そうだ、アニメの――、サイコパスの要領でな」
と、綾羅木定祐が、某アニメの名を挙げて補足する。
『まったく……。お前ら、クズだな。どんだけ、ラクをしたいのだ』
情報の分析や推察というのを妖力に丸投げする綾羅木定祐と上市理可のふたりに、妖狐すら呆れ、引いてみせた。




